乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第76話 モブ執事は見覚えがある

 とにかくヤバいというイメージが先行してしまうセレネア教であるが、その原型となっているのが前世でも広く布教されていたキリスト教だ。……と言うか、だいたいファンタジーで出てくるのがそんなものだろう。

 

 だがそれを丸パクリしたのではオリジナリティもゲームとしての世界観も希薄になってしまうと考えたゲーム開発陣は、このセレネア教をとんでもない狂信者集団にまでに設定を練り上げた。

 

 美人局や色仕掛け絡めた詐欺なんて上等、拉致監禁して精神支配だってする悪辣な勧誘、なんなら無垢な人間を教祖にまで祭り上げるまでする激ヤバ集団なのは間違いようがない。ともすれば、それは多くのプレイヤーを苦しめ、憎悪の対象にまで昇華して見せたのだから、本当にすごい手腕だ。

 

 そんなセレネア教では毎週のように開かれている日曜礼拝(ミサ)の内容も、大体前世のキリスト教と似通っている。

 

「実際に見ると見事なもんだな……」

 

『ケッ……!悪魔からすると気色悪くてたまらないな』

 

 俺達が教会に到着してすぐにミサは開かれた。

 

 真紅の絨毯が引かれた身廊をその教会の司祭や助祭、補助者らが行列を作り入場する。それに合わせて会衆は立ち上がり、入祭唱を奏でる。

 

 オルガンと歌声が教会内に響き、それだけで雰囲気がグッと増していく。朝陽が入り込むステンドグラスは煌びやかで、荘厳な雰囲気の教会内を華やかに彩っていた。

 

「女神セレネアがみなさんとともに──」

 

「「「──また司祭と共に」」」

 

 ひとしきり会衆が歌い終わり、教壇の前に立った司祭が十字を切って祈りを唱えれば、会衆も祈りを捧げる。

 

 まだこの時点では信者たちは静か。恭しく、信仰する女神さまに祈りを捧げている。……だが決して油断をしちゃいけない。奴らは教会に入った瞬間から、見学者であるお嬢様を見る目がどこか喜色に満ちて、獲物を狩り取るような獰猛なモノだったのは見逃さない。と言うか事実、真面目に祈りを捧げてるかと思ったらチラチラとグラウザー嬢の隣で楽し気なお嬢様や他にも一般参加者らをガンギマった双眸で凝視している。

 

 ──これ、何かしらのハラスメントだろ。

 

『もう帰った方がいいんじゃないかな?』

 

 そんな気になりすぎる異様な眼力によって、今まで感じていた教会やミサへの神聖さや荘厳さが幻覚だったのではと思えてきて、感覚がバグってくる。

 

 例に漏れず、俺もその奇異の視線に晒され続けているのだが……その中でも特に気になったのは一人の修道女の視線だった。

 

 ──怖い……。

 

『ほらご主人、やっぱりもう帰ろう。そうしよう』

 

 紺色のチュニックに身を包み、同色の頭巾(ウィンプル)からは少し波打った金糸雀色の長髪が零れていた。その顔立ちはあどけなさと妖艶さを孕ませ、教会の雰囲気と相まって素朴でありながらも美しく思えた。

 

 ──年齢は……同じくらいか?

 

 たぶん、なんとなく、直感で判断する。

 

 そして、どういう訳かその修道女からえらく睨まれているような気がした。と言うか、完全にその少女はこちらにガンを飛ばしていた。

 

 ──……なぜ?

 

『なにガンくれとんじゃゴラァ!? ご主人は渡さんぞワレェ!?』

 

 無視を決め込もうにもちょっと難しい。その異様な眼力に思わず殺気を返しそうになるほどだ。……あと、居候悪魔はちょっと黙ってろ。

 

 明言するが俺にあんな熱烈な視線を送ってくる教会関係者の知り合いはいない。そもそも、教会に来たのが初めてなのだ。だから、信者として何としても引きずり込もうと、狂信者たちから度を過ぎた勧誘をされる覚悟はしていた。けれども、これはちょっと予想外だった。

 

 ──どうして既に敵意を向けられているんだ?

