更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話   作:nalnalnalnal

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第10話 少年の日の思い出・上 【一番短くて一番長い日】

 

 

 

「来たよ!ナル君…その、話って?」

「鶴乃さん。まぁ座ってくださいよ…聞いてて心地いい話ではないですがね」

 

 

 営業を終えた鶴乃さんがみかづき荘に汗ダラッダラの状態でやって来たです…きっとナルさんが身の上話をすると伝えた事が原因なのでしょう。ボク達だって鶴乃さんが来るまでの間ずっと気持ちを落ち着かせていたです。対してナルさんは終始無言でいつもの柔らかな雰囲気は消え去っていたです。

 

 

「それで…話してくれるの?」

「はい。ただ、一つ忠告というか…言わなきゃいけない事があるんですよ」

「忠告って…?」

「俺の身の上はどうでもいいんですが、どうも話す上で魔法少女についての真実ってのが必要不可欠になってくるんです。きっとそれを聞いたらこの場にいる全員が気が気でなくなる…それでも聞いてくれます?」

 

 

 魔法少女の真実…?一体何なんでしょうか…でも、ボク達は同じチームのメンバーとしてナルさんの話を聞く権利がある。いや、聞かなきゃいけない。

 ──答えなんて既に決まってるです。

 

 

「はい!」

「…そっか」

「じゃあ話しましょうか。手短にはするつもりですが…」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 まずは姉ちゃんが死ぬ迄の経緯というか、俺の状況について話しましょうか。

 

 

 当時の俺は丁度小学校を卒業した頃で附属学校への入学を控えていた頃でした。とある理由で大怪我をして入院してたんですけど、入院した頃から姉ちゃんの様子がおかしいと言うか、だんだんとやつれていってたんですよね。

 まぁその理由ってのが学校で横行していた虐めなんですが…今思えばそれが死に至るまでの大元の要因だったんでしょうか。付け込まれる隙を与えてしまった俺が悪いんですがね。

 

 

 その頃の姉ちゃんは大学生で、丁度卒業論文を執筆し始めた時期でしたね。テーマは『神浜の軋轢』について…俺が物心ついた頃から軋轢に対して何かと思う所が多く、和泉さんが居る大東区まで教育実習生として出向くぐらいでしたから。

 っと、話が逸れましたね。

 

 

 怪我も順調に回復してとうとう俺も晴れて退院…既に附属学校の入学式は終わってたので俺は皆んなとは一足遅れて入学する事になっていました。

 退院の決定を姉ちゃんに伝えたら凄く喜んでましたよ。そりゃもう年齢なんて気にせずに…あの頃の姉ちゃんの笑顔なんて珍しかったですから。

 

 

 入学に向けて色々な手続きや怪我のリハビリ…苦い経験はあれど、また何とか再起していつも通りの生活を送れると信じてました。

 あの日までは──

 

 

 ──それは、俺が退院した日の事でした。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「ナル。よく聞けよ」

「う、うん…」

「誰が来ても…絶・対!何があっても玄関を開けるんじゃないぞ」

「そんなに心配しなくても分かってるよ…?」

「もしもの事を考えてくれ…頼むよ。今日はバイトバックれてくるから夕方頃には帰る。それまでは本当に大人しくしていてくれ…」

「バックレていいの!?分かった、分かったから…」

 

 

 心配性だよな姉ちゃんは…虐めの事を話していなかった事に腹を立てているんだろうが。自業自得だなぁ…仕方ないじゃん。姉ちゃんには教師になって欲しいし、俺に構って時間を無駄に浪費して欲しくない。

 姉ちゃんが教師になったら人気出そうだよな。姉ちゃんの知り合いから聞く限りだと顔はモデルさん顔負けの整ったものらしいし。

 

 

「昼飯はナルの好きなモン作っといたからな。腹減ってもあんまり食い過ぎるなよ?」

「うん。いってらっしゃい」

「ああ、行って来ます」

 

 

 …姉ちゃん、やっぱり無理してるよな…?

