乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第66話 モブ執事はメンケアする

 学園への出立日は見事な秋晴れに恵まれ、どこかに出かけるには絶好の日和であった。

 

「や、やっぱり私行くのやめる! ずっとこの屋敷でセナとイチャイチャしながら暮らすのよ!!?」

 

「お、お嬢様! 出発する際の際でそんなことを申さないでください!!」

 

「そうだぞアリサ! 最初は何かと不便かもしれないが、セスナも一緒に行くのだしなんの不満もないであろう!!」

 

 清々しく透き通る青空を見上げ深呼吸を一つ。

 

「すぅ……はぁ──」

 

 秋特有の暖かさの中に少しばかり肌寒さを滲ませる空気が肺を埋め尽くし、眼が冴えるような感覚を覚える。そんな清々しい気分を打ち砕くように脳裏には軽薄な声が響いた。

 

『それで、現実逃避は終わったかい、ご主人?』

 

「まあな……」

 

 眼前で繰り広げられる悲惨な光景にできることならば関わりたくない。だが、実際問題、いつまでも主が見苦しい姿を晒し続ける方がいただけない。

 

 だから、俺は目の前の光景に向き合うことにした。

 

「嫌ったら嫌よ! 私に学園生活なんて早すぎるのよ!!」

 

 そこには馬車に乗り込む間際で駄々を捏ね始めたお嬢様と、それを宥める執事長と彼女の父が困り果てていた。ついでに言えば、見送りに出てきた他の使用人たちも最後の最後でぶちかます彼女のわがままにどうしていいか呆然とした様子だ。

 

 ──最後の最後で盛大に駄々を捏ねて暴れていらっしゃる……。

 

 悠長に深呼吸をして、どうするべきか思案をしていると逼迫した父の声が急かしてくる。

 

「おいセナ、なに呆けているんだ! ぼうっと見てないでお前も手伝いなさい! これからお前がお嬢様を命を懸けてでも御守りしなければならないのだぞ!?」

 

「そ、そうだぞセスナ! 君からもアリサに言ってやってくれ! 恥ずかしい話だが、父である私よりも君からの言葉の方が効果覿面なのだ!!」

 

 梃子のように動かないお嬢様に二人の大人は舌を巻いていた。そこに普段の威厳なんて微塵も感じられない。

 

「……畏まりました」

 

 やはり放置と言う訳にもいかないし、時間も無限ではない。俺は恭しくお辞儀をして、依然として地面に寝転がるお嬢様に近づいた。

 

「ッ──こ、今回ばかりは愛しのセナの言葉とは言え私も聞かないからね! 今日の私は本気も本気の大本気(マジ)よ──って、へぇ……?」

 

「ちょっと失礼いたしますよ、アリサ様? ……あーあ、折角のお召し物をまだ出発してないのにこんなに汚してもう」

 

 なにやら徹底抗戦の構えを取る主様だが、俺はそれを気にも留めずに勢いよく彼女を抱きかかえた。そうして、くるりとお見送りの為に朝早くから来てくれた屋敷の皆様の方を向く。

 

「それでは、時間も押してますので挨拶は手短に──アリサお嬢様とその付き人に御指名いただきましたセスナ・ハウンドロッド、これよりアーカルナム学園の方に行ってまいります。次の帰宅予定は……まぁ、そのうち適当にと言うことで、それでは」

 

「「「……」」」

 

「へ? へぇ!?」

 

 状況を理解できていないお嬢様を無視して、俺は別れの挨拶を手短に済ませて馬車に乗り込む。

 

 今からお嬢様のご機嫌を取って、彼女の足で馬車に連れて行くのなんて、下手すれば昼を超えてしまうかもしれない。出発前からそんなハイカロリーなことをしてられないので、俺は強硬手段として主を抱きかかえ、そのまま馬車に放り込んだ。

 

「それじゃあ、お願いするよ──グリース叔父さん」

 

「おうよ!」

 

 屋敷の庭師兼今回の御者である叔父に出発の合図を出して、馬車が動き出す。

 

「気を付けてくださいねお嬢様~!」

 

「ご武運をお祈りしておりますぞ~!」

 

「セナくんも体調には気をつけてねぇ~!」

 

 窓越しからは、屋敷の人たちの声がして、少しばかりの寂しさを覚えた。

 

「え? あれ? 今のってもしかしなくてもお姫様だっこ……いや、それよりもいつの間に馬車に乗って……いやいやでも、確かにセナに抱きしめられてメチャクチャいい匂いとかしちゃったりして──」

 

 まぁ、当のお嬢様は放心状態で全く聞こえていない様子であるが。

 

 ──本当に大丈夫か俺の主様は……?

