セミナー副会長はとにかく巻き込まれたくない 作:ピンク髪大好きニキ
最近寒くなってきて布団出そうと思って出したのは良いんですけど、布団だと暑いんですよ
で、毛布にするとやや寒い。 かと言って布団で足を出したり腕を出したりすると居心地が悪い
このどっちともつかない微妙な状態どうにかならんの?
「あぁ、空が青い」
なんて、そんな当たり前なことをぼやきながらトリニティ自治区を当てもなくプラプラ歩くのは、この女……私こと天海ランである。
今は試験勉強のための合宿中だって? そんなことは私が一番分かってる。 それなのに何故かと言われれば、単に休みを貰っただけである。
試験勉強なんだから付きっきりで面倒を見ろって? それは30分前の私のセリフだね。 しかしながら先生から”副顧問なんだから休める時に休まないと”って言われるわヒフミちゃんから「ランさんには本当に感謝してますが、ここは先生の言ってることが正しいと思います」って言われるわで私の味方は一人もいなかった。 私一応ナギサちゃんから補習授業部の勉強の面倒を見てくれって話でトリニティにいるんだけどな……?
「とは言え、言われてしまった以上は唐突に決まった休日を謳歌しなければいけない、と」
突然言われると予定に困る、事前にこの日が休みだって判明しているのであれば予定だってしっかりと立てて遊びに費やしていたと言うのに。 行きたい場所も食べたいものも決まっていない以上何をすればいいのか分からない。
「やっぱハナコちゃん辺りにお店でも聞いておけばよかったかもしれない」
後悔何とやら、今更悔やんでも仕方のない事なので散歩を再開……しようとした時だった。 私を見つめる視線に気づいたのは。 いや、気付いたってレベルじゃない。
「じー…………」
「………」
「おや、バレてしまいましたか」
「私口で擬音を表現する人は初めて見たかも」
「それは何よりです。 私がラン先輩の初めてを奪うことが出来たようです」
「言い方よ、誤解を招くような言い方は止めてね?」
私の事をガン見していた一人のメイド、飛鳥馬トキ。 トキちゃんが何故トリニティにいるのか? と言うか物凄く久し振りに見たなこの子とか思いつつも、トキちゃんの下へと歩み寄る。
「久し振り、トキちゃん。 随分見てなかったけど元気そうで何よりだよ」
「私も元気そうで自分の事のように嬉しく思います。 最近は撮り貯めされていたラン先輩の盗撮写真しか見ていなかったので生ラン先輩を見れて年甲斐もなくはしゃいでます、ぴーす」
「その割には無表情を貫いてるみたいだけど。 と言うか盗撮写真?」
「リオ会長が盗撮していた秘蔵品ですね。 夜な夜な抱き枕に顔写真を貼り付けて会話の練習をしてますよ」
「思った以上に聞きたくなかった情報をどうもありがとう。 聞きたいことは多々あるけど……先ずはメイド服なのを突っ込んでもいいかな?」
しかも見間違いじゃなければC&Cと同じデザインである。 トキちゃん何時の間に?
「実は私、今現在C&Cに所属しています。 コールサイン04ですよ04」
「おぉう、私と久し振りに会えたって言った時以上に嬉しそうなテンションをありがとう」
「後なんやかんやあってリオ会長の専属になりました、ついでに留年しました」
「待って待って待って、情報量が多い。 え、留年? 聞いてないんだけど?」
「それは、まあ。 リオ会長が隠してるので知らないと思います」
「あの女……」
何でそんな大事な話を隠ぺいしてるんだ、いや怒られるから隠してるんだろうけどもね? バレた時にもっと怒られるって考えに至らないんだろうか?
