乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第81話 恋するお嬢様の待ち人はこない

 果たして、アリサ・アロガンシアは疲弊していた。

 

「師匠め……結局、夜中まで魔鉱石の錬成をさせるなんて鬼畜過ぎないかしら──?」

 

 理由はもちろん、前日、前々日とダリアの工房で死ぬほど錬金生成──もとい、鍛錬をしたからである。

 

 ここ最近は学園の用事やテルペトルとの交友などで、何かと鍛錬をする期間が空きがちになってしまっていた。

 

 だからと言って、アリサが鍛錬に対するモチベーションが下がると言うことはなく。寧ろその逆で、集中して作業や反復練習ができる良い機会だとその姿勢は大変前向きであった。

 

 その熱意が師匠であるダリアにも伝播したのか、昨日の鍛錬の内容は随分とハードな内容であったのだ。

 

「しかも何かあるごとに煽ってきてものすごく腹が立つのよね……もうちょっと理性を保たないとダメね」

 

 そんなことがあって、ここ最近では一番強度の高い鍛錬だったこともあり、珍しく翌日に疲れが残っていた。

 

 いつもならば愛しの執事の手厚いサポートによって、こんな疲れが残ることなどほとんどないのだが……。

 

「はぁ、やる気が出ないわね──」

 

 何より、この気怠さに拍車をかけているのが、これからまた長い学園生活が待ち受けていると言う事実であった。

 

 テルペトルと言う唯一無二の友人ができて、アリサの学園生活は当初に比べて確実に一変したが、それでも彼女の周囲は面倒事が絶えない。周囲を飛び回る勘違い野郎共や同じクラスメイトの令嬢たちからは依然として避けられ、ここ最近では中等部全体であられもない噂まで出回っているとかいないとか……。

 

 前述したこれらの問題を解決するには一筋縄では行かず、一朝一夕でどうすることもできない。だから今のところ、アリサはこれら全てに不干渉を貫いているわけだが、それもいつまで続ければいいのか、分からないとなるとかなりのストレスだ。

 

 休日の間はこれらのストレスから解放され、心労は軽減されるがひとたび休日が明ければボディブローのように重くのしかかってくる。

 

「はぁ……」

 

 だから、休み明けの学園は憂鬱で気分が乗らないと言うのもあった。

 

 それでも彼女には学園をサボると言う選択肢は浮かびもしない。元々の小心者な性格がそうさせないと言うのもあるが……アリサにはこの学園を首席で卒業して愛しの従者に見合う、素晴らしい主になると言う明確な目標が存在する。

 

 学園を首席で卒業するとなると、授業をサボっている余裕なんてないし、教師陣からの内申点稼ぎの為に皆勤賞は絶対条件。

 

「──うじうじ言ってないでさっさとスイッチ入れなきゃね。じゃなきゃまたセナに呆れられちゃうもの」

 

 だから、今日もアリサ・アロガンシアは様々な誘惑や気怠さを跳ねのけて、本分である学業に励む。

 

 ・

 ・

 ・

 

「それじゃあ今日はここまで──」

 

 午前最後の算術の授業が終わり、担当教諭のセルブム先生が教室を後にした。それを見届ければ生徒たちは一斉に立ち上がり、教室を飛び出す。

 

「学食に急げ!」

 

「今日のメニューってなんだっけ!?」

 

「月に一回のスペシャルカレーだよ!」

 

 何せ、待ちに待った昼休みはとっくに始まっているのだ。少しだって時間は無駄にできないし、彼らの興奮した言葉の通り、今日の学食は目玉メニューであるらしい。

 

「気にはなるけれど……私にはセナの手作りお弁当があるもんね」

 

 月に一度、数量限定の激レアメニューか愛しの従者の手製弁当のどちらを選ぶかと聞かれれば、アリサは問答無用で後者を選ぶ。彼の作る弁当は大枚を叩いても選ばれた者しか食べることができないのだ。

 

