セミナー副会長はとにかく巻き込まれたくない 作:ピンク髪大好きニキ
すまんね、苦手なんだって
「……首尾は?」
「特に問題はない。 所定の位置に到着したし警備の方も想定内だ」
「各チームも到着、準備は完了です」
『────────了解した、ターゲットの位置も確認済み。 これより作戦を開始する』
まだ空も暗い中、彼女達の姿はトリニティの内部にあった。 皆一様にガスマスクを装備し、傍から見れば不審者に違いないその姿は……アリウス分校の生徒達である。
彼女達は作戦……桐藤ナギサのヘイローを破壊するために、トリニティへと潜入していた。 事前に聞いた通り警備の方も問題はなく、彼女達は続々と入っていたのだが……
「……本当にやるの?」
「何を今更、決まった事なんだからここまで来てそんなこと言っても意味ないでしょ」
「分かってるけどさ。 でも気乗りしないって言うか」
「私語を慎め。 誰に聞かれてるか分からないんだぞ」
「すみません……」
「……言いたいことは、分かる」
「え?」
今しがた咎めて来た隊長であろう生徒の意外な一言に、部下であろう生徒がガスマスクの内の眼を大きく見開いて反応する。 隊長は小さく溜息を吐きつつ、しかし視界は前方を見つめたまま口を開いた。
「命令じゃなけりゃ、私だってこんなところに来なかったさ。 でも仕方ないでしょ、私達が行かなきゃ次はあの子たちに声がかかるんだから」
「それは、分かってますけど」
「言ってることが滅茶苦茶だって理解してる層と、理解できずに洗脳された層。 ……分かっててやってるんだよ、マダムは。 私達が逆らえないって」
「幸いなのは、直接私達に手を出せないって所だけ、か」
「制約がどうのこうのって言ってたけど、詳しいことは分からない。 でも私達以降の生徒には制約が発動しないから、躊躇うことなく痛みで支配できるんだよね」
何のことを言っているのかは理解できないが、彼女達も一枚岩ではないと言う事だけは把握することが出来るその会話。 「マダム」「制約」と何かしらがありそうな単語が飛び交う中、彼女達は歩を進めていった。
────────────────
────────コンコンと、ノックが部屋の中に鳴り響く。
「……紅茶のお代わりは結構です。 今日はもう何方ともお会いする予定はありませんので」
薄暗い部屋の中、ナギサは椅子に座りながらそう答える。 ここはナギサが保有するセーフルームの一つであり、限られた生徒のみが場所を知っていた。
何があるか分からない、否、何が起こるのか凡そ理解していたナギサはこうして身を隠していたわけなのだが……扉が開く音に、訝しげな表情をして視線を向けた彼女の目に映ったのは、予想外の光景であった。
「────────な、んで」
「あらあら、可哀想に……怖くて怖くて眠れないご様子ですね」
「浦和、ハナコ……さん」
「夜分遅くに失礼しますね。 正義実現委員会が傍に殆どいないこの状況……不安になっているのは十二分に理解できますが、それでもナギサさんに用事があったのでお邪魔致しました」
「どうしてここに……? いえ、そもそも何故この場所が?」
ハナコは微笑んだまま何も言わず、ただ慌て続けるナギサを見つめ続けていた。
ナギサが取り乱すのも無理はなかった。 先程も言った通りこの場所は限られた生徒しか把握していないセーフルームである。 場所がばれる=身の危険である以上、知られていると言うのは絶対にあってはならない事なのである。
「何故分かったのか、と言う事ですよね? それは勿論全て把握しているからに決まっているからですよ……計87か所の場所に、そのローテーションも」
「な……!?」
「変則的な運用も、無論ながら把握してますよ? 正にこのような時ですね、心理的に不安な時は、この秘密の屋根裏部屋に隠れる、とか♡」
「そんな事が……」
「────────動くな、無駄な抵抗はやめてもらう」
ナギサが困惑して取り乱している間に、ナギサの後頭部に銃口が当てられる。 視線だけで人物を確認すると、それはガスマスクを付けたアズサであり……いや、それだけではなかった。
「あぁ、ついでにここまでにいた警備の方も全部片づけたよ。 意外に思うかもしれないけど、私隠密行動もそれなりに出来るんだよね」
「……ラン、さん」
「や、ナギサちゃん。 こんな形で会いたくはなかったけどこんばんは」
「そこまで、するのですか」
「するんじゃなくて、せざるを得ないんだよ。 勿論その原因はナギサちゃんが作ったからなんだけど」