 

 出発の時点でこの大騒ぎならば、学園に着けばどうなることやら。最初から不安は尽きない。

 

 果たして、こうして俺と彼女は学園へと出立した。

 

 ・

 ・

 ・

 

 今回の目的地であるアーカルナム学園は王都の郊外──学園都市アルバスに存在する。距離にすると馬車に揺られて約一時間ほどで、それほど長旅をする距離でもない。

 

 だがしかし、それでも毎日馬車で通うにはちょっと無理のある距離なのは間違いなく、この学園に入学した者は漏れなく強制的に学園寮に入ることになる。

 

 学園を卒業するまでに必要な期間は長くて計五年。中等部が二年制で、高等部が三年制である。そして、これからお嬢様が通うことになる中等部は貴族だけが通うことのできる年次であった。これが所謂、中等部が貴族の社交場と言われる所以であった。

 

 貴族や平民など関係なく、将来有望な少年少女を集めて育成する目的で創設された学園であるが、そこは階級社会、色々と貴族と平民の間で格差は存在する。……と言うのも、才能があれば来るもの拒まずの学園であるが、やはりその背景には貴族たちからの多額の寄付によって学園の運営が成り立っている側面や、平民は所得の関係で息子・娘をただでさえ学費の高い学園に中等部から通わせるのが難しかったりと、色々な理由があったりする。

 

 そんな背景もあってか中等部は実質的に貴族の子供らが通うものになってしまっているのだ。

 

 ──はてさて、いったいどんなイベントが待ち受けていることやら……。

 

 ざっと、中等部の実情を思い返してみたが不安は募るばかりだ。何しろ、俺が知っている「学園」とは主にゲーム本編の高等部からであり、それ以前の中等部ではどんな登場キャラが居て、どのような行事(イベント)が発生するのか未知数なのだ。

 

 まだ本編前だから何も起きないだろ──なんて、楽観的な思考もできるはずがない。既に本編開始前に二件ほど大きなトラブルが発生して、その結果、二匹も悪魔を飼うことになってしまったのだ。もうこれ以上、変なモノが増えるのは勘弁である。

 

「さて、どうしたものか……」

 

『とりあえず、眼の前のお嬢様を何とかするのが先じゃないかな?』

 

「うーーーー、学園なんて私には無理よ……絶対に友達なんてできっこないわよ──」

 

 考えに耽るのもそこそこに、馬車に乗ってから一向に落ち着かない様子のお嬢様には流石の悪魔も目に余ったらしい。最初こそ、不意打ちの乗車方法に困惑していたがそれも長くは続かなかった。

 

 そして、誠に遺憾ではあるがディヴァーデンの言う通りなので、俺は主のメンケアに注力することにした。

 

「まだ何も始まっていないのに決めつけるのは駄目ですよアリサ様。貴方には卓越した魔術の実力と師匠から授けられた知識の数があるじゃありませんか。どんなことがあっても大抵のことは何とかできますよ」

 

「せ、セナぁ……ほ、本当に大丈夫かしらぁ? 態度が気に入らないとか言われてクラスメイトからハブられたりしないかしらぁ!?」

 

「大丈夫ですとも、私が保証しますよ。それでも不安とおっしゃるのならば、お嬢様にいいことを教えましょう」

 

「いいこと?」

 

 縋るようなお嬢様の声に俺は彼女を落ち着かせるように優しく微笑む。

 

 どうして前世(ゲーム)でアリサ・アロガンシアが学校の嫌われ者になってしまったのか。その理由は主に我儘で傲慢、自分勝手な性格が理由だが、その背景にはこう言った今の不安があったのかもしれない。

 

 不安だから、周囲を威嚇して自分の身を守る。それは彼女の本能から導き出された処世術の一種なのだろう。

 

 ──なまじ、魔術の実力は本物だしな。

 

 だがそれは悪手であり、間違いである。そして、どうしていいかわからない主に、従者である俺はこんな当たり前な助言をする。

 

「おそらく、学園に入ればアリサ様はいろんな人に出会うことになるでしょう。その中には貴方の家格や身分を利用するためにすり寄ってくる輩も出てきます。周囲に神輿を担がされ、思わぬトラブルに巻き込まれるかもしれません──」

 

「うぅ……」

 

「でも、アリサ様はそんな周囲に惑わされない強さがあります。そんなことに囚われない経験がすでにあります。だから自信を持って、自分が信じたものを胸に、正しいと思うことをしてください。困っている人がいたら手を差し伸べ、苦難であるほど自身を鼓舞してそれに挑み続けてください。そうすれば、自然と貴方の信頼できる人と言うのは集まるものです。どれだけ不安であろうとも気が付けばアリサ様を慕って付いてくる人がいます」

 

 きっと今の彼女ならば前世のような事にはならない。そう確信して、俺は主を鼓舞する。

 

「ほ、本当かしら……?」

 

「ええ。それに、何があろうとも私は貴方を一人にはしませんし、サポートする所存でございます──ですので、一緒に頑張ってみましょう?」

 

「ッ──! そうね……そうよね──ごめんなさいセナ。そしてありがとう、もう大丈夫よ」

 

 俺の言葉で眼前の少女は何を思ったのか、その全てはわからないがとりあえず立ち直らせるには十分であったらしい。先ほどまで血の気が引いていた顔に活力が戻り始める。

 

 それだけで重畳、俺は安堵の溜息を零した。

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