セミナー副会長はとにかく巻き込まれたくない 作:ピンク髪大好きニキ
別にスタレで長夜月が当たったから育成に忙しいとかそう言う訳じゃないんだ、イヤホント
古書館前で遭遇したミカちゃんを横に、私はトリニティ内を歩く。 時刻は既に夕方に差し掛かっているためか、人の影は少ない。
そんな中を、ミカちゃんは迷うことなく歩いていく。 行き先が決まっているからなのだろう、しかしその表情は迷いが無いとはとてもではないけれど……
「着いたよ。 ここで話そっか」
「分かった、それにしても突然話したいって何かあったのかな?」
漸く辿り着いたのは、人通りが少ない校舎の片隅。 以前コハルちゃんがトリニティ生徒に囲まれていたような、特定の授業でもなければ誰も寄り付かないような場所だった。
何かを隠したような表情、人気のない校舎の隅。 私が疑念を持つにはこれ以上ないくらいの要素たっぷりである。
「……こんな質問して変だと思うけど、ランちゃんはナギちゃんから何か言われてない? 補習授業部についてとか」
「……? ううん、特に言われてないけど」
「あれ? なら何も言わないでランちゃんに頼んでたのかな」
「言われてはなかったけど、補習授業部にいるうちに何かしらの裏があるんじゃないのかなって思いはあったよ。 その上で聞くね────────ナギサちゃんは、補習授業部のみんなを……正確には特定の誰かを退学させようとしてる。 これに間違いは?」
「────────、あはは。 やっぱりランちゃんは頭がいいね、私と大違いだ」
困ったように笑うミカちゃんの反応で、自分の想像していたことが間違っていなかったことを知る。 知らないことが知れて嬉しいはずなのに、内容のせいで喜ぶことなんてできない。
何故、どうして、そんな思いだけが心の内を駆け巡る。 そんな非道なことを、果たして何でもないようにナギサちゃんがするだろうか?
「ミカちゃん。 ナギサちゃんは何か焦ってるのかな?」
「どうして、そう思うのかな?」
「やることが性急すぎる。 いや、それでも十分構想を練って行った事なんだろうけど……らしく、ないって言えばいいのかな。 普段ならもっと考えて行動してたはずだよ」
「……」
「その上で、私や先生まで巻き込んでいるのに関しては私にも意図が読めない」
「……そうだね。 だって先生に関しては私が呼ぶって言ったんだし、ランちゃんだって私が呼んだ方が良いんじゃないかなって助言したんだから」
「……?」
分からない、彼女の言っていることが全く理解できない。
退学させようとしているのに、その可能性を自ら潰すような選択を取っている行動のちぐはぐさが分からない。 何でそんなことになってしまっているのか? 答えを知るのは、ナギサちゃんとミカちゃんだけなのだろう。
「ランちゃんはさ────────」
~~~~~
「────────先生には、エデン条約が何なのかと言う事に関して説明しなければいけないでしょう」
一方のナギサと先生の語らいも、ラン達と似たような流れになっていた。 つい先ほどナギサから言われた「トリニティの裏切り者」と言う単語に、先生は少なくない動揺をしている。
あまり考えたくないのだ、彼女達の中に裏切り者がいるなんて事は。
「エデン条約とは、トリニティとゲヘナの間に締結される不可侵条約のようなものと考えて頂いていいです」
「『エデン条約機構』……トリニティやゲヘナで紛争が起きた際に介入、その争いごとを解決することになります」
「双方の長きに渡った諍いを解決する、その唯一の方法であり……キヴォトスにおける力のバランスを保つための方法なのです」
「ここまでは、ご理解いただけましたか?」そう言い放ったナギサに、先生は静かに首を縦に振る。 その反応に微笑みつつ、ナギサの会話は続いた。
「本来は連邦生徒会長が提示した物でありましたが、その本人が行方不明になってしまったので……ここまで持ってくるのに、苦労しました」
「しかし、漸く締結されるというこのタイミングで……それを妨害しようとする者が現れたのです」
「残念ながらその対象は見つけられませんでしたが、その可能性の高い方々を一か所に集める事には成功しました」
”……それが、補習授業部”
「ええ、その通りです」
~~~~~
「エデン条約が第一回公会議の再現、か」
「うん、そう。 二つの大きな組織が集まって、これからは仲良くしようねってコト」
「……でも、そんな虫のいい話があると思う? 綺麗な話で終わると思う?」
「セミナー副会長って立場から見たら、三大校の二校が集まった大きな武装集団が出来上がるって見えてもおかしくはないかな」
「でしょ? 仮にそんなつもりはないと言われても……ナギちゃんは、そんな大きな力を使って一体何をしようとしてるのかなって考えちゃっても、おかしくないよね?」
言いたいことは分かる。 きっとナギサちゃんの事を知らない人からすれば今の状況は恐ろしいに違いないだろう。
