乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
果たして、アリサ・アロガンシアは困惑していた。
「どういうこと……?」
その理由はもちろん、今日の昼休みに友人であるテルペトルが中庭に来なかったからである。
中庭で昼食を一緒に取るようになってから、今までテルペトルが何も言わずにあそこに来ないことはなかった。いつもならば何かしらの用事──クラスの集まりや教師からの頼み事など──があって、やむを得ず時間が取れないときは事前に彼女はアリサのクラスに訪れて、断りを入れてくれていた。
だが、今回はそれがなかったのだ。
「何かあったのかしら──」
このことにアリサは妙な違和感を覚えながら放課後、テルペトルのクラスの前まで様子を見ることにした。
ここならば直接テルペトルに会える確率が高いし、もし会えなくとも彼女のクラスメイトに話を聞くことができる。そんな考えがあっての行動であったが──
「教室にもいない……もう帰っちゃったのかしら?」
やはりと言うべきか、そろりと覗いてみたテルペトルの所属……Cクラスに彼女の姿は見受けられない。
本音を言えば、ここで直接彼女を見つけてどうして昼休みに中庭に来れなかったのか、その事情を聞きたかったのだけなのだが、状況はそれよりも面倒なことになった。
「……もしかして、今日は学園に来ていないのかしら?」
不意に脳裏を過った可能性にアリサの選択肢が一つ増える。
──そうすればここで他の生徒に話を聞かずに、直接寮に行ってペトルの部屋に行けばいいのでは……?
テルペトルという友人ができて、人並みの学園生活を謳歌できるようになったアリサであるが、本来の引っ込み思案な性格は相変わらず健在。
見ず知らず……それも別のクラスの面識のない生徒に話しかけるのはかなりのハードルであった。なので一応、選択肢として「他の生徒に事情聴取をする」と言う手札は用意していたが、これを使わなくてもいいのならば積極的にこれを使わない方が彼女の精神衛生上、都合がよかった。
詰まるところ、アリサはコミュ障が故に他の生徒に話しかけるのを日和ったのだ。
「そ、そうとなれば寮の方に行ってみようかしら──」
誰に向けるでもなく、挙動不審になりながらアリサはCクラスを後にして学生寮の方へと歩みを向ける。
「……なんだあれ?」
「……さぁ?」
その間際、Cクラスに残っていた複数の生徒がアリサの謎の行動に首を傾げていたのは……また別の話だ。
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学舎から逃げるように学生寮へと戻り、訪ねたテルペトルの部屋には誰もいなかった。
「──え? 帰って来てない?」
「そうなのよ。ご実家の用事で帰りが遅くなるって話は事前に聞いていたんだけれどね? 全然帰ってこないから不思議に思っていたの──」
そうして、流れるように学生寮の管理を任されている寮母──レイナ教諭に話を聞きに行けばそんな事実が判明した。
「グラウザー男爵家から何か学園に戻っていない理由とかは……?」
「それがどうにも男爵家側の方にもグラウザー嬢が帰って来ていないみたいで……逆に学園の方に「何か知らないか」と苦情が来ているみたいなのよ……あ、これは生徒に話しちゃダメな話だった──まぁ、成績優秀で友達想いなアロガンシア嬢ならいいか。と言うことで、ここでの話は内密と言うことで──」
「わ、わかりました……貴重なお話ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして~」
なんとも杜撰な情報管理に、一人の学園関係者としてどうなのかと思わないでもないが、大事な情報が聞けたことに変わりないのでアリサは黙っておく。
少しばかり緊張感に欠けるレイナ教諭からある程度の話を聞き終え、彼女はそのまま自室へと戻る最中で思考を巡らせる。
──どうやら学園側……それどころか、実家もペトルの行方を掴めていないなんておかしな話だ……。
「何かしらのトラブルに巻き込まれた……?」
レイナ教諭の口ぶりからテルペトルの話は情報規制されていて、他の生徒に伏せられているようだし、仮に彼女のクラスメイトに話を聞いたところで無駄足であった。
「当然と言えば当然か……」
学園で与る貴族の令嬢が休息日の間とは言え、その行方が不明となればそれなりの事件だ。
学園側も無関係を貫くわけにもいかないし、グラウザー男爵家も大事な愛娘が行方不明になってかなり不安なはずだ。現に、学園側はかなり高い温度感で男爵家に詰められているのは、何となく察せられた。
「もしこの事実が公になれば生徒の間でもそれなりの衝撃になるのは間違いない……」
なにより、アリサ自身が衝撃の事実にかなり面を食らっていた。
何せ、テルペトルが行方不明になったであろう日にアリサは彼女と最後に一緒にいた人物になるかもしれなかった。自分と別れた後に、何かしらのトラブルに巻き込まれていたとなれば自分は悪くないと分かってはいても責任は感じてしまう。
「……けど、いったい何があったのかしら? 私と別れた後、ペトルはそのまま教会に残って謝肉祭に参加していたし──」
友人との会話を思い出して、当時の状況を整理してみる。
日曜礼拝は休息日の一日目で、いつも通りにアリサとテルペトルは一緒に教会へ赴いた。その後はいつものように祈りを捧げ、謝肉祭の準備をしてと特段おかしなこともない。そして、やはり怪しいのは自分と分かれた後の謝肉祭であり、そこで何かが起きたとしか思えなかった。
「実際に現地に行って調べてみたいけれど、私一人でどうにかできる問題でもないし……」
学園を無断でサボるわけにもいかない。
けれど友人の安否が心配なのも事実で、アリサは二重苦に悩まされる。何とかして友人の行方を探りたいが──
「おかえりなさいませ、アリサ様。今日もお疲れさまでした」
「あ、そうだわ。私には頼れる愛しの従者がいるじゃない──」
「……はい?」
悩める少女の歯がゆさを解消したのは部屋で彼女の帰りを出迎えてくれた一人の従者であった。
首を傾げる従者を見て、アリサは彼にこんなお願いをする。
「帰ってきていきなりで申し訳ないのだけれど、セナにお願いしたいことがあるの……いいかしら?」
その普段から繰り出される甘えたお願いとは違うアリサの雰囲気を機敏に感じ取った一人の従者は姿勢を正し、
「アリサお嬢様のお願いとあればなんなりと──それで、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
恭しくお辞儀をして返事をして見せた。