乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
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私──ダリア・メイクラッドは平凡だ。
魔術の才能はないし、頭も良くはない、寧ろ覚えは悪い方だ。運動神経も別に良くはないし、なんなら家で本を読んでいる方が好きだ。それに人見知りで、人の輪に入るのが苦手な、どこにでもいる冴えない……そんな、少女だった。
そんな私には幼馴染の男の子がいた。
「またその本を読んでるのかよ──ダリア?」
「別に、私の勝手でしょ……」
「それはそうなんだが……本当に好きだよな、その「平凡な英雄」の話」
その子は私とは正反対な子で、魔術の天才で、頭脳明晰。運動神経も抜群で、誰とでも分け隔てなく直ぐに仲良くなれる、いつも人の輪の中心にいるような、人気者な男の子だった。
そんな全く正反対な私たちは特段、仲がいいわけではなかったけれど、よく一緒にいた。私と彼には一つの共通点があったからだ。
「楽しい読書の時間を邪魔して申し訳なく思うが、そろそろ行かないと叱られちまうぜ?」
「──わかってるわよ……」
その共通点と言うのが、同じ魔術師から師事を受ける同門というものであり、私と彼はその村で唯一の見習い魔術師だった。
まだ、魔術と言う存在が不鮮明で普及していない時代。そんな時代で魔力を知覚し、その感覚を操れると言うのは稀有な存在で、私や彼は故郷の人々から将来を期待されて、村外れの小高い丘に住む魔術師に弟子入りした。
この人がまぁ大変におかしな人で、常日頃から魔術の他にも変な知識を植え付けてくる人だった。
「□□□、ダリア。今日はお前たちに効率的な釣り糸の結び方を教えてやろう」
「「はぁ?」」
「いや、なに、最近釣りに凝っていてさ。すごく簡単で、しかも頑丈で解けにくい糸の結び方を開発したから二人にも共有したくて」
そんなこと教えてどうするんだと言うことから始まり、
「昨今の魔術とは才能至上主義だが、私はそんなことは無いと思うんだ。魔力とは本来、どんなに才能がなくても己の感覚を磨き続けることで洗練されていき、やがては膨大な力に肥大する。故に、時間をかければかけるほど洗練される、無限の可能性を秘めた術なんだ」
それでいて魔術の知識は確かで、
「□□□とダリア、お前たち二人は生まれや境遇、性格が全く真逆だが魔力に見初められ魔術に目覚めた同胞だ。そんな二人がこれからどんな過程を経て、魔術を磨き上げていくのかはお前たち次第だ。まだまだ未知な事ばかりだ、だから臆することなく、自由に色んな事に挑戦して見せなさい。どれだけ間違おうが、私の目が黒いうちはちゃんと二人を見て助けてあげるから」
その芯に秘めた思いは熱く、情熱的で、とても暖かかった。
そんな師匠だったからこそ、捻くれ者で悉く才能の無い私でも道を踏み外すことなく、魔術師として成長することができた。
「二人揃ってあの魔術大学に合格するとは……師匠として本当に鼻が高いよ! 二人はこんな落ちこぼれ魔術師の元で腐らすには勿体ない才能だったからね!!」
「そんなことねぇよ、師匠!」
「そ、そうです!私たちは師匠だったからここまで……!」
「本当に……全く、キミたち二人は私なんかには勿体ない弟子だ」
気が付けば、私と彼は当時では最新鋭の知識と設備が揃う、大陸一の学術機関──〈クレイジェス魔法大学〉へと合格するまでになり、それを機に慣れ親しんだ故郷を離れることになる。
瞬く間に魔術の才能を開花させていった彼はなんら不思議な事ではなかったが、至って平凡な私が大学の合格通知を見たときは「何かの間違いでは?」と何度も疑った。それぐらい、この学術機関に入ると言うのは、当時の魔術師にとって誉れであり、全魔術師の憧れのような存在でもあった。
そんな学術機関に属するようになってからも、私と彼の関係は変わることはなかった。
「なあ、ダリア。今度俺が発表する予定の「魔術と属性の関係性」っていう論文で、客観的意見が欲しいんだがいいか?」
「……その聞く相手、ほんとに私であってる?」
「……? あってるけど?」
大学に入っても私は日陰者で、いつも研究室に籠って一人。対する彼は社交的で常に大学の色んなコミュニティに参加して魔術の知識を深めていた。
