勇者ヒンメルの死から27年後。
中央諸国グレーゼ森林を抜けた村。
『腐敗の賢老クヴァール』との激戦の中、勝利を収めたフリーレン。
この地方で起きた80年前のクヴァールによる被害を考えれば、まさに人類史に残る活躍をしたフリーレン。
英雄的な活躍をしたフリーレンは、クヴァールを倒した後、次の街の宿で――
「フェルン……ちょっと、脚の感覚が……」
「何か言いましたか?フリーレン様?」
「……ううん、何でもないよぉ」
(あの魔道書渡したのが不味かったのかなぁ?)
ブチ切れたフェルンに冷たい床の上で正座をさせられていた。
まだまだ季節的に暖かい気温だが、床は当たり前のように冷たかった。
フリーレンはショボショボをした顔で、フェルンの怒りを甘んじて受け入れていた。
(何でここまで怒ってるんだろう……あの魔導書は■■■を殺す魔法で、特に怒らせるようなことは――そういえば、
そりゃ、ブチギレるかぁとやっと気づいたクソボケエルフ。
だけど、■■■について詳しく話したら余計な啓蒙上がるしと心の中で言い訳をしていたところに、フェルンはため息を吐きながら口を開いた。
「はぁ……それで――」
「ん?」
「種族的な理由でゾルトラークへの反応が遅れたり、魔法使用後の魔力感知が苦手な事は分かりましたが……あの不思議な道具や魔道書に記された謎の対象についてなのですが」
「ああ、ヤーナムの道具については説明してなかったね……よいしょ」
私はヤーナムの道具について詳細な話をするために立ち上がる。
そろそろ、脚も限界だったし、ちょうど――
「誰が、正座を、やめて良いと言いましたか?」
「……うん、ごめん」
私は静かに冷たい床に座り直した。
フェルンの怒りが収まるまで座り続けることにしよう。
「クヴァールとの戦いの時も言ったけど、輸血瓶も『葬送の刃』という大鎌にもなる曲剣も私が体験したヤーナム……『
「大鎌にもなる曲剣?……え、いったいどういう構造を?」
「それは、今度外で見せるよ。あと『ルドウイークの聖剣』も見せようか?この武器は直剣と大剣にもなる――」
「あ、いえ。男の子でもないので、そういうのは別に……」
「……そっかぁ。ヒンメル達は喜んだんだけどなぁ……」
私は思っていた反応と違い面食らった。
喜んでもらえると思ったのにと、とてもしゅーんとした気分になった。
「それにしても夢ですか……しかし、フリーレン様は不眠症でしたよね?」
「……
それに、ヤーナムで経験した内容を言葉に出すだけで、啓蒙とかいう
「そのヤーナムや夢の話とは、以前私に話してくれた子供に聞かせるとは思えない教訓の事ですか?」
「そうだね。あの時は……そう、思い出した記憶を整理するために話したかったという理由もあったよ……」
「そうだったのですね……」
「記憶によれば、あの『
「ちょっと待って下さい」
「ん?どうしたの?」
「え、あの、何回も夢を見たのではなく、夢を繰り返した……ですか?」
「ああ、ごめん。『
今の話を聞いただけでまともな体験ではないと理解をしたフェルンは眉を顰め口を閉じる。
「……この話は一旦終わり。フェルンも早く休みなさい」
私は痺れた脚に鞭打ち気合いでバランスを取りながらフェルンを横にしながら布団を掛けてあげる。
あまり人に聞かせる話でもないし、まだフェルンにはクヴァールとの戦いでの疲れが残っているから休ませてあげたいし。
「しかし、フリーレン様……」
「続きが聞きたければ……気が乗らないけど、気が向いた時にでも、また話すよ」
「そう、今度はシュタルクと一緒の時にでもね」
「フリーレン様……シュタルクって、誰ですか?」
「分からない……シュタルクって、誰?」
首を傾げながら呟くように答える。
私の言葉は夜の闇に消えていった。
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※過去の話
【面倒な依頼】
勇者ヒンメルの死から22年後。
中央諸国聖都シュトラール郊外。
(ハイターとフェルンの家)
フリーレンがハイターとフェルンと共同生活を始めて2年の月日が経った。
フリーレンはハイターに依頼をされた魔導書の解読以外の時間は読書や『狩り』を行うことが多い。
しかし、時々不思議な道具の手入れをすることがあり、今日は道具の手入れをする日のようだ。
「ふう」
フリーレンは読書の時にはいつも傍に置いておく杖の手入れが終わりムフーと満足げな顔をしている。
その作業を見ていたフェルンは何となくフリーレンが手入れをした何の変哲もないように見える杖が気になり手を伸ばす。
「フェルン、危ないから触っちゃダメだよ」
「え?……はい、わかりました。フリーレン様」
刃物や尖った物を不用心に触る子供を嗜めるように止められた事にフェルンは疑問を持ったが言われた通りに触るのを止める。
「はっはっは。まあ、普通は何のことかわかりませんよね?」
そんな2人の様子をハイターは微笑みながら見守っていた。
「懐かしいですねぇ。その杖でヒンメルは手のひらを切って……」
「杖でどうやったら切れるのですか……」
「それはね、これをこうしてね……」
「フェルンの前で危ない事しないで下さいね?」
「……わかってるよ」
そう言うとフリーレンはいそいそと杖に手を伸ばす。
フリーレンが杖を手に取ると杖は煙や霧のように消えた。
魔法に使う杖を魔法で取り出したりしまったりする時と違い魔法を使わずに同じことをする姿を見てフェルンは不思議に思う。
(魔法のような事をしているのに魔力を感じないのは、いったい?)