言いたい事は沢山出来てしまったが、それをトキちゃんに言った所で事態が好転するわけでもないので飲み込む。 折角の休日にキレるなんて萎えるようなことをしたくないんだ私は。
「それで、ここにいる理由は?」
「リオ会長に頼まれました。 ラン先輩が今トリニティにいる事も伝えられた上で久し振りの会話を楽しんできてほしいとのことです」
「それさ、私と話させて留飲を下げろって遠回しに頼まれてない?」
「そうとも言いますね。 ですが私も話をしたいとは思っていたのでちょうどいい機会かなと」
「あぁ、そう……」
「大分お疲れみたいですね、やはり勉強は大変ですか?」
「全く違う理由で現在進行形で疲れてるんだけどね? でもやっぱリオちゃん見てるんだね」
「見てる、と言うよりは気付いた、と言った方が正しいかと」
「……?」
「理由は聞かされていませんが、今現在リオ会長はとても忙しいみたいです。 だから私を派遣したともいえますが」
リオちゃんが、忙しい? それほどのタスクを抱えているのか……何気にリオちゃんが私の事を四六時中監視してないって珍しいな。
「ま、良いか。 立ち話もなんだし何処かで落ち着いて話をしようか」
「でしたらお店に関してはお任せください、事前にピックアップしてますので」
「準備がいいね、流石メイド」
「私が食べたいものをピックアップしてご紹介します」
「前言撤回、自由人が過ぎるねキミ」
文句は言うが止めたりはしない。 行きたい場所も決まってなかったからね。
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「まさかトリニティでラーメンを食べるとは」
「口コミで知っていただけですが。 期待以上に美味しくて満足です」
トキちゃんの先導によって辿り着いたラーメン屋で二人ラーメンを啜りつつ、今日初めての一息を吐くと言った感情に浸っていた。 何だかんだで気を張っていたようで、一口毎に凝り固まった心が解れていくようである。
「話でしか聞いていませんが、補習授業部の方は順調なのでしょうか?」
「悪くは、ない、かな? 少なくとも始めたての頃よりはみんな順調に成績を上げているよ」
「そうズルズルでふズルズルそれはズルズル」
「せめて食べ終わってから話してくれない?」
「すみません、美味しくてつい」
「はぁ……それで、ミレニアムの方は問題ないのかな?」
「私の聞いた範囲では何ら問題はないかと。 トリニティやゲヘナに比べれば平和もいい所です」
「それは何より、これでミレニアムまで大変なんて言ったら洒落にならないからね」
エデン条約でピリピリした二大校に比べればどこの学校だって平穏に違いない。 私は残ったスープを飲み干し、勘定を済ませて店から出る。 トキちゃんもすぐに後をついてきて、近くにあった公園で小休止と洒落込むことにした。
「ラン先輩」
「何かな?」
「私には何のことか良く分かりませんでしたが、リオ会長から伝言を頼まれています」
「伝言? トリニティに関して?」
「いえ、違います。 『ゲヘナに目を光らせて』そう仰っていました」
「ゲヘナに……?」
思わぬ方向からの一言に、私の目は見開かれる。 トリニティであればまだ分かるが、まさかのゲヘナである。 エデン条約が絡むから何やっててもおかしくはないとは思うけど、目を光らせるとは一体……?
