更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話   作:nalnalnalnal

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更紗帆奈はかく語りき
第1話 ある世界の始まり


 

 

 

 

 ──まぁ、そうだね。どこから話そうかなぁ〜。いやぁ、自分の過去ってどうやって話せばいいのかな?文面ならまだしも口に出すとなると変な感じだよねぇ…

 時系列順にでも話す?でもそれじゃ長くなっちゃうよね。ダイジェストみたいに話せばあたしも楽だし…要点だけ絞って話そっか。あんたが知らない話もあるからさ、暇にはならないよ。

 

 

 

とりあえずあたしの生まれの話でもする?そっから色々繋がってくからさ、まぁ聞いてよ。

 

 

 

 

 

 まぁ、色々あったけどさ、あたしの人生が狂わされ始めたのは小学校に上がった時に来やがった父親かなぁ?

 でもでも、ソイツが居てくれたからあたしにとっても転機が訪れることになるの!それは追々話すけどね。

 んで、その父親がまぁ〜クソオブクソでさぁ。毎日のようにあたしに暴力振るって家では王様気分!母親だって見てみぬふりだよ。あたしが母親の身代わりになってたからかな?

考えられる?実の娘が目の前でDVに遭ってるってのにさぁ。まだ年齢も一桁台だってのに、こんな現実を突きつけられた訳。笑っちゃうよね…あっは!

 

 

『辛気臭ぇガキだなお前は…そんな面で見てんじゃねぇよ!』

 

 

 よく言われた言葉。今となっちゃそんなのどうでもクソでもいいけどね。まぁ、当時のあたしは本当に辛気臭かったからね…今でも大して変わんない気もするけど。

 それでさ、やっとよちよち歩き始めた子どもがそんな状況でずっと耐えられると思う?思わないよね?

 子どもだからってのもあると思うんだけど、両親に対してムカつくとか、死ねだとか…そんな感情ばかり湧いてた。

 

 

 でもさぁ、そんな事口には出せなかった。出したらボコられるの確定でしょ?無駄にいきがって自分を傷つけたくなかったんだよね。多分…

 んで、そんな日々がどんどん流れてった。あたしの感情なんて誰も知らないまま。

 でも、嫌だったんだよね。ずっと腹の底に黒いものが溜まっていく感覚が。

 

 

 話し相手が欲しかった。この負の感情をぶつけられる捌け口が欲しかった。共感してくれる人が欲しかった。当時のあたしはさっきも言ったけど、辛気臭かったからねぇ〜。友達は全く居なかった。そりゃ、こんなクソ環境で育った奴と仲良くしたいって思う奴居る?普通は居ないよね。普通は…

 

 

 ──そう、普通は…

 

 

 まぁ、あたし自身も普通ではないってよく分かってた。学校の連中見てたらそうなるのは分かるでしょ?皆んな明るくてさぁ〜。

 別に虐めがあったって訳じゃないけどね。後々直面はするけど…まぁ、居場所が殆ど無かったんだよねぇ。

 

 

 

 ──そう、思ってたんだよ。でも…

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……はぁ、何してんだろ。あたし……」

 

 

 ほんと、出て行ったところで何にもないのに…でも、もうあんな場所には居たくない。もう暴力は受けたくない……

そんなこと言ったってどうにもならないんだけどね…あたしが一番分かってる筈でしょ。死のうと思ったって怖くて死ねないし…アイツらよりも先に死ぬなんてムカつくし。

 帰ったらまたボコられるんだろうなぁ。

 

 

 ……クソッ!クソクソクソ!

 

 

 なんであたしがこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ!学校の奴らだって心の奥底ではあたしのこと見下してるんだ…あたしから話しかけようとしても無視される。

 なんであんたらばっかり……ただ生まれた家が違うだけなのに。なんでこうも格差が生まれるの?

 

 

「──っ」

 

 

 虚しい。普通なら親が助けてくれるんだよね。子どもが困ってたら…何度そんな景色を夢見たことか。クリスマスにそんな世界を望んだこともあったっけ。

 一人でいいから友達が欲しい…でも無理だよね。こんな奴と仲良くしたい奴なんて居ないよね。

 

 

「──大丈夫?」

「……えっ?」

 

 

 突然、上から男の声が聞こえた。(うずくま)ってたから不意に掛けられた声に驚きを隠せなかった。だってこんな夜に公園で一人で居る子どもに声を掛けるなんて、不審者だと思ったから。

 だから恐る恐る顔を上げた。そしたらそこには、あたしと同い年ぐらいの男子が怪訝な顔であたしを見ていた。

 

 

「いや、一人で泣いてたからさ……大丈夫かなって思って」

「別に…何でもないよ」

 

 

 なんかあたしを憐れんでるみたいな表情がとにかく気に食わなかったからツンケンとした態度をとってしまう。学校であたしを見下してる奴らみたいだだから。

 

 

「……何でもない事はないと思うんだけど……夜中なんだし。多分、俺と同じ感じでしょ? 家出──とか」

「……そう、だけど」

「あの、俺もそうだからさ……話、聞くよ?」

 

