乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
三つの部に分けて行われた闇オークション「大博覧会」であるが、その各部ごとに目玉商品として出品されたものは、確かに他の出品物と比べると一線を画すほど貴重なものばかりであった。
例えば、第二部で目玉商品として出てきたのは「一角獣の心玉」というアイテムだった。これは一見するとビー玉サイズの黄色く透き通った宝玉なのだが、その効果は身に着けているだけで病に侵されないと言うもの。つまり、完全デバフ耐性効果のアクセサリーアイテムであり、更に言えば、この宝玉は錬金生成の素材にもなり、とある薬水と錬成することで不老の薬を作ることができる。
これは
ちなみに、今回のオークションで出た落札価格はロベルタス金貨5000枚。入手経路は不明であるが、とんでもないアイテムを平然と出品するこのオークションの異常性はもう痛感したと思っていたが、まだまだ驚かされてばかりである。
──これぞ、現実クオリティ。
そんな感慨を度外視しても、色々と異常すぎるオークションのオオトリを務める第三部の目玉商品、そしてダリアの今回の目的である錬金素材と言うのが──
「長きにわたる大博覧会も遂に次の商品で最後となります。今回もこの素晴らしき祭典の有終の美を飾るに相応しい品をご用意いたしました……ご覧ください! こちらが本日、最後の目玉商品──〈
そうそう、誰だかよく知らん人の遺骨……って──
「……は?」
想像していたモノとは全く違う、完全初見の出品物に俺の思考は止まる。いや、何そのアイテム。……マジで。
「無垢なる亡者の遺骨……?」
それは、
何せ、俺はあのイカレた『ヘルデイズ』を完全攻略したのだ。その過程で蓄積されたゲームに登場するアイテムやルート選択、錬金レシピは脳裏に今もしっかり焼き付いている。だからこそ断言できる。俺はあのアイテムを知らない。
本来、目玉商品は事前に配られる出品カタログや下見会で公開されることはないが、確かにこれまでに出てきた各部の目玉商品は俺の
だから、第三部でも
「なんだよ──それ……」
ここに来て全ての前提が覆る。
「ついに出てきたわね……!!」
確かに、ダリアは今壇上で公開された商品が欲しいと言った。それは今も隣で興奮した様子の彼女を見れば一目瞭然だ。つまり、彼女が事前に仕入れた情報と差異はなく、やはり彼女は最初からあの変な骨が出ることを確信していたわけだ。
俺としても、発生する時期は違えど、一度は前世で経験のあるシナリオとなんら変わらない話の流れと彼女の動機に、勝手に彼女の欲しいモノがゲームと同じだと勘違いをしていた。だからこそ一度、彼女に「秘密」だとはぐらかされても、再度確認することはなかったし、それを見越して先ほどのような提案をしたのである。だが、そこで、その慢心と言える気の緩みが仇となった。
「チッ……」
「こちらの
「「「……」」」
そして、ここでも不測の事態が起きた。
「……おや? 誰も札を上げませんか?」
競売人が静まり返った会場を見て首を傾げる。
誰もがその何の変哲もない人骨の集まりを見て、その価値を見定めあぐねている。開始価格から相当に価値のあるモノなのは明らかであるが、この場にいる誰もがその骨の価値を理解できていなかった。
いったい、あの骨にはどんな効果があるのか? どんな利用方法が存在するのか? 相場の価格はどれくらいが適正なのか? 本当にあんなのが目玉商品なのか? そもそも、誰の遺骨なのか?