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 …何て言ったものの。俺も割と虚勢を張ってるんだよね…正直に白状すると俺はメンタルが豆腐だから虐めの光景がいつもフラッシュバックしている。

 あの時負わされた怪我の痛みも忘れられないし、教室での孤独感、疎外感も当たり前だと思ってしまっている自分が嫌になる。

 忘れよう、忘れようと言い聞かせる程忘れられなくなる。

 

 

「何で姉ちゃんとは普通に話せるのに学校では上手く話せないんだろうな…」

 

 

 ベッドの上で枕に顔を埋めて自分の感情を表現する力の無さに辟易する。皆んなは普通に友達を作っているのに、なんで俺は作れないの?

 なんで皆んな俺を無視するの?なんで皆んな俺を虐めるの?

 こんな事を疑問に思って何になるんだろうな。虐められた事実は消えないし、俺が悪いのも事実。でもこうして考えてしまう…

 

 

「なんでこうも姉ちゃんとは全然違うんだろうな…」

 

 

 教師なんて大勢の前に立つ仕事だ。俺には到底不可能…本当に血が繋がっているのか心配になってしまう。

 運動も勉強も完璧にこなし、色んな人から好かれてる姉ちゃんと、運動も勉強もせいぜい人並みで色んな奴から嫌われてる俺…羨ましくなっちゃうよな…

 

 

 姉ちゃんの知り合いの人なんて皆んな姉ちゃんを尊敬してるし、俺は姉ちゃんの付属品だと思われてるんだろうな…

 ただ血が繋がってるだけで姉ちゃんに構ってもらえてる…きっと血が繋がってなかったら関わる事もなかったんだろう。

 

 

「あー…あ?あ…」

 

 

 何て俺を凄く心配してくれてた姉ちゃんに失礼な事を考え、怠惰な態度で寝返りを打つと、視界に不意に入って来たのは一つの写真──

 

 

「──帆奈…」

 

 

 ──更紗帆奈。彼女との写真だった。

 

 

「割と最近だってのに懐かしさすら感じるよ…」

 

 

 前までの俺の唯一の友達。ちょっぴり意地悪で、でもそんな不敵な笑みが可愛い女の子。

 今、何してるんだろうな…引っ越してから一回も会ってないし、あの手紙もあるし…まぁ、嫌われてるんだろうな。

 俺なんかが一緒に居るのも烏滸がましいぐらい素敵な子だ。

 

 

 ──ふと、帆奈と喧嘩した事を思い出す。

 

 

 確か…帆奈の両親が死んだ日だったな。元々帆奈は父親から虐待を受けていて、その愚痴をよく聞いていた。流石に俺も許せなかったが、帆奈が必死に止めるもんだから帆奈の両親とは会った事はない。

 その時も俺の身を案じてくれて…姉ちゃん以外で初めての本音を吐き出せる存在だったな。

 

 

 帆奈の父親が死んだ日…帆奈はまるで父親の死を喜んでいた様子だった。だから俺はその態度はダメなんじゃないかと指摘した…俺と仲良くしてくれた帆奈が、父親みたいにダメな人間になって欲しくなかったからだ。

 でも帆奈は泣きながら激昂して…母親の死の時、俺は帆奈には自分で生き方を決めるべきだと伝えたが、今回は違う事を言った。そのせいなんだろう…

 

 

 結局俺から謝ってその喧嘩は収束したが…お互いに初めての経験だったせいで次の日は中々気まずかったな。懐かしいや…

 

 

 あの時、帆奈は何を思っていたんだろうか。

 

 

「会いたいなぁ…」

 

 

 正直に言うと会いたい。だが、下手をすれば帆奈まで虐めに巻き込まれてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けなくてはならない。

 帆奈なら上手くやっていける…俺なんかが居なくても。

 

 

 だから理由も話さずに手紙を送った。

 

 

 それが正解なのかは今も分からないままだ。

 

 

「…」

 

 

 でも…会いたいよなぁ…虐めもあったせいで帆奈の笑顔を見たいと言う自分が居るのが分かる。

 ただ、俺から別れを告げておいてそんな事は絶対にダメだ…はぁ…

 

