乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第73話 モブ執事は確率の壁に挑む

 どうやら最近、お嬢様に友人ができたと言うのは彼女の口から実際に聞かされたことだった。

 

「中庭でアマリリスのアホ令嬢に虐められているところを、私が颯爽と助けてあげたのよ!!」

 

「立派でございます、アリサ様」

 

「~~~!! もっと褒めて!!」

 

 いつも、学園での授業が終わり寮の部屋へと帰ってくる彼女は疲れており、どこか悲しそうだったのを従者である俺は確かに感じ取っていた。

 

 そうして、部屋に戻ってきて開口一番には「もう学園に行きたくない!」と上手くいかない学園生活に癇癪を起こして、よく甘えてきたものだが、その日の彼女はとても嬉しそうだったのをよく覚えている。

 

 この一カ月、お嬢様は学園に来て、急に一変した周囲の環境に随分と苦戦している様子だった。その一カ月の苦悩をもちろん、俺は事細かに聞かされていたわけだが──これがまぁ本当に酷い。

 

 実際に、影からこの目で見たことでもあるが前世(ゲーム)に存在しなかった中等部は予想外な展開ばかりだ。

 

 ──まさか、お嬢様がメイン攻略対象の三人に熱烈なアピールをされるなんて誰が予想できるって言うんだ。

 

 またもや大きく変わりつつある展開に、一抹の不安を覚えながらも今ばかりは主の初めてできた友人に喜ぶ。

 

 ──てか、しれっとアマリリス嬢……ポン子ちゃんと一悶着あったみたいだし、この頃からあの御令嬢は所かまわずいろんな人に噛みついてたんだなぁ。

 

 明確なサポートが厳禁とは言え、それまでのお嬢様は本当に可哀想で我慢の限界でもあった。それを自分の力で跳ね退けたとあれば感動は一入であった。

 

「それでね、それでね! 今度、テルペトルに一緒に遊びましょうって誘われたの! ねぇ、行ってもいいでしょう、セナ!?」

 

「ええ、もちろんでございます」

 

 何より喜ばしいのはお嬢様と助けた少女──テルペトル・グラウザー男爵令嬢が驚くほどに意気投合し、仲良くなったことだ。

 

 本来であれば身分の差がありすぎる二人であるが、それを感じさせぬほどの雰囲気はお嬢様の口ぶりからもよくわかる。

 

「本当に良かった──」

 

 少し前のお嬢様ならば考えられない成長ぶりに、思わず涙がちょちょぎれそうになったのは内緒である。

 

 ・

 ・

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 そんなこんなで、友人もできて学園の生活にも漸く慣れてきた頃。

 

 ちょうど三日ほど学園の休みがあると言うことで、俺とお嬢様は王都の屋敷に帰宅していた。そうしてそのまま、随分と期間が開いてしまったが、お嬢様は久方ぶりにダリアの工房で魔術の修行に励んでいた。

 

「よろしくお願いします、師匠!!」

 

「久しぶりだからか、なんだかやけにやる気ね……」

 

「今の私はやる気に満ち溢れています! さぁ、今日の課題は何ですか!?」

 

 そのやる気に満ちた若々しい力強さに年増のオバ──お姉さんは少しばかり気圧されたご様子だ。だが、そこは幾多の修羅場を乗り越えてきた魔女、すぐさま思考を切り替え、寧ろ「その意気や良し」と師匠はお嬢様にこれまた膨大な錬金素材を渡した。

 

「それじゃあ遠慮なく──今日は魔鉱石の加工をやって貰おうかしらね。量はだいたい100キロほどだから……まぁ、頑張れば今日中には終わるわね」

 

「──え?」

 

 ──容赦ねえな……。

 

 明らかに今のお嬢様ではキャパオーバーな課題の提示に呆れながらも、俺はそれを放置する。

 

「それじゃあ俺は別の部屋で作業してますんで──頑張ってくださいね、師匠、お嬢様」

 

 そもそも、お嬢様が言いだしたことだし、俺には俺で今日は師匠の手伝いとは別にやりたいことがあった。

 

 変な巻き添えを貰う前に隣の部屋へと移動して、俺は一つ深呼吸をする。

 

「さて……やりますか──」

 

 作業台の上には加工済みの鉱石やら水銀、魔獣の毛皮に──一枚の純白の布切れ。

 

 一見、何の変哲もないそれはしかし、この世界では一応数枚しか存在しないことになっている希少アイテム──〈聖女の頭巾(ウィンプル)〉の断片であり、前世(ゲーム)でも何かとお世話になったアイテムであった。

 

