乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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三章ほぼ完走。
あと幕間を一話投稿で一区切りです。


第92話 モブ執事は悔い改める

 事件からここ一週間は本当に忙しかった。

 

 司祭や保護した子供たち(グラウザー嬢以外)の対応は全て、今は行方知れずの修道女(ヴェラルタ)に押し付けたから、そこら辺は問題なかったのだが……。

 

 グラウザー男爵家との対応は全てこっちの方でして、何度か向こうの屋敷を訪ねて話すことなんかもあった。これに関してはお嬢様のお願いでグラウザー嬢を助けたので全く問題はなかったし、当然の義務だと思っていた。

 

 予想外だったのが、学園に入って初めての定期試験がお嬢様に差し迫っていたことだった。

 

 成績優秀なお嬢様でも、本腰を入れて試験対策をしなければならず、それほどまでにアーカルナムの試験範囲は広く、難易度も中等部とは思えないくらいに高かった。この試験期間により、俺は常にお嬢様の勉強のお手伝いとして、資料集めに奔走していた。

 

 これを言い訳にすることは従者として実に情けない話であるが──

 

「はい、それじゃあ第一回〈脳内会議with愉快な悪魔たち〉を始めたいと思います」

 

 今日まで俺はあの日、エンジェンティアが言っていた言葉を精査できていなかった。

 

 部屋の掃除をしながら緩いノリで始めたのはいいが、これから確認する話の内容は偉く堅苦しい。だと言うのに、会議に召集(脳内一秒)した悪魔たちも同じく緩い雰囲気だ。

 

『なんだいそのふざけた会議名は……』

 

『うひゃー! やっぱこの百合シーンは何回見ても最高でたまんねぇなオイ!!』

 

『なんか一匹、変なの混じってるし……てかお前、ここに来てからずっとうるさいんだよ。もっと自重しろよ』

 

 今まではまだ許容できる範囲の煩わしさが一匹増えただけで激変した。それは主に新入りの所為なのは言うまでもない。

 

『はぁ? そんなの知らないですぅ。私は契約にちゃんと従ってるし、その恩恵を最大限使ってるだけですぅ』

 

『こんのクソ悪魔……』

 

『悪魔はお宅も一緒ですがぁ?』

 

『ムキィーーーー!!』

 

 狂ったように人の記憶を見て発狂する厄介オタクとそれを冷笑して、なんならうるさすぎてガチギレする隣人の図が脳内で繰り広げられる。

 

 ──……いや、このレズ悪魔がうるさすぎるのは本当なんだよなぁ。

 

 わーぎゃーと騒ぎ、ともすればなんともくだらない口喧嘩を始める悪魔二匹。

 

 これが世界を滅ぼそうとしたり、一人の女の為に国を滅ぼした悪魔たちの会話か? 聞くに堪えない内容に痛くもない頭を押さえながら、俺は二体の悪魔を宥める。

 

「会議するって言ってんだろうが。そろそろ真面目にやってくれアホ悪魔ども」

 

『はーい、反省してまーす』

 

『なっ……このレズ悪魔は怒られて当然としても、どうして私まで一緒くたにされてるんだい、ご主人!?』

 

「そういうとこだ、そういうとこ──」

 

 自覚症状のない悪魔(ディヴァーデン)は無視。全くもってグダグダであるが、気を取り直して本題に入る。

 

「はぁ……それで、会議の議題はただ一つ。改めて確認だがあの堕天使が言っていた〈災厄の魔女〉ってのはなんだ?」

 

 前世(ゲーム)ではその言葉について明確な説明はなかった。後に販売された設定資料集でも触れられることはなく。ファンの間ではこんな重要そうな単語がなんの設定も存在しないのはおかしいと騒いでいたこともあった。

 

 そして、ファン(考察勢)たちが出した結論は「続編で回収される重要な伏線だ!」と言うことで収まり、次回作の発表が期待されていた。

 

 姉に無理やり「完全攻略」と言う苦行を押し付けられた身としては、「続編なんて出たらまた地獄確定じゃん」と戦々恐々していたのは懐かしい思い出である。そして、この前の堕天使との戦闘で奴はこの「災厄の魔女」という言葉を引き合いに出して、とても気になることを言っていた。

 

『〈魔女〉に成ればこの世界の根源を揺るがす膨大な魔力が手に入り、全知全能な超越者へと至れる。そうすりゃ文字通り、この世界を自由自在に管理できるってわけさ!!』

 

 世界を滅ぼすだとか、惚れた女と一つになるだとか、自分に適した依り代を手に入れて実体を手に入れる。今、俺の中にいる悪魔二体はそう言った目的で〈災厄の魔女〉になろうとしていた。

 

 だが、あの堕天使が言っていたことは今までのと規模が全然違う。……もちろん、奴の言葉を全て鵜呑みにするつもりは無いが、あの口ぶりから嘘を言っているようにも思えない。何より、あの時のディヴァーデンがそうさせてくれない。

 

 だからこその今回の擦り合わせ、事実確認なわけだが、果たして悪魔たちの返答は──

 

『なにもどうも、あの堕天使の言ったとおりだよ。ねぇ、ディヴァーデン?』

 

『あぁ、あの堕天使は嘘は言っていないよ──ご主人……』

 

