セミナー副会長はとにかく巻き込まれたくない   作:ピンク髪大好きニキ

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超ギリギリに書き終えました、多分更新しておきながら随時修正はいると思う


41話「天外魔境決戦」

 

 

 

トリニティの聖園ミカと言われれば、大抵の生徒はティーパーティーの一人と言う感想を述べる事だろう。

 

彼女自身に政治能力はあまりなく、その身自体が派閥の象徴として扱われる。 故に彼女の事を詳しく知る人物と言うのは限られてくる。 ……ではその限られた人物から見た聖園ミカは、一体どんな人物なのか?

 

 

「────────ッ!!」

 

「あはっ、それはもうさっき見たよ!!」

 

 

────────獣染みた直感と膂力を持った『敵にすると厄介この上ない生徒』と言うのが、関係者の共通認識だろうか。

 

彼女自身、あまり戦闘行為はしない。 それは立場的な意味合いもあるが……そもそも、大抵の生徒とだと勝負にすらならないからだ。 初手の攻撃で沈む場合が多く、その攻撃を受けきったとしてもその時点で肉体に多大なるダメージを負っている状態になってしまう。

 

一撃一撃が、並みの生徒の必殺に近しいその様は、まさに決戦兵器と言っても過言ではない。

 

 

「相変わらず、馬鹿みたいな力……」

 

「それはランちゃんにだけは言われたくない……か、なっ!!」

 

「ぐっ……!?」

 

 

尚、膂力と言う意味であればランも負けていない。 いや寧ろ膂力のみを見ればランの方が上だと言える。 そのはずなのに、正面からの殴り合いだとミカに撃ち負け、その身に拳が突き刺さっていると言うおかしな状況に陥っている。

 

理由は簡単だ、ただ単に上手いのだ。 拳と拳が当たる瞬間にのみ力を込め、拮抗状態を即座に崩して相手のがら空きになった胴体へと二の次を叩き込む。 しかも意図的にではなく、半ば無意識で。

 

ミレニアムの美甘ネルが計算に計算尽くされた戦闘スタイルだとしたら、ミカは直感と嗅覚に頼った野生の獣のような戦闘スタイル、ともいえる。

 

 

(分かってはいたけど、ミカちゃんとの戦いはやり辛い……!)

 

 

ランは心の中でそう愚痴り、顔を顰める。

 

彼女自身戦闘が苦手、と言う訳ではないのだ。 ネルとの戦闘なら相手の裏の裏をかいて戦うし、ヒナとの戦いなら真正面からの殴り合い、ツルギとの戦いなら相手の尋常じゃないタフさを上回るような猛攻を繰り返せばいい。

 

……だが、ミカとの戦いはそのどれもが通用しない。 いや通用自体はするが、そのどれもが決定打になり辛い。

 

 

「……なんで」

 

「?」

 

「なんで、こんな事をしたの。 こうまでしなければいけなかった理由があるの?」

 

「……あるよ。 私にとってはとても重要な理由が」

 

「────────ゲヘナが嫌い、大っ嫌い。 私にとって十分な理由じゃない?」

 

「ッ!」

 

 

まるで今日の献立でも語っているかのような軽い口調に、ランの拳に力がこもる。

 

分かっては、いた。 ミカがゲヘナの事を嫌っているのは、知っていた。 だからと言ってここまでの大ごとをしでかすとは流石に思っていなかったのだが。

 

 

「その為にナギサちゃんを? セイアちゃんを? そんな事の為に?」

 

「そんな事? 今も言ったけど私にとっては十分な理由なんだよ」

 

「……ふざけないでよ。 だからと言ってヘイローを壊す? 親友じゃなかったの? 親友を手にかけてまで成すべきことだって言いたいのか!!? ミカッ!!!」

 

「そう、そうだよ。 ……でも、セイアちゃんのヘイローを破壊しろとまでは言ってない。 それだけは信じてほしいかな」

 

「……」

 

「あは、怖い顔。 まあ信じてくれなくても良いよ? どの道ランちゃんも、補習授業部も先生もどうにかしてアリウスは正式な組織にするから」

 

「……ティーパーティーを、いやトリニティを乗っ取るつもり?」

 

「結果的にはそうなるのかな? エデン条約を締結させようとしてるナギちゃんを捕まえて、アズサちゃんに全部罪を被せて、アリウスは正式な武力組織にする……」

 

 

