乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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二章ほぼ完走。
あと幕間一話でいったん一区切りです。


第62話 モブ執事は期待する

 こうなるまでに至った経緯をちゃんとお話しよう。と言っても、別にそこまで難しくこじれた話ではない……と言うか、俺自身もよくわかっていなかった。

 

「お前たち二人には従者としての自覚が足りない」

 

「「……はい」」

 

「いいか? 今回の件はまだ子供だとか、経験が足りないとか、そう言った以前の話だ。「山越え」をして、お前たち二人は一人前──アロガンシアの使用人としての実力を認められたからこそ、俺の代わりにお嬢様の身の回りのお世話をすることになった。違うか?」

 

「「そうです……」」

 

 まず、無事に師匠を工房に送り届けた後、屋敷に戻った俺は双子とお嬢様の説教をした。

 

()()()もです。あまりにも今回の行動は軽率すぎる。アナタはアロガンシア家のご息女であられる、次期国王の王妃になるお方なんですよ?」

 

「本当に、ごめんなさい……」

 

 従者が主に説教を垂れる……これ自体は別におかしい話ではない。

 

 主を正しき道へと導くのも従者の務めだ。過ちを犯せば厳しく叱責することだってある。だが、こと彼女──アリサ・アロガンシアに於いて、この常識は今まで通じなかった。と言うよりも意味をなさなかった。

 

 過去の邪智暴虐な彼女ならば説教をしたところで無駄だろう。そもそも、あの我儘令嬢に説教をするなんて自殺行為、説教と言う行為自体が成り立たないまである。

 

 だが、今のお嬢にならばしっかりと意味のあるものだろう。その言葉の意味を、意義を理解し、自分の過ちを受け止められるほど、成長したと言う証である。だから、説教をしている途中、俺は結構感慨深かったりしたわけだが──それとこれとは話が別、しっかりと仕事はこなす。

 

「そもそも、どうしてアウレリスに……あのオークション会場に侵入なんてしたんですか?」

 

「そ、それは……せ、セナがこの休暇中に女の人と頻繁に会ってるみたいだったから気になって……」

 

「……え?それだけですか?」

 

 なんとも簡潔すぎる釈明に俺は聞き間違いか何かだと、反射的に聞き返してしまう。そんな俺の反応を見て、心外だと言わんばかりにお嬢様は不機嫌そうに頬を膨らませる。

 

「そ、それだけとはなによ……。私にとっては重要な事なの……」

 

「──」

 

 そして、どうやら今の彼女の言葉が今回の犯行に及んだ全ての理由であり、なんの聞き間違いでもないことを認識して俺は絶句した。

 

 いや、だってまさか、主と弟妹が従者(兄)の恋愛事情を探るためにあんな凶行に及んだと聞かされて、どんな反応をすればいいのだ。それも、その凶行が二度も行われていたなんて……考えたくもなかった。だが、実際にその凶行が行われてしまっているのだから仕方がない。

 

 ちなみに、父ラーゼンや当主様への報告は控えていた。事が事だし、結果として難は逃れたわけで、休暇中の事なのでノーカンだろみたいな……いや、正直、俺もどう説明していいかわからないし。事細かに説明すると色々とボロが出そうなのでやめておこうと言う判断だ。

 

 ──……いや、マジでこれは本当に報告してなくて正解だったな。

 

 なんだか頭をいきなり鈍器で思い切り殴られたような感覚を覚えて、ふらつく。

 

 そんなこちらの心労を知ってか知らずか、眼前の悪ガキ三人衆は懲りずに騒ぎ立てる。

 

「そ、それで……結局、あの魔術師とはどんな関係なの!? セナは私を置いて他の女と結婚しちゃうの!!?」

 

「「そうだよ、兄様! お姉様との関係を聞かせてよ!!」」

 

 件の話となれば自分たちが叱られていることなど忘れて、「正義は我にあり」と言わんばかりに問いただしてくる始末だ。

 

