乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
本日大一番の錬金作成は実に数時間にも及ぶ格闘の末──
「お、オワタ……」
なんとも言えない結果と相成った。
死力を尽くし、ぐったりと、数多の素材やアイテムが散乱する作業机の上に力なく身を投げ捨てる。そんな、普段は決して見せることのない従者の情けない姿を見て、お嬢様はおずおずと様子を尋ねてきた。
「だ、大丈夫……セナ?」
「今はそっとしておきなさい……セナは試合に勝って勝負に負けたのよ──」
「は、はい……?」
それに待ったをかけたのは幾多の
「さぁ、アリサは後片づけをしちゃいなさい。セナの方は私が何とかしておくから」
そう言うと、これ以上、主に情けない姿を晒し続けないために師匠はお嬢様を部屋から外そうとしてくれる。本当に情けない話であるが、俺としてもすぐに立ち直れそうにもない状況で、できればお嬢様には退出願いたかったが──
「……」
「な、なにかしら? その、人を全く信用していない目は──」
お嬢様は一向に動こうとしない。彼女は訝しむように自身の師匠に視線を向けた。
「いえ、なんだか師匠がそれらしいことを言ってセナを独り占めしているようにしか思えなくて」
「ぎ、ぎくぅ……」
それどころか、図星を突かれてこの師匠は狼狽える始末だ。
おい、折角人が温かい気遣いに感心していたのに、これじゃあ一気に台無しだよ。てか「ぎ、ぎくぅ……」って何だよ。人が本気で傷心して弱っているところに付け込もうとか最低だな。
──あと今時、そんなベタ過ぎる反応しないぞ。
内心、呆れていると魔女は慌てたように取り繕う。
「な、何を言いだすかと思えば……そんなわけないでしょアリサ? 私は本気でセナを心配してるのよ。大事な錬金術が失敗したときほど辛いものは無いわ。だから師匠としてアドバイスを──」
「はぁ……そういうことならお願いします──けど、くれぐれも
くどくどと御託を並べる
「あの小娘、人が下手に出てあげてるからって調子に乗りおって──」
そんな全くもって可愛げのない弟子二号の態度に魔女は少なからず怒りを覚えていた。
全くもって大人げない魔女だと呆れそうになるが──そもそも、今の俺がそんな上から目線な態度を取れるわけもなかった。何せ、彼女の言葉通り今回の錬成は「試合に勝って勝負に負けた」──つまり、準備してもらった大量の素材をつぎ込んだ結果、俺は求めた成果を得られなかった。
「す、すいません師匠──師匠が折角用意してくれた素材をほとんどダメにしてしまいました……」
「せ、セナ!? いきなりなにを……!?」
今まで突っ伏していた作業机から崩れ落ちるようにして、俺は床に頭を擦りつけた。……所謂、土下座である。
そんな俺を見てダリアは慌てて、すぐにやめさせようとするが俺はびくりともこの姿勢を動かない。今の気分は宛ら、人に金を借りてギャンブルに熱を上げて、その末に大惨敗したような後悔と罪悪感に支配されていた。
そんな俺の思いを察してか、魔女は言葉を続ける。
「──錬金術なんてのは試行錯誤の連続……素材を大量に使うのなんて日常茶飯事だし、別に今回の失敗でセナが用意したモノを無駄にしたとかなんて思っていないわよ。……それに一応は、錬成も成功したじゃない」
俺の手に握られた異様に長い白い帯布のようなものを見てダリアは首を傾げた。
「し、師匠……!!」
俺は俺で、なんとも実体験溢れる師匠のありがたすぎるお言葉に感動する。だが、一つ彼女は勘違いしていた。
それは──
「けど、違うんです師匠。これは俺の求めていた結果じゃないんです」
「無窮の器」シリーズ〈聖覇の籠手〉の錬成は大成功しなかったと言うことだ。
確かに武器としての体裁は保ち、形にはなった。だが、求めていた結果ではなかったのだ。言うなれば、それは本来の〈聖覇の籠手〉の一歩手前……劣化版なのだ。
全部機種にデフォルトで破壊無効を持っている「無窮の器」シリーズだが、それは2%の確率で発生する大成功の時にのみ適用され、その装備時効果も弱体化される。