ミカはそこで言葉を区切り、ランに向かって微笑む。

 

その微笑みは何処か昏いものを感じさせるものだったが、果たしてミカにその自覚はあるのだろうか。

 

 

「アリウスと仲直りしたいって気持ちは本当。 共通の敵の為に、お互いに手を取り合って難関に挑む……これって良い事じゃない?」

 

「その過程で、どれだけの犠牲が出ることになっても?」

 

「古来よりそう言うものじゃない? 成すべきことの為に出来る犠牲は付き物でしょ?」

 

「嬉々として行おうとしてるミカは異常者だよ」

 

「異常者、かぁ……確かに、もう止まれないって意味ではそうかもしれないね」

 

「私は、見過ごすことが出来ない。 ここで止める」

 

「出来るの? 今まさに旗色が悪いランちゃんが?」

 

「……」

 

(出来なくは、無いけど。 決して、楽観視できないものではあるけど)

 

 

右手を開いたり閉じたりし、ランは思案する。 どうにかする、若しくはどうにか出来る手段は、ある。 しかしながらそれは正体不明であり詳細が一切明らかになっていない物であり、安易に使おうとは思えない代物。

 

きっと、黒服が言っていたのはこの事だろう。 本人にすら何故出来るのか分からないそれは、確実に目の前のミカを無力化できる……否、ヒナやツルギ、果てにはホシノですら対処できるか怪しい代物だ。

 

だからこそ、ランは使わなかった。 本気で怒ったアビドスの一件の時ですら、頭に血が上っていたあの状況ですら使うことをためらう程度には未知数の力、理外のナニカ。

 

 

(でも、ここで躊躇えば……)

 

 

躊躇えば、間違いなく自分は敗れる。 敗れたら補習授業部や先生だけじゃない、トリニティやゲヘナ……キヴォトス全域が混乱の渦に巻き込まれてしまうであろうこの重大な局面となると、四の五の言っている場合ではないのだろう。

 

 

「だんまりかな? なら早く終わらせちゃいたいんだけど」

 

「……そうだね」

 

「うん?」

 

「────────終わらせようか、私も長々と戦うつもりはないから」

 

「……?」

 

(雰囲気が、変わった?)

 

 

ミカは警戒を強める。 何かが変わった、そのなにかは具体的には言い表せないが……ランのまとう空気が変わった、ように思えた。

 

まるで、目の前にいる人物がランではなくなってしまったかのような錯覚に、ミカは瞬時に自分のするべきことを考える。

 

 

(何をしようとしてるのか分からないけど……危ない感じがするんなら、叩くッ!)

 

 

守りに入るより攻めに転じる。 ミカはその直感に従い、一気にランの懐へと入り込もうとする。 無論ランもその行動を予測していたのかアドミニストレーターで防御しようとするが……

 

 

「……ッ!!?」

 

「あ、ごめんね? 壊しちゃった」

 

 

バキッと言う音が鳴った次の瞬間には、重厚だったはずのアドミニストレーターがひしゃげ半ばから圧し折れた。

 

 

(なっ……!? まさか、この土壇場で……ッ!!)

 

 

まさかの展開にランは息をのむ。 定期メンテナンスを怠ったのがいけなかったか、はたまたこれまでの連戦が祟ったのか……兎も角、攻撃手段の一つが絶たれたことだけは明らかだ。 出来てしまった隙をどうにかしようと動くが……

 

 

「でもそんな時間は与えちゃダメだよ、ねッ────────」

 

「か、はっ……!?」

 

 

ミカもその隙を逃すはずがなく、がら空きとなった胴体にこれまで以上に力を込めた拳を叩き込んだ。 ランの口から赤いものが滴ると同時に、その身は勢いよく吹き飛ばされていき……二桁近く地面をバウンドした後に、校庭の上で止まった。

 

 

「やりすぎちゃったかな……後で回収を頼まないと」

 

 

今の手ごたえは、確実に仕留めた。 ミカはそう判断して体育館へと足を向け……首の後ろにチリチリとした感覚を感じ、即座に後ろを振り返る。

 

 

「ぐ、ぅ……ッ」

 

「驚いたぁ……まだ意識があるんだ」

 

「そう、かんたんに……たおれてられない、からね」

 

「でもその状態じゃ満足に動けないでしょ? 今度こそ……」

 

「い、や……もうじゅうぶん」

 

「?」

 

