乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
もちろん、ストックなんて皆無です。一カ月もあって微塵もできてません。ヤバいです。
ちょっと今回は本当に毎日投稿が厳しそうなので、2~3日ペースの更新になります。
更新が途絶えたら……お察しください。
第63話 モブ執事は現実逃避する
気がつけば、前世の記憶を取り戻してからまた一つ季節が移り替わった。
ほんの少しばかりの残暑はありつつも、季節は木枯らし吹きつける秋である。
つい最近まで悪魔からお嬢様を助けたり、裏社会で闇オークションに参加して、何故か隠しボスの百合悪魔を成敗したりと、慌ただしい日々を送っていたが、それが嘘のように今の俺は平和な日々が続いていた。
──平穏とはなんと素晴らしいことだろうか。
その風邪をひきそうな
「あぁ!セナくん、危ない!!」
なんて平和ボケしていると、背後から随分と懐かしく感じるリーヴェル姉さんの悲鳴がした。
何事かと視線を声のした方へ向ければ──何故か数本のナイフやフォーク、食器類が宙を舞っていた。どうしてそうなった?
「おっと──」
突飛な眼前の光景に、しかしながら動じることもなく、ゆったりとした動作でそれらを受け止める。
どうしておっちょこちょいな彼女に食器の運搬を任せているのか、甚だ疑問であるが今に始まった話でもない。きっと彼女が率先して動いた結果であろう。寧ろ、日常に戻ってきた感慨深さが募り、更に俺の心は穏やかになるばかりだ。
「だ、大丈夫!?」
「俺はなんともないよ。リーヴェル姉さんは?」
「あ、うん。私はなんとも──」
「ならよかった」
リーヴェル姉さんはこの世の終わりみたいな顔で駆け寄ってくる。そんな彼女に俺はいつも通り笑顔で返す。
「気をつけてね」
つい最近の、物騒で血なまぐさい死線の数々を思えば、こんなのトラブルでも何でもない。そう、前世ではラスボスだった悪魔に腹を抉られ、眼玉を貫かれたり、かと思えば裏社会の中枢で闇組織を不可抗力で壊滅させてしまったことを考えればこんなの本当にどうってことないのだ。
それと同時に、もう人生で体験するには十分すぎる程の苦労をここ数カ月で十分に体験した。だから、しばらくはあれと同等の面倒事は勘弁であった。
そう思っていたはずなのに──
「セナ、仕事中に悪いんだが……ちょっと執務室まで来てくれないか?」
「──はい……」
そんな俺のささやかな願いは、不意に呼び止められた父ラーゼンの言葉で打ち砕かれる。なんとも困惑と申し訳なさを内在させた絶妙な表情をラーゼンは貼り付けていた。
──あぁ、これはあかんやつですわ……。
長年の経験、父の表情一つで俺は全てを察する。どうやら、これは面倒事の類であるらしいと。
その本能とも呼べる危機察知能力が作動したところで、一介の使用人に過ぎない俺にこれを回避する術は存在せず、大人しくこの呼び出しに従うしかない。
そして、その予感は見事に的中することになった。
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そこはかとなく嫌な予感を覚えながら、俺は父ラーゼンと一緒に執務室まで来た。
慣れた様子でラーゼンが重厚なツヤ加工が施された扉をノックすると、扉の奥から部屋の主が返事をする。
「入ってくれ」
「「失礼いたします」」
二人揃って挨拶をして部屋の中に入ればアロガンシア家当主──リベスタス様とそのご息女──アリサお嬢様が出迎えてくれた。
それを確認してラーゼンは部屋の中に一歩踏み込むと恭しくお辞儀をして見せる。
「お申し付け通り、セスナをお連れしました当主様、お嬢様」
「ありがとう、ラーゼン。お前は仕事に戻ってくれ」
「畏まりました」
かと思えば、一緒にここまで来たラーゼンはくるりと直ぐに退室して、俺だけが部屋に取り残される。
──ほぅ……。
その聊か奇妙な光景に俺の中で芽生えていた嫌な気配が更に高まった。
本来であれば、リベスタス様の側近であるラーゼンも残る場面だろうに今日に限って撤退。
──いったいなんの話だ?
全く呼び出された理由に見当がつかずに少しばかり表情が強張る。そして何よりも気になるのは──
「むぅ……」
当主様の直ぐ横で不機嫌そうに仏頂面を作っているお嬢様だ。
「……」
本来であれば、この時間は座学の時間であるはずの彼女までこの部屋にいる理由は何なのか。
まさか、この前の火遊びがバレたわけでもあるまいし、ともすれば何か別の問題を起こしたのか──結局、謎であるが、それも眼前のご当主様の口からすぐに分かることだ。
「忙しいところに呼び出して悪いな、セスナ」
「いえ、当主様のお呼びとあらば、すぐにでも馳せ参じます」
急な呼び出しを申し訳なさそうに思ったのか、眉根を顰めて謝罪するリベスタス様に俺は頭を振る。
依然としてお嬢様のご機嫌は斜めな様子で可愛らしく頬膨らませている。ちらと彼女の様子を覗いて見るとタイミングよく視線がかみ合う。
「……」
「ぁ……」
それに少しばかりお嬢様の表情のこわばりが和らいだ。その反応から、どうやら彼女の機嫌が悪いのは自分の所為ではないことを確認して、俺は再びリベスタス様に視線を戻す。
「──それでリベスタス様、私めにいったいどのような御用でしょうか?」
「うむ、実はだな──」
要件を尋ねれば、彼は隣の愛娘を一瞥して、気まずそうに咳払いをした。果たして、当主様から放たれた言葉は──
「アリサを今期のアーカルナム学園の中等部に入学させることになった。それに伴い、学園に一人だけ連れていける付き人として、セスナにも一緒に娘と学園に行って欲しいのだ」
全く斜め上のモノであり、そのいきなりすぎる話に俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「……は?」
同時に、俺の脳裏には巨大な疑問が浮かび上がる。
──どういうことだ?
一瞬、何かの聞き間違いかとも考えるが、確かに当主様はお嬢様を学園に入学させると言った。しかし、だとしてもやはり理解が追い付かない。
──いくら何でも早すぎる。
……いや確かに、今日まで俺は来るべき破滅ルートを回避するべく
確かに、色々なイレギュラーを通じて既に前世の原作から大きくズレていることなど重々承知していた。そもそもそんなことを気にしている余裕なんてなかった。
──だが、これはちょっと予想外だ。
まさか、アリサ・アロガンシアの学園入学が早まるなんて予想もできなかった。できるはずがなかった。
「あぁ……なるほど──」
それと同時に、俺はなぜお嬢様が不機嫌なのか察した。
今世のお嬢様は随分と他者と交友を拒み、裏社会でのお痛以降、まるで引き籠るかのようにお屋敷で生活をしていた。つまり、あの不満気な顔は学園に行きたくないから、せめてもの抵抗として表に出しているものなのだろう。
──随分と可愛らしい抵抗の仕方じゃないか。
ある種、以前のお嬢様では考えられない成長を垣間見て、俺は感慨に浸る。
とりあえず、俺としても学園行きと言うお達しには目を逸らしたところであった。