乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第53話 モブ執事は目を疑う

 オークション会場は騒然とする。

 

「待てと言ってるだろ!」

 

「しつこいわね……強情な殿方はモテないわよ?」

 

 そりゃそうだ、何せ唐突に会場の厳重に締め切られていた扉は開け放たれ、そこから表れた闖入者によって今しがたバルコニー席でオークションを楽しんでいた一人の小太りの男が吹っ飛ばされたのだから。

 

「た、たすけ──」

 

 普段から運動なんてしていないのだろう、男は手をばたつかせるのみで着地や受け身の姿勢を取る様子もない。

 

 ──こりゃ駄目だ。

 

 一目見て確信する。助けに行ってもいいが、俺のいる席から男の落下地点はそれなりに離れている。

 

 助けに行けないわけじゃないが……別に助ける道理もない。いや寧ろ、今日一日煮え湯を飲まされた相手である。これはその腹いせ──と言う訳はないが、不幸な事故だと思って諦めてもらおう。他の入札者も、競売の際は奴にそれなりに吹っかけられた者が多かったのか、誰も助ける様子はない。

 

「「行きますよお嬢様!!」」

 

「ええ!!」

 

「待てやゴラァア!?」

 

 そんな吹っ飛ばされた小太りに続き、闖入者たちも捕縛しようとしてくる複数人のセキュリティを引き連れて、そのままテラス席から一階のプラテアまで落下してきた。

 

 その大胆極まる行動に、また会場は悲鳴のようにざわつく。

 

「うぐぁああああああああああああッ!!?」

 

 運悪く……本当に運悪く? 彼らは無様に落下した男の真下に無事着地。断末魔と激しい衝撃音を響かせながら、結局、小太りの男はその身を激しく軋ませて、気を失ってしまう。

 

 ──南無三……。

 

 商売敵ながら、その一連の光景はなかなかに悲惨で、恨みを忘れて同情させるには十分である。

 

 場は変な方向に身体を拉げた男の姿に騒然としていると言うのに、そんなの知ったことかとこの惨劇を招いた元凶は元気に会場を逃げ回っている。どちらかと言えば、俺の意識はすぐその闖入者らに向けられており──

 

「……まさか──」

 

 いかにも見覚えしかない()()()()()に得も言われぬ寒気を覚えた。

 

 いや、まさか、彼女たちがこんな裏社会の……それこそ、こんなオークション会場にいるはずがないと否定しようにも、眼前で繰り広げられる光景そのものが確かな事実であった。

 

「クソ!この()()かなりの手練れだぞ!!」

 

「こっちの女は()()を使ってくるぞ!それも()()()()()()()!気を付けろ!!」

 

 セキュリティである黒服の男たちが三人の少年少女を取り囲もうとするが、彼らはそれを巧みな身体捌きと見事な魔術を駆使して、ギリギリのところで掻い潜る。

 

「あはは! さすがに結構やるなぁ~。これはやばいかもねセラ?」

 

「ちょっと舐めてかかり過ぎたかもね、セル?」

 

「あ!セル!セラ!あそこ!あそこにセナがいる!!」

 

「「え!ほんとう!?」」

 

 ……うん、前言撤回。見覚えがあるんじゃなくて、俺は確実にあのアホどもを知っている。何せ、確実に闖入者三人組は俺の方を指さし、熱い視線を向けてきているのだから。

 

「マジでなにやってんだアイツら……しかも、お嬢様まで──」

 

 どうしてあの三人がこのアウレリスにいるのか、しかも厳重なセキュリティによって侵入が難しいオークション会場で、あんな愚行に及んでいるのかは見当もつかない。

 

 だが、一つ分かることは彼らは城攻めをする蛮族よろしく、この裏社会のビッグイベントの真っただ中で大立ち回りをしていると言うことであり、それはともすれば危険を顧みない自殺行為にしか思えない。

 