「────────距離も開いたし、ここからなら届く」

 

「ッ!!?」

 

 

チリチリとした感覚は未だ無くなっておらず、寧ろ強くなっていく。 不味い、何かがある。 アレをあのままにしていたら何かある、そう直感的に感じたミカはランを気絶させるべく銃を構えたが……

 

 

「一手、遅かった、ね……」

 

「何を……」

 

「■■■イ■■■ト」

 

 

何かをランが呟いた瞬間、鈍く輝く光がミカへと迫り────────

 

 

 

────────────────

 

 

 

「……誤算でした。 まさかここまで正義実現委員会が動かないなんて」

 

”ミカが裏切り者なんだとしたら、ティーパーティーの権限で何かしたって可能性、かな”

 

「恐らくそうでしょう。 ……そう言う点だと、保険はかけておいて正解だったみたいですね」

 

”? 何かやってたのかな?”

 

「ええ、念には念を入れて一つだけ。 皆さん、申し訳ありませんがもう少しだけ踏ん張ってください」

 

「分かった、と言ってもこの状況だとそうするしかないんだけども」

 

 

所変わって体育館。 最初はすぐに鎮圧できると思っていた補習授業部だったが、予想に反して大勢のアリウス生を相手取ることになってしまっていた。

 

先程まで騒がしいくらいだった校庭の音も鳴り止んでおり、向こう側は一段落済んだのであろうか。 ……願わくば、ランが勝っていてほしいと先生が思案する中、遂に事態が動いた。

 

 

「報告します! 此方に向かってくるトリニティ生徒が……」

 

「何……? 話なら、ここには来ないはずだぞ」

 

「確認したところ、大聖堂から向かってきているみたいで……」

 

「ッ!!? ……成る程な、そう言う事か」

 

 

俄かにアリウス側が騒がしくなる中、その騒動を断ち切るかのように体育館の壁が勢いよく破砕される。 新たな増援かとヒフミ達が警戒度を引き上げるが……

 

 

「……どうにか、間に合ったみたいだね」

 

「ら、ランさん……!」

 

 

壁の向こう側から姿を現したのは、ランだった。 右手には最早武器としては使用できそうにない圧し折れたアドミニストレーターを持ち、左手には意識のないミカを掴んで引き摺り回している。

 

どうやら、向こう側の戦闘はランの勝利で終息できたようだ。 裏切り者でありアリウス側からしたら協力者であったミカのその姿に、今度こそ動揺を隠せなくなっていた。

 

 

「ちっ……! 計画は、失敗か」

 

「ど、どうするんですか? この後の事は」

 

「まぁ、失敗したんだしもう無駄に抵抗するのも止めるか」

 

「えぇっ!?」

 

「えぇ……?」

 

 

次は何を仕掛けてくるのかと警戒していた補習授業部だったが、予想に反して即座に武器を捨てて座り込んでしまった指揮官らしき生徒を見て、ヒフミは気の抜けた声を出してしまった。 それは今しがた入って来たランも同じであり、予想外の行動に目を見開いて行動の真意を測ろうとしていた。

 

 

「やけに潔い……いやここまで抵抗してたみたいだから潔くは、ない、か?」

 

「まあ、こっちにも事情があるんだよ。 私は無駄な抵抗はしないから、どうにか部下には寛大な処置をお願いしたいね」

 

「……先生?」

 

”分かった、私も説明はするから他の生徒も武器を下ろして投降してほしいかな”

 

「どうする?」

 

「どうするもなにも……これ以上はダメそうだし素直に従った方が良いんじゃない?」

 

 

ボソボソと話し合っていたアリウス生達だったが、やがて一人、また一人と武器を遠くに投げ捨ててその場に座り込んでいった。 あまりにも素直に投降していくのでまだ何かあるのではとハナコは鋭い視線を止めなかったが……本当に何もする気がないようなのを確認して、ホッと一息ついた。

 

そしてすぐさま慌てたようにランに視線を向け、足早にランの下へと向かって行った。 薄暗くて良く見えていなかったが、今のランはお世辞にも無事とは言い難い姿をしていた。

 

頭部からは出血が見られ、口の端からは吐血したらしい跡が伺える。 制服だってボロボロになってしまっているし、露になった腹部には痛々しい青痣が出来てしまっている。 よく見たら右腕も角度が少し曲がっており、骨折しているのではないかと……骨折している可能性のある腕で、数十キロの物を持ち歩いてきた、と言うのだろうか? なんだそれ。

