乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第83話 モブ執事は捜索する

 手配してもらった馬車に一人で乗り込み、約一時間ほど揺られれば目的地である王都に到着した。

 

「ここらへんで大丈夫です。ありがとうございました」

 

「本当に帰りの馬車は必要ないんですか?」

 

「ええ、こっちで何とかしますのでご心配なく──」

 

 学園に常駐している御者にお礼を言って、馬車から降りればそこには王都の街並み──主要通りである〈レリニアム大通り〉が眼前に広がる。

 

「さて……」

 

 祭りごとのような賑わいを見せる通りを前にして、俺は周囲を見渡し一息吐く。

 

『これはまた随分と穏やかじゃないねぇ』

 

「本当にな……」

 

 学園がある真っ昼間の平日、本来であればこの時間帯はいつもの雑事を終わらせて、お嬢様の護衛を陰ながら遂行しているはずであった。

 

「あの腹ペコ騎士、大丈夫だろうな……?」

 

 その通常業務を今回は自称「相棒」を名乗る護衛騎士に頼んで、王都に来ていた。理由は一つ──お嬢様のお願いを遂行する為であった。

 

 昨日の放課後に突如として主からされたお願いは実に単純。

 

 テルペトル・グラウザー男爵嬢が謝肉祭に参加した休息日から行方知れずになっており、心配だからこの件をちょっと捜査をしてほしいと言うもの。

 

 なるほど確かに、お嬢様が珍しく真面目な雰囲気でお願いをしてくる内容である。そして、学園で出来た友人の為にお嬢様自ら考えを巡らせて、今自分にできることをしようとしていることが彼女の成長を感じさせる。

 

 そんな密かな感動を覚える中、このお願いを聞いたいち従者の所感としては──

 

「遂にやりやがったな、あのイカレ宗教団体……」

 

 これに尽きる。

 

 お嬢様はグラウザー嬢がなぜ行方不明になったのか、その原因がセレネア教絡みかどうかも判然としない様子であったが、俺からしてみればもうあの激ヤバ集団が犯人で、それ以外にあり得なかった。

 

『随分と辛辣だなぁ、ご主人。まだ完全に教会関係者がやったとは限らなくない?』

 

 能天気なことを宣う軽薄な声に軽く鼻を鳴らす。

 

「ハっ、俺の記憶を見てんなら分かってんだろ。あのイカレ集団がやってきた数々の悪行を──」

 

『……』

 

「悪辣で粘着質な押し付け勧誘、恋愛詐欺、聖水や神聖術だったり、教会でしか受けられない恩恵の一部独占、無許可な公開説法に、人攫いと、拉致監禁──」

 

『わ、悪かった! とぼけた私が悪かった! だからそれ以上は止めてくれ、悪魔の私でも酷すぎて精神(メンタル)にクる……』

 

 おちょくってくる悪魔を論破して、目的地へと向かう。

 

 大通りを抜けて向かうは商業区画。通い慣れた奥まった通りを進めば、そこには開いているんだか、いないんだか判然としないボロ屋──もとい、ダリアの錬金工房が見えてくる。どうしてセレネアの教会ではなくここに来たのかと言うと──

 

「人探しと言えば師匠だろ」

 

『また雑な人選だねぇ……まぁ、間違ってはないけど──』

 

 今回のお嬢様のお願いはグラウザー嬢の捜索だ。ならば数多の魔術を扱える黒輝の魔女の協力があれば何かと便利だった。毎度毎度、彼女に頼るのもどうかと思うが……今は人命を優先するべきだろう。

 

「あの人のことだし、どうせ今日も工房で暇してるだろ──って、あれ?」

 

 迷いなく工房の中に入ろうとするが、扉に手を掛けたところで違和感が駆け巡る。

 

「……いない?」

 

 いつもは「戸締り? なにそれおいしいの?」とセキュリティもクソもあったもんじゃない工房の扉が、今日に限ってがっちりと施錠されていた。

 

「しかも防護魔術で不審者が扉に触れたら電流が流れるトラップ付きかよ……」

 

『殺意マシマシだねぇ~』

 

 幸い、身内認定されていたので魔術罠は起動せず無傷であったが、それにしても過剰防衛が過ぎる。だれがこんなボロ屋なんかに盗みに入ると言うのか……。

 

「それはいい──」

 

 問題は頼れる師匠は不在と言うことであり、すんなりと問題を解決するのが難しくなったと言う話だ。

 

「……仕方ないか」

 

 不在の理由はわからないが、いないならば潔く諦めるしかない。

 

 今回は自分だけで何とかしよう。そう思考を切り替えて、踵を返す。向かう先はもちろん本題のセレネア教の教会であった。

 

 ・

 ・

 ・

 

 今回の犯行現場であろういつも訪れる教会へと赴けば──平然とその門戸を開いていた。

 

「……」

 

『悪さなんてしてませんって感じだねぇ』

 

 全くもって同意見なディヴァーデンのぼやきを無視して、俺は教会の中に入る。

 

 普段は信者が集まる日曜礼拝にしか訪れないので、平日の教会に来ると言うのは聊か不思議な気分だ。中には祈りを捧げに来た信者や修道士、聖水の購入や神聖術による施術を受けに来た一般人を迎える修道女が常駐していた。

 

 ──どうやらヴェラルタはいないらしい。

 

