乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
王立アーカルナム学園は乙女ゲーム『ヘルデイズ~災厄の魔女の再臨~』の
ここで主人公ヒロインは様々なイケメン攻略対象たちと出会い、様々なトラブルに巻き込まれそれを解決して、世界を救ったり滅ぼしたりして攻略対象らと愛を育みハッピーエンドを目指していく。
そして、そんな学園には高等部と中等部があることを俺は勿論、設定として知ってはいた。
『あんたが首席で試験に合格した噂の平民ね!?』
それはチュートリアルであるシナリオの最序盤にて、中等部からエスカレーターで高等部に進学した女生徒と主人公が一悶着の末、成敗するという流れがあったからだ。
こいつがまた「The 噛ませ犬」キャラで、中途半端な爵位に周囲にはこれまた中途半端な取り巻きを侍らせて、見事に傲慢で権威主義者なお貴族令嬢なのだ。しかも戦闘チュートリアルの敵になるくらいなので、よくあんな大口を叩けたなと思うくらいに弱い。
そんな、ある種のお決まり、噛ませの模範的すぎるキャラの完成度からプレイヤーたちの間では「ポン子ちゃん」と呼ばれていた。
──懐かしいなぁ。
どうやらそんな彼女もいると思われる中等部に、お嬢様の入学が決まったらしい。
「それはまた……急な話ですね?」
だが、俺の感想としてはこの一言に尽きる。
確かに、アーカルナムの入学時期は正にこの秋頃であり、本来ならば貴族であるお嬢様にもちゃんと中等部への入学資格はある。だが、何度も言うが
それは何故か?
そんなの、
──いい傾向ではあるんだろうけども……。
そう思えば、今のお嬢様は何とかあの絶望的に終わっている我儘娘から更生を果たして、今はそれなりに謙虚で周囲に敬意を払える一般的お嬢様に絶賛成長中だ。ならば今の彼女ならば、問題なく学園でも生活できると考えても不思議ではない。
そしてどうやら、俺のこの考えはリベスタス様も同様であったらしい。
「確かに急ではあるんだが、ずっと考えてはいたことなんだ。最近のアリサは親の私でさえも目を疑うほどに貴族の淑女として成長している」
──まぁ、親の目を盗んで裏社会までストーカーするぐらいには逞しくはなったな。
「数カ月前までならばまだ学園への入学は見送り、高等部からだと思っていたが、今のアリサならばそんな心配をする必要もない。安心して送り出せる。そこにセスナも一緒について行ってくれればこれほど心強いことはない」
「なるほど──」
なるほど確かにごもっとも、アーカルナムの中等部と言えば、将来この国を担う、上位貴族や官僚候補たちの社交場的な側面もある。
公爵家として揺るがない地位を築き、王子と婚約しているとはいえ、お嬢様だけがこれに参加せず、乗り遅れるというのは体裁が悪い。全くもって、ご当主様の考えは真っ当だ。
だが──
「実におめでたいお話だとは思うのですが──」
「うん?」
「どうしてアリサ様はそんなにご不満そうなのでしょうか?」
当の学園に入学するはずの本人が凄く仏頂面なのはどういうことなのか。
……いや、学園に行きたくないからだと言うのは何となく雰囲気から察した。問題は不機嫌な理由ではなく、どうして学園に行きたくないのかだ。
「それは──」
「セナからもお父様に言ってちょうだい!私は学園に行く必要なんかないって」
「……はい?」
困った様子で視線を泳がせるリベリタス様に、ここぞとばかりにお嬢様は大きな声で自分の主張を始めた。その反応に俺は一向に話の行方が見えずに首を傾げるしかない。
「つまり、どういうことでしょう?」
当主の反応と娘の反応……いくら考えたところでわかりそうもないので、俺は素直に本人に聞いてみることにした。果たして、お嬢様の主張と言うのが──
