勇者ヒンメルの死から20年後。
中央諸国聖都シュトラール郊外。
私の名前はフェルン。
元々は南側諸国の生まれですけど、今はハイター様の元で生活をしております。
戦争で家族を失い、自ら死を選ぼうとした私を救ってくれたハイター様は私の命の恩人です。
ハイター様は私を引き取られた時から、私を残して死ぬことを危惧されておりました。
だから私は、恩人であるハイター様が安心いただく為に一日でも早く一人で生きていく
そんな思いを抱きながら生活をしている中、最近私たちの日常に変化がありました。
ハイター様と同じく魔王を倒した勇者パーティーの1人、魔法使いフリーレン様が私たちと一緒に生活を共にしております。
フリーレン様は、まだご存命であるハイター様のお墓参りの為にお供えの品と一緒に私たちの前に現れたが(大変失礼な方だなと思ったのは生涯忘れないだろう)、今はハイター様の依頼で魔導書の解読をしつつ、私に魔法を教えて下さっている。
フリーレン様は不思議な方だ。
私が魔力制限を行って魔力探知がし辛い状態であったのにも関わらずすぐに私を見つけられました。
なぜこんなにも早く探すことができた理由を聞いてみましたが、フリーレン様は魔力探知では探せなかったから足跡や折れた木の枝とかの痕跡から私の場所を探し当てたと答えられました。
(正直、魔法使いらしくない探し方だなと思いました)
フリーレン様は魔導書の解析作業や修行以外の時間は趣味の魔導書を読まれるか、『狩り』の為に出かけられることが多い。
その『狩り』の成果で、よく小動物や猪などの肉が食卓に並びます。
始めの頃は、目の前で動物の解体作業を行われていたので、慣れていない私は気分が悪くなってしまう事もありました。
しかし今では解体作業にも慣れて作業を手伝うこともあります。
なぜ頻繁に『狩り』をされるのか聞いたことがありますが、フリーレン様は訓練の一環とだけ仰られました。
(『狩り』に出かけるのが、魔法使いの訓練になるのでしょうか?)
フリーレン様の『狩り』の成果が大量でその日に食べきれなかった場合は保存の為、塩漬けや干し肉に作ったりしています。
また、肉以外の部分も加工しますが、フリーレン様は毛皮は加工して衣類や装飾品にし、骨は肥料として使える骨粉にされておりました。
剥いだ毛皮を手慣れた手つきで加工して、マフラーや帽子にする姿はまるで熟練の職人の様でした。
なぜ魔法使いであられるのに毛皮の加工などに慣れていられるのか聞きましたが、数百年ほど引きこもってる時の暇つぶしにこういった事をよくしていて慣れたんだよと仰せられました。
(……フリーレン様は本当に魔法使いなのでしょうか?)
そして、作られた品は街に買い出しに行った際に売却してお金に換えて生活費の足しにしておりますが、フリーレン様がわざわざそんなことをしなくても金銭的に問題はありません。
ハイター様は魔王を討伐した勇者パーティーの一員で魔王討伐をされた後には聖都で司教を務められておりましたので、それなりの貯蓄はあります。
また、フリーレン様はハイター様の仲間で私の師匠でありますけど、家での立場上はお客様であることには変わりはありませんのでお金の受け取りを断ったことがあります。
しかしながら、フリーレン様は住まわせて貰っているからねと仰られ取り合ってもらえませんでした。
フリーレン様のことはハイター様への言葉や一緒に生活をしてていい加減なところが目立ちましたので、自分の出来ることでお金を稼いでいる姿を見た時は失礼ながら意外にも殊勝なところもあるんだと思っていました。
(……魔法は好きではあられるのでしょう)
食事や家事、依頼をされている解読作業……それと『狩り』をしている時間以外、基本的に魔導書を読んでいらっしゃるほどの魔法が好きなフリーレン様。
そして、ほぼ毎夜、遅い時間まで起きられている事を私は知っている。
以前、ブラックコーヒーが飲めなかったことが悔しくて、再度ブラックコーヒーにチャレンジをした日があった。
今回もブラックコーヒーが飲めず前回と同じように眠れない時間が続く。
寝返りを何度もしながらホットミルクでも飲もうかと思い始めた頃に、廊下で足音がしたのが気になって自室から出たらフリーレン様と鉢合わせしたのだ。
どうやらフリーレン様はこんな夜遅くにどこかに出かける様子だった。
しかし私が眠れないことを話すと、私が寝付くまでいろんな話をしてくれました。
『目を離した隙に女の子が怪我をする話』や『人に化けた
どれも子供の私に聞かせる話ではない気がしましたが、私に教訓として教えていらっしゃると思い静かに聞いておりました。
お話の途中で、フリーレン様はなぜこんな時間に起きているのかと私は聞きました。
フリーレン様はいつもこの時間は起きていると仰られたので、いつも何をされているのかを追加で聞きましたがずっと魔導書を読んでいるか、訓練をされていると答えられました。
その話を聞いて、私は本当にフリーレン様の事を誤解していたと反省し、フリーレン様に謝罪した。
いい加減な部分が目立つこともありますが、フリーレン様ほどの実力のある魔法使いがこんな夜遅くに訓練をしているなんて……きっと誰にも見せられない特訓であろうと考えておりました。