「白洲アズサさんに浦和ハナコさん……まさか、ランさん。 嘘ですよね?」
「……?」
「裏切り者は一人ではなくて、二人……しかも、ランさんがそちら側につくなんて」
「エッ」
何やら盛大な勘違いが発生しているような気がするが、ランは敢えて何も言わなかった。 いや厳密には「えっそんな感じで捉えられてる?」と言った感じの困惑の声を漏らしたには漏らしたが、幸いと言うか残念と言うかその声はナギサには聞こえていなかった。
ランは事前にハナコから「大まかな作戦は此方に任せて、ランちゃんは極力何も言わないようにお願いします」と言われていた。 戦力としてカウントされていたからと言うのもあるが、土壇場のアドリブを任せるには心もとないと言うハナコの配慮もあった。
「ふふ、ふふふっ……! 単純な思考回路でつい笑ってしまいました」
「……?」
「一体、何を」
「私達は単なる駒に過ぎません。 指揮官は別にいますよ」
(えっ、いるの?)
「ッ! それは……一体誰だと言うのですか。 ランさんまで下に付かせる程の存在が、いると言うのですか!?」
「エッ」
なんか話の流れでランまでそう言うカウントにされているが、ランは何も言えない。 ここで何か言ったら計画が破綻しそうだし、何より何を言ったらいいのか分からない。
でも何だろう、このまま行くと黒幕がキヴォトス最強格すらも手中に収める極悪人みたいな扱いになるような気がするのだが。 いやランは最強格ではないなとランは心の中で自問自答していた。
「別に教えても良いのですが……その前に一つ、良いでしょうか」
「何でしょうか」
「ここまで、やる必要ありました?」
「……?」
「補習授業部の事ですよ。 ナギサさんの心労も分かります、ですがシャーレや……本来なら全く関係のなかったランちゃんまで動員してこのような事を、ここまでやる必要がありましたか?」
「それ、は」
「私とアズサちゃんはまあ分かります。 最初から怪しい所はあったでしょうから……ですが、コハルちゃんとヒフミちゃんは違うでしょう? 彼女達にそこまで怪しい所はなかったはずです。 それをついでのように補習授業部に組み込んだこと、私はどうしても理解できません」
「ハナコちゃん……」
「特にヒフミちゃんです。 彼女はナギサさん……貴女と仲が良かったのに、この仕打ちはあんまりでしょう。 考えなかったのですか? こんな事をして、ヒフミちゃんがどれだけ傷付くことになるのかを」
普段のハナコからは想像もできないような圧でナギサへと問いかける。 否、それは既に尋問とでもいうような形になっており、ナギサの額からは徐々に冷や汗が流れ始めている。
ランも内心怖いなとか思っていたが、そんなことは表情に出さずに静かに見守っていた。 決して圧に負けたわけではない。
「……ヒフミさんには、悪いことをしたかもしれません」
「かも、ではないんですよ。 したんですよ」
「全ては」
「大義の為、なんて言わないで下さいね? その様な言葉、今のこの状況では薄っぺらいものでしかありませんから」
「……」
「では、改めて。 私達の指揮官から、ナギサさんへのメッセージをお送りするとしましょうか」
「……?」
一体何だと、ナギサが首を傾げる中。 ハナコは懐からボイスレコーダーを取り出す。 それが一体どうしたのかとナギサが困惑する中、ハナコはボイスレコーダーのスイッチを入れた。 途端にノイズ混じりながらも、聞き覚えのある声がボイスレコーダーから流れ始めた。
『え? もう録音しているんですか? 仕方ないですね……』
『ンンッ……御機嫌よう、ナギサ様』
「なん、で」
『困惑しているでしょうか? でも仕方ないですよね……まさか、私だなんて思ってもみなかったでしょうから』
『でもまあ……それなりに楽しかったですよ? ナギサ様との、お友達ごっこは……ふふ、あははッ!』
プツッと、そこで音声は途切れた。 今流れた声は聞き間違えようのないヒフミの声であり……同時に、ハナコたちの背後にいた黒幕もヒフミと言う事になる。
ランは視線を逸らしていた。 気まずいと言うのが理由ではあるが、それは後ろめたさからではなくこの録音をする時の「ナギサ様の心を抉るような良い音声を撮りましょうね!」とめっちゃ乗り気だったヒフミの顔を思い出したからである。 何でお前そんなに乗り気なんだよ、やっぱ表立って言わなかっただけで内心滅茶苦茶頭に来てたな?