「私は学園なんかに通いたくないのよ! 最近、ようやく師匠の修行にもついていけるようになってきて、できることが増えてきたわ! 試してみたいことややってみたいことが山積みなの! 学園に通い始めたらそんなことしてる暇が無くなるじゃないの!!」
「なるほど」
「なのにお父様は学園に行くのは決まったことだって言うし……それに寮生活!? 急すぎるわよ!! あと学園怖い! 今まで我がままばっかり言ってきて、社交界になんてめったに顔を出さなかったから知り合いなんていないし、絶対に私みたいな箱入り娘はいじめられちゃうわ!?」
「なるほど」
「あ、でもセナを拉……独り占めできるのは魅力的かも──」
うん。最初の二つに関しては前世では考えられないほど成長を感じられる、だいぶ自己中心的で自業自得な所はあるが、切実なお嬢様のお気持ちは確かに理解した。最後に関しては……聞かなかったことにしよう。
そうしてお嬢様の言い分を聞き届け、俺は再び彼女の父親の方に視線を戻した。
「お嬢様はこう申されていますが?」
「確かに急な話になったのは申し訳ないと思っているが、これも貴族としての務めなのだ……何とか機嫌を直してくれないかアリサ?」
うん。これもまあ理解できる。自業自得な部分はあれど、当主様も色々と悩んだ結果の判断なのだろう。彼の切実な思いに従者としては同情するしかない。
だが、それでもお嬢様は引かない。
「嫌よ!私みたいな家にずっと引き籠ってる藻女なんて、絶対に同い年の社交界でブイブイ言わせてる陽キャの標的にされていじめられるんだわ!? そうして毎日、寮の部屋に籠ってセナに思いっきり慰めてもらうの!! ……あれ? 意外とそんな生活も悪くないかも──」
過度な被害妄想を始めるお嬢様であるが、ただでは転ばない。なんか途中から別方向にトリップを始めて、自我を保ち始めた。
──てかこのお嬢様、本当にブレねぇな……。
どこまでも強かな彼女のメンタルに、その成長を喜ぶべきかどうか反応に困っていると、そんな愛娘の姿を前にしたお父さんが懇願するようにこちらを見た。
「私が何を言ってもずっとこの繰り返しなのだ……。セスナからも何か言ってくれないか? 一人の親として、流石に学園に通って、外の世界をしっかりと学んでほしいんだ。それがきっと未来のアリサの為にきっとなるから」
そこには一人の愛娘の親として、彼女の将来を憂う気苦労が垣間見えた。
そんなことを言われてしまうと、こちらとしても自分の主がこのまま変な道に進んでしまうのは本望ではない。それに確かに当主様の言う通りでもあるのだ。
だから、ここは一肌脱ぐことにした。
「アリサ様──」
「なによ? いくらセナが説得してもこればっかりはゆずれな──」
「一介の使用人が差し出がましいかとは思いますが……ずっと家に引きこもって学歴の無い主に仕えるのは恥ずかしいです」
「……」
「学園に行くか、行かないかはお嬢様の自由ではありますが、もしお嬢様がここで学園の中等部に行かない……延いては高等部にまでご進学されないとなると私もお嬢様の使用人を辞めるかどうか考えなければ──」
「行くわ! もうちょー行く! よく考えればやっぱりセナと二人きりなのはサイコーだし! セナが恥ずかしくないように、学園も一番の成績で卒業してやるんだからッ!!」
自分で言うのもなんだが、正に鶴の一声。手のひらくるっくるでお嬢様は学園に行くことをすんなりと決意した。
──それでいいのか、主さまよ。
なんとも不純すぎる動機に俺は勿論のこと、変わり果ててしまった娘の姿に横のお父さんは苦虫を噛み潰したように顔を歪めていた。
──心中、お察しします。
そんな当主様に俺は同情し、それと同時にあまりにもチョロすぎる主の言動に今後が心配になった。