乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
「ほかにいませんか? 一回! ……二回! ……三回!!」
甲高い小槌の音が会場に響き渡る。もう、今日何度目とも定かではない
それも今回の競売で一番の落札値。その金額は驚きのロベルタス金貨一万枚と桁外れ。この会場にいるほとんどの金持ちらが逆立ちしても出し渋るほどの金額に違いなかった。そんな諸国の国家予算にも並ぶ入札をしたのは一人の魔女だ。
「本日、最後となる商品の落札は66番の方に決まりました!」
「「「おぉ……!!」」」
競売人の煽り文句に、会場の入札者たちはどよめく。
それもそのはず。何せ今回のオークション、最後の目玉商品だったのだ。一度は無礼な闖入者によってその競売は中断されたが、暫しの休憩の後にすぐ再開された。それも前述したとおり、最高額での落札ともなればこの反応も納得であろう。
その注目度は言わずもがな、自分が落札していないとはいえ、興味関心は自然と向いてしまうだろう。そんな奇異の視線に晒されながらも、隣の魔女は平然と澄ましており、傍から見れば余裕に溢れている。その堂々とした立ち居振る舞いに周囲は更に感嘆した。
「これにて、今回の大博覧会の入札は全て終了となります。落札された商品に関しましては後日、事前に指定されたお客様方の元に──」
そんな異様な空気が流れる中、ここまで競売人を務めた壮年の男は恭しくお辞儀をして、連絡事項を並べ連ねる。
そこでオークションの参加者たちは思い至る。「あぁ、もうこんなにも刺激的で素晴らしい品の数々を見ることができないのか……」と。後悔と寂しさの混じるどよめきが周囲を満たし、そして謎の一体感……とでもいうべきか、数年に一度の祭典の終幕に人々は大きな拍手で祝福する。
拍手喝采が向けられる対象は競売人と……最後の目玉商品を本日最高額で落札した入札者──詰まるところ、魔女にである。本来ならば、その喝采に応えるべく勝者の責務として手でも振って見せるべきなのだろうが──
「行くわよ、セナ」
「はい」
彼女とその隣に付き従う弟子ははそんな外聞など無視して、足早に席を立ちあがり、会場を後にする。もうここに用事はなかった。
最後の最後で問題は起きながらも、ここで達成するべきことは済ませた。本当ならば、目的物を無事落札したことを喜び、祝杯でも挙げたいところだが……最後の最後に起きた問題によってそういう訳にもいかなくなった。
「すいません、師匠……変なことに付き合わせてしまって……」
「愛する愛弟子のお願いだもの、気にする必要はないわ。……それに、私もちょっと気になることができたから、ちょうどよかった」
「気になること……?」
神妙な表情をする魔女に弟子は首を傾げる。しかし、そんな彼の疑問に答えず、彼女は出口とは別の方向に歩みを進めた。
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この大劇場は様々な用途──それこそ、奴隷競売や魔獣曲芸などが開かれることからそれらを管理し、留置する設備は異様なほどに揃っている。
関係者のみが立ち入ることの許された裏区画。そこは
──確かゲームでは派閥連合の本拠地っていう設定だったか……。
アドベンチャーエリアとしての登場はなかったが、世界観の設定としてはそう言った背景があった……はず。
基本的には慣れ合わない各派閥の集会場的な役割でもあるここには、年に一度のオークションと言うこともあって、やはりと言うべきかかなりのヤクザ者が集結していた。その全てが会場の裏に厳重に管理されている商品の警護であったり、万が一、脱走や侵入者が現れたときの迎撃の役割を担っている。
……そう、正にこんな時の為に──
「侵入者!侵入者だ!総員、厳戒態勢!!」
「あら、
「言ってる場合ですか! クソ、奥の方からうじゃうじゃと……ゴキブリかよ!!」
人気のなかった区画の通路に、気が付けばわらわらと黒服のマフィアどもが群がってくる。その様は正に黒くてテカテカしたGみたいである。俺達は次から次へと、鈍器を振りかざして拘束してこようとするセキュリティを片っ端からなぎ倒していく。
「なんだってこうも反応が早いんだ!!」
先ほどのダリアの発言通り、俺と彼女は目的のモノを落札後、すぐに会場を後にして捕らわれたお嬢様たちを救出すべく、関係者しか入ることのできないこの区画まで乗り込んだ。
厳重な警備が敷かれた現状で大立ち回りをすれば、自分たちの立場を悪くするだけだとなのは言わずもがな。先ほどのお嬢様の件もあって殺気立っているであろう警備を刺激しないよう、慎重に侵入を試みたと言うのに──御覧の通り呆気なく察知されてしまった。
「まるで俺達が来るのが最初から分かっていたような感じだなぁ、おい!!」
その実、俺たちは細心の注意を払ってこの区画に足を踏み入れたつもりであった。「気配消しの魔術」に「希薄の魔術」──などなど、魔術に細工は勿論のこと、いち使用人として隠密行動の心得も持ち合わせていたつもりだ。
しかし蓋を開けてみれば、区画に侵入して直後、数秒も経たず、まるで予期したかのようにセキュリティが駆けつけてきたときは驚いた。
──まさか監視カメラでもあるわけじゃあるまいな!?
俺の知る限り、この世界にそんな便利道具は存在しないはずだが……ここまで完璧に対応されてしまうとありえない仮定を疑いたくもなってくる。
そんな思考の最中でも眼前の視界は一向に晴れず、やはりマフィアどもは無限湧きの如く突っ込んでくる。
「これじゃあ本当にキリがない……! 師匠!前みたく人探しの魔術でお嬢様たちの居場所を探れますか!?」
際限なく湧き続けるマフィアどもに行く手は阻まれ、先に進もうにも闇雲に突っ走るわけにもいかない。俺の質問に、かの黒輝の錬金術師は頼もしく頷いた。
「任せなさい! ──〈
魔術を行使する為の怜悧な詠唱が背後から響いて、確かな魔力の熾りを感じ取るが、次いで魔女の呆気にとられた声と霧散した魔力の感覚に思わず視線を後ろに向ける。
「魔術が……使えない……」
「なっ……封魔結界なんて張られて──」
魔術行使の失敗。それはまだ魔術を覚えたての見習いならばよくあることかもしれないが、彼女にとってはありえないことであった。
困惑するダリアの姿に問題が起きた原因を思慮するが、それは途中で遮られる。
「ッ──」
全身に、さっきオークション会場で感じたような、身体が強制的に硬直させられるような……時間が止められたような違和感が襲う。
だが、やはりそれはほんの一瞬で消え去り、平然と目の前の光景は動き出す。嫌な感覚を覚えながらも、俺は改めて背後のダリアに状況を確認しようとするが──
「ししょ──は……?」
視線を背後へ向けると、さっきまでそこにいたはずの魔女はそこにおらず、忽然と姿を消していた。
残されたのは俺と大量の無限湧きとも思えるむさ苦しいマフィアどものみ。
「次から次へと……いったい何が起きてるってんだ!!」
思考の整理が追い付かない。待ったをかけようにも眼前の荒くれ者どもが効くはずもない。目まぐるしく強制的に流れていく状況に、俺は無意識に声を荒げ、依然として迫りくるヤクザどもを蹴散らす。
そんな最中、脳裏には酷く軽薄な声が響いた。
「これは……また、懐かしい気配だな──」