正直ナギサが少し可哀想に思えてくる。 ライクじゃなくラブ気味なヒフミへの愛情が、まさかこんな形で……そして現に、今のナギサは
「あがっ……ひゅ、ひ、ひひっ……」
「……ナギサさん?」
「ひ、ひふみさ、あえ、あ、あぁ……」
「アズサちゃん、介錯」
「当て身」
「んぎっ……」
ランは静かに目を閉じながらアズサに指示を出した。 見ていられなくなったのだ、ナギサの醜態を。
鼻水やら涎やらを垂れ流しながらピクピクと痙攣するその様はさながらホラー映画の一幕のようである。 この様子には流石のハナコもドン引きしており、ランと視線を合わせて「これどないしよ……」と言った事を考えている。
「……あのさ」
「はい」
「これどう思う?」
「提案しておいてなんですけど」
「うん」
「ヒフミちゃん滅茶苦茶キレてたんですね」
「嬉々としてこんな録音残すんだからそらそうよ」
ハナコとランはそんな会話をしつつもナギサを抱えてセーフルームを後にする。 兎にも角にも目標の確保自体は終わったわけなので、作戦を次のフェーズに移さなければいけないからだ。
「ラン直伝の当て身だ、少なくとも1時間は目を覚ますことはないと思う」
「お疲れ様、アズサちゃんは……敵の誘導だっけ?」
「ええ、そうなりますね。 大変な任務ではありますが……」
「問題ない、必ず頼まれたことはこなす。 これでトリニティにいる本当の裏切り者に嘘の情報が流れる……はず」
「……うん、そうだね」
「まだ確証はありませんが、可能性自体は絞り込めたので。 この後はアリウスも情報に惑わされて動きを速めるでしょう」
アズサはやる気に満ち溢れた表情をしているが、反対にランの表情は暗い。 ハナコはあまり表情に変わりはない物の、ランを見て少しだけ心配そうな色が窺えた。
内心辿り着いているのだ、トリニティにいる真の裏切り者の正体に。 嘘であってほしいと言う気持ちと、どうしてと言う気持ちがせめぎ合って穏やかではなかったが……
「ランちゃん」
「大丈夫、私情で動きが鈍るなんてことはしないよ」
「それは分かっているつもりですが」
「任せて、ここにいる以上はきちんと役割をこなすから。 ……例え、親友と敵対することになっても、ね」
「……であるならば、私からは何も言う事はありません」
何も言う事はないと言っておきながらも、その表情は言いたい事が沢山あると言った感じでハナコは先頭を歩いていく。 ランはナギサを抱えながらハナコの後をついて回る、が……
「……本当に、ままならないね」
思わず、と言った感じで漏れた小さなその呟きは、誰に聞かれるでもなく闇に溶けていった。
────────────────
『クレイモアだ! あちこちに設置されてる!』
『クソ! こっちはバリケードにトラップ……足止めか』
『怯むな! 情報通りなら────────』
「案の定、敵はこっちに釣れた訳だ」
「思惑通りに行って結構ですが、ここからが正念場ですよ。 先生、準備は?」
”何時でも良いよ、皆は?”