『私は眠れないんだよ……みんなが起きてくるまでの暇つぶしなんだよ……だから畏まらないで……心に来る……』
そう言うとフリーレン様は怒られている時とも、何かを隠している時とも違う顔をされました。
まるで、本当になんて言っていいのか分からずに困っているかのようであった。
私はフリーレン様がお伝えしたいことを待つつもりでしたが睡魔に負けて、ベッドに横たわる。
『おやすみ、フェルン。良き夢を』
そして、気が付くと朝だった。
『夢』を見ることもなくぐっすり眠ったのだろう。
またやってしまったと思い、私は気合を入れるために頬をぺちぺちと叩いた。
ここ半年ほどの記憶を思い返してみて改めて分かったことは、フリーレン様は色々不思議な方であるということだ。
魔法使いではあるのですけど、『狩り』をしたり装飾品を作ったりなど、魔法以外の部分が目立つ。
魔法使いであるような、熟練の猟師であるような、そうでない様な印象を私は持ってしまった。
その所為でフリーレン様がよく分からなくなってきた私はハイター様に相談をすることにしました。
「なるほど、それで私に……」
「はい……申し訳ございません」
「いいんですよ。私は頼られて嬉しいです。そうですね……確かにフリーレンはよく分からない所が多いですが、案外単純ですよ?」
そう言いながらハイター様は何でもないように言って下さる。
「……単純なのですか?」
「そうです。フリーレンは不器用なのですよ。その不器用さに隠れて彼女の素顔が見えてこないのです」
「そうなのでしょうか?」
「はい……まあ、フリーレンは魔法の先生としては優秀ですが、それ以外の部分では未熟なところが見られます。そのため、フェルンの方から歩み寄らないといけなんです」
「……私にうまく出来るでしょうか?」
「はっはっは。まだあなた達は半年しか一緒に過ごしていません。そのうち、フリーレンの事はわかりますよ」
まだまだフリーレン様の事を理解するのに時間がかかるのかと考えていたところに、ハイター様は私を励ますように頭を撫でて下さった。
「そうですね……フリーレンのことを少しだけ教えてあげますが秘密ですよ?絶対に誰にも漏らしてはいけません」
「フリーレン様自身にもですか?」
「フリーレン自身にもです……もしフリーレンが耳にしたら私が怒られてしまいますからね」
(フリーレン様に聞かれたら怒られる様な内容を今から話すのですね)
そう思いながらハイター様の言葉を聞き漏らさないように集中する。
「フリーレン程、現在の歴史上『二つ名』が多い人物はいません。まずは『葬送』。これは歴史上、人類で一番魔族を倒してきたことに由来します」
「他には……そうですね。彼女のことを詳しく知っていれば、『月香』、『二番目の生きた魔導書』、『死神エルフ』、『源流』……などになりますでしょうか?」
「………?『月の香り』?お月様には香りがあるんですか?」
「はっはっは。お月様の香りなんておかしいですよね?」
「はい、おかしいです」
「はっはっは」
『死神』という恐ろしい『二つ名』以外に特に聞かれて怒られるような名前はなかったことを疑問に思いながらもハイター様の話は続く。
「そして、フリーレンは……彼女は『魔法使い』であり、『狩人』なのですよ」
「?」
「まだわからなくて結構ですよ。これは彼女が『本気』で『狩る』と決めない限り分かることはないですからね」
勇者ヒンメルの死から27年後。
中央諸国グレーゼ森林。
クヴァールの封印場所。
あの時、ハイター様がなぜそんなことを言われていたのか、ようやくわかる気がする。
「何故だ、フリーレン」
「………」
「なぜ儂に止めを刺すことを躊躇した?」
封印を解かれた『腐敗の賢老クヴァール』が『
そして、フリーレン様は血を流し地面に膝をついてクヴァールを静かに見ている。
フリーレン様の様子には死の恐怖など感じられない。
ただ、目の前の
【フリーレン手製の毛皮製品】
フリーレンは狩った動物の毛皮をコートや防寒具にして売ることがある
フリーレン手製の毛皮製品は魔王が討伐される700年ほど前から度々流通しているが、人類最多種族である人間の時間や、魔王軍との戦争により正確な記録は残されていない
丁寧に処理をされた毛皮を綺麗に加工された品は熟練の職人技がなせるもの
特にフリーレンが手掛けたという印などはないが、見る人が見ればわかるらしい
一種のブランドと化しており、ごく一部の好事家の間では高値で取引されることがある
フリーレンは売った時の値と比較して数百倍で取引されることがあることなんて知らないし、興味もない
大陸魔法教会創始者であるエルフは、時折見掛けるこの毛皮製品でフリーレンの生存確認をしている
【ハイターへの手向けの酒】
本人がまだ存命中なのにお墓参り用にフリーレンが持ち込んだ酒
大変失礼なエルフである
ハイターが逝去された際にも追加でもう1本購入をしたので、計2本存在した
フリーレンはそんなにお酒を飲まないし、同行者であるフェルンはお酒を飲める年齢ではないので、酒瓶の中身は2本とも全部ハイターの墓に捧げられた
結構いい値段する酒を用意していたらしく、酒を捧げられた本人は魂の眠る地で、一口くらい飲んでおけばよかったと嘆いているだろう