乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
アーカルナムに来てから早一週間。
正直に言って、学園生活は至って平和であり、逆に言えば平和過ぎて暇であった。ともすれば、屋敷にいた頃と比べるとやることがなさすぎでもあった。
「平和すぎるなぁ……」
『なんか今までの慌ただしい感じに慣れ切ってしまって、逆に落ち着かないねご主人?』
何せ、昼から夕方にかけてお嬢様は学園なわけでその間、俺は彼女の側に付き従う訳でもなく、寮の一室で主の帰りを待つだけになる。
敢えて、お嬢様が帰ってくるまでに俺に与えられている仕事と言えば、日々の生活で出る掃除洗濯の雑務くらいであり、これが終わってしまえば本当にあとは自由なのである。たかが部屋一つの掃除とお嬢様の衣服類の洗濯なんて半日を掛けずとも終わってしまう。
──そりゃあ、ヒロインも簡単に他所の従者を口説けちまうわけだ。
『ご主人も今後、他の生徒に口説かれたりしてね』
これだけ暇で、娯楽が少ないとなるといくら主に仕える使用人とは言え、学園の生徒と恋に現を抜かしてしまうだろう。
その実、俺と同じように従者として同行してきた使用人同士や学園の生徒とそういう恋仲になっている輩は既に存在するらしい。おいおい、学園の風紀が乱れてるじゃないですかヤダー。
『今日も授業をサボって部屋に女生徒を連れ込んでいる男がいたねぇ』
その点、俺は至って健全。やることと言えば、異様に元気な悪魔の言葉に相槌を打ったり打たなかったり。……あれ?それってある意味、不健全では?
『おいおい、誰が人を支配して世界征服をしようとする悪魔みたいだって?』
「いや、「みたい」じゃなくて、正にそのものだろうが」
『心外だなぁ』
そもそも、俺としては恋に現を抜かしている暇なんてないし、なんだかんだやることが山積みなのである。
『いやぁ~それにしても、今日もあっという間に仕事が片付いちゃったねぇ。これからどうするの?』
例えば、依然として呑気に軽薄な声を響かせる悪魔関係の事であったり、最近増えた面倒事で言えば──
「なぁなぁセスナよー、今日はもう暇なんだろ?だったらさぁ、一緒に屋台巡りしようぜぇ?」
何故か、
なぜ、殿下とお嬢様の逢瀬の時に一回だけしか会ったことのない彼が学園に来て、こんなに馴れ馴れしく俺の元に来るようになったのか──これが本当にわからない。
──なんでこいつはこのノリで来れるんだ?
『頭空っぽなんじゃないのぉ?』
そして、破滅の可能性を秘めているメイン攻略キャラとのコミュニケーションは極力避けたい俺としては、彼を適当にあしらってどっか追い払いたいとこなのだが──
「だから行かないって言ってんだろ。俺じゃなくて他のヤツ誘えよ……お前みたいなイケメンなら女なんて選り取り見取りだろうが──」
「んな冷たいこと言うなよぉ~。ここでは殿下の側にいる時間も制限されるし、暇なんだよぉ。マジで護衛の存在意義とは?って感じでさぁ。セスナもそう思わね? てかさ、女と遊ぶのも楽しいけどやっぱ気ぃ遣うっていうかさぁ? やっぱ野郎同士で気軽に遊びたいじゃん! でも、俺も殿下の護衛騎士だったりで色々と周囲に気を遣われて、同年代の仲いいやつとかいねぇんだよ!!」
「知らねぇよ……」
なんだその陽キャ特有の悩みと言うか理由。てかこいつ、今普通に女なんて選り取り見取りみたいな発言したよな?