 裏社会の大オークション〈大博覧会〉で見かけて、落札してもらったはいいものの、お嬢様の弟子入りや学園入学が重なって、ずっとこのアイテムに手を付けられてなかった。本当はもう少し早く、このアイテムを使って錬成したいものがあったのだが──このアイテムを使うには他にも錬金素材を色々と揃える必要があった。

 

 ──ほんとーに師匠には頭が上がらないな。

 

 しかも、その必要な素材の用意を師匠に丸投げして、現在に至るのだから本当におんぶにだっこ過ぎる。

 

 もう彼女の協力なくしては、俺は生きていけないかもしれない。今度、何か盛大なお礼をしなければ罪悪感で死にたくなってくる。依然として、熱のこもる指導が部屋の外からするのを聞いて、俺は心の中で感謝する。

 

『こりゃあもうひっこめないな……』

 

 不意に、脳裏に軽薄な声がしたが無視する。ちょっと集中したいからお口にチャックしましょうねー。

 

 ……いや、冗談抜きで今から始める作業はかなりの集中力を求められるのだ。何せ、この錬金が成功する確率は、前世(ゲーム)では死ぬほど低くて何度も発狂させられたほどなのだから。

 

 しかも、その低確率をすり抜けて錬成に成功しても、前世では使い方がピーキー過ぎて、作ったところで宝の持ち腐れ、ただのアイテム収集の一つでしかない。そのアイテムの名は──〈聖覇の籠手〉という拳武器だ。

 

 アイテム〈聖女の頭巾の破片〉は元々、ゲームの本編シナリオの終盤で必ず手に入れられるアイテムであり、シナリオクリア後ならば最終ダンジョンの敵Mobから低確率ではあるがドロップするアイテムとなっている。

 

 本編シナリオの終盤で手に入る意図としては、主人公ヒロインが災厄の魔女から世界を救う聖女として認められて、闇落ちしたアリサを打倒する為に「伝説の防具を作ろう」みたいな流れになるからで、その伝説の防具(笑)の作成素材にこの頭巾の破片が欠かせないのだ。まあ、「聖女の〜」と付いてるくらいだからお察しである。

 

 そんなアイテム〈聖女の頭巾の欠片〉は前述した通り、色んな使い道があった。

 

 例えば、ゲーム内の最強武器である神滅剣の作成時に、このアイテムが数百個単位で必要だったり、イベント作成させられる主人公ヒロイン専用最強防具(笑)以上の防具の作成であったり、今回作ろうとしている拳武器もその一つだった。

 

「備えあれば憂いなしだしな──」

 

 どうしてまた急にこの武器を作ろうと思ったのかと言うと、度重なる突発的な悪魔との戦闘を経て、武器の必要性を感じたからに他ならない。

 

 今までは今世で鍛えぬいた肉体と魔力による身体強化で誤魔化してきたが、こうも強敵と戦ってきたとなるとそうも言っていられない。いくら弛まぬ努力で鍛えてきた拳と言えど、酷使しすぎてマジで砕けちゃいそうなくらい限界が来ていた。

 

 なので武器を作ろうというわけなのだが──「ヘルデイズ」で拳武器というのは不遇も不遇の不人気・曰く付きの武器種だったりする。

 

 ……と言うのも、武器種が二十種類と豊富な『ヘルデイズ』では剣や槍、弓と言ったファンタジーの王道から、銃や盾、鞭に楽器などの変わり種まで正に多種多様に用意されている。そのどれにもド派手なエフェクトや演出のスキルや魔技が存在するのだが、この拳武器にはそう言ったものが一切存在しない。

 

 拳武器を担当したデザイナーは相当な武術好きか武人か何かなのか、型や武技としてスキルは存在したが、演出は質素で他の武器種にある特殊効果も皆無、魔技に関しては「武術とは己が拳のみで積み上げる奇跡」だとか訳わからん理由で存在しない。

 

 こんな爽快感もゲーム映えもしない武器種を誰が好んで使うと言うのか? しかも、敵Mobや仲間NPCでこの武器種を使うキャラは存在せず、使えるのは主人公ヒロインのみ。折角、可愛い女の子がド派手な剣技や魔法で敵を倒すのが一つの売りであるゲームで、誰が派手さも爽快感もない武骨すぎる武器種を選ぶのか、必要性が感じられない。

 

 何より、この拳武器は近距離のほぼ捨て身で戦闘するしかないので、マジで戦術性がないのだ。ステ振りも拳武器を使うためのモノにしなければならず、地味なスキルや魔法が使えないことから、そもそも戦術の幅を広げようとする開発陣の意思が感じられない。

 

 あと、後半になるにつれて物理耐性の高い敵が多くなるので攻略難易度も跳ね上がるわと、そんな不遇ぶりから縛りプレイの一種として一部の変態プレイヤーや完全攻略目当ての廃人にしか触れらない悲しき武器種なのだ。

