乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第9話 モブ執事は交渉する

「なんだか釈然としないわ……」

 

 不貞腐れるようにこちらを睨め付ける魔女に先ほどの威圧感は存在しない。

 

「そんなこと言われましても……」

 

 何がそんなに気に食わないのか。理由は分かっているが、かと言ってそれを指摘するのもどうかと思うし、何というかこの魔女──めんどくさい。……まぁ、このウザダルい感じこそが彼女を彼女たらしめる個性なのだが。

 

「もっと罪深くて、カッコいい依頼を期待してた……!!」

 

「なんですかそれ……」

 

 良い年した女性が子供のように駄々を捏ねると言うのはなかなかに見苦しいモノがあるが……そんな姿も絵になってしまうのだから美人とは凄い。

 

 しかしながら、このままでは話が進まないので俺は申し訳なさそうに取り繕って頭を下げた。

 

「……とんだ勘違いをさせてしまい申し訳ございませんでした」

 

「ほんとにね! もう、私の久しぶりのワクワクを返してちょうだい!」

 

 どちらかと言えば、先ほどの古強者感のある彼女よりも今の子供っぽいこっちの方が俺としては馴染み深い。と言うのも、このダリアというキャラは好奇心旺盛で、何よりも恰好を付けることが大好きな、厨二病を拗らせた痛い年増お姉さんなのである。

 

 過去背景的にはけっこう重たい経歴の持ち主であるのだが、それを感じさせないおバカさと残念さのギャップが売りのキャラで、彼女と百合百合できるルートでは度々あのように格好つけて墓穴を掘ることがある。

 

 ──実力は本物なんだけどなぁ……。

 

 なまじ、性能は他のメイン攻略キャラたちよりも高いので、そのギャップが更に残念お姉さん具合に拍車をかけている。

 

「……今、失礼なこと考えなかった?」

 

「滅相もございません」

 

 ジト目で鋭いところを突いてくるダリアに俺は顔色一つ変えずに嘘を吐く。これも日々の使用人生活の中で培った処世術である。

 

 そして、ダリアが盛大な勘違いをかましてくれたお陰で、予想よりもこちらの提示した依頼が軽く受け取られたことも嬉しい誤算だ。

 

 ──この流れなら予想よりも酷いことにはならないかもしれない。

 

 なんて甘い考えが思い浮かび始めるが、俺はそれをすぐに振り払う。

 

 勝って兜の緒を締めよ、とはよく言ったもので最後まで油断は禁物である。何せ、相手はあの残念さに定評のある錬金術師ダリアだ。だからこそ、ここからは今まで以上に慎重に相手の様子を伺う必要がある。そんな気を見透かされないように、俺は慎重に言葉を紡いだ。

 

「──それで……今回の依頼、引き受けてくれるでしょうか? 報酬の方でしたらある程度のご用意はございます」

 

 事前に予算の方は確保済み……と言うか、お嬢様絡みの案件は大体事後報告で金の融通が利く。全く、大貴族の御令嬢様である。

 

 そんな背景もあってか、俺はどれだけ金額を吹っ掛けられてもいいと考えていた。寧ろ金だけで解決できるのならば大勝利である。やはり世の中、金である。なんなら金で解決できないことなんてないまである。

 

「うーん、引き受けるのはいいんだけれど……別にお金には困ってないのよねぇ~」

 

 そんなこちらの思惑を他所に、ダリアの反応は芳しくない。なんなら退屈そうな彼女の雰囲気に、緊張感が高まっていく。

 

 ──やっぱ、そうすんなりとはいかないか……。

 

 分かりきっていたことではあった。

 

 相手はこんなオンボロで、いつも閑古鳥が鳴いてるような工房の店主であるが、数えきれないほどの功績をあげてきた正真正銘、本物の錬金術師であり魔術師だ。そんな彼女が今更金に固執するはずもないし。何より、彼女は好奇心旺盛で、何よりも自分が楽しいと、面白いと思うことを追求する夢追い人なのだ。逆にそれが満たされるのであれば、どんなにくだらないことでも本気でやっちゃう類の人間だ。

