乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
アウレリスで数年に一度開かれる闇のオークション「大博覧会」の会場は、アウレリスの中でも比較的新しく建てられたという大劇場であった。
この世の塵芥と汚物を寄せ集めた
だが、今回の会場である大劇場がある区画──所謂、アウレリスのメインストリートではそんな絵に描いたような光景が見られることはまずない。寧ろ、その逆である。
「ねえ、せんせーい?今日はわたしぃ、美味しいお肉が食べたいなぁ?」
「はははは!そういうと思って、今日は市場には出回らない生オークの肉を出すお店の予約を取って──」
「あらぁ~?オニーサン、よかったら私たちと楽しいことしな~い?」
「へ、へへ……それじゃあ遊んじゃおうかなぁ?」
悪趣味なスーツや宝石に身を包んだ成金や、それに群がる金魚の糞、はたまた妖艶に世間知らずの鴨を魅了する淫魔の類──平穏な表の世界では体験のできない、非日常空間であるここで闇に溺れている。
詰まるところ、非合法の娯楽に溢れかえっているわけだ。賭博場や娼館は勿論のこと、行き過ぎたところでは違法薬物を使った煙草が吸える酒場であったり、屠殺場と呼ばれる人殺しを見世物にする小屋なんてのもある。本当に、胸糞の悪い話だ。
そうして俺たちが今、足を踏み入れようとしている大劇場も普段はストリップショーや奴隷の競売、非人道的な見世物などで日々賑わう娯楽施設である。
そんな大劇場の前は、数年に一度の催し物と言うこともあり多くの野次馬やオークションに参加するであろう身なりを整えた紳士淑女で沢山だ。その中に勿論、自分たちも紛れ込んでいる訳だが──
「これはかなり時間がかかりそうだな……」
「楽しみねぇ~」
絶賛、オークション会場の入場待ちをしていた。
目算だけでも五百人はあろうかと言う大行列に対して、大劇場の入場口はたったの三つだけであり、その入場口には黒服を纏った
まぁ、当然と言えば当然の処置だ。このオークションには各界隈の──それこそ、裏社会の重鎮から、表の世界で幅を利かせているお貴族様なんかもお忍びで来るほど大規模なモノだ。裏社会のど真ん中で行われる催し物と言えど、開催者側にもそれ相応のブランドや矜持があり、信頼と信用がより重要視される世界で安全性の担保は当然の義務とも言えた。ここで御座なりなセキュリティチェックをして問題でも起きれば目も当てられない。それだけで今後のオークションの開催、そしてその大本の運営者である派閥連合の株は大暴落である。
だからこその、この厳重なセキュリティと言えた。
しかしながら、オークションへの参加資格を持つ全てのVIPたちがお行儀よく順番待ちできるかと問われれば──
「おい! いつまでこの俺様を待たせるつもりだ! さっさと中に案内しやがれ!」
「そうよ! いったいいつまで待たせるつもりよ!!」
答えは否であった。まぁ、これも当然と言えば当然。裏社会クオリティとでもいうべきか、招待者中には短気でせっかち、血の気が多く、この世が自分を中心に動いていると信じて疑わない自己中なお馬鹿さんも一定数、このオークションへの参加権を持っているわけで、今のような不満の声が飛び交うのは別に珍しくもなかった。
更に酷いモノでは、入場待ちの列を無視してみたり、セキュリティに文句を垂れて小競り合いを始める手合いもいる。ある意味で、この入場待ちはそういったお頭の足りない連中を炙り出す意味合いも含まれているのかもしれない。
──なんでもありの裏社会とは言え、品性も求められるわけだ。
すぐ目の前で繰り広げられる小競り合いの飛び火を軽くあしらいながら、俺はぼんやりとそう考える。
そうして、俺達が中へ入るのにそこから約一時間ほどの時間を要した。
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いわゆるホール会場の形には何種類か存在するが、今回のこの大劇場は馬蹄型のモノである。イメージで言えば、オーケストラのコンサートホールだ。
見やすさで言えば断然、プラテア席が近距離であるが、人混みが嫌で優雅にオークションを観覧したい富裕層なんかはバルコニー席を好みがちだ。どちらにもメリット・デメリットが存在し、一概にどちらの席が良いという訳ではない。その時々に見る演目などでも趣旨が変わってくるだろう。
それに、VIPは好きな席を選べるらしいし、初参加、それも闘技場の景品で招待券を手に入れた俺たちには席を指定できるほどの権利は与えられず、案内されるがままに一階のプラテアへと座ることになった。
「あら、意外と狭苦しくないし、こっちの方が近くていいじゃない」
「ですね」
なんて会話をしながらも着々と会場に招待客が入り込んでいく。
その間も隣のダリアはそわそわと忙しなく、オークションが早く始まらないかと落ち着かない様子だ。それは他の招待者も同様のようで、会場は妙な熱気と高揚感に包まれていた。
「目当てのモノが落札できるといいですね」
席に着き、入場口でもらえた今回のプログラム表と出品カタログを流し見ながら、俺は何の気なしに言う。
「う~!き、緊張するわねぇ……」
今から競売の事を想像してか、師匠は珍しく弱気だ。まぁ、ゲームとは違って絶対に不特定多数の人間が実際に参加する競売だ。そう思うのは別に不思議ではない。それこそ、彼女が今回目当てとしている品を考えればなおさらである。
大博覧会は三部構成で行われ、今回、俺達が落札を目指す商品はその各部ごとで一番の目玉商品として出品されるモノだ。この目玉商品と言うのが、事前に配られるカタログにも詳細が記されてない、正にシークレットアイテムであり、この会場にいる全員が注目していると言っても過言ではない出品物である。
しかしながら、ダリアはとある情報筋から既にこの情報未公開の目玉商品の特ダネを聞きつけ、それを手に入れるためにこのオークションへの参加に乗り出した。勿論、ダリアルートを全てクリアした俺は
──一応、俺と彼女の間で目玉商品に齟齬がないかを確認するためにちゃんとその内容を聞いてみたんだが……結局、師匠は教えてくれなかったんだよな……。
彼女は「見てからのお楽しみよ!」と言っていたが、彼女が欲しがっているものを最初から知っている身からするとどう反応していいかわからない。
まぁ確かに、今回彼女が落札を目論むそのアイテムは詳細からしてかなり希少なモノであり、魔術に傾倒している人間ならば誰もが涎を垂らして欲しがるレベルのモノだ。だから、彼女が俺を驚かそうとその内容を秘密にするのも分かるのだが──
「万が一のことを考えて、内容のすり合わせはしておきたかったなぁ……」
なんて愚痴を零していると、唐突に会場の明かりがブラックアウトした。
一瞬、会場全体がどよめき、すぐに眼前のメインステージに一筋のスポットライトが差し込まれる。そこにいたのは一人の黒服に身を包んだ壮年の男。恭しくお辞儀をした彼はうっすらと微笑みを顔に貼り付けて言葉を続けた。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより、
その背後には普通では決してお目にかかれない至極の芸術品や骨董品の数々が並べられており、招待者──否、入札者らの購買意欲を一気に煽る。
一見、その中に今回、俺たちがお目当てとしている品は見受けられないが安心して良い。何せ、そのステージに広げられた出品物はほんの一部一例であり、まだその裏には大量の出品物が眠っているのだから。
いよいよ、今年一番熱狂するであろう闇オークションが始まる。