更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話   作:nalnalnalnal

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第12話 強く、強く

  

 

 

 

 

「…どもー…」

「──ナル君…!」

「──!?メル!?ど、どうしたの!?」

「突然気絶しちゃって…俺を励ましてくれようとしていたんでしょうか。気が抜けたんでしょうか…本人にしか分からないと思いますよ」

「──で…その、大丈夫なんですか?」

 

 

 ──何言ってるのよ。一番辛いのはあなたでしょうナル君…今だって私達に虚勢を張った笑みを浮かべて…今だけはせめて自分の心配をしてちょうだい…!

 

 

「──ちなみに俺は安名さんに励ましてもらったんで一応立て直しましたよ。俺よりも皆さんですよ。魔法少女の真実…それについては…」

 

 

 あなたはやっぱり楽さんの弟なのね…私達を常に考えてくれて自分は蚊帳の外に置く。いつもそうだったのよ?初めて会った時だって…最後に会った時だって…でも、メルが励ましてくれたのね。

 でも、何よりも嬉しいのはあなたがようやく全てを話してくれた事なのよ。あなたが戦う理由…楽さんを殺してしまった贖罪…きっと私達がそれは違うと否定してもあなたは戦い続ける。

 

 

 ──本当は、一瞬だけチームを解散しようか迷っていた。ナル君が居なければメルは既にもう居なくなっていたかもしれない…それは私の責任。リーダーである私達がもっと強ければそもそもこんな状況には陥らなかった。

 でもあなたの事を考えれば…そんな迷いは消え去ったわ。

 

 

 あなたを私は守りたい…いや、守らなければいけない。楽さんの意志も、あなたの意志も何があっても途絶えさせなんてしない。

 

 

「…正直に白状するとやっぱキツいよ…でも、皆んなで約束したんだよ」

「うん…もし誰かが魔女になったらその時は…私達で倒すって。災厄なんて振り撒かせない為に…」

「…そうですか」

(…見る限りだと皆んな受け止め切れていない。でも特に…梓さんは…)

 

 

 そう…ナル君とメルが居なくなった後、私達は話し合っていた。時に涙を流し、時に怒号が飛び交う時間の中で、これからのチームの事を。

 一つは単なる決意。これからチームで戦う時は必ず周囲に気を配り、危険な時は躊躇せずに撤退する。なんて簡単なもの…

 

 

 そしてもう一つは──

 

 

「それと、アタシはレナ達と正式にチームを組む事にしたんだ」

「水波さん達と…?」

「ああ…やちよさんから提案されたんだ。初めは反発したけどアタシもアイツら心配なんだよな…」

 

 

 そう。ももこの移籍…理由は明確。レナとかえでを守ってあげて欲しいというもの。

 まだレナとかえでは魔法少女になって日が浅い。それで言うとメルや鶴乃もそうだが、精神的な問題だ。

 特にあの二人は事ある毎に喧嘩する…もし仮に二人だけで結界に迷い込んで仲間割れなんてしたら危険どころの騒ぎではない。

 

 

 そんな二人を支える事が出来るのは…ももこだけ。二人の事情もよく知っていて尚且つ面倒見の良さ。きっと私では役不足になってしまう。

 だからそう提案した。当然初めは反対されたが…ももこはこの中の誰よりもあの二人に対する思い入れが強い。元来面倒見が良い性格であるから考え込んだ結果移籍を承諾した。

 

 

「流石にこんな話書いた後じゃあさ…危険に晒したくなんてないだろ。別にチームを移籍するとは言っても縁が完全に切れる訳じゃないさ」

「ナル君もそりゃ心配だよ?でもナル君最近凄い強くなってるじゃん?それこそレナを凌ぐぐらいに」

「真実…を簡単に受け入れるのは難しいけどさ」

「後輩のナル君がそんな重圧背負って戦ってるってのに先輩のアタシがへばってちゃキミのお姉さんにも顔負けできないだろ」

 

 

 ももこは多分この中で一番精神力が強いんじゃないだろうか。だからその分私も更に強くならなければならないと励まされる。私が崩れれば慕ってくれる後輩…それに、楽さんに面目が立たなくなってしまうから。

