乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第69話 恋するお嬢様は現実逃避をする

 果たして、アリサ・アロガンシアは困っていた。

 

 学園に入学してから早一週間。表面上は順調な滑り出しで始まった学園生活だった。

 

 授業のレベルは流石は周辺国一だけあってそれなりに難しい──だが、アリサからしてみるとかなり物足りない。刺激が圧倒的に足りてはいなかった。

 

 まだ実践的な魔術の授業が始まっていないと言うのもあるが、世界最強の魔女の弟子の下で学んだ数々の知識や技術と比べると数段見劣りし、霞んでしまう。

 

「こんなに差があるものなのね……師匠って、()()()()だけれど実は凄かったんだわ──」

 

 まぁまだ中等部の内容だ。ここから段階的にレベルが更に上がっていくと考えれば妥当な所だろう。それに──

 

「けれど基礎が一番大事だものね」

 

 以前のアリサは目先の難しい技術や知識ばかりを求め、小難しいことができるようになるたびに達成感を感じて満足していた。だがそれではいけないのだとこの数カ月で痛いほど思い知らされた。

 

 良い例が(セナ)師匠(ダリア)だ。そもそもあの二人は規格外(バケモノ)だと言うことは大前提で、それでも自分なんて到底足元にも及ばないとアリサは分かりきっている。

 

 誰が魔力効率を無視した身体強化で魔術を殴り飛ばしたり、短文詠唱で殲滅級魔術を多重展開できると言うのか。本当に、あの二人を見ているとアリサは時々、自分の常識が否定されているような気分になってくる。

 

 だが、どれだけ隔絶した実力差があるとはいえ、あの二人がやっていることはとんでもなく難しいことではない。寧ろ、研鑽を積めば誰でも再現可能な技術──つまりは基礎を突き詰めた集大成なのだ。

 

 ──まぁ、そこまでに昇華するのが大変なのだけど……。

 

 それでも諦めずに研鑽を積み続ければ自分も彼らに近づける。アリサはそう確信しているし、だからこそ基礎は大事だと言うことも重々承知していた。

 

 そういった意味では、中等部の授業内容は大事な基礎の復習ができる良い機会だとも言えた。だから、物足りないだの、授業の内容が簡単すぎるだのと怠慢な態度を取れるほど彼女は偉くはないし、調子になど乗っていられない。

 

 彼女が目指す先はその何倍、何十倍、何千倍も上の領域なのだ。そう、改めて言わせてもらえば、学業面だけで言えばアリサはなんら不満なんて抱いていなかった。

 

 問題なのは、ここに来る時からずっと不安に思っていた人間関係だ。

 

「おはよう、アリサ。今日も熱心に魔術の勉強かい?」

 

「え、あぁ、殿下、おはようございます──まぁ……はい、そうですね」

 

 まず問題一つ目。

 

 学園に入学してから、異様に婚約者(一応)のユーステス殿下が絡んでくるのだ。

 

「わぁ、また難しそうな本を読んでるねぇ……。アリサは昔から魔術の腕はすごかったけれど、ここ最近は更に技術面も知識面も凄いレベルが高くなっているよね?」

 

「え、ええ。新しい魔術師に師事を仰ぐようになって、そこから確かに魔術の知識は深まりましたね……」

 

「新しい師匠? それはぜひ会ってみたいなぁ──今度、紹介してもらっても?」

 

「ど、どうでしょう? その方は随分と恥ずかしがり屋で……か、確認してみますね?」

 

「うん、お願いするよ!」

 

 もうなんか距離が近い。当然かのようにがらんと空いている隣の席に座ってくるし、言葉に内包された熱量(?)的なモノが凄かった。以前よりもコミュニケーションのモチベーションと言うのだろうか──が高いような気がするのだ。

 

 ──あと、本来なら(そこ)はセナの特等席だから。

 

 このがっつき具合にアリサは困惑さえ覚えていた。

 

 確かに、彼と彼女は婚約をしており、未来を誓い合った間柄ではあるがそれは正直に言えば大人が勝手に決めた約束事だ。その実、既にアリサにはユーステスに対する気持ちはもう微塵もなく、ともすれば以前、彼に抱いてたソレが恋心だったのかも疑問視していた。

 

 それにアリサとしては一刻も早くユーステスとの婚約を何とか無かったことにして、自分が望む未来を手に入れるための下準備に取り掛かりたいとさえ思っていた。その為に一番手っ取り早いのが彼に処刑されない程度に嫌われて、彼の方から婚約破棄されることだろうとも考えていた。