いやごめん、今言った。 知ってる私からしてもデカい所二つが集まるなんて厄介事の匂いしかしなくて怖いわ。 例えナギサちゃんに問題が無くてもマコトちゃんがバカやりそうで怖い。
「人って、過ぎた力を持ったら変わっちゃうと思わない? ましてやそれが出来る立場の、ナギちゃんが」
「変わらない」
「変わらないなんて、言い切れないよね? 今ですらナギちゃんの行動に疑問を持ってるんだから」
「……」
言えは、しないけど。 それでも信じたい、根底にあるものは変わっていないと。
「……本当は言わないつもりだったけど、ここまで来たら止まれないよね」
「何を、かな?」
「先に謝っておくね、この話を聞いたら戻れなくなるって。 もし裏切ったら、私もランちゃんも終わり」
「……」
怖い、いやめっちゃ怖いな。 そんなに含み持たせないで良いし何なら私に話さなくていいから。 私何も知らないままここから立ち去っていいんだからね? 頼むからこれ以上増えなくても良いものを増やさなくていいんだってば。
そう考えていた私の内心が
「セイアちゃんの事だよ。 ……入院中だって言ったけど、本当は違う」
ミカちゃんが私の下へと近づいてくる。 一体何事かと身構えるも、ミカちゃんは何かをするでもなく私の耳元に顔を寄せ────────
「ヘイローを、壊されたの」
────────知りたくなかった事実を、私に叩きつけて来た。
~~~~~
「……面倒なことに巻き込んだと、私を罵ってくださっても構いません。 自覚はありますので」
”……でも、わざわざ打ち明けることをしなければよかった話でもあるよね?”
「そうですね。 言わなければ未来も変わっていた事でしょう」
「ふふ、不思議な話ですよね。 不誠実なことをしている自覚はあるのに、こうして話しているのですから」
心底おかしそうに笑うナギサの姿に、先生は毒気を抜かれたような顔をしてしまう。 こうして笑っていると年相応の可愛い女の子なのに、つい先ほどまで真っ黒な腹の内を見せていたとは思えない。 先生が困惑するのも無理はなかった。
「実のところ、言っても信じて頂けると思っていませんでした」
「ですがこうしてお話することも出来ました。 その上で、お願いします」
「────────補習授業部にいる裏切り者を、探して頂けませんか?」
~~~~~
「そんな背景があるからこそ、ナギちゃんは裏切り者探しに躍起になってる」
「そりゃ、怖いよね。 次は自分の番なのかもしれないって、そう思っちゃうんだから」
「……」
「……ごめんね、こんな話はしたくなかったけど。 何も知らないままランちゃんを利用するなんて、虫のいい話だと思ったから」
「別に、それは何とも思ってないよ」
正確には、それにリソースを割けないくらい衝撃的な内容のせいで思考が上手くまとまらないだけなんだけど。 それほどまでにミカちゃんから聞いた話は衝撃的だったと言える。
そんな事実なら、知らない方が幸せだったのだろうか? ……なんて、思ってもないことを考えてしまったかも。
「ここまでの会話で、頭のいいランちゃんなら察しがついてると思うんだ。 誰が裏切り者で、これから何が起ころうとしてるのか」
「まあ、凡その事は」
「なら話が早いや。 ランちゃんには決めてほしいの……裏切り者を守るのか、それとも見つけ出すのか。 誰の話を信じて、どんな行動をするのか」
「ランちゃんは、どんな選択をするのかな?」そう言って、ミカちゃんは私を見て微笑む。 それなりに打算もあるのだろう、そんなミカちゃんの視線を正面から受け止めつつ、私は心の中で考える。
……いや、考えるまでもない。 私が採るべき行動は一つだけなんだから。
~~~~~
「”────────
~~~~~
”私は先生で、彼女達は生徒だ”
「きっと二人にはそれ相応に事情があるのも分かった」
”……だからこそ、ナギサの言葉だけを鵜吞みにして行動するわけにはいかない”
「だからごめんね、私は私のやりたいようにやらせてもらうよ」
「……そっか、分かった」
「……そうですか、分かりました」
こうして、様々な思惑が交差する中補習授業部の合宿が始まる。
この先どんな展開が待っているのか、その答えを知る者は、いない。
────────────────
”ラン、何だか疲れたような顔をしてるけど”
「……そう見えます?」
”凄く見えるね。 疲れてるようなら無理しなくても”
「大丈夫です。 ちょっと私用で頭を悩ませるような話があったので」
日付が変わり、翌日。 私の姿はトリニティ内にある別館にあった。
昨日ミカちゃんから聞いた話は、私にとって無視出来ない大きな問題だったと言えるだろう。 けど、それで立ち止まっているわけにはいかない。 ああやって啖呵を切った以上は問題解決に勤しむ外ないだろう。
あぁ、気が重い。 重いなんてレベルじゃない、またもや私に降りかかった厄介事だ。 何故私にはこんな事ばかり起きるんだろうか? やっぱり副会長って言う立場がそうさせるのかな? これが終わったら真面目に副会長を辞することも視野に入れた方が良い?