「こっちは問題ない」
「ふ、不安ですけど……」
「やるしかないなら、もう自棄よ!」
あちこちから爆発や銃撃の音が響き渡る体育館。 先生を始めとした補習授業部の面々はそんな体育館の中で準備を進めていた。
既に体育館のあちこちにはバリケードやトラップが敷き詰められており、これから来るであろうアリウスの襲撃に十分耐えうる量を準備した……つもりだ。
「……成る程、逃げたわけではなく待ち伏せていたのか」
バリケードを張っていた正面ドアからではなく、何もない外壁を爆破して入って来たアリウス。 指揮官らしきガスマスクの生徒が補習授業部を一瞥すると共に、そう言葉を漏らした。
「だが、理解しているのか? 既に逃げ場がない以上、待ち伏せしたところで……」
「問題ありませんよ。 私達で貴女方を殲滅すればいい話ですから」
「正気か? たった四人でどうにか出来るとでも?」
指揮官は鼻で笑う。 情報通りならシャーレの先生と呼ばれる大人自身には直接的な戦闘力はない、指揮能力には警戒するべきであろうが、それだけだ。
補習授業部も、裏切ったアズサの戦闘力はある程度把握しているがその他の生徒はノーマーク。 だが話に上がらない以上上澄みの実力などないだろう。
唯一危険視しなければいけないのは天海ランであるが……件の人物はこの場にいない。 故に出た一言であった。
「そう、たった四人。 その四人にこれから敗れるんだ」
「……減らず口を」
双方共に銃を持った手に力がこもっていく中、体育館の外で一際大きな音が鳴り響いた。 一つだけかと思ったその音はその後も断続的に続いていき、指揮官の無線に唐突に通信が入った。
『此方観測班。 予定通り戦闘に入ったようなのでこれから監視を続けます』
「ああ、そちらの方は任せた」
「……始まったか」
「成る程、そちらも想定内だったか。 ……ならば、既に割れていると思っていいらしい」
「ええ、その通りです。 流石に理由までは掴み切れていませんが、この惨状を引き起こした真の裏切り者────────」
「────────聖園ミカさんの対処は、ランちゃんに任せましたから」
~~~~~
「……やっぱりこうなっちゃったかぁ」
「私は、こうなってほしくなかったけどね」
時間は少しだけ遡り、私は見通しのいい校庭の近くで佇んでいた。
別にサボっているわけじゃない、わざとアリウスの面々に見えるような場所で待機して待っていたんだ……裏切り者が、釣れるのを。
そうして来た、来てしまった。 ……外れてほしかった、ミカちゃんが裏切り者と言う結果を連れて。
「ね、今からでも遅くないからさ。 何も見なかったことにして帰っちゃわない?」
「あは、面白い冗談だね。 そういうのは別の日に聞きたいかな?」
「冗談じゃないんだけどなぁ……ランちゃんもさ、私と戦いたくなんかないでしょ?」
「そうだね、本音を言えば戦いたくなんてないよ」
「なら……」
「でも」
ミカちゃんが何か言おうとしていたが、私は強い語気でその言葉を遮る。 言いたいことは分かる、戦いたくないって言葉も、きっとミカちゃんの本心なんだろう。
でもそうはいかない。 ヘイローを破壊されたと言うセイアちゃん、ヘイローを破壊されるところだったナギサちゃん。 それに、そんな彼女達に巻き込まれる形で理不尽な試験を繰り返すことになった補習授業部のみんなに、そんなミカちゃん達の計画に踊らされ続けている正義実現委員会や、その他の生徒達……
数人だけで済まない、大勢の生徒を巻き込んだこの一連の騒動。 そこに私が本来いることはなかった、きっと要請がなければ私が何も知ることなく大変なことが巻き起こっていたであろうその未来を予想すればするほど……
「────────もう見て見ぬふりの傍観者でいられる時間は過ぎたんだよ、ミカ」
「……そっか、ランちゃんはそう言う人だったね」
ミカちゃんの一言で、お互い何を言うでもなく……ほぼ予備動作なしで動き、互いの獲物を互いの獲物に叩きつける。 ギリギリと金属がこすれ合う音と共に、火花が周囲に飛び散る。
互いに踏ん張るその足元は足の形をくっきり残すような形で陥没し、その威力がどれほどのものなのかを容易にさせる。
「これ以上、貴女が道を踏み外さないように」
「これ以上、貴女が私の邪魔をしないように」
「「ここで────────潰す!!!!」」
トリニティの天使と、ミレニアムの破壊の権化、ここに相対する。
金曜の更新は微妙、すまんの
小説の書き方、どっちがいい?
-
これまでの書き方でいいよ
-
新しい書き方でお願い