──流石は乙女ゲーのメイン攻略対象。いちいち発言が鼻について気に食わないぜ。
『たぶんそれ、ご主人にも当てはまるよ?』
全く見当違いなディヴァーデンの発言を無視したのと、護衛騎士が言葉を続けたのは同時だった。
「その点! セスナは俺の肩書とか全く気にせず、雑に絡んでくれるじゃん! 年も近いしさぁ! 前にトラブった時も助けてくれたし、結構俺、お前のこと気に入ってんだよ。だからさぁ! 一緒に遊ぼうぜぇ? ダチになってくれよぉ!!」
そして何故かこの騎士、全然へこたれない。こちらとしては護衛騎士に対してかなり失礼なくらいには適当にあしらっているのに、逆にそれがこの騎士の好感度を上げてしまっているらしい。
──厄介すぎんだろ……。
これまでの行動が全て真逆だと暗に教えられた俺は即座に奴への対応を変更する。
「つまり、他人行儀に接すれば消えてくれるってことですか? それじゃあ、本当に迷惑なので消えてもらってもいいですかね? 私にもまだやることがありますので──」
改めて、奴が嫌だと言っていた他人行儀な態度で接してみる。これでこの変人も観念して欲しいと期待するが──
「ははっ! すげぇ、流石はアロガンシアの猟犬! 変わり身の早さも一流だなぁ! よし分かった。それじゃあ屋台巡りは諦めるから、今日はセナのやりたいことに付き合ってやるよ!!」
やはりこのアホ騎士、全然話が通じない。
「……おい、話と違うじゃねぇか」
「んな事いいからさぁ! ほらほら、今日はどこ行くんだよ相棒!!」
「──相棒はやめてくれ、アホ騎士……」
今日はどうにも諦める気のないらしい、職務怠慢騎士に俺は飽きれながら、もう諦めることにした。
『ご主人は押しに弱いねぇ~』
そして、相も変わらず従者の何たるかを全くもって理解してないこのアホに勝手ながら教育を施すことにした。
……仮にも、未来は国王を警護する騎士がこんなちゃらんぽらんだと色々と不安過ぎる。それにこいつがそんな適当な性格な所為で今後変なトラブルを呼び込まれても勘弁であった。
「よし、それじゃあ行くぞ」
「お、やっとその気になったか!」
「あぁ、不承不承ながら、今からお前に「従者」の何たるかを教えてやる」
「……へ?」
そうだから俺は別に押しが弱い、ヘタレ属性なんて持ち合わせてなんかいない。いないったらいない。
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……と言うことで、やってきたのは学園学舎内である。
ちなみに生徒の付き人である従者は許可があれば学舎への出入りは自由、ついでに言えばそれに付随する施設も使えたりする。
「なぁ相棒、こんな時間に学舎に来て何するんだ? まだ学食はやってないし、殿下たちも授業中で、別に会い行けるわけじゃないし──」
「お前の頭には食うことしかないのかよ……──」
とことんブレないアホ騎士の食い意地には呆れを通り越して恐怖すら覚える。
「あと、別に授業中だからって会いに行けないわけじゃないさ」
基本的に生徒の自立と成長を促すために、付き人の過度なサポートは厳禁とされている学園であるが、だからと言って完全に不干渉を貫かなければならないわけでもない。寮の自室であれば普段通りにお世話をするしな。
「……?」
全く俺の言葉の意味を理解してない騎士には本当に呆れざるを得ない。
補足するように、俺はがらんと人気のない学舎の中を歩きながら言葉を続けた。
「やっぱお前には従者としての心構えがなってないな。学園内での過度なサポートは厳禁と言っても、だからって日がな一日、主の側に居なくていいって意味じゃない」
「ほう」
つまり、過度な接触やサポートをしなければ主の様子を傍から見守ることは許されると言うことだ。
「俺たち従者は何のためにこの学園に来た? 遊ぶためか? 友達を作る為か?」
「──主が安全に学園生活を送れるようにする……ため?」
「正解だが、そこは自信を持って言い切ってほしい所だな……」
自信なさげに答える騎士に、本当にこいつが騎士なのか疑いたくなってくる。
「つまりだ、俺ら従者が過度な接触が難しいとされるこの昼間の時間帯にもできることはある」
「それは?」
首を傾げるアホ騎士に俺は懇切丁寧に教示する。
「それは──陰ながら主の様子を見守り、万が一の時に備えて付かず離れずの距離で待機していることだ。護衛騎士のお前ならそれぐらい心得ていると思っていたんだが……?」
いくら主に昼間の間は自由行動だと言われても、それを鵜呑みにして遊び呆ける訳にもいかない。寧ろ、主が個別行動をとる時ほど従者の能力が求められるとこだ。
仮に主を一人にして放ったらかしにして、もしその間に主が何かしらのトラブルに巻き込まれれば、その責任は従者が負わなければならない。暗に、俺たち従者は主を監視する立場でもあるのだ。
だからこそ、自由行動は自由ではなく、主を陰ながら見守る時間なのだ。決して女に現を抜かしたり、怠惰を貪り、同じ従者を謎の食い倒れツアーに誘う時間などではないのだ。
「殿下が昼間は好きにしてていいって言ってたからそうしてたけど──従者ってのは大変なんだなぁ~」
「はぁ……これで殿下の身に何かあったらどうするつもりなんだよ……」
どこまでも呑気で平和ボケをしている騎士にはもう何も期待しない方がいいのかもしれない。
ちなみに、この騎士がおかしいだけでほとんどの従者が俺と同じように学舎に入り浸り、自身の主の様子を逐一見張っている。だから、これは俺が敏感という訳ではなく。幼い頃から主に仕えてきた者ならば普通の思考であった。
「今日の午前最後の授業は魔術実技で外の訓練場で行われる。教室内での授業を見張るのは流石に難しいが、死角の多い外なら身を隠しやすいし、バレずに護衛もできる」
「……もしかしなくても、お嬢様のスケジュールを全部把握してんの?」
「従者ならそれくらい当然だろ……」
当然のことを聞いてくるアホに、こいつがどうして王子殿下の護衛騎士に任命されたのか本気でわからなくなってくる。そういや、そこら辺の経緯は
そうして、そんなやり取りをしているうちに目的の訓練場にたどり着く。
「よし、それじゃあ、適当に隠密しながらアリサ様たちの授業を見学するぞ」
「お、おう……」
それもちょうど授業が始まったばかりであるらしい。