でもそうなったらリオちゃんがギャン泣きする未来しか見えないな……
「暫く使われていない別館だと聞いていましたが……思いの外広くてきちんとしてますね」
「ですが埃はあるみたいですね。 荷物を置いたら掃除が必要でしょうか」
「そうですね、それが終わったらみんなで寝ましょうか……裸で♡」
「何か言いましたかハナコちゃん?」
「イエ、ナンデモナイデス」
ハナコちゃん……すっかりヒフミちゃんの尻に敷かれて……御労しや……
でも気持ちは分からなくもないんだ、昨日の鬼気迫る表情でハナコちゃんをタコ殴りにするヒフミちゃんには私も恐怖を感じずにはいられなかったんだもん。 普段怒らない人が怒ったら怖いって話、アレは本当の話だったらしい。
私も怒らせないように気を付けよう、余程の事じゃなければ虎の尾を踏むことはないと思うけど。
「これから一週間、ここにいる皆で寝食と勉強を共にするので……皆さん仲良くしましょうね?」
「わ、分かった」
「当然でしょ」
「ええ、そうですね」
「……本当に、仲良くしましょうね?」
「ヒャイ……」
いや本当にヒフミちゃん逞しくなったな??? あのハナコちゃんが大人しいぞ?
「コホン、私達には第二次特別試験を合格すると言う重大な目的があります」
「分かっている、もう迷惑をかけないように集中して勉強を頑張る」
「その意気です、アズサちゃん!」
「それはそれとして妨害や襲撃が無いようにトラップの類はキチンと仕掛けるようにする」
「アズサちゃん???」
「む……」
「第一次特別試験で不合格となってしまったことによって、ナギサ様からこの場所で一週間滞在して試験勉強に勤しむように言われているんです」
「ま、まあ……ずっと勉強だけをすると言うのも息が詰まってしまうと思うので、この後行う掃除の際にプールも掃除して水泳を行うのも悪くないと思います」
そういえばこの別館、設備自体は整っているから屋外プールも完備していたんだっけ。 長い間放置されているから汚れが目立っているとは思うけど。
こんなことを言うのもなんだけど、トリニティの生徒数を考えれば何でこの別館が放置されていたのか理解できないんだよなぁ……もっと有効的に活用する方法があったと思うんだけど。
「それにここにいる間は先生も常に一緒にいてくれるそうですし……万が一のことがあっても安心ですね」
”任せて、と言っても出来る事は限られているだろうけども”
「私もいるから、大抵の事は任せていいからね」
「助かります……そう言えば、食事の方は自炊でしょうか?」
「本校舎までは歩いていけなくもない距離なので食堂を利用することは出来ると思いますが……折角なので皆で料理、と言うのも悪くないかもしれないですね」
「それと宿泊場所は? 私達はここで良いと思いますけど」
「通路を挟んだ向かい側にも部屋がありますし、先生とランさんは其方でも良いと思いますけど」
「折角の合宿ですし、ここは同衾と言うのも」
「だ、ダメ! 同衾なんて風紀が乱れるから!!」
凄い形相で突っ込んでるコハルちゃん。 でもここにいるの全員女子だから一緒の部屋でも問題ないとは思うよ?