「なあ、ダリア。お前最近、錬金術?っていうのを研究してるんだろ? ちょっと手伝って欲しいことがあってさ──」
「……いや、それ別に私じゃなくてもっと賢い人にお願いしたら?」
「……? お前も十分賢いだろ?」
なのに、何故か彼は平凡な私に意見を求め、力を貸してほしいと頼ってきた。
別にこれ自体はどうでもよかった。同郷だし、同門だ。それなりに情だってある。けど、どうにも天才の彼は平凡な私のことを過大評価しているようで、随分と無茶な頼みを毎回してくるのだ。
「よし、それじゃあちょっと錬金術で作って欲しいモノがあるんだが……その素材を手に入れるために、鉱山に行くぞ!」
「……は?」
やれ、採掘権が必要な他国の鉱山の鉱石を勝手に掘りつくして、面倒ごとを誘発してみたり、
「ちょっと大量に魔獣の素材が必要なんだが……手伝ってくれないか?」
「えぇ……」
本当にどうでもいいことから、「それ本当に私であってる?」ってことまで、彼は何かと私に意見を求めてきた。
正直、鬱陶しかったし、たまに何を言っているのか全く理解できなかったし、面倒ごとには巻き込んでくるし、本気で縁を切ってやろうかと思ったこともあったけれど、それでも私は彼を尊敬していた。
何せ、私と違って彼には明確な目標があったから。
「ダリア──俺はいつか、世界最高の魔術師になる。そして、俺たちの師匠が素晴らしい魔術師だったと証明する!」
私たちの師匠はおかしな知識ばかり蓄えた変人で、辺鄙な村に住む流れ者だったけれど魔術の才能は確かだった。
けれど、師匠自身は自分のことを「大したことは無い」と「私は落ちこぼれだ」と口癖のように卑下していた。きっと、彼はそのことが幼いながらに気に入らなくて、尊敬する師匠の唯一の間違いであると証明したくて、そんな目標を抱くようになったのだろう。
そんな彼に感化されたのか、それとも羨ましかったのか、私は何か頼まれれば協力することにしたのだ。
……けれど、そんな立派な目標を抱いていた彼はある日を境に変わってしまった。
「足りない……こんなんじゃ、いつまで経っても証明できない──!!」
魔術大学に在籍して数十年。日々の研究に没頭する中で、一つの訃報が私たちの元に届いた。
『魔術師グレイスフェルトが死去いたしました。つきましてはお弟子である□□□様、ダリア様にも──』
それは尊敬する師匠の訃報であり、私と彼は悲しい報せに呆然とした。
あれほど元気だった師匠が死んでしまった。争いなんてない辺鄙な村で静かに暮らし、魔力によって常人よりも肉体が強化されていた師匠でも、やはり着実に身体を蝕む老いには適わなかった。そんな当たり前のことに私と彼は驚き、愕然としてしまった。
「時間が必要だ……もっと多くの時間が……俺たちの師匠の凄さを証明するにはもっともっと……膨大な時間が──」
その報せが届いた日からだ──彼が何かに憑りつかれたかのようにとある研究に没頭するようになったのは。
「ダリア、聞きたいことがある──人の魂を錬成することはできるか?」
「何を言いだすかと思えば……そんなの無理に決まっているでしょう?」
「それじゃあ、人の魂を、生きる時間を抽出することはできると──思うか?」
彼がしていた研究は「命の拡張性」だった。つまり、永遠の命を手に入れようとする……それこそ当時のどの魔術師も少しは考えたことのある、夢物語の一種。そんな研究を彼は本気で実現させようとしていた。
「ッ──一体何を……最近おかしいわよ、□□□!?」
「足りないんだ……俺がのろのろとぬるま湯に漬かっていた所為で師匠が死んだ。師匠が生きているうちに証明したかったのに──それができなかったんだ」
「確かに師匠のことは悲しかった!けど、人として犯してはいけない領分がある!そんな間違いを犯すことを師匠が望んでいるはずが──」
「黙れ!! そんなことわかってんだよ! それでも──それでも俺は師匠に報いたかったんだ! 見ていて欲しかったんだ! アンタの弟子は世界を揺るがすほどの、最高の魔術師になれたんだぞって! そんな弟子の師匠だったんだぞって自慢してほしかったんだ!!」
後悔し、悲しみに暮れる彼の気持ちも分かる。けれど、そんなことをしてまで師匠が喜ぶのかと聞かれれば──それも違うような気がして、私と彼の意見は平行線だった。
そこから、彼は大学を去り、ただ一人で「命の拡張性」を研究する為に姿を消した。