「具体的な事は言わないんだね」
「私も疑問に思って聞き返しましたが、何も答えてはくれませんでした」
「そっか、うん。 分かった」
「……私が言うのもなんですが、それでいいんですか?」
「良いんだよ、それだけしか伝えないってことは何か理由があるんだろうし」
既に言っているか、私なら容易に答えに辿り着けると思っているのか。 意味の分からない悪戯をするような性格ではない、それは今まで見て来たリオちゃんの事を思い返せば分かる。
なら余計な先入観を抜きにして私が考えることにしよう、それだけだ。
「では私は用事も済んだのでここで失礼することにします」
「そっか、久し振りに敢えて楽しかったよ」
「私も同じ気持ちです。 次に会うときはもっと忙しくないときにしましょう」
「それは私の方が願ってるんだけど、そんな時が滅多に来ないから困ってるんだよね」
「そればかりは私にもどうしようもできません、諦めてください」
最後にそんな軽口を叩き、トキちゃんは立ち去って行った。 残された私は一人、まだ中身の残ったジュースの缶を見つめながらぼんやりと考え事をしていた。
先程の話の中身も確かに重要ではあるんだけど、トリニティに関しても無視することは出来ない事ばかりだ。 何でこう、次から次にタスクが溜まっていくんだろうか、私そんなに出来る仕事人間みたいに思われてる? そうだとしたら病院に行った方が良いよ。
「こんなこと考えてても仕方ないか、折角の美味しいラーメンの余韻が冷めちゃう」
飲み終えた缶をごみ箱に捨てて公園を立ち去る。 結局目的地も決まっていない散歩が再開されてしまった、矢張り計画性のない休日程面白くない物はない……うん。
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「────────とは言え、この展開は私も勘弁してほしいんだけど」
「クックック……そんなに邪険にしなくてもいいではありませんか。 え、そんなに嫌そうな顔します?」
「予定も立ててない休日とは言ってもさ、会って嬉しい顔と嬉しくない顔ってあると思うんだよ」
「それに関しては同意します。 ……スイーツ、食べます?」
「そっちの奢りなら考えなくもないかな」
「それは勿論、私が貴女の休日に介入したのですからそれくらいはいたしますよ。 丁度お勧めしようと思っていたお店がこの近くにありますので」
トキちゃんとの昼食を終えたと思っていたら、お次は黒服が私の前に現れた。 こういう時に私に会いに来るって珍しい、普段は決まった時に実験の手伝いを頼み込んでくるくらいしかしないのに……
色々と思う所はあるものの、スイーツに罪はない。 黒服がお勧めと言ったケーキバイキングの店に入り、適当な席に座り込んで甘味を楽しむことにしよう。
「こんな時に会いに来るって珍しいこともあるんだなって思ったけど、何か用事でもあったのかな?」
「用事、と言うよりは助言……と言った方が正しいでしょうか? 私は立ち位置上先生と敵対しているようなものですが、貴女とはそうではありません。 正式な契約を結び対等な関係である以上、貴女の事を気にかけるのは当然の行為だと思っていますので」
「そ、助言って?」
「ランさんは既に察していると思いますが、トリニティに関してです。 第三勢力が裏で動いているのは?」
「可能性くらいなら、考えてたかな」
「ではその推測は当たりと答えておきましょう。 と言うのも、マダムがエデン条約を利用して何かを行おうとしているようですので」
「マダム?」
「ベアトリーチェ……私と同じゲマトリアの一人です。 性格は……まあ、合うとは言えませんが」
思わず、と言った様子で口ごもる黒服を見て動きが固まる。 黒服ってそんな他人に対して嫌悪感出せるんだ、なんか意外だな? それだけベアトリーチェと言う存在がよろしくないんだろうけども。
「ゲマトリアはその性質上、あまり協力することがありません。 いえ、全く協力しないわけではないのですが……マダムが何やら、他のゲマトリアとの交流をしていたようです」
「? それは何かしらがあると言う事?」
「可能性は高い、と言っておきましょう。 マダムはお世辞にも他人に協力を仰ぐような方ではありません、精々が都合のいい駒程度でしょう」
「その話だけを聞くと、随分と自分中心な性格みたいだね」
「強ち間違っていないでしょう。 兎も角、ランさんに関しましては細心の注意を払ってエデン条約に関わるようお願いいたします」
「エデン条約に関わるな、とは言わないんだね」