 

 

「…そうですか」

「…それで、梓さんはどうですか…?」

「…ナルさんは意地悪な人ですね。ワタシが受け入れ切れていないのを見透かしているでしょうに…」

 

 

 …みふゆは、今でこそ西の重鎮として台頭したが、本来精神面では弱い寄りの人間だ。私達が初めて出会った時だって泣き喚いていたし、コンビを組んだ時だって泣いていた。

 水名の呉服屋に生を受け、毎日厳しい稽古に追われる日々…抑圧された本音が魔法少女になって初めて解放された。

 だけれどその魔法少女の真実がこれだ…受け入れろと言われて易々と受け入れられないだろう。

 

 

「…キュゥべぇさんにも事実だと言われましたから…これが現実なのは分かってしまいます…」

「キュゥべぇ…来てたんですね」

「ああ…フラッと現れて淡々と真実だって話してくれたよ。流石に結構腹立ったけどね」

 

 

 キュゥべぇは私達の疑問に冷酷な態度で答えた。いや、冷酷なんかじゃない…あれはただ無感情なだけ。魂の在処にこだわる理由が分からないだとか、明らかに感情を持った生物が発していい言葉ではない。

 

 

「…もう少し、時間はかかるかもしれません…」

「…そうですか」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「メルの家には連絡しておいたから安心して?今日はうちで預かるから…皆んなはとにかく自分を落ち着かせる事だけに専念して」

「分かりました…安名さんが目を覚ましたら連絡してください。お礼を言いたいので」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「…キュゥべぇ。居るか?」

「なんだい?」

「マジで居るんかよ…」

 

 

「まぉいいさ。聞きたい事があるんだ」

「それは何かな?」

「俺の身体について──だ」

「キミの身体か…ボクとしても初めての事象だからね。答えられるとしても推測の範疇を超えないよ」

「構わないさ。なんなら魔法少女専門家のキュゥべぇの意見が欲しいからね」

「そうかい」

「ボクの見解としては、キミの身体は楽──そして、恐らくもう一人の少女の願いによって異端と化している」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「お前さぁ…今日の体育何だったん?」

「何とは…何?」

「いや…ソフトボールで全部ホームラン打ってたじゃねぇかよ」

「ああ…そうだったっけ」

「そうだったっけってなぁお前…急にどうしたんだよって話。いつになくやる気だったじゃねぇかよ」

「色々あって…あっ、そうだ。それで一つお願いがあるんだよ」

 

 

 昨日の出来事から翌日…安名さんも目を覚ましたそうだが、様子見という体でみかづき荘で強制的に停滞させられている。安名さんにも直接お礼を言うつもりだが、心配だよな。

 何とか皆んな受け止めて円満解決…とはいかないものだ。十咎さんはこの昼休憩で水波さん、秋野さんに移籍の話をしている筈だし、流石に真実の話はしないだろうが…梓さんも不安定になっていそうだ。

 

 

 だから俺も更に強くならなければならない…それこそ姉ちゃんを越えるぐらいに。単独でも魔女を討伐しなければ俺だってまともに生きていけない。

 昨日のキュゥべぇとの会話でよりそう思わせられた。

 

 

 だから第一歩としてトワに頼みたい事がある。

 

 

「珍しいなお前が頼み事なんて…余程の事じゃなきゃ聞いてやるが」

「おっマジ?じゃあさ──俺と殴り合いしてくれ!」

「──は???」

 

 

 あっやっべ…声量ミスった。

 

 

 うっわ…めっちゃ見られてんじゃん…人が居ない時に頼むべきだったなぁ…

 

 

「ちょお前こっち来い…!」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 焦りまくっているトワに連れられて体育館裏へとやって来た俺達。議題は勿論殴り合いについて…流石に言葉足らず過ぎたな。あれじゃ勘違いされちゃうよな普通は…気持ちが逸り過ぎてついつい…

 

 

「──で?さっきのアレは何だよ?喧嘩売ってる訳じゃないだろ…こっちの身にもなれってのマジ」

「ごめんごめん…」

「でマジで何?お前あんな事したら更に話に尾鰭が付くだろうが…俺とお前の」

「あっ自覚あったんだ」

「喧嘩売ってんのか??」

 