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そこからさらに数年──
「──□□□がウルドの首都で目撃された!?」
「え、ええ……。なんでも、
とある小国の王宮にて、彼が活動していると言うのは本当に偶然だった。
なんでも、彼の魔術の実力を見初めたウルドの国王が彼を宮仕えの魔術師として召し上げたのだとか。そこで彼は国から支援を受けながら、研究を続けているらしかった。その話を聞いた私は気が付けば彼に会うために大学の研究室を飛び出した。
この数年で、彼が非倫理的な方法で、各地を転々として研究を続けていると言うのは風の噂程度に聞き及んでいた。その行いは、師匠が昔に言っていた「間違い」と言う奴であり、本当ならば、彼の過ちを指摘し正すのが同門である私の役目であった。だが、臆病で意気地なしの私はくだらない理由を並べ立てて、その時まで彼を止めることしなかった。
それでも、流石にもう見過ごせないところまで足を踏み入れていると知って、その時の私は漸く彼を止めるために動き出したのだ。
……けれど、それがもうとっくのとうに手遅れだったのは当然であろう。
数日かけて、彼がいると聞かされていたウルド辺境伯領へとたどり着けば──
「──何を、しているの……□□□?」
「あぁ、久しぶりだなぁ──ダリア」
そこは火の海に包まれていた。
ウルドが誇る自然と調和した首都は未曽有の大火災に包まれ、目の前では苦しむ市井の民たちの悲鳴や絶叫が鼓膜を震わせた。そして、首都を炎の海に陥れたのは一人の魔術師であり、間違えようもない彼なのは言うまでもない。
「ど、どうしてこんなことを──!!」
「どうしてもこうしても、偏に悲願である最高の魔術師になる為の第一歩の為だろう?」
数多の才があった彼は遂に悲願を達成するための準備をほとんど終わらせていた。
「人の命を拡張──永遠の命を手に入れるためにはその為の元がいる。無から有は生み出せない、当然の摂理だな? 魔術もそうだ、魔力があるから超上の
「なにを──」
「つまりだ、命とは膨大な力の塊であり、それを魔力で全て補うには無理がある……だから、同じ力を流用することにした」
そこまで言って、彼が何をしているのか私はようやく理解した。
その場にいるだけでも感じる魔力の奔流。そして、規模が多すぎて全容は掴めないが、首都全域に張り巡らされた魔術陣──
「まさか……!!」
「流石は
そして、初めて感じる禍々しくも、濃密で圧倒的な魔力を帯びた
「悪魔の力を借りることにした」
「なっ──遂に堕ちてはいけないところまで落ちたのね、□□□ッ!!」
彼は永遠の命を得るために悪魔──〈刻視界魔〉ミルニナーヴァと契約し、自身の内にある「時間」の概念によって寿命の経過を誤魔化し、研究を進めていたのだ。
「今更な話だなダリア──まぁいい。同門のよしみだ、今世紀最大の秘術の完成を見ていくといい。ウルド全域に存在する人間の命、約十万人分の命の光は見ものだぜ?」
「ッ──こんなこと、師匠が本当に望んでいると!? たくさんの人の命を犠牲にしてまでアナタが悲願を達成して、それで師匠が本当に喜んでくれると、本気で思っているの!!?」
「黙れ!! 天才のお前に何がわかる!? 俺にはこの方法でしか師匠に報えない! 凡才の俺が魔術を極めるには圧倒的に時間が足りないんだッ!!」
「なに、を──」
私は彼の言っていることがやはり理解できない。
果たして、彼がどうやって悪魔に接近し、どのような代償を支払うことでかの第四魔帝と契約を結んだのかは分からない。ただ、確かなことはもうすでに彼は人として、踏み外してはいけないところまで堕ちてしまったと言うことだ。
「嗚呼……もう少しだ。もう少しで準備が整います、師匠。だから、あとほんの少しだけ待っていてください。これが成功すれば俺は世界で初めて、永遠の命を手に入れた魔術師になれる──」
「誰が、そんなことさせるものですか──」
それもこれも、全ては自身の保身に走り、現実から目を逸らしていた私の落ち度だ。
もっと早く行動すれば止められるはずだった友を、私は──
「ッ……ご、ハッ──!!」
「ハァ……ハァ……ハァ──!!」
「はは……思えば、お前と本気でやり合ったのは初めてだったな──」
「……」
「師匠はそもそも魔術で人を傷つけることが好きじゃなかったし、模擬戦なんてのもほとんどしてこなかった」