 勢い止まらぬ三人に痺れを切らして、俺はこの際にちゃんと否定しておくことにした。

 

「はぁ……あの人は俺の錬金術の師匠です。訳あって彼女の仕事を手伝うことになって、気がつけば弟子になってました。それだけです」

 

「訳あってって……」

 

 それでもまだ納得いかない様子のお嬢様に言葉を付け加える。

 

「ちなみにアリサ様のガラスペンを修復してくれたのは師匠です。その流れで何かと仕事を頼んだり頼まれたりするようになったんです」

 

「そ、そうなの……」

 

 あまりこのことを引き合いには出したくなかったが、仕方がない。これ以上に納得のできる理由を提示も、ましてや捏造もできなかった。

 

 これでようやくお嬢様は納得してくれるかと思ったが、

 

「ほ、本当にあの魔術師とは恋仲でもなんでもないのよね?」

 

 今日はどうにも疑り深い。俺は上目遣いで様子を窺ってくる主に呆れながらも首肯した。

 

「ええ、あの人は師匠であり、俺の恩人です。それ以外の何か特別な感情などはございません」

 

「で、でもほら! セナは強くてカッコよくて優しくて……とにかく素敵だから恋人の一人や二人くらい──」

 

「私ってそんなに女性関係がだらしない男だと思われてるんですか? ……それはそれで心外なんですけど──」

 

 随分と過大な評価なのは喜んでいいのかどうか。結構ガチ目に俺は自身のこれまでの言動を振り返ってみる。

 

 何かと大げさなことを言ってしまうことはあるが……それも親しい人間にだけだし、本心から出た言葉なのだから、逆に誠実だと思う。

 

 ──……うん、やっぱセーフ。

 

 それでも目の前の少女はどこか不安げで、その原因はどうやら自分に恋人ができることへの危惧らしい。

 

 そりゃあ、俺だって男だ。そのうち、愛する人ができて家庭を持つことだってあるだろう。けど、だからと言って、それでお嬢様へ仕えることを「ハイ終わり」と言うわけでもあるまい。

 

 なにより、この暴走少女を放っておくとまた悪魔に誘われて破滅ルートに逆戻りしそうだと言うことは、今回の件でよくわかった。それにだ、俺は一度、ハッキリと彼女の側に仕えると宣言だってしている。それを取り消すつもりも、覆すつもりもない。

 

 そうだと主張しても、我が主が不安だと言うのなら、何度でも宣言しようではないか。

 

「それじゃあもう一度誓いましょう」

 

「へ?」

 

 呆ける主を無視して、俺は彼女の下に傅き、その小さな手を優しく掴む。

 

「私、セスナ・ハウンドロッドはアリサ様が成人されるまで、恋に現を抜かすことなくそのお側で仕えましょう──これでよろしいでしょうか?」

 

「は、はひ……」

 

 ようやく納得してくれたお嬢様に大きく息を吐く。なんだかどっと疲れた……あと、説教を続ける雰囲気でもなくなってしまった。

 

 まあ、十分に叱ったと言えば叱ったので、これでいいかと考えていると──

 

「も、もう一つセナにお願いがあるの!」

 

「はい?」

 

 なんとも久方ぶりな気がする主の言葉。この期に及んで次はどんな無理難題を吹っ掛けてくるのか……内心、気が気でなかったが、果たして主の願いは、

 

「私に、セナの師匠を紹介してくれないかしら?」

 

 なんとも、予想外のモノであった。

 

 ・

 ・

 ・

 

 どうしてお嬢様が魔女からの師事を仰ぎたいと思ったのか。

 

 その真意は定かではないが、これは悪くない考えだと思った。

 

 まだお嬢様は魔術師としては未熟、これからたくさんのモノを学び、一人前の魔術師として大成していくのだろうが、その過程で師匠が居ては駄目なんて道理もない。寧ろ、師事を仰いだほうが効率的だ。

 