「挟みこむぞ!絶対に逃してなるものか!!」

 

「ありゃりゃ、次から次へと」

 

「まるでゴキブリみたいね?」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」

 

 現に、彼らは黒服どもに着実に包囲され、捕まるのも時間の問題だ。

 

 容易に……かどうかはさておき、オークション真っ只中の会場まで侵入を許してしまったのだ。セキュリティたちもあの悪ガキ三人衆に煮え湯を飲まされお冠だ。纏っている殺気の熱量が違う。

 

 もし派閥連合が主催するイベントで大暴れした挙句に、捕まってでも見ろ、絶対に厳重注意で終わるわけがない。てか、あの様子では希望的観測すぎる。

 

 ──良くて奴隷落ち、最悪の場合は薬づけにされて弄ばれた挙句に犬の餌行きとかだ。

 

 幼い子供の戯れ……で済まされないほどあの三人のやっていることは度が過ぎている。裏社会を牛耳っている奴らなのだ、それぐらいはやってもおかしくはない。

 

「はぁ……」

 

 恐らく、このまま何もしなければ訪れるであろう未来を幻視して、俺は深くため息を吐く。自業自得とは言え、身内が目の前で裏社会の肥やしになるのなんて勘弁だ。

 

「後でしっかり説教と事情を問いただして──ッ!?」

 

 圧倒的物量によって捌き切れなくなってきた三人をこれ以上放置するわけにもいかず、適当に助太刀に入ろう──そう思い立って動き出そうとした瞬間、全身に妙な違和感が駆け巡る。

 

 それは本当に一瞬で、ともすれば勘違いとも思えるもので、身体が強制的に硬直させられたような、時が止まったかのような妙な違和感だった。

 

「……?」

 

 そんな違和感を覚えたのは自分だけか、それともこの会場にいた全ての人間が感じられたのか。それほど些細な違和感はほんとうに一瞬で霧散し、すぐに体は問題なく動く。

 

 そして、急に飛び出すのもダリアに申し訳ないと思い、彼女に断りを入れようとしたところで会場の異常事態は沈静化する。

 

「確保!」

 

「ちょこまかと暴れまわりやがって……ただで済むと思うなよ!」

 

「あれ?」

 

「なんで?」

 

「ちょ、離しなさいよ!!」

 

 気が付けば勝鬨を上げる一人のセキュリティ。視線を声のした方へと向けると、お嬢様たちはいつの間にかセキュリティにその身を拘束され、会場の裏へと連行されようとしていた。

 

「は?」

 

 その唐突な光景に、俺の思考は理解が追い付かない。

 

 確かに、ついほんのさっきまでセキュリティは彼女たちを捕まえるほど距離を詰められていた。だが、だとしてもそれはまだもう少し先の話であり、十分に俺が助太刀に入れる余地はあったはずなのだ。それが、ほんの一瞬眼を離した隙にこれだ。

 

 ──何が起きた?

 

 つい今しがたの違和感と言い、腑に落ちない眼前の光景に、しかしながら会場にいた他の入札者は違った。

 

「皆様、大変失礼いたしました。侵入者の捕縛は無事に完了いたしましたので、これ以上の危険はございません。少しの休憩時間を設けましてから、最後の入札を再開したいと思います。改めまして、大変な失礼をいたしまして、心からお詫び申し上げます」

 

 競売人の謝罪の言葉に会場は安堵の声を漏らす。

 

 そうして、肝心の最終競売は時間がズレ込み、図らずも間の抜けた時間が訪れる。しかし、俺の心境は落ち着いてはいられず、連れ去られた三人の事が気になって仕方がない。

 

 すぐに、事情を説明してお嬢様たちを助けに向かいたかったが、そのことを話そうにも──

 

「まさか──いや、でも、確かにあの感覚────」

 

 隣の魔女は難し気な表情で何かを考えて、話しかけられる雰囲気ではなかった。

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