乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第77話 モブ執事は八つ当たりされる

 金糸雀色の毛先をグルグルと指で巻き付ける仕草はどこか前世のギャルを彷彿とさせて、眼前の修道女──ヴェラルタは今一度こちらを凝視した。

 

「いやーまさか、こんなところで会うとはねー。これも女神さまのお導き?ってカンジ」

 

「そ、そうですね……」

 

 どこか感情の籠ってない彼女の言葉には同意しかない。

 

 世間とはなんと狭いことだろうか、まさかこんなところでもう二度と出会うことは無いと思っていたかつての対戦相手と出会うことになるとは思いもしなかった。

 

『これは驚いたね、ご主人』

 

 ──本当にな……。

 

 軽薄な声に内心同意して、俺は乾いた笑みを貼り付ける。

 

 まだ記憶に新しい裏社会の闘技場、そこで開かれた大会の決勝で祝祷礼装を使い、眼前の少女が教会関係者だと言うことはわかっていた。だが前世(ゲーム)では未登場のキャラともなれば、俺の記憶に「ヴェラルタ」と言う聖職者の記憶はすっかり抜け落ちていた。

 

 前回はローブで素性を隠していたこともすぐに気が付けなかった要因だろう。その点、この修道女は素顔を隠していたと言うのに俺の正体に直ぐに気が付いたのだから大した観察眼だ。

 

 ──……いや、あの変態仮面を変装と呼んでいいものか……?

 

 目元とか結構がら空きだし、分かる人には直ぐに身バレしそうな防御力の低さがある。改めて、あの恥ずかしすぎる仮面を思い返しているとヴェラルタはやはり気怠げに口を開いた。

 

「まさかあのオモシロ変態仮面が表の世界では公爵令嬢の執事をしてるとは思わなかったんですけどぉ。……ちょっとギャグ過ぎない?」

 

「言わないでください。あの時は致し方なく、あの格好をするしかなかったんです……」

 

「しかもぉ、あんなに可愛い主様がいて、この前の闘技場では別の女の人と一緒にいたとかぁ……それってご主人様に忠誠を誓う執事としてどうなの?」

 

「ぅぐ……」

 

『おぉい、ご主人!正論過ぎてぐうの音も出てないじゃないか!正論すぎて!!』

 

 のんびりとした声音とは正反対にヴェラルタは火力の高い口撃を見舞ってくる。あと、脳裏のクソ悪魔はこっちの味方なのかどうなのか立場をはっきりさせろ。

 

 ──……てか、なんで初っ端からこんなにヘイト溜まってんだよ?

 

 一応、初対面であるはずの相手に対しては聊か失礼だと思う。

 

「しかも紳士ぶってるくせして、いくら勝負の場とは言え女の子の腹を手加減なしで平気でボコってくるし、アンタの所為で「大博覧会」には参加できないし、目当てのアイテムは未だに手に入らないし──どう落とし前付けてくれんのさぁ?」

 

「あぁ、なるほど──」

 

 だが、次いで当てつけのように紡がれた彼女の言葉でその謎も全てが解けた。つまり、この修道女は闘技場でのことを未だに根に持っているらしい。まったく女々しい女である。

 

「どう落とし前って……そんなのそっちの都合でしょう? 俺は俺であそこで勝つ必要がありましたし、「勝負の場」だとしっかり理解できてるなら勝てばよかったでしょう? まぁ、俺が勝ったんですけど」

 

 謂われのない八つ当たりに、こんどはこちらの番だと反撃する。

 

 こういう後でぐちぐち文句を並べ立てる輩は下手に出ては駄目だ。変に付け上がって面倒になる。だから、徹底的に正論で応戦しなければいけない。

 

「はぁー? うわ、マジサイテー。神聖なる場所でそんなサイテーなこと言って許されると思ってるの? 女神セレネアの神罰が下るかもしんないよ?」

 

「最初に始めたのは貴女の方でしょう……ほんと、()()()()()()()()は──」

 

 売り言葉に買い言葉。だんだんと白熱していく口論であったが、次に放った言葉が修道女の地雷であった。

 

「あ?」

 

 明らかに今まで気怠げだったヴェラルタの雰囲気が一瞬にして切り替わる。それは以前、闘技場で戦った時と似通っており、今にもこっちに斬りかかりそうな剣幕であった。

 

「あ、やべ……」

 

 そんな明確な変化を感じ取れない俺ではない。そして、自分が犯した失態を悔いた。

 

 今の発言は前世(ゲーム)の選択肢でも選んではいけない類のバッドコミュニケーションだ。

 