 

 そして、前回の誕生日パーティーで殿下に不敬を働いたアリサはてっきり彼に嫌われているものとばかり思っていた。

 

 ──気が動転していたとはいえ、かなり酷いことを言った自覚はあるし……。

 

 その実、パーティー以降は逢瀬などもなく、確実に愛想を尽かされたと思っていた。だと言うのに久しぶりに再会してみればこの反応だ。これは一体、どういうことだろうと思うのも不思議ではなかった。

 

「ふふ、デートの約束みたいだね?」

 

「あ、あはは……そ、そうですわねぇ──」

 

 彼はあの時のことなどすっかり気にしておらず、寧ろ親し気に話しかけてくるではないか。

 

 ──何でよ?

 

 そして、更に彼女を困惑させたのは、何故か絡んでくる殿方が王子殿下だけではないと言うこと。

 

「おいおい、流石に婚約者とは言え抜け駆けは見過ごせねぇなぁ? そのデートとやら、もちろん俺も同行させてもらうぜ。なぁ、いいよなぁ──アリサ?」

 

 荒々しく、獰猛な雰囲気の中に気品を滲ませるバーバリル伯爵家の嫡男──ゴードン・バーバリルに、

 

「な! そ、それなら僕だってアロガンシア嬢の師匠様とやらは賢者の卵として気になるぞ! 僕もついて行っていいかな!?」

 

 静かで、けれど芯の強さと知的な雰囲気がなんとも女受けしそうな未来の賢者と名高い魔術師の名家ウィザルデンの子息──アルフィマ・ウィザルデン、

 

「は、はは……」

 

 何故か、今年の新入生の中でも殿下と合わせて注目度の高い美男子二人がアリサに異常なほどの興味を抱いていると言うことだ。

 

 ──……いや、本当になんで?

 

 どうして同年代の注目の的、異性としても大変魅力で大人気な彼らがアリサの周りに集まっているのか……これが本当にわからない。

 

 アリサとしては別に彼ら三人に対して何か特別なことをした記憶はなかった。それどころか、どうしてこんな、まるで気になる女子に群がるような状況になっているのか本当に謎であった。

 

 だって、この一週間でアリサが彼らにしたことと言えば、なんか異様に絡んでくる彼らを適当にあしらって、授業が終われば即座に帰宅し愛しの従者に甘えていただけだ。

 

 ──なにそれ、最高過ぎない?

 

 しかも何が酷いって、そんな全女子生徒の人気トップスリーをまるで自分が独占しているような勘違いを生んでしまっていることだ。

 

 ……いや、確かに、事実だけを並べ立てるのならばなんら間違ってはいないのだが、別にこれはアリサ自身が望んだ状況な訳ではない。それに前述した通り、彼女は放課後は彼らのお誘いをバッサリ断って帰宅しているのだ。本当にこれは根も葉もない誤解であった。

 

 だがこの状況の所為で、アリサは未だに同年代の親しい同性の友人が作れずにいた。と言うか、まるで親の仇のように妬まれて、勇気を出してクラスメイトに話しかけても邪険に扱われ、友人を作るどころの話ではなかった。

 

 ──あの時は流石に凹んだわね……。

 

 まだ新しい心の傷を思い出してダメージを負う。

 

 幸い、周囲に群がる野郎どもと彼女の身分のお陰もあって実害は今のところ被ってはいないが、普通に女子のコミュニティーからは完全に迫害されているので、死んだも同然のようなものだった。

 

「もうやだ……」

 

 想像と違い過ぎる学園生活の展開に、アリサはこれまた想像とは違う意味で絶望していた。

 

 早くお部屋に帰って愛しの従者に癒してもらいたい。頭をなでなでしてもらって、あの逞しい太ももで膝枕をしてもらうのだ。

 

「ふひ……」

 

「あ、アリサ? 聞いてるかな?」

 

 彼女の頭の中はそのことばかりで、周囲で一生懸命に気を引こうとしてくる有象無象になんて微塵も心は揺るがなかった。

 

 ・

 ・

 ・

 

 一方そのころ、どっかの愛しの執事と言えば──

 

「なぁセスナ! 今日はどこの区画の屋台を回る!?」

 

「いや、行かねえよ。てか仕事あるからどっか行け──」

 

 何故か、どっかの腹ペコ騎士にダルがらみされていた。

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