乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第7話 モブ執事はとある場所に赴く

 ゲーム『ヘルデイズ~災厄の魔女の再臨~』は乙女ゲーであるが、色々な要素を雑多に取り込んだキメラみたいなゲームだった。

 

 まぁ、昨今のゲームはいろんな要素を盛り込んでやり込み要素としているのが普通になってきているので、これは別に不思議でもないのだが……『ヘルデイズ』に関して言えば、ちょっとそれが度を越えていたように思える。よく言えばやり込める。悪く言えば何がしたいのかよく分からない。そう評されるくらいには賛否の分かれるゲームであった。

 

 公式が定義していたゲームのジャンルとしては「恋愛育成アクションRPG」であり、端的に言えば色んなイケメンキャラと恋愛して冒険をするゲーム。

 

 しかし、実際は前述したとおり色々と自由度の高いゲームであった。恋愛シミュレーション・アクションバトル・キャラ育成・使い魔・クラフト──まあここまではよくあるとして、本当に意味不明だと思ったのは作曲や占い、結婚詐欺などなど……いや、ほんとにこれなんのゲーム? と言ったものであった。

 

 そんな『ヘルデイズ』であるが、その雑多なやり込み要素と良くも悪くもピーキーなゲームシステムを加味しても人気のあるゲームであった。……と言うのもこのゲーム、ありきたりなシナリオながら、豪華声優陣のフルボイスCV起用によってキャラゲーとして一部のオタク界隈らからの支持が凄かったのだ。

 

 更に何が凄いって、最新AIボイス技術の導入により、ゲーム内で推し声優にあんなことやこんなことを喋らせられるというのが、このゲームの爆発的な人気の火付け役となった。そして、この異例でスペシャルなボイス要素はゲームのすべてのコンテンツをクリアしたユーザーにのみ解放されるという仕様だったのだ。

 

 まぁ当然といえば当然の措置である。いくら公式公認のサービスとは言え、人によっては価値のありすぎるボイスコンテンツを誰でも自由に体験できてしまえば特別感がない。

 

 そしてこのボイスコンテンツこそが男である俺がこのゲームをプレイする理由に深く関係してくる。

 

 ……いや、近年は性別や固定観念など関係なく自由に好きなモノを楽しめるようになってきたが、それでも俺が乙女ゲーを何の理由もなしにプレイすることはなかった。

 

 前世の俺には一人の姉がおり、これが生粋の声優オタクであった。そんな前世の俺の姉もこのボイス要素を堪能するために『ヘルデイズ』の完全クリアに挑戦したわけである。だが、結果は惨敗。と言うのも前世の姉は超が付くほどゲームが下手だったのだ。それに対して、休みの日は基本的に部屋に籠ってゲーム三昧であった生粋の引きこもりである前世の俺はその姉から『ヘルデイズ』の完全攻略を命じられ、渋々ながらこのゲームの完全クリアに勤しんでいた。

 

 なぜ渋々か?

 

 それは弟は姉と言う生き物に逆らえない、ヒエラルキーの弱者であるからだ。たった数年、自分よりも早く生まれただけでそいつはさも当然かのように自分の思うがままに弟を支配するのだ。まぁ、どこの兄弟でも起き得る、良くある話と言ってしまえばそれまでだ。

 

 前世の俺は小さい頃からこの姉に逆らえず、ことあるごとに体の良い小間使いとしてこき使われていたのである。それは大学生になっても変わらずで、寧ろ拍車をかけて酷くなって奴隷のように扱われていた。正に、今世の主人であるアリサ・アロガンシアのように。

 

「まぁ、今はその理不尽もこうして役に立っているわけだが……」

 

 逆に言えばその理不尽のせいで、新たな理不尽が生み出されているとも言えた。

 

 悪循環だね。

 

 詰まるところ、前述した内容が俺が乙女ゲームを──この世界を知っていたすべての理由である。

 

 そんな前世の知識を取り戻した俺は屋敷のある貴族区画を飛び出して商業区画へと来ていた。もちろん、先ほど課せられたお嬢様の無理難題を攻略するためだ。

 

 このロベルタス王国──王都レリニアム、その王都にあるアーカルナム学園こそがゲームの舞台である。ここから様々ないざこざや、敵役の策謀によってこの国は世界の災禍の中心地となり、それを主人公であるヒロインが攻略対象たちと協力して世界に平和を取り戻すと言うのが大体の筋書き。

 

 生まれも育ちも王都であるが、前世の知識を取り戻して改めてこの街を歩くと言うのはなんとも感慨深い。

 

 ──今思えば、度々あった既視感の正体はこの前世の所為だったんだな。

 

 折角、街まで降りてきたのだからゆっくりと、前世の知識と照らし合わせながら周辺を散策もしたかったが、今の俺のそんな呑気に時間を使えるほどの余裕はない。

 

「とりあえず、一つ目は今から検証できるしいいか……」

 

 街路を迷いなく進みながら、手元に視線を遣る。そこには真っ二つに折れたお嬢様の大事なガラスペンが転がっている。

 

 両親からの大事な贈り物であるガラスペンの修復。真っ二つに折れてしまったこのペンを完全に元の状態に復元することは、前世ならば不可能だろう。それは今世──『ヘルデイズ』の世界も概ね相違ない。

 

「魔術」と言う前世にはなかった超常現象を可能とする力が存在はするが、それも全能というわけではない。壊れたモノを元に戻すという魔術は存在しないわけでもないが、貴重で希少、そう簡単に誰もかれもが扱えるわけじゃない。だから俺は広義的な意味で「不可能」だと言った。

 

 けれどその「不可能」も、かなりの手間と面倒を掛ければ「可能」にすることができる。それが今回の宛であった。前述したとおり『ヘルデイズ』には様々なやり込み要素が存在すると言ったが、これから俺が向かおうとしているのはそのやり込み要素の一つであった。

 

 作中屈指の面倒くささと労力を要する──「錬金術」──所謂、クラフト系が『ヘルデイズ』にはゲームシステムとして存在するのだ。そのチュートリアルと実際の錬金術ができる施設が、今歩いている街区画の奥まった人の寄り付かない怪しげな場所に存在している。

 

 その名も「ダリアの錬金工房」だ。

 

「正直、ここには二度と来たくなかった……」

 

 前世の記憶を頼りに目指してみたが、案外あっさりと目的地の工房にたどり着いてしまって俺は顔を盛大に顰めた。

 

 前世の苦い記憶が蘇る。反射的に拒否反応を催すが、二人分の人の命がかかっていることを活力に変えて、俺は工房の戸を叩いた。

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