 肯定。どうやら間違いない事実であるらしい。

 

 その事実に今更、衝撃を受けることも驚くこともない。既にわかっていたことで、前述した通りこれはただの確認なのだ。

 

『けど、あいつの言っていることと、私たちの認識はちょっと違う。あいつは大げさに物事を捉えすぎなんだ』

 

「……どういうことだ?」

 

 ミルニナーヴァはあっけらかんとした様子で平然と言葉を付け足す。

 

『確かに、あの堕天使の言っていることは間違ってない。けど、それは私たち悪魔の共通認識じゃないってことだ。その悪魔によって〈災厄の魔女〉の捉え方は異なる。成し遂げたい目的と同じようにね。あの堕天使が「超越者に至る」って言ってたのは──宛ら、悪魔と天使で中途半端な自分の存在が許せなかったからじゃないかな? つまり、もう一度、大好きな女神さまにその存在を認めてほしかったわけだ』

 

「認めて……か──」

 

 確かに、悪魔になってもまだ女神の権能である神聖術を多用し、それが一番の強力な武器だった。

 

 あの堕天使はきっと後悔していたからこそ、一方的でありながらも女神と言う存在に縋っていたのかもしれない。ならば、あの堕天使の言葉も頷ける。

 

「ってことは、〈災厄の魔女〉ってのは誰か特定の個人を指し示す言葉じゃないってことだな?」

 

『そうだね。実際、「魔女」なんてついてるが、悪魔との適合率と親和性が高ければ男でも平気でなれるし、まあ古ぶるしき時代から続く通例みたいなものだよ』

 

「それじゃあ、俺もその魔女になるかもしれないってことか?」

 

 ミルニナーヴァの言葉的に、悪魔を二体もその身の内に宿していることの異常性を再認識する。一体は居候、一体は獣魔契約と同じ手順……あれ、これどんどん酷いことになってない?

 

 嫌な予感が駆け巡る中、ミルニナーヴァは無慈悲な事実を突きつけてきた。

 

『うーん……ごしゅじんの場合はちょっと話が違うと言うか……そもそも、悪魔に支配されるでもなく身体に飼ってたり、理不尽な条件を押し付けて契約とか、ハッキリ言っちゃえば、「本当に人間?」ってこっちが疑いたくなるレベルなんだよね』

 

「契約の条件に関しては合意の上だろ」

 

『いやいや、あんなの見せられて断れるわけないよね? 詐欺よりも腹黒い手口だよあれは……ごしゅじんは悪魔か何かかな?』

 

「悪魔はお前らだろうが……」

 

 散々な言われようにゲンナリしていると、空気の読めないレズ悪魔はまだ場をかき乱す。

 

『──それで? さっきからお前は何を黙り込んでしょんぼりとしてるのかしら?』

 

『ッ! う、うるさいな! 新入りのお前なんかに分かるかよ……!』

 

 から元気だと容易にわかるディヴァーデンの反応には、何となく心当たりがある。つまりこの悪魔は今回のこの「魔女」の件で反省しているのだ。

 

「お前も随分と可愛らしくなったじゃないか。まさか悪魔がガチ反省をするなんてな」

 

『なっ……それはないだろご主人! 私としては本気で気にしてて──』

 

 全くもっておかしな反応だ。この前まで敵対して、世界を滅ぼそうとしていた悪魔がここまで丸くなるとは誰が想像できる。

 

 それにだ──

 

「ま、あの時は気が動転してて、ちょっときつく言い過ぎたからな。それは悪いと思ってる──」

 

『……え?』

 

「認識の齟齬ってやつだ。今までこんな話してなかったからな──今回のを含めてだが、これからは定期的に情報を共有していけば同じ轍は踏まんだろうさ」

 

 こっちにだって問題があったのは当然な話で、別に一方的にディヴァーデンが責任を感じるのはそもそもお門違いなのだ。

 

「だからもう気にするな」

 

『なんか軽いと言うか、思ってたのと違う反応と言うか……はぁ──うん、分かった。ありがとう、ご主人。もう気にしない』

 

『これが人間と悪魔の会話ってマジぃ?』

 

 折角いい感じにうやむやに出来そうだったのに、外野が空気を読まず茶化してくる。

 

「……だまれ。一週間、記憶の閲覧を禁止にするぞ」

 

『じょ、冗談じゃないですかぁ、ごしゅじんさまぁ~』

 

「調子のいいやつだ……次は無いからな」

 

『も、もちろんでございますよぉ~』

 

 手のひらクルックルなレズ悪魔に呆れつつも、思考を切り替える。

 

 今回で痛感させられた。いくら前世(ゲーム)での出来事を知っているからと言って、俺がこの世界の全てを把握しているとは限らないし、イコールにはならない。だから今一度、気を引き締める必要がある。

 

 今回の事で、予想だにしない方向からお嬢様が破滅ルートへと引き摺り戻される可能性だってあるのだ。

 

「あと一年と少しもすれば主人公がこの学園に入学してくるしな」

 

 勝って兜の緒を締めよ、とはよく言ったものだ。

 

 そんなことを考えながら、俺は部屋の掃除を切り上げる。今日は脳内会議をしていたこともあって部屋がいつもより綺麗になっているのは、気の所為ではないだろう。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
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