乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第79話 モブ執事はタダ働きをする

 気が付けばアーカルナムに来てからもう二カ月が経とうとしていた。

 

 最初こそ不安ばかりが募る学園生活のスタートであったが、蓋を開けてみれば順調……とはいかずとも、土俵際一杯で耐えたような感覚。

 

 我らがアリサお嬢様は実に楽しそうに、新たな環境を楽しんでおられた。だが、初動を土俵際で耐えただけであって、まだまだ主様の学園生活は予断を許さない状況である。

 

「今日もよろしくね、ペトル」

 

「は、はいぃ! お任せください、アリサさまぁ!」

 

 ……と言うのも、今のお嬢様は少し足を踏み外せば狂信者が跋扈する激ヤバ宗教に入りかねない環境に身をさらしているのだ。

 

 ──どうしたもんかなぁ……。

 

 数日に一度の休息日。友人であるグラウザー嬢の誘いで参加した日曜礼拝(ミサ)が相当お気に召したのか、お嬢様はこうして休みの日に教会に赴いては礼拝に参加することが増えた。

 

「今日も聞きたいことが沢山あるのよね……べスター司祭は今日はいるのかしら?」

 

「た、たぶん大丈夫ですぅ! きっと司祭様も熱心なアリサ様の質問に喜んでお答えしてくれるはずです!」

 

「それはよかったわ」

 

 聖書を片手に車内で座るお嬢様はどこかどう見ても敬虔なセレネア教の信徒であり、ともすれば彼女は既にあのイカレ集団に入信してしまったのではと勘違いをしてしまう。

 

 その発言からしても、彼女はもう完全にこの宗教にのめり込んでいるようにしか思えない。

 

 ──神聖術を学ぶためとは言え、ちょっと熱が入りすぎてて怖いな……。

 

 一応、お嬢様の従者として、彼女がこうして礼拝に足しげく通う理由は理解してはいるが、それでも不安なものは不安だった。

 

 何せ、相手は何も知らない人間をいつの間にか信者に仕立て上げる詐欺師みたいな集団だ。隙を突いて、こちらの予期せぬうちにアイツらが行動に出ていても何らおかしくはないのだ。

 

 ──これでぽっくり入信でもしちまったら俺はどんな顔で当主様に報告すりゃいいんだよ……。

 

『とりあえず笑っとけば?』

 

「──……黙っとれ」

 

 茶化してくる軽薄な声に腹が立ちながらも、馬車は目的地へと走っていく。

 

 今日も気の抜けない戦いが始まる。

 

 ・

 ・

 ・

 

「……んで、なんで俺はこんなことをさせられてんの?」

 

 推定二十キロはあるであろう木箱をえっちらおっちら運びながら、思わず、俺は首を傾げた。

 

「どうせ暇なんだからいいでしょ。これも礼拝の参加行事の一部よ」

 

「えぇ……」

 

 そんなこちらの疑問をとなりで同じく木箱を運んでいた修道女──ヴェラルタが適当な言ではぐらかした。

 

 そもそも、どうしていきなりこんなことになっているのか?

 

 ちゃんと順を追って説明しようではないか。

 

 まず、いつも通りお嬢様のお付きで教会に赴き、そのまま流れるようにして俺は主が礼拝に参加するのを端の方で見学していた。

 

 もちろん、離れていても注意は怠らない。だってここは猛獣の腹の中も同然なのだから。

 

 ──随分と様になってきたな……。

 

 これまたいつものように楽しそうにグラウザー嬢と讃美歌やら聖書の朗読、祈りを捧げていたわけだが──今日の礼拝はどうやらいつもと毛色が違った。

 

 いつもなら一通りの礼拝が終わればそのままお開きとなるのだが、今日はこの教会を預かるべスター司祭からこんなお願いをされた。

 

『本日は礼拝に参加してくださりありがとうございました。本来ならば朝の礼拝はこれで終わりなのですが……これからお時間がある方にはぜひ、本日開かれる〈謝肉祭〉の準備のお手伝いをお願いしたく──』

 

 これに礼拝に参加していた信徒はもちろん、信者ではないが興味本位で参加していた一般参加者らも快くこれを引き受けた。

 

『私達もお手伝いをしましょう──セナ』

 

 そうして最近、やたらとセレネア教に興味が尽きないお嬢様もこれに頷いた。

 

『畏まりました』

 

 主が手伝うと言っている中で従者である俺がこれを手伝わないわけにはいかない。

 

 そう思って渋々、お嬢様の側でそのサポートをしようと思ったところで──

 

『じゃ、これヨロね~』

 

『は?』

 

 背後から急に現れたギャル修道女によって、強制的に荷物運びをさせられるハメになった。

 

 