 

 

「ランちゃん! ……ご無事、と言い難い姿ですが、ご無事で何よりです」

 

「ごめんね、遅くなっちゃった。 思った以上にミカちゃんが手強くて」

 

「いえ、幸い此方の奥の手も間に合ったようですし……私としては、彼女達の潔さが不気味で仕方ありませんが」

 

「それは私もそう思った。 何か理由があるのかもしれないけど……今は腰を据えて話をする余裕はないかな」

 

「私もです。 後はここに向かってきているシスターフッドの方々にお任せしましょう」

 

「……何を対価に、協力を要請したのかな?」

 

「ふふ、少し約束を……と言っても、ランさんが心配する様なことは何もありませんのでご安心を」

 

「それなら、良いんだけど」

 

 

絶対嘘だろうなぁ、とランは思案する。 何の見返りもなくシスターフッドが動くわけがない、あそこはこのようないざこざに介入するような場所じゃない。 いやサクラコならランが絡めば動きそうな気もしなくもないが、流石に公私は分けるだろう。

 

しかしハナコが話そうとしない以上、それ以上の追及は時間の無駄だろう。 そうランは考えて口を噤んだ。

 

 

「心配で少々早く着いたと思いましたが……既に終わっているようですね」

 

「あ、サクラコちゃん」

 

「ランさん……ランさん? 何ですかそれは酷い怪我ですね今すぐ応急処置をしなければ!」

 

「いや勢いよ。 確かに痛いけど今は別の事を優先しないと」

 

「それはマリーとヒナタに任せますので早く座って下さい! ほらマリーにヒナタ! 今すぐやるべきことを!」

 

「え、ええ……」

 

「あの、多分先頭に立って動かないといけないのは……いえ、言っても無駄そうですね。 皆さん、此方へ」

 

 

サクラコの様子に早々に見切りをつけたマリーとヒナタによってアリウス生が次々に拘束される中、今の今まで気絶していたミカの体がピクリと動く。 弱弱しいながらも目を開けたミカは、目の前に広がった光景によって事態がどうなったのかを理解したらしい。

 

 

「う、ぅ……ここ、は」

 

「ミカちゃん、起きたみたいだね」

 

「はは……お陰様でね。 あーあ、結局失敗しちゃったかぁ」

 

「残念ながら、成功させるわけにはいかないからね」

 

「酷いよ、ランちゃん。 アレは無いでしょ、あんなのがあるなんて知ってたら」

 

「こんな事、してなかった?」

 

「……ううん、知ってても止まらなかったと思うよ」

 

「そっか」

 

「……本当に、何処で間違えちゃったかなぁ」

 

「……」

 

「やっぱりランちゃん、ううん、先生……余計な変数を持ち込まなきゃよかった。 そうしたら、今頃別の道があったかもしれないのに」

 

 

そう言って小さく溜息を吐くミカ。 だがその表情は晴れ晴れとしており、まるで「止めてくれて良かった」とも捉えることが出来た。 その想像があっているかどうかは、本人に聞いてみなければ分からないが。

 

 

「裏切り者が、って騒いだ時に使えると思って声をかけたけど……そっか、あの時から間違えてたんだね」

 

「ええ、きっとそうでしょう。 ですが、決定的な間違いは、起こしていませんよ」

 

「どういう意味?」

 

「セイアさんは無事です、ずっと偽装されていたんですよ」

 

「ッ! ……そっかぁ、セイアちゃん無事なんだね」

 

「怪我の関係でまだ目は覚ましていないようですが、今も救護騎士団の団長が傍で見守っているはずです」

 

(……あれ、前一緒にお茶した気がするけど。 ずっと看病してるんだよね?)

 

 

ちょっと気になることも出来てしまったが、概ね最悪の事態だけは回避することが出来たと思っていいのだろう。 聞きたいことは山ほどあるが、一先ずの峠は越えることが出来た。

 

 

……出来た、からだろうか?

 

 

「ハナコちゃん」

 

「何でしょう、ランちゃん?」

 

「私もう限界だから寝るね、多分そのうち起きると思うから」

 

「え? 急に何……ッ!? ランちゃん!?」

 

 

それだけをハナコに伝え、突然前のめりになって倒れるラン。 血相を変えてハナコが駆け寄るが、ランは何の反応も示さなかった。

 

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