「い、いや、ちが、今のは──」

 

「テメェ、今うちらのこと馬鹿にしたよな? ここがどこだか忘れてんのか? セレネア様のおひざ元である教会だぞ? テメェみたいな腕っぷしが強いだけの執事なんて簡単にこっち側に引き摺り込めんだからな? 女神の存在を信じさせてやろうか?」

 

 慌てて言葉を取り繕うが既に手遅れ、完全にブチ切れた修道女はもの凄い眼力で詰め寄ってくる。一瞬にして狂信者へと化けの皮を剥がしたこの手の信徒には弁明したところで対処はできない。それは前世の経験で痛いほど理解していた。

 

 ──この暴徒化した女を止めるにはもう実力行使に頼るしかないが……。

 

 ヴェラルタも言った通り、ここは教会の中で、一応神聖な場所なので騒ぎや暴れまわるのは控えたいところ。……え? 目の前の教会関係者は暴れてるだろって? いや、そこはほら、俺は部外者で彼女は関係者だから──察してくれ。

 

『さっきからずっとこのガキは気に入らなかったんだ! やっちゃう? もうやっちゃおうよご主人!』

 

「うるさい黙ってろ。そう簡単な話じゃねぇんだよ──」

 

 何故か一緒にヒートアップしているディヴァーデンを御して、俺は何か穏便に眼前の修道女を止める方法はないかと思考を巡らせる。

 

「隣人を愛せよ、嫌がってもとにかく愛せよ、引きずり込んで篭絡させて愛せよ、絶対に逃がすことなく愛せよ──」

 

 譫言のようにセレネア教の教えを唱える修道女に異様な剣幕で詰め寄られると言う謎な状況も、この教会では別におかしなことではないらしい。

 

 その証拠に、周囲の神父や修道女は「あらあら、ヴェラルタったらまた熱心に勧誘なんかしちゃって」みたいな視線が向けられている。

 

 ──やっぱこいつら頭おかしいだろ!!

 

 どう見ても異常な光景に、これが自分ではなくか弱い一般人ならば一生もんのトラウマを植え付けられてセレネア教に入信してしまうことだろう。

 

「いや、入信しちゃうのかよ……!」

 

 気が付けば壁際まで追い詰められ、いつの間に取り出したのかヴェラルタは銀の斧槍を鋭く構えていた。

 

 ──ここまでか……ッ!!

 

 後はグサッと一刺しして息の根を止めるだけ、俺は腹を括って迎撃の体勢に入ろうとする。だが、その間際で横から鶴の一声が響いた。

 

「こら、ヴェラルタ。今日初めてミサに参加された方にそんなに詰め寄ってはいけないよ」

 

 狂信者ヴェラルタは低く、けれども柔和な雰囲気を孕んだ男性の声にピタリと動きを止めた。そうして、ぎちぎちと首を声のした方へと回せば彼女の表情は一気に青ざめた。

 

「し、司祭様……こ、これはちがうんです! その、どう説明すればいいか──」

 

「口答えはおやめなさい。女神さまの御前で見苦しいですよ。今回は先に熱を上げた貴女が悪いです──ヴェラルタ」

 

「ッ──はい……」

 

 そうしてヴェラルタの弁明を一喝した小太りジジ──べスター司祭は優しく微笑んでこちらを見た。

 

「うちの者がご迷惑をおかけしました。何分この子はまだ若く、純粋でして──どうか大目に見てはいただけないでしょうか、アロガンシアの猟犬殿?」

 

「……いえ、私も神聖な場で大変失礼なことを口走ってしまいました。誠に申し訳ありませんでした──なので、今回は喧嘩両成敗と言うことにしませんか?」

 

「──そうですね、そういたしましょうか」

 

 簡潔に司祭と妥協点を擦り合わせ、そうしてこの場を丸く収めようとする。そうして互いに納得したのならば、今までのことがなかったかのように司祭はお辞儀を一つ。

 

「是非よろしければまたここへいらしてください。貴方の主──アリサ・アロガンシア様ともまたお話がしたいので……その時は貴方もぜひ一緒に」

 

「か、考えておきます……」

 

 最後の最後で軽い牽制球を放ってきた司祭に、やはり抜かりないと舌を巻きながらも俺は愛想笑いを貼り付けた。

 

 こうして、彼らの初めての日曜礼拝は終わりを告げる。

 

「楽しかったわ、テルペトル! また次も一緒に行きましょうね!」

 

「は、はいぃ!ぜひぃい!」

 

 そして、どうやら今回の日曜礼拝をお嬢様は痛くお気に召されたらしい。

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