乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第68話 恋するお嬢様は初登校する

 王国立アーカルナム学園の規則の中に一つ、こんなものがある。

 

『学園生は入学の際に一名のみ従者の同行を許可する』

 

 これは、基本的に護衛やその国の要人である貴族向けに備えられた規則の一つであり、成長と自立をモットーとする学園の最大限の配慮と言えた。

 

 本来、学園内は国内でも一位、二位を誇る警備体制と安全が担保されているが、そこは異世界ファンタジー。そんな前評判あってないようなものだ。もうメチャクチャトラブルが起きるし、不審者なんて入りまくり、前世(ゲーム)で起きる殆どの面倒事がここから始まるしで、全然安全じゃない。

 

 それと多種多様な攻略キャラを登場させるための措置としても、この従者同伴は一役買っていた。つまり、都合の良い設定と言うことだ。そんな規則であるが、同行してきた従者は常に主の側に仕えて、学園内を行動できるわけではない。

 

 前述したとおり、この学園は生徒の成長と自立を重んじる。なので、学園では従者から主へのサポートは必要最低限──学園内での追従も控えるように言われる。細かく言えば、寮内でしか従者は主のお世話をしてはいけない。

 

 まぁ、ここら辺もゲーム特有の他の従者をNTRする為の体の良い設定だ。

 

 そんな決まりがあるから──

 

「ほ、本当に一緒に来てくれないの……?」

 

「こればかりは決まりですので──」

 

 勿論、例に漏れず俺もお嬢様の初登校に同行はできず、寮でお留守番となる。……いや、厳密に言えば主に接触しなければ意外と自由ではあるんだけれども──まぁ今はどうでもいい。

 

 無事に入学式を終えて、翌日。宛がわれた学園寮の一室にて、不安げなお嬢様を励ますべく、俺は苦笑しながらも優しく言葉を紡ぐ。

 

「アリサ様ならきっと大丈夫です。自信を持ってくださいませ。それと──」

 

「?」

 

「改めまして、入学おめでとうございます。その制服、とてもお似合いでございますよ、アリサ様」

 

 そうして、まだ見慣れない白と黒を基調とした学園の制服姿を褒めて、彼女の背中を押してやる。

 

「~~~ッ!行ってくるわね!!」

 

 顔を両手で覆って、数秒ほど唸ったお嬢様はこちらを見ると元気に部屋を後にする。

 

 どうやら、励ますのは上手く言ったらしい。

 

 ・

 ・

 ・

 

 果たして、少女──アリサ・アロガンシアはまだ納得しかねていた。

 

 突如決まったアーカルナム学園、その中等部への推薦入学。微塵も今年は学園に行く気などなかった彼女にはまさに寝耳に水な話であり、父リベリタスからこの話を聞かされた時は驚きを通り越して、何かの間違いではないかと疑ったほどだ。

 

 しかし、実際にそれはなんの間違いでもなく、アリサはとんとん拍子で学園への入学を果たしてしまった。全くもって気の進まない話である。

 

 いくら、大好きな従者(セナ)と二人きりでの新生活が待ち受けているとは言え、こんな魅力的な条件以上に気を重くする問題が彼女の中にはあった。

 

 それは……自分みたいな箱入りで、貴族同士の付き合いをとことん避けてきた小娘がちゃんとした学園生活を送れるのかと言うことだ。

 

「不安だわ……」

 

 思わず、深いため息を吐く。

 

 今朝、愛しの従者にお見送りされて、勢い任せに自室を飛び出したのは良かったが、あれよあれよという間に学園の校舎──これから二年間過ごすことになる教室の前へとたどり着いて激しく後悔していた。

 

 事前に確認していた組み分けでは、アリサの割り振られたクラス──「特進クラス」は今回の入学者の中で成績上位者や推薦入学生で構成されたクラスであった。クラスメイトのほとんどが超が付くほどの権力者階級らだと言うことだ。

 

 例に漏れず、アリサ自身もその権力階級者の娘であるのは間違いないのだが、当の本人は今までの我儘・好き放題な蛮行が足を引っ張って、そんな優位性を無に帰すほど他の貴族との接点が皆無であった。

 唯一の知り合いと言えば、王子殿下くらいであり、他にもパーティーに参加してくれた貴族や名家の子息・子女がいるが、ほぼ初対面ぐらい関係性なんてない。

 

 今まで、自分にとって居心地がいい場所にしか居なかった怠慢がここに来て祟っている。そして前述した通り、愛しの従者に恋焦がれ、憧れてしまったアリサには更生前のふてぶてしさは既になかった。寧ろ、本来の引っ込み思案な性格が戻り始めて、クラスに馴染めるか不安ですらあった。

 

 つまり、この数カ月で我儘令嬢アリサ・アロガンシアは超が付くほどの箱入り陰キャにジョブチェンジしてしまったと言うことだ。

 

 それを自覚しているが故に、アリサは現状を憂いていた。

 

 ──絶対に上手くコミュニケーションなんて取れない!!

