乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第75話 モブ執事はご学友と対面する

 お嬢様に次回の休日の目的地を知らされてから、あっという間に時が過ぎた。

 

 気が付けば彼女の人生で初めてできたご学友とお出かけする当日。俺は寮の門前にて件のご学友とその従者と初対面を果たしていた。

 

「お、お初にお目にかかります! 私、グラウザー男爵家が次女のテルペトル・グラウザーと申します──以後、お見知りおきを!!」

 

 どこか緊張を孕ませ、初々しくも華麗にカーテシーをした桃色髪の少女に見覚えはない。

 

 事前に名前はお嬢様から聞かされていたし、何度かお嬢様の学園生活を観察する中でも見かけていた。だが、その姿といくら記憶を探ってみてもグラウザー男爵令嬢なんてキャラは記憶にないので、眼前の少女は前世(ゲーム)では未登場のモブキャラで間違いなかった。

 

 いくら学園が前世(ゲーム)の主要舞台とは言え、すれ違う人全てがゲームドキャラであるはずもない。寧ろ、立ち絵や名前が明確に与えられたキャラの方が限られているのだから、学園にいる殆どの人間がモブと言うことになる。

 

 ──ポン子ちゃんを生で見たときはちょっと感動したなぁ……。

 

 それも主人公ヒロインが入学する前の中等部ともなれば猶のことで、遭遇する確率は限りなく低い。

 

 そんな当たり前と言えば当たり前なことを考えながら、俺はグラウザー嬢の隣に控える従者に目を遣った。

 

「テルペトル様の侍女兼護衛をしております、カンネ・スティフルです。かの有名なアロガンシアの猟犬のお噂はかねがね聞き及んでおりましたが……まさかまだこんなに年若い少年だとは驚きました」

 

 メイド服に身を包み礼儀正しくお辞儀を一つ、しかしその立ち振る舞いには隙が一切見て取れず、ともすればその風格には騎士然としたものも覚えた。

 

 青色の長髪を後ろで一つ結びにした女性もやはり聞き覚えも見覚えもない。そこまで確認して俺は内心安堵して、次いで恭しくお辞儀をして返して見せた。

 

「お初にお目にかかります、アリサ様の従者──セスナ・ハウンドロッドと申します。以後お見知りおきを……あと、スティフル様が仰った「猟犬」と言うのは勘違いでして、その名はまだ私の父が拝命しているものなので私は猟犬でも何でもない、一介の使用人にすぎませんのでそこだけは訂正を──」

 

「あぁ、そうだったのですね、それは失礼いたしました。申し訳ございません」

 

「いえいえ……」

 

 俺の言葉を聞いてスティフルさんは再び頭を下げる。

 

 とりあえず誤解を説けて一安心。すんなり話が通るあたり、この人は生真面目な人なのだろう。

 

 既にお嬢様はこの侍女とも一度会っているとのことで自己紹介も手短に、気が付けば俺たち従者を他所に、お嬢様方は楽し気に会話をしていた。

 

「お、おはようございますアリサ様! きょ、今日も天使様みたいにお美しぃですねぇ~! えへえへ──」

 

「おはようペトル。私、友達とお出かけなんて初めてだからすごくこの日を楽しみにしてたの、今日はよろしくね?」

 

「う、うっはぁ……笑顔可愛すぎ、喜んでるお顔尊すぎ、マジでセレネア様の再臨じゃない……?」

 

「ペトル?」

 

「──ハッ!? は、はい、私も楽しみでしたぁ!!」

 

 なんとも微笑ましい会話内容であるが……その、何というか、グラウザー嬢のお嬢様に対する反応がなんかおかしい。

 

 最初は男爵令嬢と聞かされたから、人の温もりに飢えたお嬢様の心を弄んで、上位貴族に取り入ろうとする輩かと勘繰りもしたが……この反応はそんなのではない。

 

 ──こ、これは親しみと言うよりも……崇拝?