「ところでフリーレン。作業の進捗はいかがですか?」
「順調だよ。予定通り5〜6年で解読出来そうだ」
「それは良かった……夜に作業はしてませんよね?」
「してないよ。夜の時間を使えれば来年には解読出来てたのに……わざわざ契約条件に作業は日中のみで8時間以内とか決めやがって」
「はっはっは。大切な仲間を馬車馬のように働かせる訳ないじゃないですか」
「まったく、本当に面倒な依頼だよ」
「……ヒンメルも自分の時間を大切にする様に言っていたではないですか」
「そう……だったね」
2人の間にしんみりとした雰囲気が漂い始めた。
ヒンメルの事を知らない自分がいても話についてはいけないだろうと考え、フェルンは2人から離れることにする。
「あ、あの、私!倉庫の整理をしてきます!」
「分かりました。フェルン、気をつけるんですよ?」
「はい、分かりました……あ、1番古い日付の保存食は出入り口の近くに置いておきますね」
「はい、いつもありがとうございます」
フェルンはタッタッタ、と小走りで部屋から出ていった。
残された2人はその様子を眺めていた。
そして、フリーレンは首を傾げながらハイターに聞く。
「……もしかして、フェルンに気を遣わせちゃった?」
「ええ、まぁ……しかし昨日、何処かのエルフが大物を仕留めたので、結局倉庫の整理は必要でした……先日作ったばかりの塩漬け肉は街に売りに行きましょうかね」
「ごめんて……」
「いえ、食費も浮きますし、あなたのおかげで収入もありますので……」
何か心の中で言い訳をしているようなフリーレンの姿を横目に収めつつ、ハイターはフォローをする。
コホンっと、話の流れを変えるようにハイターはわざとらしく咳をする。
「フリーレン……実はあなたに伝えるべきか悩んでいる話があります」
「……ヒンメルも同じような事を言ってたよ。あの日、2人と合流する前にね」
「そして、結局話さなかった……のですね。おそらく、ヒンメルの判断は正しい。あなたを混乱させてしまうと考えたのでしょう」
「……そう」
「私も同じ考えです。なので、この話は私もしません。だけど、おそらくはあなた方は試練に直面するでしょう」
ハイターは無茶なお願いをしているという自覚しつつ、しかし他にどうしようもないような様子でフリーレンに伝えている。
「その時は……その時は、どうか……受け入れてあげて下さい」
「……?」
「はっはっは……よくわからない話をしてすみません。取り敢えず、これも依頼ということで」
「……本当に面倒な依頼しかしないね」
フリーレンはため息を吐きながら手入れ道具の片付けを始める。
「……前にも話したけど、ハイターには貸しが多いからね。借りを返すと思って、その依頼を受けるよ」
「はっはっは、それではお願いします?……さて、そろそろ良い時間ですので食事の用意をしますか。フェルンにも声をかけて来て下さい」
「分かってるよ。それじゃ、先に行ってるね」
そう言って、フリーレンは足音を出さずに静かに部屋を出ていく。
ハイターはその様子を何とも言えない表情で眺めていた。
「……相変わらず、魔法使いとは思えない身のこなしですね。本人は『狩人』とのことでしたが、まるで盗賊や暗殺者のようです」
「しかしながら、やはり、あなたは優しい子ですね……よく分からない私のお願いを聞いてくれるのですから」
「どうかフリーレン……そしてあの子にも……両者の未来が良いものであらん事を」
【仕込み杖】
狩人が獣狩りに用いる「仕掛け武器」の1つ
刃を仕込んだ硬質の杖は、杖の状態のままでも十分に武器として機能するが、仕掛けにより変形をさせれば刃は分かれ、まるで鞭のように振るうこともできる
フリーレンは武器には見えないかつ、街中で自分が持っていても違和感を持たれにくい護身用の武器として仕込み杖を読書の際にいつも傍に置いている