 ──ふふ、可愛らしいわね……。

 

 アリサは年相応に食べ物で一喜一憂する同年代を余裕たっぷり、高みの見物で見送ってから席を立ちあがる。

 

 休みに入って直ぐの学舎内は人でごった返して酷い。それこそ今しがたのクラスメイトらのように学食へ向かう者や、お気に入りのランチ場所の場所取りなどなど。

 

 特進クラスからいつも昼食を取っている中庭まではそこまで距離があるわけでもない。ゆっくり焦らずとも、あの中庭のベンチはいつも空いている。

 

「あ、アリサ! 今日こそは一緒に食事を──」

 

「特別に学食のメニューを取り置きしてもらってるんだ! だから俺様と一緒に学食へ──」

 

「きょ、今日は「魔女の歴史」に関する貴重な書物が手に入って──」

 

「ああ、ごめんなさい。今日も先約がありますの」

 

 ついでに、毎日飽きもせず昼食に誘ってくる勘違い三人衆を軽くあしらい、何の憂いもなく教室を後にすれば完璧である。

 

「もうペトルは先に着いているかしら?」

 

 中庭へと向かう道中でアリサは友人の姿を思い浮かべる。

 

 たった数日しか顔を合わせていないだけだが、その短い期間で話したいことは山ほどできる。教会終わりの鍛錬が忙しかった、師匠がまた滅茶苦茶な課題を押し付けてきた、愛しの従者がそれを労って大きなパンケーキを二枚も焼いてくれた──本当に次から次へと湧いて出てくる。

 

 それとは別で友人に尋ねたいことも同じくらいに募っていた。

 

「それにこの間の〈謝肉祭〉の事も気になっていたのよね」

 

 本日の一大トピックスはこれであった。

 

 もともと、前々からこの謝肉祭の存在はテルペトルから聞かされており、なんなら彼女の計らいで参加しないかと誘われてもいた。だが、本気で信者になるつもりのないアリサとしては、ただの興味本位や神聖術への理解を深める為だけに、信者にとっては神聖な催事である謝肉祭に参加するのは無粋だと思って、丁重に断らせてもらった。

 

「──でも、気になるものは気になるわよねぇ……」

 

 色々と配慮はしつつも、それでも信者たちで執り行われる年に一度の催事には興味があるのも事実。前述した通り、神聖術の知見を深めるにも、信者から直接話を聞ける機会は貴重だった。

 

 だから、誘いを断りはしたが、アリサはテルペトルに「次の学園で祝祭の話をたくさん聞かせてね」とお願いをしていた。

 

 アリサのお願いにテルペトルは二つ返事でこれを了承。寧ろ、「お任せください!」と意気込んで学園での報告にやる気を漲らせていた。

 

「ふふっ、楽しみね」

 

 つい先日のやり取りを脳裏に思い浮かべて、思わずクスリと笑みが零れる。そんな気分の高揚に引っ張れるようにして歩みを進めれば中庭に到着だ。

 

「……あら、今日は私が一番乗りね」

 

 軽く周囲を見渡して、次いでいつも陣取っているベンチに視線を送れば……やはりそこには誰も座ってはない。どうやらまだ友人はここに向かっている最中だと察したアリサは他の誰かにとられる前にいつものベンチへと腰かけた。

 

「ふぅ……」

 

 ぼんやりと空を見上げて一息つく。今日は天気が良いこともあってか、いつも以上に中庭で休んでいる生徒が多いように思う。

 

 グゥ……。

 

「先に食べちゃおうかしら……?」

 

 周囲の楽し気な声に交じって鳴った腹の虫にそんな考えが過る。

 

 だが、流石に一人の淑女として、待ち合わせている友人と合流する前に食い意地を優先するのもどうかと思い直す。そうして、のんびりと陽の光に照らされながら友人の到着を今か今かと待ち続けるが──

 

「ペトル、まだかしら……?」

 

 結局、昼休み中にテルペトルが中庭に姿を現すことはなかった。

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