 ──いや、今もちゃんと家庭教師として魔術の先生はいるんだが……。

 

 いつ悪魔に襲われるとも分からない、前世(ゲーム)よりも治安の悪い状況だとそれだけでは不十分だ。

 

 それに、これから彼女はゲームの本編である学園に入学するわけで、それまでに力を付けておいた方がいいのは言うまでもない。学園に入学すれば今まで以上に何かと面倒ごとが増えるだろうし、この前の悪魔の件もあって彼女には少なからず自衛できる力を身に着けてもらう必要がある。

 

 ──学園に行けば、常に俺が彼女の側でサポートできるわけでもないだろうからな……。

 

 問題はあの拗らせ魔女が二人目の弟子を取るかどうかであるが──

 

「ほら、そんなノロノロとした手つきじゃ日が暮れちゃうわよ? セナならもうとっくに追加分の錬金まで終わらせてるわね──」

 

「ぅぐ……が、頑張ります!!」

 

「頑張るのなんて誰だってできるのよ。口じゃなくて手を動かしなさいな」

 

「は、はい!!」

 

 意外なことに彼女は二つ返事でお嬢様を弟子へと迎え入れた。

 

 現在、お嬢様は作業部屋の隅っこ──俺がいつも作業をしている机で錬成薬を調合している。その数はゆうに百を超え……お嬢様は随分とやつれた様子だ。

 

「「えっほ、えっほ──」」

 

「ほら、追加分の素材よ」

 

 その周囲では次から次へと新しい素材を運び込む双子が忙しなく部屋を行ったり来たりしている。

 

 果たして、今まであれほど頑なに弟子を取ってこなかった魔女がどうしてこうもあっさりと二人目の弟子を取ったのか。やはりその真意は分からない。

 

 直接聞くのもなんだか違う気がしたので聞いてはいないのだが……もしかしたら、一人弟子を取ってしまえば、それが二人三人と増えてももう彼女の中ではどうでもいいモノなのかもしれない。

 

「はぁ……本当におっそいわねぇ。これじゃあ今日も大事な休日が潰れちゃいそうね~」

 

「い、今に見てなさいよ……!!」

 

 ──なんか予想以上に楽しそうだし……。

 

 必死にノルマをこなそうとするお嬢様を楽しげにいびる性悪魔女と反骨精神を滾らせる悪役令嬢。

 

 なんとも呆気ない結果に、肩透かしを覚えながらも俺は安堵する。会話だけを聞けば不仲にしか聞こえないが、意外とこの二人の相性はいいようで、修行は順調だったりする。これで、普段の鍛錬はいつも通り宮廷魔術師から教わり、休息日にはダリアの工房を訪れて、世界屈指の魔女に鍛えてもらう。

 

 その他の隙間時間で、この工房で学んだことを復習・反復して全体の技術の練度を上げていく。そんな感じで、なんとも呆気なく、お嬢様は魔女の弟子になった。

 

「とりあえず、あと三年でアリサには魔術は勿論のこと、錬金術と祝祷礼装をある程度、使えるようになってもらうわよ」

 

「え、たった三年でそれは無理なんじゃ……」

 

「誰が口答えをしていいなんて言ったかしら? 私がやれと言ったらできるまでやるのよ。それにセナならこれぐらい余裕よ?」

 

「……いや、流石に無理っすね」

 

「わ、分かりました! 頑張ります!!」

 

「アリサ様も真に受けないでください……」

 

 意外と似た者同士と言うか、やはり波長が合うのか、まだ出会って数日程度だが妙に息があっているように思う。

 

 果たして、前世(ゲーム)では実現することのなかった二人の師弟関係が、どのような未来を齎すのか……。たぶん、この二人の事だから十中八九、ロクなことにならないのだろうけど、それと同時にとんでもないことになるわけで──

 

「この選択が吉と出るか、凶と出るか──」

 

 ちょっと楽しみだったりもする。

 

 

 

 ~第二章 閉幕~




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