 

 同年代との交流が著しく少ない彼女は同時に、同年代の少年少女に圧倒的な苦手意識を持っていた。

 

 できることならば今日はこのまま教室を後にして、愛しの従者が待っている寮に帰りたい。……と言うか、もうずっと寮の部屋に引きこもっていたい気分であった。だが、そんなことをしては彼に幻滅され、彼の隣に並び立つ人間になどなれるはずもない。

 

 それを理解していたアリサはそうして、長々と深呼吸を巡らせた後に覚悟を定めた。

 

「よし──」

 

 勢いに任せて教室の戸を開けば、そこには既に教室にいた複数の生徒が音に引かれて反射的に視線を向けてくる。

 

 それに若干、身体をビクつかせながらもアリサは表面上は平静を装って適当に空いていた最前列の席に腰を下ろす。

 

「……」

 

 やはり、心根はコミュ障の彼女から他の生徒に話しかけられるはずもなく、置物のように席に座って肩身を狭くすることしかできない。

 

 傍から見れば無言で、しかも彼女は気が付いていないがそれなりの仏頂面をひっさげた公爵令嬢が教室に入ってきたら先にいた生徒らは驚き、どうすればいいかわからなくなる。周りが楽し気に雑談してる中、彼女は一人無言で時が過ぎるのを待つ。

 

 居た堪れない気持ちで、ガリガリとメンタルを削られるのを感じながら、やはりこんなところ来るべきでなかったと後悔していると──

 

「隣の席、いいかい?」

 

「──え?」

 

 不意に誰かに話しかけられる。

 

 貴族界に微塵も知り合いがおらず、よくない噂が付いて回るアリサに臆せず声をかけた勇敢な生徒は限られるだろう。そもそも、アリサは声を掛けられるとは夢にも思わなかった。

 

 果たして、声のした方へと視線を向ければそこには彼女の唯一の知り合い──

 

「あ、ユーステス殿下……」

 

「久しぶりだね、アリサ」

 

 ユーステス・ロベルタスが立っていた。

 

 誕生日パーティー以来の彼は相変わらずの美貌と甘い雰囲気で、きっと少し前のアリサであればきょどりまくっていたことだろう。しかし、既に真の愛を知ってしまった彼女には以前のような初々しさは微塵もない。

 

「ええ、お久しぶりですね」

 

 寧ろ、まだ知っている人物との遭遇にアリサは安堵したほどだ。そうして、まったく殿下への恋心(笑)が無くなったアリサは世辞を交えながら絡んできた殿下に恭しくお辞儀をして笑顔を貼り付けた。

 

 傍から見るとその光景は婚約者然としており、とても仲睦まじく映る。

 

「元気にしていたかい?」

 

「はい。殿下におかれましてもお元気そうで何よりですわ」

 

 だが実情として、その中で繰り広げられる会話の内容はとても淡白なもの。

 

 ……いや、正確に言えばユーステスは親しみを込めて、それこそ気を許した相手にしか見せない柔らかな笑みまで浮かべてアリサに話しかけていた。だが、対するアリサは確かに笑顔をこそ貼り付けてはいるが、以前の緊張しているからこそのぎこちなさとは別の、何処か距離感を感じさせる。

 

 それを数多の社交界で身に着けた観察眼を持つユーステスは確かに見抜き、妙な違和感を覚えた。だが、その違和感を探る前に背後からまた新たな二つの人影が彼らに近づいた。

 

「おぉっと、こいつがあの噂のアロガンシアの御令嬢か!噂よりもなかなかの別嬪さんじゃねぇか!!」

 

「……おい、初対面の女性に流石に失礼すぎるだろう。ちょっとは頭を使って話せないのかキミは──申し訳ありません、アロガンシア嬢」

 

「え、えぇ……」

 

 一つは同じ年とは思えないほど体が大きく、なんとも豪胆そうな少年、もう一人は対照的に身体の線が細く、黒縁の眼鏡が知的さを印象付ける少年だ。

 

 不意に会話に混ざってきたこの二人の少年をアリサは存じ上げなかったが、ユーステスは面識があった。

 

「ゴードンとアルフィマか」

 

 この二人もユーステスに勝るとも劣らない美男子らなのだが、そんなことアリサは微塵も気にしなかった。

 

 寧ろ、誰かに話しかけられたことで先ほどまでの緊張と不安が払拭され、いつもの調子を取り戻してきたところだ。

 

 ──セナの足元にも及ばないわね。

 

 無意識に彼女は眼前のイケメン三人と愛しの従者を比べ、そう判断を下すが、他の生徒たちはそうではない。

 

 所謂、逆ハーレム状態。今回の中等部入学生の中でも異性からの注目度が最も高い三人が公爵令嬢に群がるその様は、他の女生徒にとっては面白くない光景に違いなかった。

 

 ──あ、なんか肉壁ができて落ち着いてきた。

 

 そうして、他の女生徒たちからのヘイトを買いながらも、アリサは何とか入学初日のスタートを切るのだった。

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