 

 それを理解しておいて、金で解決できればと言うのは浅はかすぎる考えだ。ならば、俺はできる限りの誠意を彼女に見せるしかあるまい。

 

「……それでは何を対価に支払えば?」

 

 腹の探り合いは苦手だ。なので俺は潔く何が望みか尋ねることにした。果たして、ダリアは少し考えるそぶりを見せて頬を楽しげに釣り上げた。

 

「それじゃあ、しばらくの間、私の研究の手伝いをしてもらおうかしら?」

 

「しばらく……とは?」

 

「うーん、そこは私の匙加減? 貴方も本業の方があると思うから、週に何回か暇ができて、気が向いたときにこの工房に来て簡単なお手伝いをしてくれればそれでいいわ」

 

「……」

 

 そうして飛び出た彼女の提案に俺は思案する。

 

 確かに、何を再生するにしても、〈再生の錬金〉はそれなりにコストがかかる。それを思えば、彼女は俺にとんでもない要求を吹っかけてきても不思議ではなかった。しかし、蓋を開けてみれば彼女からの提案は期限は不明とはいえ軽い手伝いをするだけでいいと言っている。

 

 ──正直これはかなり破格の条件だ。

 

 ゲームでもダリアとの親密度を稼ぐのに簡単なお使いクエストを何回かやらされる。今回の彼女が提示した対価はその感覚に近いのだと思う。

 

 それに、今後を見据えて黒輝の錬金術師にごまを擦っておくのも悪くない。

 

 ──何が、どこで役立つかわからないし、頼みの綱はいくつも持っておくべきだ。

 

 ならば寧ろこれは最上の結果と言えるかもしれない。

 

「ほ、本当にそんなことでいいんですか……?」

 

「ふふ、そんなこと……ね。ええ、もちろんいいわよ」

 

 俺の確認する言葉にダリアはやはり楽しげに笑みを浮かべるばかりだ。

 

 腹の探り合いは苦手だ。この魔女が何を企んでいるのかは知らんが、やっぱりこの条件は俺にとっても悪いモノじゃない。なら、この条件を取り消される前に、さっさと返事をしてしまおう。

 

「分かりました。できる限り時間を見つけてお手伝いの方をさせていただきます。ですので……くれぐれも、そのペンの再生をよろしくお願いいたします」

 

「交渉成立ね。任せてちょうだい。新品同様に元に戻してあげるわ」

 

 嬉しそうに笑みを深めるダリアに俺は大事なことを尋ねる。

 

「あと二日で何とか再生してほしいのですが……できますか?」

 

「……そうね、ちょうど素材もあるし問題ないわ」

 

「よかったです……」

 

 ダリアの回答に俺は一気に体の力が抜けていくのを感じる。

 

 これで、ペンの修復の目途は立った。折角、依頼を取り付けたのにそもそものお嬢様の提示した期日に間に合わないのでは意味がない。

 

 安堵した俺の反応を見てダリアは変な勘違いをする。

 

「随分と大切なのね、このペン」

 

「ええ。下手すれば私の命よりも重く大事なモノです」

 

「それはちゃんと仕事をしないとね」

 

 嘯く俺を見てダリアも肩を竦めて答える。

 

 これで要件は全て終わり。ダリアにペンを預けて工房を後にしようとするが、去り際に彼女から呼び止められる。

 

「早速で悪いんだけれど、お願いを聞いてもらっていいかしら?」

 

「──もちろんですとも」

 

「それじゃあ──」

 

 そうして、俺はダリアからの依頼を引き受けて工房を今度こそ後にする。

 

 ──本当になんとかなってよかった……。

 

 俺の思いはそんな感想でいっぱいだった。

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