乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
果たして、少女──アリサ・アロガンシアは苦悩していた。
「これは、由々しき事態だわ……」
「人生、そんなに都合よくいかないものだね、セラ?」
「本当、よくできているものね、セル?」
「第一回、セナを尾行しようの会」は無事に成功……それも、上々の成果を挙げての大成功と言えた。
初めての裏社会で少女は年相応に恐怖を抱き、いつ悪党に攫われるかと緊張したものだ。しかし、結果としてそれは杞憂に終わり、彼女は彼の普段では決して見ることのできない雄姿を目の当たりにして、大変満足していた。
あんな姿を見てしまえば普段がどれだけ堅苦しく、しっかりと使用人の業務に従事しているかがわかる。寧ろ、その差が顕著に感じられたことでアリサは彼のことを全く理解していないのだとさえ痛感させられた。
──いいえ、弱気になっては駄目よアリサ。
だが、だからと言って少女はへこたれない。知らなければ知ればいい。彼と彼女の輝かしい未来はまだこれからも続くのだ。その最中で彼のことを知っていけばいいし、その為の今回の尾行であった。
そんな気になる彼の次なる目的地がかの有名な闇オークション「大博覧会」であると言うことが分かったのは一番の収穫だ。これで次の──彼女たちが「第二回、セナを尾行する会」でやるべきこと、そして目的地が明確に示されたわけだ。
彼がどこぞの女狐とそのオークションに参加しようとしている事実を度外視すれば、彼の動向を把握できたことは妙な達成感と全能感をアリサに錯覚させた。一見、全ては順調のように思えた。
だが、前述したとおりアリサ・アロガンシアは結果として困っていた。
その理由と言うのが、件の闇オークションに忍び込むための手立てが全く見つからなかったからである。
「まさか、こんな古典的な方法に思い至らなかったなんて……」
手元にある三枚の紙切れを一瞥して、少女は深く息を吐く。
当初、彼女とその護衛である双子の弟妹は楽観的に「適当にそこら辺にいるチンピラを強請ってればオークションに参加できるだろう」と思っていた。
だが、そんな彼らの楽観的な思考を嘲うかのように、現実は上手くいかなかった。……いや、実際に、アウレリスでそれなりに幅を利かせる金持ちやマフィア、密売人──とにかく、オークションに参加しそうな要人らを闇討ちして、人数分のオークションの招待状を手に入れることは、彼女の手元の紙切れを見て分かる通り、できた。
意外にも呆気ない目的の達成に、肩透かしを覚えながらもアリサらはこれで無事に自分たちも大博覧会に参加できると思ったのは記憶に新しい。だがそこは、世界でも有数の、数年に一度のビッグイベントである。セキュリティの規模が違った。
彼らが手に入れた招待状は確かに実際に会場に入るときに必要となる
所謂、〈魔力印〉であった。
これを簡単に説明すれば魔力の鍵である。
密書や金庫、魔剣なんかの封印などなど……。とにかく魔力によって鍵をかけることで、不特定多数に情報や使用権なんかを保護する役割がある。そして今回、彼女らが手に入れたその招待状にもこの魔力印が仕込まれていたのだ。
その施された魔力印の効果は単純。特定の魔力パターンを持った人間でなければ招待状はその機能を発揮せず、ただの白い紙切れのままと言うものだ。この事実には流石のアリサも愕然。自身の考えの至らなさを恥じた。双子は魔術の知識に乏しいのか、あまりよくわかっていない様子だが、自分たちが血染めにして手に入れた紙切れが使えないことは理解したらしい。
これが彼女が苦悩していた理由の全てであり、このままでは現地に行っても彼の尾行をすることはできないという現実への直面であった。
──困った、本当に困った……。
なんて不安と焦りを感じているうちに、身体は勝手にオークション会場の目前までに辿り着き、中は絶賛オークション中。
「いやー中に入れないとは言え、一目でもいいから至極の商品たちを一目拝めないもんかねぇ~」
「あの大会で優勝していれば俺が参加してるはずだったのに……!!」
「まだ言ってんのかお前は……。今年は運が悪かった。あんなバケモノ二人に勝てるわけねぇだろ……」
外には意外と言うべきか野次馬──中の様子を運よく拝めないかと見物人が多く集まっていた。
下手をすればアリサらと同じように会場の中に入れないかと、招待状もないのに入り口に突撃する馬鹿者までいる。その悉くが黒服に身を包んだ
「あの人たち強いね、セラ?」
「ええ、なかなかの練度ね、セル?」
このアウレリスに来てから、向かってくるチンピラどもの全てを涼しい顔で返り討ちにしていた双子はそんな評価を下す。
それを聞いて、アリサは「流石にこれ以上は無理か?」と弱気な思考が過る。何せ、あの双子が普段は見せない弱音を見せたのだ。ただでさえ、今回の裏社会で活動するにあたって、双子には相当な負担をかけてしまっているのにこれ以上の無理は──
「楽しみだね、セラ?」
「楽しみ過ぎるわね、セル?」
「……え?」
続けられた双子のやり取りに、思わずアリサは呆けた声を上げる。
そして示し合わせたように彼らは主の方を向いてこう言うのだ。
「「……それで、どうしますかお嬢様?」」
同時に放たれたその言葉の意味を双子の主は図り損ねる。
しかし、この双子の──彼によく似た瞳に視られると、こう言われているような気がしてならない。
「僕たち私たちはいつでも行けるけど、ここに来てもしかして日和ってるの?」と。
到底、主人に向けるには相応しくない、使用人にあるまじき嘲笑すら感じられる視線である。だが、そんな瞳で見られると少女は居ても立っても居られなくなる。彼の姿を想起してしまってたまらなくなる。
だから、最後の確認をするかのように双子の主は尋ねた。
「本当に、大丈夫なのね?」
「うん。よゆーだよ」
「お嬢様は私たちをあんなチンピラに負ける雑魚だと思っているのかしら?」
「そう……」
双子の生意気な発言にアリサは思わず笑ってしまう。そうして、彼女は彼らに一つ
「それじゃあ、お願いよ──」
きっとこれは一人の貴族、それこそ公爵令嬢にはあるまじき命令である。けれども、この瞬間ばかりは、アリサはこの衝動を止められなかった。
「──私をあの中に連れてって」
「「仰せのままに、お嬢様」」
双子は恭しくお辞儀をして、薄く不敵に、それでいて楽し気に笑みを零す。
主の命令であるならばどんな命令でもとりあえず遂行。それがアロガンシアに仕える使用人のモットー。そして、この挑発的な双子の言動こそが、双子の良い所でもあり、悪い所でもある。
まだ幼く、純粋が故に彼らは時には臆病風に吹かれた主を鼓舞し、時には煽りすぎて凶行に走らせる。
今回はそのどちらに該当するのかって?
そんなの勿論、