乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
無事に区切りの良い所まで毎日投稿できる確率は約81%です。
そうです、この世で一番信用ならない確率です。
気がつけば魔女はそこにいた。
薄暗く、見覚えなんて全くない部屋だった。だが遅れたように襲い来る不快感には覚えがあり、
「──やっぱりか……」
魔女──ダリア・メイクラッドはうんざりと深く息を吐き出した。
酷く、酷く……本当に吐き気がするほど、思い出したくもない感覚であった。愛するべき愛弟子の頼みと、会場で感じた違和感を拭い去るべく、かの錬金術師はこの裏社会を牛耳る闇組織の中枢へと乗り込んだわけだが──
「最悪な気分……」
眼前に現れた一人の壮年の男を見て、自分の違和感は勘違いではなかったと確信する。勿論、その確信がいいものだとは限らないが。
確かに、つい数俊前まで彼女は愛弟子と一緒に関係者区画の通路にてマフィアの群れに襲われていたはずだ。だと言うのに、瞬きをした次の瞬間にはこの部屋にいた。それはともすれば瞬間移動したような、まるで迷宮の転移罠を踏み抜いたような感覚に似ている。だが魔女は今自分が体験したこれは前述したどちらでもないとわかっていた。
「そんな悲しいことを言わないでおくれよ──ダリア」
「ッ……馴れ馴れしく呼ばないでもらえる?」
親しげに、愛おしそうに自身の名前を呼ぶ男に対して、魔女が抱くのは嫌悪のみ。
著しい拒絶感で以て、魔女は男から距離を取る。改めて周囲を見渡し、そして今自分がいる場所がどこなのかを明確にさせる。そこは所謂、倉庫であり、無数の木箱が乱雑に積み重ねられており、埃っぽい。そこまで確認して、ダリアは男とは別の視線と鉢合わせる。
「あ、あなたは──」
「なるほどね」
魔女の視界が捕らえたのは特殊な拘束具で身動きを封じられた貴族の令嬢とその従者。令嬢の方は目元を随分と赤く腫らして、小さく身体を震わせている。双子の方は顔や露出した肌に切り傷や青あざが痛々しく浮かんでいる。
この少女たちこそが彼と魔女がこの区画に乗り込んだ理由であり、助け出すべき救出対象でもあった。いったい、どうして彼の主と弟妹がこんなところにいるのかは定かではないが、魔女としては少女らに思うところがないわけではない。彼が知らないと言うことは、この子供らがここにいるのは独断と言うことであり、こんな状況に陥っているのも自業自得と言うことだ。
──彼の頼みじゃなかったら別に助ける義理もないのだけれどね……。
しかし、魔女は愛する愛弟子に頼まれればどんなお願いでも聞いてしまう生き物であった。これが惚れた弱みとでも言うべきか……彼より先んじてこの少女らを見つけられたのは嬉しい誤算だ。これでまた、師匠としての尊敬度が増す。
「そう考えると、最悪すぎるって訳でもないのかしら……」
ポジティブに考えてみるが、このことを勘定に入れても依然として状況は悪いままだった。
目的の達成だけを考えるのなら探し物は見つけられたのだし、あとは彼と合流して、ここから抜け出せばこの侵入作戦も完遂であるが──
「まぁ、そう簡単にいくはずないわね……」
「会えて、本当に嬉しいよ。数十年見ないうちに──また一段と綺麗になったね」
「白々しい──」
いい気分に水を差されるような男の陶酔する声に、魔女は表情を苛立たしげに歪めるばかり。魔女はなんとも芝居がかった男の言動に辟易としながらも、確認のために言葉を紡ぐ。
「私がここに来ることなんて最初からわかっていたくせに──どうせまた、時を詠んだんでしょう?」
「そうだとも! 私は一瞬たりとも君を忘れたことはない! 君と巡り会う為に、随分と力を消耗してしまったが……それでも、そんなことがどうでもいいと思えるくらい、今は嬉しくてたまらないよ!!」
天を仰ぎ、神に祈りを捧げそうな勢いの男に魔女はまた一つ確信を得て、苦虫を噛み潰したようにその端正な顔立ちを歪めた。
「そういうこと……それじゃあ
「誘き出すなんて人聞きが悪いけれど、否定はしないよ。あんな特殊なモノ、欲しがるのは君くらいのものだしね」
「チッ……」
「ああ、オークション形式で出品はしたけど、あれは初めから君にあげるつもりだったからお金はいらないよ」