 

 悉く、救いようのないデザイン設計に面白みの皆無な戦闘バリエーション。しかし、拳武器の不憫さはここでは留まらず、この武器種はエンドコンテンツまで終わっていた。

 

 各武器種には神滅剣や神槍、金剛弓などなど、その武器種ごとに最高能力値の武器──「無窮の器」シリーズというものが存在する。そして、〈聖覇の籠手〉もこの「無窮の器」シリーズの拳武器種として分類されていた。

 

 開発陣のおふざけとも取れる、ゲームバランスを崩壊させるに相応しいぶっ壊れ能力を与えられた「無窮の器」シリーズ。神滅剣のような全悪魔種への致命特攻、神槍のような祝祷礼装による強化に超補正、金剛弓のような無限に砲撃のような弾幕を張り巡らせる──などなど、装備しただけで全能感に浸れるその楽しさは『ヘルデイズ』を髄の髄まで楽しみ、遊びつくしたゲーマーへのご褒美のようなものだろう。

 

 そして、不遇武器である拳武器──〈聖覇の籠手〉には一体どんな規格外な能力がデザインされたのかと言えば──

 

『この武器を装備したキャラの攻撃力は攻撃を当て続ける毎に1.1倍率で上昇する』

 

 と言うものだった。

 

 ……うん、言いたいことはわかる。やはりこの武器種をデザインした奴はちょっと……いや、かなり最初から最後まで頭がおかしかった。

 

 単純計算、8ヒットで二倍、12ヒットで三倍、17ヒットで五倍──と今まで不遇過ぎた鬱憤を晴らすかのような倍率効果がこの武器には与えられた。しかもこの効果は上限がなく、無限に攻撃力に倍率強化を乗せることができた。強すぎるどころの話じゃない。

 

 この馬鹿げた効果には、不遇過ぎて最後のどんでん返しを望んでいた一部の拳好き廃人(ヘルデイズ)プレイヤーも大歓喜。その他にも様々なプレイヤーがPvPで覇権に成り得る、この可能性の獣にロマンを感じて、ただの布切れを巻き付けた低予算武器を手に取った。

 

 しかし、そこは数多の苦難を強制してくる鬼畜ゲーの『ヘルデイズ』。この馬鹿すぎる武器の効果にも落とし穴が存在した。

 

「マジで開発側がこの効果をまともに使わせる気がなかったんだよなぁ……」

 

 まずヒット判定がシビア(ガードやスリップはノーカンでクリーンヒットのみ)、次に攻撃間隔が一秒を過ぎると倍率リセット、そして拳による通常攻撃にしか倍率判定がない……などなど。二倍を維持するのでもアホほど難易度が高かったのだ。

 

 まぁ、当然と言えば当然の措置だ。これで判定もゆるゆるならぶっ壊れバランスブレイカーすぎる。

 

 それでも圧倒的な手数と攻撃速度による制圧型ビルドでロマンを追い求めた猛者が多く存在し、この武器の活用法を見出そうとしたがこれも失敗。理想形のビルドを組めても、実際に操作するとキャラが速すぎて制御(コントロール)できず、自爆するプレイヤーが多発したし、ほぼ無防備の敵を殴り続ける前提な上に、防御が紙装甲なので一撃でも攻撃を受ければ敗北のオワタ式なのだ。

 

 あとやっぱり、他の武器種のような派手さがなく、どこまで行ってもこの武器種は殴ることしか許されなかったと言うのが残念さを加速させた。故に、〈聖覇の籠手〉は色々な意味で有名、その末、見事に残念ロマン武器の称号を賜った。

 

 前世(ゲーム)では俺もこの武器をまともに扱えたためしはない。だが、今世は武術に傾倒しているのもあって、「もしかしたら使えるかもしれない!」と淡い希望を抱いて今回この武器の錬成に目を付けた。

 

「今の俺なら二倍ぐらいはなんとか維持できるだろ……たぶん」

 

 一気に湧き上がった懐かしい記憶に俺は独り言ち、

 

「まぁそもそも──」

 

 そうして一番大事なことを思い出す。

 

「見事、錬成の一部(低確率)で発生する「大成功」を引き当てなきゃまずお話にならないんだけどな」

 

 エンドコンテンツなだけあって、残念ロマン武器でもその作成難易度はアホみたいに高いと言うことだ。

 

 果たして、今回、ダリアが用意してくれた素材のみで足りるかどうかは謎である。

 

 だが、あれば何かと今後に役立つであろう残念ロマン武器を求めて、俺は本腰を入れて作業を開始した。

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