一人女子と言うには歳を……いや、止そう。 女性に年齢の話はタブーだって教わったことがある。
「話は、纏まり……ました、よね?」
「優先事項は全部決めたと思いますよ? 後は先程も言ったように掃除をしましょうか」
「埃が舞って衛生的にもよろしくないですし、そうでなくとも身の回りの整理整頓をすると言うのは人として必要な行為だと思います」
「そうですね。 では荷物を置いたら早速取り掛かりましょうか」
部屋の中に荷物を置いたヒフミちゃん達は、それぞれ汚れてもいい服装……まあ体操着に着替え始め、終わった人から順番で部屋の外へと出ていく。
キミら示し合わせてないのに清掃場所に向かうんだね。 その阿吽の呼吸には脱帽だよ。
~~~~~
「えへへ……どうですか、ランさん?」
「おぉ、普段見ないから新鮮だね。 良く似合ってるよ」
「ランさんにそう言ってもらえると嬉しいですね」
なんだ、この、なんだ? 初デートで彼女の服装を褒める彼氏みたいな会話は。 私は一体何を見せられているんだ? いや当事者の片方は私なんだけども。
着替えから10分後、私達の姿は雑草の目立つグラウンドの前にあった。 既にみんな体操着に着替え終わり、掃除の準備は万端のようである。 かく言う私や先生も体操着やらジャージ姿やらになっていて手伝いは任せてほしいと言った所である。
さて、そろそろ集まり終わったことだし掃除に取り掛かろう。 じゃないと「ランさんと恋人ごっこするのは……私だと思っていた……」ってWSS状態のハナコちゃんが脳破壊されてしまいそうだ。 でも意外だな、個人的にはハナコちゃんが水着姿になってコハルちゃん辺りに突っ込まれると思ってたんだけど。
「掃除の役割分担は決まっているの?」
「まず最初は建物周辺の雑草をどうにかしましょう。 それが終わったら各自区画を決めて掃除をすると言うことで……」
「では私は屋内の掃き掃除を担当しましょう、今なら吐くのは得意です」
「脳破壊されてるね? 正気に戻ろうか」
「なら私は屋外の窓ふきを担当する。 窓は外も内も綺麗にしないと意味がない」
「じゃ、じゃあ私は食堂の掃除をします!」
「では私は雑草抜きを終えたらプールの掃除を担当しますね! 各自の担当区域が終わったらプール掃除に合流すると言うことで!」
”ラン、私達はどうしようか?”
「自由に動いて、掃除が遅れてる……又は人手が必要そうな人がいたら手伝うと言った感じで良いんじゃないでしょうか?」
”分かった、じゃあ皆熱中症には気を付けて随時水分補給をしながら掃除をしていこうか”
先生の号令の後、私達はしゃがみ込みながら雑草を抜き始めた。 こうして純粋に雑草を抜くなんて何時振りの経験だろう? ミレニアムじゃ掃除用ロボットが掃除してくれるからこういった経験って全然しなくなったんだよね。
これも普段経験しない貴重なことだと思って嬉々として抜いていく。 隣から”うぅ……中腰は、腰が……いや、まだ若いし、現役だし”と言う声が時折聞こえてくるが、私は何も聞いていない。 聞いていないったら聞いていないんだ。 年齢と言うデリケートな話をしたら先生のメンタルにダメージがある気がしてならないからね。
「この辺りは粗方終わったかな?」
「ではこの場所から二手に分かれましょう。 反対側で合流すると言うことで良いですか?」
「その方がいいでしょうね、固まって掃除しても効率が悪いでしょうから」
「じゃあ私はハナコと右側から掃討する」
「では私はコハルちゃんと左側を、ランさんたちはどうします?」
「うーん、正直どっちに行っても変わらないけど」
”ならランはハナコの方を頼んでいいかな? ヒフミ達は私が請け負うよ”
「……? 了解です、なら私は右側ですね」
先生からの要請に戸惑いつつも、特に不満はなかったので素直にハナコちゃんの方へと向かう。 アズサちゃんはふんすっ、と言うような表情で私を見ているけど、ハナコちゃんは水を得た魚のような表情の変わりようだ。 何が君をそうまで駆り立てると言うんだ、宛ら私は精神安定剤か?
けれど、まあ……私一人でハナコちゃんのモチベーションが上がると言うのなら一肌脱ぐのも吝かではない。 ただでさえハナコちゃんの評価は(ヒフミちゃんから)あり得ないくらいの速度で下がり続けているのだ、また顔面に拳が叩き込まれる前に私が軌道修正をしてあげなければならないだろう。
「────────見て下さいランさん。 雑草が、雑草がこんなにも早く!」
「ラン、ハナコは特殊な訓練を受けているのか? だとすれば私も受けたい」
「全く身に覚えがないですね」
この後めっちゃ凄い勢いでハナコちゃんが雑草を刈り尽くしていった。 宛ら地ならしする巨人のように、だ。
あのさぁ……そのやる気を試験の時に発揮出来なかったものなのかね? え? 出来ない? お前もう船降りろよ。
私普段は仕事先で小説読むって言うルーティンを繰り返してるんですけど、ここ最近しおり挟んでた小説を粗方読み終わってレパートリーが無くなったんですよね
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