 

「帆奈…」

 

 

 別れを告げた唯一の友達に想いを馳せながら目を瞑る…姉ちゃんが帰ってくるまでずっとこんな心落ちした気分は嫌だから眠る事で逃げようとしていたんだ。

 

 

 

 

 

 ──これが間違いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ル…ル…」

 

 

 んあ…?この声は…姉ちゃんか?ああ、そうだ。寝てたんだっけな…って事はかなりの時間寝てたんだなぁ…どうせする事もなかったから良いんだけどね。

 ってか何だこの匂いは…くっさ…焦げ臭い?肉でも焼いてるのか…?寝起きに肉は地味ーに重いよ…

 

 

「…姉ちゃん…?」

「ナル…やっと目ぇ覚めたか…」

「う…ん…っは?えっ?はっ…?」

「ね、え、ちゃん…?」

 

 

 目を開けば視界に入ってくるのは俺を抱き抱えている姉ちゃん…だったのに…その瞬間に俺の意識は完全に覚醒した。

 

 

 だって──俺の視界に映った姉ちゃんは、お腹周りが消し飛んでいて大量の出血をしていたのだから。姉ちゃんの身体から吹き出る血潮はまるで姉ちゃんの寿命を表しているようで、吹き出る毎に姉ちゃんがだんだんと衰弱していくのも分かった。

 そしてそれに加えて俺達の周りも炎上しており、先刻鼻腔に侵入して来た焦げ臭さの正体はこれだったとすぐに理解した。

 

 

 はっ…は?何で…何?何が起こって…なんでねえちゃんがそんな姿になってんだよ!?なんで燃えてんだよ…まさか俺ん家なのか!?

 いやそんなのはどうでもいいねえちゃん、ねえちゃんが先だ…血が…血っが…でてるんだ。はやく止血しなきゃ…そうだ。止血…はやくねえちゃんを。

 

 

「ねえ、ねぇちゃん!ち、ちち血が…!お腹が…!」

「ナル。落ち着いてくれ…時間がないんだ」

「な、なな、に言って!?あっ夢?夢なの?だから時間がないの!?」

 

 

 あっ、そうだ。夢なんだこれは…何て鮮明な夢なんだろうか。匂いも暑さも全部が細部まで再現されてら。だって寝てたら普通は気づくもんな!こんな状況で目が覚めない訳ないもんな!そうだよな!ははっ…焦って損した。夢ならさっさと醒めてくれよ。こんな縁起の悪過ぎる夢なんて見たくないんだよ。ただでさえうんざりしてるってのにさあ。そうだよな。夢はいつまでも見られるもんじゃないもんな?身体が消し飛ぶなんて…あっ有り得ないよな?

 

 

「ナル。夢じゃない。な?ほっぺ抓られたら分かるだろ?これが正真正銘現実なんだって。」

「はは…なに、言ってんだよ。だって普通なら目ぇ覚めるだろ!?こんなのが現実な訳…!」

「分かってんだろ?現実逃避しないでくれ。本当に時間がない」

「な、は?」

 

 

 現実逃避なんかじゃない。これは夢だ。悪い夢なんだ!痛みも再現しやがる最悪の悪夢なんだ…この胸の鼓動も暑さも痛みも姉ちゃんも何もかも夢。

 そういえば前になんかの番組か本で見た。こういう火事の夢ってのは感情を上手く発散できてるサイン!悪夢ではあるが良い夢だとも捉えられるって!そんな実感なかったのになぁ!ははっ…

 

 

「ははっ…はっ…はっ…」

「ナル。お前の心理状態は察する。だがこれは現実だ。目を覚ませ」

「は…は、ふっ…はっえ?違うよ…嘘だ…よな?」

「嘘じゃない」

「じゃあげんじつなのかよ?」

「そうだ。現実だ。」

「じゃっあぁ、なんっでねえちゃんっはそ、っんなからだ…しててんだよ?!」

「それは後でアイツが説明してくれるさ」

「あとってっなに…?」

 

 

 これが…現実なわけが…アイツって誰だよ…?なぁ姉ちゃん。なんで何も説明してくれないんだ?これが現実なら絶対説明してくれるだろ姉ちゃんなら?何で現実なのに姉ちゃんは俺に冷たいんだよ?姉ちゃんは俺にずっと優しくしてくれたのに?何で?