 

『お?やっちゃう?ご主人がその気なら私は大賛成だよ?いっしょにやっちゃう?』

 

「──だから黙ってろ……」

 

 依然として突き刺すような視線に首を傾げながらも、しかしどこか既視感のようなものを感じる中、恙なくミサは進んで行く。

 

「「「アレルヤ、アレルヤ。慈愛と正義に満ちた女神セレネアは私たちを愛し、見守り、その栄光をあずかる者として我らを召し出した。アレルヤ、アレルヤ───」」」

 

 聖書の朗読に狂信者集団の幹部でもある司祭の説教は意外にも聞ける内容だった。

 

「聖書の冒頭に「隣人を愛せよ」とありますが、これはとても難しいことです。何かを愛すと言うことはその全てを許し、認めて、分かち合うと言うことであり、誰にでも分け隔てなくできることではありません。しかし、だからこそ我々は敢えて難しい道へと一歩踏み出し、女神さまの栄光をあずかる者としていついかなる時も挑み続けなければなりません」

 

 その内には猛り狂った過激な信仰があるとはいえ、流石は一つの教会を取り仕切る司祭様と言ったところか、一般人もそれなりにいる場での擬態は心得ているらしい。

 

 ──この司祭も前世(ゲーム)では覚えがないな……。

 

『胡散臭そうなデブ親父だねぇ~』

 

 名前は確か、サミュエル・ベスターと言ったか。

 

 なんでも教会の中でも高位の神聖術使いらしく、多くの孤児を教会で育て、定期的に勉学を学ぶことすら難しい貧困層の子供を集めては無償で青空教室を開く人格者らしい。その人格者ぶりから信者への信頼も厚く、次期司教候補筆頭であるのだとか。今もこの教会で育てている子供たちに囲まれていた。

 

 ──まぁ、こういう清廉潔白すぎる奴の方が、実は裏では業が深かったりするのが定番だったりするんだよなぁ。

 

『ヘルデイズ』でもそのお決まりはもちろん踏襲されており、胸糞展開も多かった。

 

 人身売買に非人道的な人体実験や飼いならしている魔獣の餌──おっと、これ以上はR18なのでご勘弁。胸糞過ぎて思い出したくもない。

 

 ──つまり、注意するに越したことはないってことだ。

 

 好き勝手にベイター司祭の事を悪魔と言っていると、件の司祭様のありがたいお説教は終わり、恙なくミサは続いていく。

 

 今回、俺達が参加したミサは朝の部にあたる。だいたい一回のミサは一時間ほどで、最後の祈りが終わると、儀式的なミサはそこで終了だ。後は信者や一般の参加者らで交流と言う名の勧誘が始まる。つまり問題はここからと言うことだ。

 

「アリサ様、ぜひアリサ様とお話したいと司祭様が……」

 

「ええ、もちろん。私も急な参加を許可してくれた司祭様にお礼をしたかったの──」

 

 友人の誘いとはいえ、お嬢様の身分は公爵令嬢だ。それなりに注目度は高く、多くの信者が彼女をどうやって教会に入信させようか目をギラつかせているのが傍から見てもよくわかる。

 

「さて……」

 

 本音を言えば、錬金素材の探りを入れたかったが──しかし、そこは仕事、まずは主の身の安全が何より重要である。

 

 今までお嬢様らを見守る形で端の席の方でミサを見学していたが、お嬢様がグラウザー嬢と一緒にあの小太りジジイの元へ行こうとするのを見て立ち上がる。公爵令嬢として何かと社交界でも幅を利かせている司祭に挨拶をしに行くのは道理なのだが……だとしてもここで司祭と仲良くでもなってそのまま入信でもされたらたまったもんじゃない。

 

 ──ちゃんと見張っておかねば……。

 

 だが、それは不意に背後からした気怠そうな声に制止される。

 

「──ちょっと面かしてくんない?」

 

「え?」

 

 不意に服を引っ張られ、歩みが鈍る。まさか自分にも勧誘が来たのかと身構えるが、すぐにそれとはまた別だと判断した。

 

 何せ、振り返った先にはミサの間、ずっと険しい視線を向けてきた修道女がいて、眼前へと姿を見せた少女は次いでとんでもない確認をしてくる。

 

「アンタ、あの時の闘技場で戦ったM(マスクド)M(マン)だよね?」

 

「……は?」

 

 修道女の口から飛び出た思わぬ単語に一瞬、俺の思考は停止した。

 

 それは消し去ってしまいたい、思い出したくもない今世の黒歴史であり、今まで記憶の奥底にしまって蓋をしておいた臭いモノ。

 

 どうしてそれを眼前の修道女が知っているのか? そもそも、どうして俺があの変態仮面であると分かったのか? 

 

 無数の疑問が浮上し、困惑する最中で俺はさっきよりも近距離にいる修道女を前に既視感を覚えた。そうして、気怠げなその雰囲気と不機嫌そうに歪んだ口元を見て、一つの記憶に思い当たる。

 

「……もしかしなくても、あの時のズルして祝祷礼装を使ってきた聖職者(プリースト)か?」

 

「違うし、あれはズルなんかじゃない。ちゃんとルールを定めてなかった運営側の落ち度ぢゃん?」

 

 思わぬところ……いや、まぁ当然と言えば当然であるが、やはり予想だにしない場で俺は裏社会の闘技場で戦った銀槍の聖職者──ヴェラルタと再会を果たした。

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