 ──いや、なんでやねん。

 

 改めて、思い返して見ても納得がいかないこの状況に、俺は隣のヴェラルタに非難の目を向ける。

 

「なにガン見してんの──キモ」

 

 だがこのクソギャル、そんなの知ったことかと白を切り、何なら追加で罵倒までしてくる始末であった。

 

 ──この(あま)……。

 

 教会で最悪な再会を果たしてから、この修道女とは絶対にウマが合わないと思っていた。

 

 そんな直感から、俺としては極力関わらないようにしていたのだが、何故か向こうからやけに絡んでくる。顔を合わせれば気怠げな声で皮肉を言われ、ギャル特有のダルがらみをされるのだ。

 

 小馬鹿にしてきたり、急にセレネア教について語り出したり、一緒に祈れと強要してきたり、

 

 ──端で礼拝を見てたら急に背後に立って膝カックンしてくるとかどこのクソガキだよ?

 

 酷ければそんな幼稚なことまで。余程、闘技場の事を根に持っているらしい。

 

 その所為か、今日もお嬢様の側について、ゴマをすってくる信者のブロッキングを阻まれていた。

 

 ──あとは頼みましたよ、スティフルさん……!!

 

 このお嬢様のお出かけで何かと信頼感が芽生えてきた騎士メイドに念を送る。

 

 果たして、その(アイコンタクト)は通じたようで、彼女は暗に「まかせろ」と力強く頷いてくれた。

 

 ──やっぱ頼りになるぜスティフルの姐さん!

 

 なんてことを思っていると隣のギャルが不機嫌そうに肘で小突いてくる。

 

「おい、よそ見してないでちゃんと運べし。その箱、大事なモノがたくさん入ってんだかんな?」

 

「はいはい、すいませんでした~」

 

「──キモ」

 

「今のどこにキモい要素があったんだよ……」

 

 やはりギャルの感性はわからないと困惑しつつも、不意にこんなことを思う。

 

 ──てかこれってサブクエだよな……。

 

 あまりにも聞き覚えのあるべスター司祭の言葉と、今まさに視界の端で繰り広げられている光景は前世(ゲーム)で見たものと一致する。

 

 お嬢様は教会の子供たちと楽しげに紙飾りを作って、力自慢の信者は俺と同じように荷物を運び入れたり、逆に教会の中から荷物を運び出していた。それはまるで、これからパーティーを開く前準備のようで、その実、その通りでもあった。

 

 ゲーム『ヘルデイズ』では二種類のクエストが存在する。一つはシナリオを進行する為に攻略必須なメインクエストと、もう一つは逆に攻略必須ではないがクリアすれば素材や経験値、スキルや魔法などを覚えられるサブクエストだ。

 

 そして、ゲームで登場する教会はこのサブクエストがいくつか存在し、今俺がやっている「〈謝肉祭〉の準備」がその一つでもあった。

 

 司祭の言っていた〈謝肉祭〉とは女神であり聖女でもあるセレネアの生誕を祝い、日頃お恵みくださる様々なものに感謝をする催事であり、信者にとっては年に一度の神聖なる日となっている。

 

 ちなみに、この催事は基本、セレネア教の信者しか参加できず、前世(ゲーム)では教会のサブクエを周回してしまうと特別に参加できてしまう。

 

 ──んでもって勝手に信者認定されて、あれよあれよと狂信者集団の教祖ルートに突入するんだよな……。

 

 やりすぎ厳禁であるが、厭らしいことに教会のサブクエは報酬がうまあじなのだ。

 

 これをクリアすることで「無窮の器」を完全体にする為の教会素材が、前世(ゲーム)ならいくつか手に入ったのだが──

 

「なぁ、これって何かお礼とか貰えたりする? 例えば、聖水で清められた白布とか磨き上げられたセージホーンの角とか──」

 

「……は? なに言ってんの? そんなのあるわけないっしょ」

 

「……」

 

 どうやら現実はそう上手くいかず、なんならこいつらは平然と俺たち一般人をただ働きさせる気らしい。やはり教会、やり方が汚い。

 

 ──遂に本性を現したわね?

 

 呆れ切った様子で冷ややかな視線を向けてくるヴェラルタに対し、こちらも負けじと残念なモノを見る視線で応戦する。

 

「──キモ。いいからさっさと次の箱持ってきて」

 

「へいへい……」

 

 くだらないやり取りをしていると、いつの間にか荷物を運び終わる。

 

 もちろん、たった一つ荷物を運んだくらいで作業は終わるはずもなく俺はギャルに言われた通りに次の荷物を運び始める。

 

 結局その後、俺は一時間ほどガチ労働をさせられるハメになった。これで報酬なしはマジで解せない。

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