以前、無理やり錬成した神滅剣の贋作と比べれば、たった一回使っただけで壊れることはないのでまだマシだが、それでも本来の能力を知っている身からするとこれは大失敗と同義である。それも人に素材を用意してもらっての結果なので、やっぱり罪悪感が凄い。
「こんな不甲斐ない結果……もう、師匠に合わせる顔もありません!」
つまり俺はクソみたいなことをした訳であり、この錬成失敗を理由に破門すら覚悟をしていた。
だからこその土下座であり、俺は次に下される彼女から処罰を待つが──そんな俺の反応がオーバーだと言わんばかりに、師匠は肩を勢いよく掴んできた。
「だから大げさなんだってば!? 素材なんてまた集めればいいのよ。私は気にしてないって言ってるでしょう。だから、そんな恐ろしいこと冗談でも言わないでちょうだい……ね!?」
彼女の言葉とその表情には妙な焦燥感が滲み出ており、有無を言わせぬ圧力が込められていた。
「は、はい……ありがとうございます──?」
ここで首を縦に振らなければいけないような気がして、俺はとりあえず反射的に頷くことにした。
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真っ白に燃え尽きたように絶望しながら休息日は終わりを告げ、もう何もやる気が出ず、しばらく塞ぎ込んでいたい気分に苛まれながらも次の日はまたやってくる。
そうして勝手に時間が進んで行けば、いつまでもウジウジとしているわけにはいかず、学園に戻って学園に向かうお嬢様を見送ったのならば、それなりにメンタルも回復してくるというものだ。
「はぁ……まあ、俺が乱数の神に愛されるわけがなかったって話だ」
既に午前中に終わらせるべき家事雑務は終了。のんびりと寮の部屋にて昨日、工房で錬成した失敗作──〈
何の変哲もない純白な帯布は、ともすればそれが武器なんて思えないだろうし、姿形だけは本来の〈聖覇の籠手〉と何ら変わりない。しかし、大成功した時にだけ帯布の表面に電子回路のトレースパターンのような模様が浮かび上がることから、つまり、目の前の帯布は正真正銘の失敗作であり、その効果は本来のモノよりも劣化していることを証明していた。
「1.01倍でも強いは強いが、そもそも倍率維持がムズイからなぁ~」
劣化効果時で二倍のステ上昇の恩恵を得るのには、単純計算で約70ヒットが必要。これだけで、大成功による恩恵がどれほど大きいかご理解いただけるだろう。
「どうしたもんかなぁ……」
ひらひらと風に靡くペラッペラな布を見て思考を巡らせる。
結果として装備の錬成は失敗してしまったが、ここから挽回できないわけでもない。事実、
しかし、これには昨日の錬成よりも大量の「
どぶ攫いから始まり、教会を修繕する為のおつかいに、信じてもいない神に数百回祈りを捧げろとかとか……。何より、『ヘルデイズ』の本編シナリオでも大きく絡むことになるこの教会と言う組織がやばい奴らの巣窟で、この教会サブクエを周回すると必ず面倒なイベントが発生して無駄な寄り道をさせられることになる。
しかも、ここで絡むことになる教会キャラとの会話イベントで下手な選択肢を選ぶと、国一番の宗教組織の総本山である教会と敵対する羽目になったり、逆に仲良くなりすぎてもインチキ宗教の総本山である教会の教祖にされて祭り上げられたりと、踏んだり蹴ったりなのだ。
この無駄な寄り道要素から、ほとんどの廃人プレイヤーはこの救済措置を利用せずに、低確率で武器ガチャを回した方が効率がいいという結論に至るほどだった。俺としても本当ならば「聖女の
「うぐぐ……」
『何をそんなに渋ってるんだい、ご主人? 別にあそこに行くぐらい、どうってことないだろ?』
悩みに悩んでいると不意に、俺の記憶の一部を読み取り、同じように挽回方法を知っているディヴァーデンが発破をかけてくる。
これがまた俺の神経を逆撫でして、苦痛を押し広げることになるのだが──
「セナ! 今度の休みにテルペトルと遊びに行く話なんだけどね! 彼女と一緒に教会のミサに参加することになったの!!」
こちらの苦悩を吹き飛ばすような爆弾が主によって投下される。
そうして、図らずも俺はできれば行きたくはなかった教会へと赴くことになった。