「貴女がこの程度で止まってくれるとは思いませんので」
クックック……とか言いながらケーキを頬張る黒服。 キミその顔で食べれたんだね、何気に驚きだよ。
でもまあ、有益な情報は得ることが出来たので私としては嬉しい限りである。 この情報が何処で役に立つのかはまだ何とも言えないけれど、事前情報なしで動き回るよりは何倍もマシだ。
「と言うか、その口ぶりだと今回は何もする気がないんだね」
「今回は、と言うより今回も、と言っていただきたいですね。 別に私は何時でも暗躍していると言う訳ではないのですよ?」
「ホシノちゃんの時は動き回ってたみたいだけど?」
「アレは、まあ、長い間の話ですから。 今現在は特に動くつもりはありませんよ……貴女の研究が存外楽しいと言うのもありますが」
「そう言う言い方止めてね、不審者だよ」
「これは失礼、ですが今言った事は事実でもあります。 面白いことが分かりましたので」
「面白い事?」
他人の研究で面白い事とは一体何だろうか? 少なくとも毎年の健康診断では特に異常も見当たらない健康そのものなんだけども。
「貴女の神秘の特徴……と、言った方が良いでしょうか。 他の方に見られない面白い特徴が見つかりました」
「それはどんなのかな」
「結論を早まってはいけませんよ。 研究結果を実物付きでお渡ししたいので、楽しみに待っていてください」
「普通そこまで言ってお預けする?」
「失礼、性分な物ですから」
「碌でもない性分なのは知ってるけどさぁ」
そう言って二人で笑い合う。 多分立ち位置的には敵対していなくてはいけないのだろう。 事実、ホシノちゃんの時は敵対寸前だったのだ、それがこうして隣に座ってケーキを食べているなんて人生は何があるのか分からない。
願わくば黒服が完全な敵にならないことを、とは思う。 少なくとも先生とは別ベクトルでの信用はしている、少なくとも契約を結んでいる以上は裏切ると言ったことはしないだろう。
「では、私は話したいことも終わったので……」
「もう戻るのかな? 時間はまだあるけど」
「いえ、次はレアチーズケーキを食べようかと」
「食い意地が張ってるね、その意見には同意だけど」
その後は二人で黙々とケーキを食べ続けた。 思っていた休日とは違ったけど、これはこれで充実している……している、のか?
しれっと私の分の会計も済ませて「では、これで私は失礼します」と去っていく黒服の後ろ姿を見送りつつ、私も別館へと戻ることにした。 時間も夕方になっていたし、ヒフミちゃん達になにかお土産でも買っていくとしようかね。
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”お帰り、ラン。 休日は楽しかった?”
「少なくとも、退屈はしなかった……と、思いますよ?」
”それは何より、こっちも勉強が捗っていたし成績も上がってる。 次の試験は期待できるよ”
「……そうですか」
先生の嬉しそうな顔を横目に、私は本当にそうか? と頭の中で考える。 言っちゃ悪いが、今のナギサちゃんが至極真っ当に試験をさせてくれるのかすら疑わなければいけない程度には焦っていると、少なくとも私の中では思えている。
試験問題の差し替え、指定時間の変更、場所の変更……可能性を上げればきりがない程度には、不安要素がある。 試験勉強だけで全てが上手く行くとは……
”ラン、大丈夫”
「……?」
”ランが今何を思っているのかは、私には分からない……そうだね、他人がどんな道を歩んで、どんなことを考えて来たのか。 軽はずみな気持ちがある訳じゃないけど、分かるなんて言えないね”
「……それ、は」
その言葉に、私は思わずと言った感じで先生の事を見つめる。 言い方は違うけれど、それは確かにあの時私に言った……
”補習授業部は、出来る事をやった。 私は、そんな彼女達を見て来た。 ……ランも、そんな皆を見て来た”
”他人の気持ちも考えも、全てを見通せるわけじゃない。 でも確かに積み重ねてきたものだけは、見ることが出来る”
”信じてあげよう? 努力してきた皆の事を”
「……そう、ですね。 それもそうだ」
先生なりに、私を励ましたつもりなんだろう。 その心遣いに苦笑しつつ、私は頷く。
私が弱気になっていてはいけない、彼女達がまだ諦めていないのに私が先にあれこれ弱気になっていては本末転倒なんだから。
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