 彼女がいれば遠慮なく色々と話を聞くことができたのだが、不在ならしょうがない。とりあえず対応を終えて、暇そうにしている修道女の元へと赴き声を掛けた。

 

「すみません、少しお伺いしたいことがあるのですが──」

 

「はい、なんでしょう。聖水ですか? 施術ですか? それとも入信ですか? 入信ですよね? そうですよね?」

 

「いや、あの──」

 

 表面上は平然と来訪者を待ち受けていた修道女はこちらに標的を絞ると途端に饒舌になる。

 

 ──こいつは狂信者寄りだったか……。

 

 声を掛ける相手を間違ったことに後悔しながら、俺は語気を強めて言葉を紡ぐ。

 

「入信じゃないです。ちょっと聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」

 

「聞きたいことぉ? はぁ、そうですか。私で答えられることならいいですけど──それで、なんすか?」

 

 俺が入信希望者でないとわかるや否や、修道女は明らかに態度を粗雑なモノに変える。それに若干の憤りを覚えながらも、グッと堪えて質問をした。

 

「先日、こちらの教会で謝肉祭があったと思うのですが……その時に参加していた貴族令嬢──テルペトル・グラウザー嬢が行方不明と言うことはご存じですか?」

 

「え──ペトルちゃんが行方不明!? ちょ、それどういうことですか!!」

 

 俺の質問に修道女は今知りましたみたいな反応を見せる。

 

 だが、騙されてはいけない。このイカレ宗教団体は平気でたぬき芝居を打ってくる。

 

「グラウザー嬢はご実家である男爵家は疎か、学園の学生寮にも帰ってきていないんです。行方不明になる前、最後に彼女の所在が判明していたのがこの教会なんです。何か、知っていることはありませんか?」

 

 なんとも本当っぽい修道女の反応を不審に思いながらも、簡単な説明を続ける。それを聞いた修道女は当時のことを思い出すように、腕を組んで考え込み始めた。

 

「えーっと──確かにこの前の謝肉祭にペトルちゃんは参加していたけど……謝肉祭が終わった後は護衛のスティフルさんと一緒に普通に帰っていたと思うんだけれど?」

 

「その話、本当ですか?」

 

 些細な表情の変化を見逃さないように、注意深く話を聞く。

 

「え、ええ。確かに他の信者と仲良く帰っていくのを見たわ……」

 

「──そうですか」

 

 特に修道女の言葉遣いや表情におかしなところは見受けられず、彼女の発言は嘘を言っている風でもない。

 

 ──となると、謝肉祭の後に何者かに攫われた? 一体、何のために?

 

 たった一人の証言だけで判断するには不十分。俺は少し間を開けて不安げな修道女に一つ尋ねる。

 

「できれば他にも詳しく謝肉祭当日の話を聞きたいのですが──例えばベイター司祭とか。司祭殿は今ここに?」

 

「ごめんなさい。司祭様は今ちょっと不在で……子供たちと一緒に遠出をしているんです」

 

「……遠出?」

 

 修道女の思わぬ言葉に尋ね返す。

 

 ──そういえば、いつもは教会にいる子供の数がやけに少ないな。

 

 言われて初めて気づいた違和感を確かめながら、修道女の言葉に耳を傾ける。

 

「謝肉祭の後はいつも、一定の年齢を迎えた子供たちを社会見学として王都や周辺の町や村を連れて回るんです」

 

「へぇ……」

 

 初めて聞く話に頷きながら、思考を巡らせる。

 

 ──一旦、撤退だな。

 

 そして、これ以上は得るものがないと判断した。

 

「貴重な話をありがとうございました。また出直すことにします。何かまた新しいことが分かれば教えてください」

 

「え、ええ。私の方でも他の信者の方や同僚に話を聞いてみます」

 

「お願いします」

 

 手短に対応してくれた修道女にお礼を言う。修道女はやはり不安げで、行方不明と聞かされたテルペトルの身を案じているように見えた。

 

 そんな何ら違和感のない様子を一瞥して、俺は教会を後にした。

 

 ・

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 ・

 

 教会を後にして、人目につかない路地裏から教会周辺を一望できる高い建物の屋根へと移動する。

 

『それで、どうするんだい? 今日の調査はもう終わり?』

 

 眼下に広がる光景の中に、何か怪しい動きをしている者や違和感はないかと目を光らせながら軽薄な声に頭を振った。

 

「まさか、どうにも引っかかることがある。情報制限や権限の乏しい下っ端の話を聞いただけじゃあ判断できるはずがない」

 

『それじゃあどうするんだい?』

 

「そんなの決まってる──」

 

 疑問たっぷりな軽薄な声に思わず頬が引き攣るのを感じながら答えた。

 

「人が寝静まった深夜に教会に侵入してガサ入れをする。運がいいことにお偉いさんは不在と来ている。これを逃さない手はない」

 

『……悪魔の私が言うことじゃないけど、ご主人も大概終わってるよね』

 

「人攫いをする奴らに容赦は無用だろうが」

 

 なんとも心外なディヴァーデンの言葉に反論しながら、俺はその時が来るのを頭上から静かに待ち構える。

 

 その様は、一介の執事に非ず。

 

 傍から見ると、コソ泥に思われても不思議ではないだろう。安心してくれ、自覚症状はしっかりとある。

 

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