「そうね……」
「でも、やらなくて正解だったな……。やっぱ、天才のお前にはどう頑張っても敵わないんだ──」
殺した。
「□□□──」
魔術を止めるために、多くの人の命を救うために、かつての友を切り捨てて、私は力の限りを振り絞った。
けど、少し時間が足りなかった。
『涙ぐましい同門の絆っていうのかしら? 素晴らしいモノね。これでこの男が女だったらもっと素晴らしかったのに──』
「お前は──」
気が付けば彼の身体から一体の悪魔が顕現し、私を見下ろす。
その姿はまるで人であり、新緑を靡かせる絶世の美女。そんな悪魔は私を前にして楽し気にほくそ笑んだ。
『ずっとあなたを見ていたわ。実際に見るともっと素敵──ますます欲しくなっちゃった』
「何を言って──」
『あんな愚かな下等生物でも使い道はあるものね……。ねぇ? 私と契約しない? そうすればあなたのどんな願いもかなえてあげるわ──私と一つになりましょう?』
そうして、悪魔の囁きと同時に、起動されていた魔術陣が周囲一帯を覆い尽くすほどの光と魔力を発して術を発動しようとする。
果たして、その術者を失った魔術の矛先はどこに向くのか?
魔術師である私は少し遅れて理解することになった。
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ふと、とある昔の教えを思い出す。
『魔術とは己の感覚を磨き続けることで洗練されていき、やがては膨大な力に肥大する。故に、時間をかければかけるほど洗練される、無限の可能性を秘めた術である』と。
確かにその通りだ。
師匠の言葉は正しかった。
何せ、平凡な私でも、人にとって永遠にも等しい時間を手に入れれば世界屈指の魔術師になれてしまうのだから。
「皮肉なモノね……」
思い出したくもない存在と相対したからだろうか?
私は随分と昔の出来事を夢に見た。そんな私の独り言を隣でゆったりと、しかし軽快な手つきで作業を進めていく弟子が尋ねてくる。
「何がですか、師匠?」
「いいえ、何でもないわ」
私は頭を振り、一つ息を吐いて作業を再開する。それを見て、愛するべき弟子は首を傾げながら心配をしてくれる。
「疲れてるようなら一度休憩でもしますか? なんならお茶の一つでも準備しますが──」
「……そうね、それじゃあ、もらおうかしら」
「分かりました。少々、お待ちください」
「ありがとうね、セナ」
流石は本職の執事と言ったところか、他人の表情や感情の変化を機敏に察して、そつがなく嬉しい提案をしてくれる。
──やはりセナは最高。もう絶対に手放すわけにはいかないわね……。
ちょっと本気で……と言うかもうずっと前から考えていることが、ちょっとした彼の言動で瞬間的に湧き上がってしまう。
彼は私にこんな甘言を囁いて何がしたいと言うのだろうか? もう本当に、彼が欲しいモノならば何でも捧げる所存だ。
──この工房も、全財産も、無駄に蓄えた知識も、魔術も、力も……この身でさえも、本当に全て。
「もう絶対に手放すものですか……」
大切なモノを見つけたのならば、絶対に遠くへ行ってしまわないように、万が一死んでしまわないように、眼を離さず、ずっとそばに置いておかなければいけない。
それが、この長く退屈で、虚脱感に満ちた時間の中で学んだ唯一のこと。その他の知識なんてオマケ程度でしかない。だって、別にそれがなくても、彼さえいてくれれば何も問題なんてないのだから。
「だから、別にたったの数十年なんて、どこぞの小娘にくれてあげるわ──」
最大の難関である素材の確保はできた。後は最終準備を進めて、近いうちに訪れる崩壊の時に備えるだけだ。
ちょっと不意打ち気味になってしまうけれど、彼のことだからきっと理解してくれるし、絶対に彼の役に立つ。それでも、先に不老になった身からすると、目的を達成した後の時間と言うのはなんとも味気なく、ともすれば虚無感に満ちている。
「でも、安心してね──セナ?」
けれど、今回に限ってはそんな心配をする必要はない。
何故かって?
「私が永遠に一緒にいてあげるから」
だから、心配しないで────私の最後の
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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