乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
「さあ、お次の品はあの名工アイゼンスが打った〈魔刃シリーズ〉の一振り! 魔紅刃フレイムガルドです!
司会兼競売人を引き受ける壮年の男──シークエスと言う──が壇上に鎮座した一振りの剣を競売に掛ける。
瞬間、至るところからその剣に目を付けていた入札者たちの激しい競りが始まった。
「155!」
「こっちは160だ!?」
「なら私は170よ!」
「185でどうだ!?」
手に持ったパドルを高々と上げて、我こそがその一振りを手に入れると熾烈な価格の値上げをしていく。そうしてひと際、会場に決して大きくはない声が響く。
「──金貨300だ」
「「「ッ!?」」」
その過剰すぎる値段の釣り上げに、他の入札者らは驚愕して、今までの勢いが一気に落ちる。
──終結だ。
その空気の流れを読み取り、競売人シークエスがカウントを始める。
「金貨300! ほかにいませんか? いませんね? 一回!……二回!……三回!!」
三つ数えて誰も金額を釣り上げない、それを確認してから壮年の男は高らかにハンマーを打ち鳴らした。
「さぁ、お次の品はこちら──」
そんなあちこちで起きる感情の発露を気にも留めずに、また直ぐに新しい出品物の競売が始まる。
闇オークション「大博覧会」が始まって約一時間。会場は常に最高潮の盛り上がりを更新し続けていた。俺としても、次から次へと飛び出るレアアイテムの連続に度肝を抜かれっぱなしだ。
──今の魔刃シリーズにスイルベルの真珠、バックハローの手記まで出品されるとは思わなかった……。
事前に出品一覧のカタログは配布されたが、その全てに目を通せるわけもなく。
流石は裏社会最大規模のオークション「大博覧会」と言ったところか、その名に恥じない出品物の数々だ。ただ流し見るだけでも、観覧料を取れるくらいには貴重なモノしか出てこない。
──クソぅ……金が無限にあれば全部買い占めたいほどのレアアイテムの数々が……。
そう思わざるを得ないほどに、垂涎モノのアイテムが次から次へと他人に搔っ攫われていく。「あの素材があれば……」「あのアイテムはあの錬成に必須の……」なんて、このオークションが始まってから何度思ったことか。正直、内心は穏やかじゃいられない。
「あ……」
今も、何の変哲もない一枚の葉っぱが金貨450枚で落札された。
それも例に漏れず、
「あぁ、私の〈聖者の一葉〉が……」
隣で激しくパドルを掲げて競売に参加していたダリアが大きく肩を落として落胆している。
彼女も今の葉っぱが欲しくて入札しようと競売に参加していたが、他の入札者に負かされたらしい。あの葉っぱが落札できなかったのは実に残念であるが、それを抜きにしたって隣の彼女はちょっとこのオークションにのめり込み過ぎていた。
「……あの、師匠?」
「どうしたのM・M!? 今ちょうど次の競売が──」
「ちょっと……いえ、かなり飛ばし過ぎじゃないですか?」
何せ、まだ目的の品が出ていないのにも関わらず、彼女は既に十数品のオークション品を落札し、これまでに三千枚以上の金貨を散財しているのだ。
いくら、そこらの貴族よりも懐が温かい黒輝の錬金術師と言えど使い過ぎであった。これは金の価値が薄いゲームではなく、現実なのだ。例え、落札した全ての品が超の付くレアイテムで、決して腐ることのない、あれば便利な一品だったとしても流石にやり過ぎだ。
しかし、隣の魔女はこちらの忠告を全く聞きやしない。
「何言ってるのよ! 貴方だってあの品の数々の価値は十分理解しているでしょう!? ここで行かなきゃ錬金術師の端くれとして名が廃るわ!!」
「いや、だとしても……ちょっとタガが外れ過ぎですって。いったん落ち着きましょう?」
「あっ!あれは滅多に市場に出回らないレア鉱石の翡皇鉱じゃない! こっちは金貨300よ!?」
「このアホ師匠は……」
またしても競売に参加した競売ジャンキーに俺は痛くもない頭を思わず抑えた。
改めて、大博覧会は大きく分けて三つの部で構成されている。その部ごとに出品される物の種類が変わり、ほとんどの入札者が各部で出品される物に目星を付けて競売に参加する。そして各部ごとに目玉商品が存在しており、ダリアが今回の欲しがっているモノはその目玉商品に該当する。しかし、その目玉商品の出品は一番最後の三部目からだ。
だと言うのに、既に金貨約三千枚分の落札……やはり明らかに飛ばし過ぎだ。
──それもこれも、オークションの品揃えが良すぎる所為もあるんだが……。
大まかなオークションの流れとしてはこうだ。
各部の最初に
無事に落札となれば入札者は主催者と契約を結び、落札額+手数料を支払って引き渡しとなる。ちなみに、落札した瞬間にキャンセルは不可能なので買い切りだ。
──できれば俺も何か一つくらい落札してみたかったけど……。
あまりにも競争が激しすぎて、俺の心許ない財布事情では他の入札者と価格競争をするのは無謀であった。こんなことなら、もっとちゃんと貯金とかしとけばよかった……いや、貯金してたとしても一介の使用人風情ではこのマネーゲームに参加できるわけもないか、
「はぁ……」
だから隣で、欲望のままに商品を落札してくダリアを羨んでいる側面もあるのだが……だとしてもこの師匠、ちょっとタガが外れ過ぎである。
──俺がちゃんとストッパーにならなければ……。
こんなオークション、序盤で目立つのもあまり良いこととは思えない。だから、俺は自制心を働かせて隣の魔女を宥めようとするのだが──
「さてさて! それではこれより第一部の目玉商品のご紹介といきましょう! その商品は……なんとなんと! あの聖女イリステラが使ったとされる聖女の
「なッ!?」
思わぬ商品の出品に俺は愕然とする。
一見すると、今壇上に上げられたソレはみすぼらしい布切れである。だがその実、その頭巾は『ヘルデイズ』の完全攻略を目指したプレイヤーならば、喉から手が出るほど欲しいアイテムであった。
なにせ、前世では素材アイテムとして存在したその頭巾の端切れは、攻略ヒロインの最強装備を作るには必須アイテムであり、他にもその端切れで対悪魔用の特殊武器を錬成するときに必要なアイテムなのである。その入手方法は前世ならばモンスタードロップであり、確率の低さを無視すれば意外と簡単であるが、今世ではモンスターの希少度もあって非常に入手が難しいアイテムであった。
──それが、手に入るチャンス!!
思わず、今しがた自分が冷静でなければいけないと自戒したばかりだと言うのに、一瞬でそんな覚悟も揺らぐ。そんな俺を見て、隣の成金魔女は頼もしくこう言った。
「セナ……アレが欲しいの?」
「え、いや、その……」
「──いいわ、大丈夫。その顔を見れば一目瞭然……お姉さんに任せておきなさいッ!!」
「し、師匠!!」
そうして、無数に上がるパドルの中に、魔女は勇ましく自らのそれを掲げた。
「金貨2500枚よ!!」
「「「おぉっ!!」」」
一気に額が跳ね上がった彼女の入札額に会場がどよめく。明らかに相場以上の価格に、競売人ですら驚愕していた。
そうして、なんとも恥ずかしいことに、俺は思い切りのよい彼女の行動に凄まじい漢気を感じてしまった。
──俺も、随分と現金な奴だ……。