 

 お嬢様からの話や傍から観察していた時よりも、随分とキャラの濃いグラウザー嬢に度肝を抜かれていると、どこか困った様子でため息を吐いたスティフルさんが主人を正気に戻す。

 

「テルペトル様、そろそろ出発しないと時間に遅れてしまいます」

 

「そ、そうね! それじゃあアリサ様、セスナ様、参りましょうか!!」

 

 スティフルさんに何やら耳打ちをされて、グラウザー嬢は慌ただしくお嬢様と俺を事前に門前に留め置きしておいた馬車に促す。

 

 それに乗り込み、俺達は王都に向かった。

 

 ・

 ・

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「私、セレネア教の教会ミサに参加するのなんて初めてだわ。ねえペトル、ミサってどんなことをするの?」

 

「あ、そ、それはですねぇ──」

 

 馬車に揺られて一時間ほど、今回の目的であるミサが行われ、そして個人的目的である素材の宝庫である教会はセレネア教と言う宗教団体が大本となって運営していた。

 

「──そんなことがありまして、テルペトル様はどうもアロガンシア様を聖女セレネア様が遣わした天使様だと妄想してしまっていて……」

 

「な、なるほど……」

 

 道中、お嬢様方が楽し気に話しているのを眺めながら、グラウザー嬢のお嬢様に対する態度の原因をスティフルさんから聞いてみると、どうやら彼女は痛く敬虔なセレネア教の信奉者であるらしいことが分かった。

 

 つまり、前世(ゲーム)で数多の廃人プレイヤーを苦しめた狂信者の一人である可能性が浮上してきたと言うことだ。

 

 ──なんてこったい……。

 

 思わぬ伏兵に俺は内心で苦虫を噛み潰した気持ちになるが、それを何とか表に出すのを我慢する。

 

 改めて、今回お邪魔することになる教会──セレネア教とは『ヘルデイズ』で度々シナリオに登場する宗教団体の名前だ。一応、このロベルタス王国の国教にも認定されており、その布教率は国民の約四割にも及んでいたはずだ。

 

 国教にしては布教率が低すぎるかと思われるかもしれないが、そこは一部熱烈すぎる狂信者の民度の低さや、教会上層部の汚職だったり、色々と理由は存在するのだが……一番酷い原因としてはその悪辣すぎる勧誘方法が原因だろう。

 

 聖女であり女神でもあるセレネアと言う女性を信仰するこの宗教の教えというのが、簡単に言ってしまうと「隣人を愛せよ、嫌がってもとにかく愛せよ、引きずり込んで篭絡させても愛せよ、絶対に逃がすことなく愛せよ、女神さまを信じる者こそが救われ、神の国へと行けるのだ」と言った感じのモノで……お察しの通りこの宗教団体はヤバい。

 

 何故、こんな滅茶苦茶な教えと民度の低さで国教の地位を確立しているのかと言うと、それは大昔に勇者と一緒に魔神から世界を救った聖女がこのロベルタスの出身であったり、セレネア教を信仰することで扱える神聖術の力が絶大と言うところがある。

 

 つまり、聖女の過去の栄光と御業に肖って滅茶苦茶な活動をするヤバい奴らってことだ。いや、結局ヤバい奴らなのかよ。

 

「ち、ちなみにスティフルさんもセレネア教に……?」

 

「いえ、私は特にそう言ったものは信じていませんので……ですが、一人の騎士としての矜持は持ち合わせてるつもりです」

 

「さ、さいですか……」

 

 もし、隣の騎士メイドもあの激ヤバ集団の仲間だったらどうしようかと身構えるが杞憂に終わる。

 

 ──よかった、この人は見た目通りの真面目な人だ。これであのイカレ集団の仲間だったら俺はもう何も信じられなくなるって……。

 

 ホッと一息していると、車窓の外から教会が遠目に見えてきた。

 

「あ、もしかして教会ってあれのこと?」

 

「は、はい!そうですぅ~!」

 

 気が付けばヤバい奴らの巣窟は目前。セレネア教の教会はこの王都に複数存在し、今回、ミサに参加する教会は前世(ゲーム)の記憶にない場所にあった。

 

 ──とりあえず、これでゲームで登場してきた激ヤバキャラと対面する可能性は無くなった。

 

 また一つ、関門はクリア。お嬢様と武器素材の為とは言え、やはり教会に行くのは気が重い。

 

 今回の訪問では最悪、素材は手に入らずともお嬢様を教会に入信させることだけは回避しなければいけない。今の新しい友達ができてテンションマックスの彼女ならば、あの粘着質な勧誘ゴリラ共の巣窟に放り込まれればコロッと入信してしまいそうだし。

 

「ふ、不安だ……」

 

「わかります……」

 

 既に彼奴らのヤバさを体験済みであるらしいスティフルさんと一緒にゲンナリしながら、

 

「着きました!」

 

「おぉ!!」

 

 俺たちは教会に到着した。

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