乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第90話 モブ執事は新聞を読む

 地下水道の騒動から一週間、ロベルタス王国全域に冬が到来した。

 

 今年はどうも例年よりも寒波が強く、積雪量も異常な多さだと言う。様々な地域で雪害報告や食料の備蓄が足りないだの、冬眠しているはずの魔獣が人里に降りてきて暴れまわったりと、これまた色々な騒ぎが起こっている。

 

 その中でも今年一の衝撃を与え、王都に住む人々が愕然とした報せは司祭サミュエル・べスターの不祥事であった。

 

「まさかべスター司祭があんなことをしていたなんて……」

 

「何度かあの方に神聖術の治癒を受けたことがあったけど、到底あんなことをする方には思えなかったわねぇ」

 

「人は見かけによらないってやつだな」

 

「ちょっと今回の件で教会の在り方について考えさせられるよな。そもそも司祭一人の悪事を暴けない上層部とは……」

 

「前は品行方正、質実剛健がモットーの名に恥じぬ教団だったのだがのぅ──」

 

 事件の詳細は公となり、これに市井の民は不安と疑心を覚えた。

 

 流石にいち教会の司祭とは言え、今回ばかりはしたことが悪すぎた。教会で育てていた孤児や信者の子供を拉致して奴隷商に横流し、なんなら個人的な慰みモノとして楽しんでいたとなれば猶の事だろう。

 

 今回の騒動で世間のセレネア教に対する風当たりが強くなるのは明白。これまではあの堕天使の精神操作を狡猾に用いてもみ消していた事実が、掘れば掘るほど出てくる。下手すれば一つの事件で教会自体がお取り潰しとなってもおかしくはなかった。

 

 これに教会の上層部は迅速に声明を発表。その内容としてはこうだ。

 

 ・罪人サミュエル・べスターの司祭位の剥奪と教会追放、監獄への収監。

 

 ・事実確認の後、サミュエル・べスターの死刑執行。

 

 ・過去に行方不明となり、帰らぬ人となった遺族らへの謝罪と賠償。

 

 ・組織体制を見直し、二度とこんなことが起こらないように努める。

 

 以上のことを公言。

 

 最後に、今回の事件の真相を暴き、サミュエル・べスターを捕らえた張本人──修道女ヴェラルタを司教へ昇格させると異例の発表をした。

 

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「一気にエリートコースじゃないか──」

 

 今日の朝刊新聞の大見出しにデカデカと書かれた内容に特に驚きはない。寧ろ、教会のお偉いさん方の思惑が透けて見えて、嫌悪感すら覚えていた。

 

 つまりはこうだ。惨憺たる事件を巻き起こしたサミュエル・べスターはそれまで、実に民衆からの支持も厚く、信頼された人格者であった。そんな彼の後釜、火消しとして事件を解決させた修道女を英雄に祭り上げようと言う話である。

 

「……」

 

 全ての手柄を彼女へと押し付け、そそくさとグラウザー嬢を抱えてトンズラこいた身としては若干の申し訳なさも覚える。

 

 ……いや、だって仕方ないじゃん。ここで目立つのは面倒でしかないし、お嬢様のお願いとは別のところにある。ならば、肝心のグラウザー嬢を救えたのならば、副産物的に生まれた、子供たちを救ったと言う手柄は全て協力者に押し付けるのが道理。

 

 別れ際に話した修道女(ヴェラルタ)もこれに頷いていたから、全く問題ない。寧ろ、同意の上なのだからなんの心配もない──そう思っていたのだが……。

 

「これは……ちょっと話と違くないか?」

 

 新聞の目玉記事を読み進めていると、そこには予想外のことが書かれていた。

 

 その内容と言うのが──

 

《騒動を解決し、次代の聖女候補としても期待されていた修道女ヴェラルタが突然の離教!? 行方が掴めず、教会上層部も騒然!!》

 

 これだ。あのギャル、逃げとるやんけ。てか、あれだけ熱心に信者やってたのに離教もしてるし……。

 

「いや、これに関しては仕方ないか……」

 

 一瞬、呆気に取られるが当然と言えば当然な話だ。

 

 新聞で知ったが、実の親代わりであったサミュエル・べスターを彼女はいままで一番に信頼していたのだろう。ならば、それと同じくらい信じていたセレネア教を信じられなくなったとしても、何も言うことはない。

 

「──と言うより、行方不明って大丈夫か?」

 

 最後にあの修道女と言葉を交わしたのはあの事件当日。それ以降は互いに事後処理や色々と忙しくて、顔を合わせることはなかった。

 

「まぁ、元気にやってることを祈っておこう」

 

 かつては裏社会の闘技場で雌雄を決し、再会した時は互いにいがみ合ったりもしたが、最後には目的の為に協力して、苦難を乗り越えた戦友みたいなものだ。彼女の強さは身に染みて分かっているし、我の強い彼女のことだ、何処へ行っても上手くやっていけるだろう。

 

 一つの宗教から離教し、正真正銘の普通の少女へとなった彼女の行く末に光あらんことを──。柄にもなく、そんなことを考えていると脱衣所の扉が開く。

 

「お待たせ、セナ。それじゃあ行きましょうか」

 

 中から出てきたのは可愛らしいお洋服に身を包んだお嬢様だ。俺は読んでいた新聞を折りたたみ、立ち上がる。

 

「いえいえ、とんでもございません、アリサ様。お一人での着付けは何かと不便でしたでしょう。何でしたら、私も僭越ながらお手伝いしましたのに……」

 

「そ、そんなことお願いできるわけないでしょ!? 私ももう立派な一人の淑女(レディ)よ! 一人で着替えくらいできるわ!!」

 

「それはそれは──大変、失礼いたしました」

 

 こちらの言葉にお嬢様は顔を真っ赤にする。

 

 屋敷の時は他の使用人がやっていたから特に気にしたことは無かったが、俺がお嬢様の着替えのお手伝いをしようとすると猛烈に拒否される。まぁ確かに、主従関係とはいえ年の近い異性に着替えを手伝われるのは、年頃の少女としては戴けないのも納得できる。

 

 やはり、こういう時に同性の従者同士の方が何かと気兼ねがないのだと痛感する。

 

 ──普通に考えて、思春期真っ只中の少女にする進言ではないな。

 

 ともすればどこぞの変態司祭と同レベルで業が深い。悔い改めよう。

 

「もう! 早く行くわよ!」

 

「御意に」

 

 明らかに動揺したまま、お嬢様はズンズンと寮の部屋から出ていく。それに当然ながら俺も追従する。

 

 こんな休日の朝からおめかしを何処へ行くのか。

 

 まさかまだセレネア教の日曜教会?

 

 ──まさか。

 

 あの事件以降、お嬢様はセレネア教への興味を一気に失い、教会に赴くことはなかった。寧ろ、友人を傷つけた邪教として忌避すらしていた。

 

 ならばいつもの錬金工房かと言われると──これも違った。

 

「久しぶりだから、すごく楽しみだわ」

 

「きっとグラウザー嬢もお喜びになられますね」

 

「ええ!」

 

 学園寮の前に付けておいた馬車へと乗り込み、王都へと向かう。

 

 対面へと座ったお嬢様は嬉しさと緊張を少しばかり滲ませながら、馬車に揺られる。その目的地はテルペトル・グラウザー嬢の王都の屋敷(タウンハウス)だった。

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