 

 でも、そんな嫌悪感はすぐに無くなった。何なんだろう…この感じ。不思議と警戒感が解かれるような……どうしてか、そう思ってしまった。

 

 

 

 

 ──この出会いが、あたしにとって大きな転機になった。

 

 

 

 

 

「じ、じゃああんたは姉ちゃんと喧嘩しちゃったんだ……」

「うん。君は親と喧嘩したんだね」

 

 

 突然やって来たこいつ──名前は『六倉(むつくら)ナル』って言うらしい。どうやら姉と喧嘩して家出したみたい。そう言えば、あたしの隣の家にそんな奴が引っ越して来たって少し前に聞いた覚えがあった。それがこいつだったんだ。

 こいつが一方的に話すもんだから、あたしも話さなきゃって思っちゃって…話しちゃった。あたしの事。

 なーんか親近感でも湧いちゃったのかな?こいつとは普通に話せた。見る限り、こいつも同じみたい。

 

 

「そうなんだよ……! ほんとムカつくんだよ! 大の大人が寄ってたかって子どもに暴力振るってさ! 馬鹿みたいじゃない!? お母さんだって助けてくれないから……あたしはずっと一人だっ……あっ」

 

 

 いけない。ついカッとなってナルに怒鳴りつけるようになっちゃった。ナルだって悩んでる筈なのに……ほんと馬鹿みたい。あたしもお父さんに似始めてるのかな。

 ああ、びっくりした顔してる。そうだよね。急に怒鳴られたらあんただって怖いよね。だから家出なんてしてるんだよね……

 

「ご、ごめ……」

「──大丈夫だよ。元はと言えば俺が始めた話だし……そうやって吐き出せた方がスッキリするよ。俺も悪口は慣れてるから……ここで全部吐き出しとこようよ!」

 

 

 ──信じられなかった。普通なら嫌な反応を見せる筈なのに……ナルは嫌な顔一つと見せず、なんならもっと言ってこいと促して来た。

 初めてだった。本音を吐き出しても良いのかって思える相手が目の前に居る。あたしは……今だけは、吐き出していいの?

 

 

「俺だってさ、悪いところはあったと思うんだよ! でもさ、全然話を聞いてくれないんだよ! 姉ちゃんだって悪いところある! 全部ダメって言ってくるんだからさ!」

 

 

 ナルはあたしに同調するみたいに姉に対しての悪口を吐く。それに続けと言わんばかりに。

 だからあたしは──

 

 

「……そう、そうなんだよ! アイツらが悪いんだ! 親が暴力振るうなんて考えられる!?」

 

 

 両親への暴言を吐き散らす。ナルはそれを聞いた途端怒った顔をしてあたしの悪口に乗っかってくる。

 

 

「暴力なんてダメに決まってる!」

 

 

 ナルとあたしは結局ずっと日頃の愚痴をお互いに吐き続けた。お互いを慰めるかのように。

 

 

 

 

 

「あのさ……俺と友達になってくれない?」

「えっ、あ、あたしと?」

「うん。俺さ、姉ちゃんは居るけど、あんまり本音では話せないんだよね。姉ちゃんは俺と住む世界が違うから。迷惑かけたくないんだよね」

「でも、今日帆奈と話してみて初めて本音を語れる人と出会えた。だからもっと帆奈と話してみたいんだ。ど、どう?」

「……あたしでいいの?」

「勿論!俺友達少ないから。しかも本音を話せるのなんて帆奈しか居ないんだ」

「……あ、あたしで良いなら」

 

 

 

 ──初めて友達が出来た。これがあたしにとって一つ目の出会い。

 

 

***

 

 

 その日から、あたし達は時々こっそりと会ってお互いに愚痴を吐き続けた。遊ぶときは初めて出会った公園がメインで、めちゃくちゃ楽しかった。

 何度か話して分かったけど、ナルはお人好しだ。姉の事を大嫌いだとか言ってるけど、本当は大好きなんだろう。だって姉を気にかけてるから一人で愚痴を押し込めていたんだ。あたしとは真逆の性格。あたしみたいに辛気臭くなくて、いつも幸せそうだった。

 でも、そんなナルと初めての友達になれて嬉しかった。ナル以外とは殆ど話せないけど、ナルとはお互い本音で話せるし、性格だとかの違いなんて気にならなかった。

 

 

 それと、ナルが言うには、ナルの家に居るのは実の姉と義母?らしい。ナルは義母の事が大嫌いだそうで、いつも義母は無関心で姉だけがナルの面倒を見てくれるんだって。そのせいで喧嘩もしちゃうんだろうけど。

 だからナルはあたしと義母を会わせたくないからいつも外で会ってくれるんだ。本当はナルの部屋とか見てみたいんだけど…

 まぁ、あたしも親とナルを会わせたくなんてないしね。

あたし達は性格も境遇も真反対だけど、ナルと出会ったのは偶然ではなかったのだと思ってしまった。

 

 

 そんな思いもよらない楽しみのある日々が続いて行った。まぁ、相変わらず暴力は振るわれるけど…ナルを巻き込む訳にもいかないし、なんとか耐えられた。ナルは心配してくれていたけど、流石にね?