疑念と懸念が入り混じり、恐怖にも似た不気味さが漂う。それはオークションで起きてはいけないことでもあった。
「ねぇセナ、札を上げなくていいの?」
そしてこのまま何も
「ッ……行きましょう。ただし、入札単位は最小限で、ゆっくり刻んでください」
「わ、わかったわ──3100枚よ!!」
だからこそ、俺たちは動かざるを得なかった。
声高らかに番号の書かれた札を上げて、競売に名乗りを上げる。静寂を引き裂く魔女の声に会場の視線が一気に集中した。そして──
「31!さぁ、他にはいませんか!?」
「35だ!!」
──やっぱそう来るよな……。
火蓋は切って落とされた。一度、競売が始まれば周囲は考える。
あんな一見訳の分からないモノでも買い手がいる。あの骨は金を出す価値がある。
それはこの会場にいる入札者たちの興味関心を引くには十分だった。なにより、タイミングも最悪だ。誰もが静観している微妙な静寂を経ての入札だ。そして、この会場にいる誰もが注目していた最後の目玉商品でもある。
一度でも爆弾が投下されれば──
「俺は37だ!」
「こっちは40!」
「私は55出すわ!」
「60ッ!!」
入札は殺到する。
瞬く間に釣り上がる金額。この状況こそが想定していた中で一番最悪なパターンであった。価値も分からずに、「とりあえず乗っとけ」の野次馬根性。ただ好奇心と特別感のみで衝動買いを始める入札者たち。一石を投じたのは自分たちであるが、その一石を起爆剤として派手に爆発させたのはあの小太りの男だ。
「クソッ……!」
ここまで競売を見てきて、あの小太りの男は何度か金額の釣り上げを行っていた。それは事細かに観察していなければわかり得ないほど、巧妙なやり口ではあった。
だが確かにあの男は入札者を煽り立て、他のサクラを巧みに操り扇動し、無作為に入札額を引き上げて、競売を荒らし回っていた。そのバックにはこのオークションの関係者がいるのか、はたまた出品者と内通し、あぶく銭を稼ぐために共謀しているのかは定かではない。だが──
「標的にされていたのはこれで確定」
あの小太りの男は確実に俺たちがあの商品を入札すると分かった上で、仕掛けてきていた。
まるで、こちらの素性を全て見透かしているかのような──いや、その実、あの男は全て分かっているのだろう。平土間と上階ではかなりの距離がある。だが確かに俺はその男と目が合い、奴はこちらを嘲笑するように頬を引き攣らせていた。
どうして、奴はこんなあからさまにこちらを狙ってきているのか? 別に過去に因縁があるわけでもあるまいし、恨みを買った覚えもない……はず。
──いや、もしかしたら隣の魔女が過去に何かやらかしている可能性も……。
結局、理由は考えたところで判明しない。ただ、明らかな敵がいることは確実であり、俺たちはまんまと奴らの術中に嵌まった。
「75! 75が出ました! 他にいませんか!?」
「ど、どうするのセナ? いっちゃう? もう思いっきりいっちゃう!?」
気がつけば入札額は予算付近まで来ている。
「一回! 二回──」
競売人のカウントが始まる。本日最高落札額に流石にこれ以上の入札は、価値もよくわかっていない野次馬どもには出せるはずもない。
周囲は冷静さを取り戻し始めている。だが、ダリアのお願いはこのオークションで目的のモノを手に入れると言うこと。色々な不安が過るが、もうここまでくれば考えたって仕方がない。これで落札できなければそれまでだ。
俺は今か今かとそわそわして落ち着きのない師匠に全てを託すことにした。
「──思い切りどうぞ……」
「ッ! えぇ! ──100! 私は100出すわッ!!」
「「「おおッ!!」」」
俺のGoサインにダリアは勇ましく札を掲げる。一気に桁が上がった彼女の入札に周囲は今日一の歓声を上げた。
「100!他にいませんか!? ……一回──」
再び、カウントが始まる。三つのカウントが告げられれば落札。
「二回──」
反射的に小太りの男に視線が向く。すると奴はこちらを下卑た視線で一瞥すると、その手に握った札を上げようとしていた。
この期に及んで、奴はまだ金額を釣り上げたいらしい。徹底的なサクラ行為とその腐った性根に苛立ち、ここまでかと諦める。やけに時間がゆっくりに感じられた。俺の視線は依然として男の一挙手一投足に注がれ──
「三──」
「私はひゃく──んぶげぇッ!!?」
競売人のカウントと小太りの男の声が重なり、俺たちの敗北を告げようとするが、
「待て貴様ら!!」
「待てと言われて、誰が待つもんですか! いいじゃない中に入るくらい! 減るモノじゃあるまいしッ!!」
それはけたたましい怒声と小太りの男が白銀靡く影に吹っ飛ばされる突撃によって搔き消された。