 どうやってこれを現実だって受け入れればいい?そんな俺の気も知らないで身勝手すぎるよ姉ちゃん?

 

 

「ナル」

「ね、えちゃん…?」

「ごめんな。守ってやれなくて…気づけなかったアタシにも責任はある」

「なん、のはなしを…」

「なぁナル。アタシの意志はお前が継いでくれよ。お前にしか頼めない」

「だからっなんっのはなしをっ…!」

「これからのナルについてだ。そこにアタシはもう居ない」

 

 

 居ないって…嫌だ。嫌だ…!これは現実なんかじゃない…!夢だ…!悪い夢なんだ…!

 

 

「アタシな?こっちに来てからお前が全てだった。お前が生き甲斐だった。だからお前が虐められてた事を聞いたらさ、死ぬ程腹が立ったし、同時に自分の無力さも痛感した」

「っあ…」

「でもお前が生きていてよかった。それだけは変わらない」

「そんなっ、や…めろよっ!」

「アタシの全部。お前にやる…だから頼む。生きてくれ。それだけでアタシは救われるんだ」

 

 

 姉ちゃんは力強く俺を抱きしめてそう言う。

 やめろ…やめてくれ…そんなの…もう…姉ちゃんが死ぬっていう事みたいじゃないか…!

 くそっ止まれよっ…!なんでお腹がないんだよっ…!俺は何をしてるんだ!?動けっ…今ならまだ間に合うだろうが!?動けよぉ…動けってぇぇぇぇ!!俺は何も救われない!!勝手にそんな事言うなぁぁ!!

 

 

「いやっだっ…いやだよっ…おれじゃなくてっ姉ちゃんが生きてよっ!!」

「…そういうところが大好きなんだ。アタシは…」

「ナル…ちゃんと関わる奴は選べよ?訳の分からん奴と付き合ったら許さないからな?」

 

 

 俺じゃなくて姉ちゃんが生きろよっ…!俺が生きていたって何の得にもならない…姉ちゃんの知り合いが大勢悲しむ事になるんだぞ!?残された方の気持ちも考えろよっ…!っざけんなっ…

 

 

「せめてもう少し…話したかったなぁ」

「ま、まっだ病院に行けばっ間に合うからぁ…!」

「間に合う訳がないだろ?風穴ぶち抜かれてんだから」

「ほうほうっがあるかもしれないっだろ!?」

「無いさ」

「っぅぁ…!」

 

 

 何なんだこれは?何?これが現実だとしてなんでこんな目に遭わなくちゃならないんだ?俺が何か悪い事したってのか?天罰だってのか?

 なぁ、神様…何で姉ちゃんなんだよ?何で姉ちゃんまでもが巻き込まれなきゃいけないんだよ…俺だけで良いだろうがぁ…

 

 

「…どうしたら良かったのかなぁ…お前も、東も西も…」

 

 

 っあぁ…

 

 

 嫌だ…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁ…!

 

 

「やめてくれよぉぉぉ!俺っまだ何も分かってないっ!こんなのっ、嫌だぁぁぁぁ!」

「…ごめんな。アタシもどうしたら良いのか分かんないんだよ…」

 

 

 何でっ…何でっ…何で俺ばっかりぃ…!

 

 

 っそがぁ…!

 

 

「…せめて…ナルは幸せに…」

 

 

 っあああああああああああああああああああぁ!!!

 

 

 あぁ…

 

 

 はっ…

 

 

 

 

 ──何が何だかも理解できない内に、最愛の人を失った。

 

 

 ──この日はこれだけでは終わらなかった。

 

 

 

 

 








ナル君視点だと本当にこのくらい急展開
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