依然として険しい表情と辛辣な魔女に、男は機嫌取りのつもりか見当違いなことを宣う。「嬉しいだろう?」と恩着せがましい男は呆れたように笑みを浮かべ、そうして言葉を続けた。
「それにしても、まだあんなモノを欲しがってたなんて……
「ッ──違う……!!」
反射的に魔女は叫ぶ。彼女の反応から、男のその一言が彼女の触れてはいけない類の事柄なのは違いない。だが、無神経に男は続ける。
「死者の復活……この場合は降霊か──不老の肉体を求めるなんて、実に錬金術師らしいけれど、君にはもう不要だろう?」
「黙りなさい」
「是非とも、君にはあの骨をそんな無駄な使い方ではなく。もっと有意義に使ってもらいたいね……例えば──そう、私の為にとか、ねぇ?」
腹立たしい男の猫なで声に魔女は荒ぶった気を沈めて、余裕を見せつけるように冷笑する。
「論外ね。あんな素晴らしい素材をなんでアンタなんかの為に使うって言うのよ。それに、アレの使い道はもう決まってる」
「もう二度と戻らないはずの同志の為だろう?」
「挑発しても無駄よ。それに、違うわ。確かに彼のことは今でも悔いてる──時間を巻き戻したいほどにね。けどね、あの素材はもう二度と失わない為に使うの」
確たる意思の籠った双眸で魔女は眼前の男を睨む。そんな瞳に見られた男は、その言葉の意味を理解し、そうして信じられないと言った風に目を見開く。
「まさか……あの凡夫に使うと?」
「そうよ。悪魔をその身に宿した人間の末路を、アンタはよく知っているはずよ? 今は安定しているけど、いつその均衡が崩れて、彼が壊れてしまっても不思議じゃない。だからアレはその為の準備なの」
「それは私にも当てはまると思うんだけれど……あの素材を私に使わないのなら……もしかして、ようやく一緒になる決心ができたのかな?」
魔女の返答に男は期待の滲んだ声で尋ねる。だが、魔女はそれをも一蹴した。
「それも論外よ。誰がアンタみたいなイカレ悪魔を受け入れるって言うのよ。その草臥れた身体で我慢してなさいな。それにね──」
魔女は一番の拒絶で以て眼前の男──第四魔帝ミルニナーヴァに言い放った。
「それに、私は
それでも悪魔は諦めない。その貼り付けた微笑みを湛える。
「そう言うと思って、君の希望通り男に取り憑いたんだけれど──お気に召さなかったかな?」
「しつこいわね。論外だって言ってるでしょ! 私の好みはそんな草臥れたジジイじゃなくて、若くてかっこよくて、私にとっても優しい
「そうか──交渉は決裂だな。それじゃあ、力づくで貰い受けるとしよう。結局、私と君はそういう運命なんだ」
魔女と悪魔の因縁の会話はそこで終わり、途端に周囲に濃密な魔力が満ちる。両者の魔力が滾り、激しく衝突する。それを傍から見ることしかできない三人の観客。
「ッ……く、そ──行ける、セラ?」
「ぅぐ……も、もちろんね、セル!」
「なんて魔力量なのよ……」
うち二人は身動きが取れないことを歯がゆく思い、残り一人は呆然とその隔絶した眼前の光景に呆然とするほかない。
「悪いけれど、子供のお守りができるほど余裕のある相手でもないの──」
「「「ッ!!」」」
今にも弾け飛びそうな魔力の塊に気圧されながらも、魔女はせめてもの慈悲として拘束された三人を片手間に解放する。
「逃げるなら勝手にしてちょうだいな。たぶん、外は彼が何とかしてくれてるから安全よ……まぁ──」
そうして自由になった三人の無謀な弱者は選択を迫られる。
「そこの悪魔がむざむざと、捉えた獲物を見逃す道理なんてないとは思うけれどね?」
ここで、かの魔女の言う通り逃げ帰るか、それとも眼前の悪魔に一矢報いるために立ち向かうか。
命を優先するのならば、選択の余地など無く、答えは一つだ。だが──
「「ここで逃げたら、兄様に顔向けできない!!」」
「ここで逃げたら、彼に相応しい女になんてなれないわ」
無謀で無力な弱者は、この極限の状況でも無謀な愚行を選択する。そんな彼らの浅ましい答えに魔女は呆れ果てる。
「ほんとう、バカで愚かしい子たち──でも、嫌いじゃないわ」
けれど、軽蔑はしない。
何せ、かの魔女は無謀な蛮勇に恋焦がれるものだから。
「さあ、いつの日かの続きをしようじゃないか!!」
気が付けば、部屋に満たされた魔力が炸裂する。それが戦闘の合図であった。
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