 

 

 

 

 

 ──そして…月日が流れたある日。お父さんが死んだ。

何が揉め事起こして刺されたんだって!心の底では嬉しかったよ?やっと消えてくれたって!でもさ…これをナルに話そうか悩んだ。ナルはお人好しだから、きっと哀れみの目を向けてくる筈。例えナルでもそれは嫌だった。

 

 

 ──そう、思ってたんだけど。ナルから帰って来た返事は意外なものだった。

 

 

『そう、なんだね…別に、俺は何も言わないよ。帆奈が自分でこれからを決めるべきだよ。俺は帆奈の親じゃないから…答えが決まったなら、ちゃんと教えてよ』

 

 

 あくまで最終的な決定権は自分にある。というもの。ナルはあたしを否定しないでくれた。それだけで誰かに認められた気がしたんだ。あたしが存在しても良いんだって言われた気がした。

 

 

 

 

 

 

 ──そして、また月日は流れ…次はお母さんが死んだ。お父さんが死んでまるで生まれ変わったかのように嬉々として出歩くようになり…そんな調子で車に轢かれたと。これまたつまんない死に方!

 

 

 それでまたナルに話した。お父さんの時みたいにあたしを否定しないでくれると思ったから。でも…

 

 

『帆奈はさ…両親が死んで嬉しいって思ってるの?それは…ちょっとダメだと思うよ。前、帆奈の生き方は帆奈が決めるって言ったけど、それはダメだと思う。それだと帆奈を虐めてた両親と同じだよ!俺は帆奈にずっと優しい子で居て欲しいんだ』

 

 

 初めてのナルからの否定──初めて喧嘩した。前と言ってる事が違うって。あたしがあいつらの事を嫌いだったのは知ってたでしょって。あたしは優しくなんてない…ナルとは違うんだ。

 

 

『帆奈は優しいよ。俺なんかと仲良くしてくれてるんだから…だからお願いだよ。俺は帆奈を嫌いになりたくない』

 

 

 …(ずる)い。(ずる)いよ。

 

 

 結局、ナルから謝られてあたし達は仲直りした。初めて見つけたあたしの居場所が無くなるのが怖くなってしまった…ナルに嫌われたくなかった。そんな想いがあったんだと思う。

 

 

***

 

 

 

 ──そしてあたしは…両親が居ないから施設に入れられる事になった。それをナルに伝えたら酷く悲しそうな顔をしていた。でも、手紙とか書くからって言われて、何とか施設でもやっていけるかな。とは思っていた。

 

 

 まぁでも、結局施設では孤立しちゃって…ナルから寄せられる手紙が唯一の楽しみだった。勿論、ナルともちょくちょく会っていた。碌に移動手段もなかったから本当にちょくちょくだった。それでも良かった。

 ナルの手紙には色んな内容があった。姉の事や義母の事…ナルのこと。姉は教師を目指しているそうで、実際に学校に教育実習生として出向いているらしく、ナルもそれを応援しているらしい。あたしには無い姉弟の絆にはよく嫉妬させられた。最近姉は夜中にも出歩いて忙しくて、面倒を見てもらう暇もないそうだけど…変な事に手を出したりしてるんじゃないの…?

 それである日の手紙には…義母が死んだ事が書かれていた。だからナルと姉は別のところに引っ越して行くそうだ。初めは焦ったけど、神浜市内であることに加えて、手紙に絶対会いに行くからと書かれていたから何とか落ち着いた。

 

 

 ナルは引っ越しても本当にあたしに手紙をくれて、内容もナルの学校での出来事が書かれていたんだけど…何だか違う気がした。本当にこんな内容なの?あんたはこんな生活を送れているの?そう心配になってしまう程ナルの手紙には違和感があった。それはあたしが施設に入る前からも抱いていたもので…

 

 

 今のナルは、まるでナルじゃないような──そんな気がした。仮にも長い時間一緒に遊んだりしたんだ。それぐらいは分かる。でもナルは話してはくれなかった。ナルが引っ越しした場所も…

 何だかナルが遠くに行ってしまったような気がしていた。ずっと本音で話し合っていたのに…今では本音はおろか、ナルの顔すらも見る事ができないでいた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 ──そして…ナルが引っ越してから結局一度も会わない内に突然別れを告げられた。何の前触れもなく。

 

 

 それは、ある日の手紙。

 

 

『ごめん。もう会えない』

 

 

 ただ、それだけが書いてあった。

 

 

 

 ──それが、あたしにとって最初の絶望。




とりあえず1話だけ投稿。
幼少期時代の帆奈なら、まだ混沌になる程のエキセントリックっぽさはギリギリ持ち合わせてはいないんじゃないかという妄想。
本来内向的な性格なので、共感してくれる人が居たら少しは依存してしまうんじゃないかという解釈。
私の独自解釈が強めですが悪しからず。



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