 

 コイツ、意外と繊細な一面もあったりするのかな?本人は噂なんて一切気にしない、とことんやりやがれ!みたいなスタンス取ってるから別に噂が広がる事については何とも思ってないと考えていた。

 いや、俺の心配でもしてくれてるのか?虐めの事もあったし…口に出すのは恥ずかしいからやめておくが。

 

 

「まぁちょっと色々あってさ…何というか…鍛えて欲しいんだよ」

「鍛える…?何を?お前だって俺に言う割にかなりの恵体してるだろ。今更何を鍛えようっての?」

「喧嘩…の?」

「いや俺に言われても知らんが」

 

 

 コイツの身体能力は異常中の異常だと思う。今日こそ俺は全球ホームランを打ったが、コイツだって全球一発で捕るし、掠っても走力で全てを解決するせいで野球部がまるで部外者みたいな扱いを受けている。コイツのお陰で俺のクラスの体育の成績は右肩上がりしている。 

 まぁ本人の印象が最悪なせいで誰からも感謝されていないが。なんなら余計に恐れられ始めてる。不憫だな…

 

 

 俺の身体は魔力によって強化されているが、コイツはそれに負けない程の能力を有している。多分魔力も何も関係ない、ただの才能と努力の結晶体だ。

 いや本当におかしいからな?大人にだって余裕で勝てるだろ喧嘩でも。

 

  

 まぁ、そういう事で、一番身近な友達に鍛えて貰おうという寸法だ。魔法少女と修行すれば良いじゃないかと思われるかもだが、コイツに関しては頭も切れるから筋肉の動かし方とかについても詳しく教えてくれそうなんだよな。

 男同士だからやりやすいってのもあるんだけども…まぁそういう事だ。

 

 

「それは飲み込んでくれよ」

「それで殴り合いしろっての…?何でお前虐められてたんだよホント」

「飲み込めって言われてもなぁ…何?仇討ちとかそんな感じ?」

「うーん…何というか…贖罪?」

「お前マジで何やったん?中学生から出る単語じゃないって」

 

 

 魔法少女の事を話す訳にもいかないし…簡潔に纏めたらこうなる。誰かを守れるぐらい強くなりたいっていう理由もあるが。

 

 

「…贖罪…ねぇ」

「…」

「…」

「…うーんまぁ、良いぞ」

「本当か!?」

「そりゃ最初はお前と殴り合いすんのは嫌だったけどさぁ」

「復讐とかそういう類じゃないなら別に構わないって思ったよ。お前本気っぽいし…深くは聞かない方が良いだろ?」

「前の虐めが再発したとかでもねぇだろ? 全員ボッコボコにしたし」

 

 

 さっきから仇討ちやら復讐やら物騒な単語が飛び出てるんだけど…コイツ以前に何かあったな?多分噂されてる騒動ってのがそれに該当しそうだな。

 それについては聞こうとは思わないが。コイツが俺に深入りしないスタンスを取ってくれているからな。

 別に人殺したとかじゃないだろうし…

 

 

「ただ!犯罪とか警察沙汰とか面倒事になるような真似はすんなよ?そうなったら困るのはお前だ」

「鍛えて欲しいってんならとことんやってやるさ。お前の贖罪ってやつに一役買ってやる」

「その贖罪ってのが何かは知らんが…別に今捕まってないし犯罪でもねぇんだろ?」

「だからって赦されるような事じゃないって事でもあるんだろ?」

「いいぜ…お前の気が晴れるまでとことんやろう」

 

 

 そう。赦される事ではない…だから強くならなければいけない。あの真実を現実にしない為に…安名さんや七海さん達だって絶対にそうはさせない。

 俺が俺で在る為にも…

 

 

 それはそれとして、コイツと友達になれて良かった。早急に噂とやらを収束させて欲しいぐらいだ。いやまぁ今回のせいで逆行してる気がするけど…

 

 

「あと言っとくけどさっきのアレは帳消しにはならんからな?お前のお陰で俺たちの評価は更に突き落とされた訳だ…面倒事を増やしてくれやがったお前への私怨も込めてぶん殴ってやるよ」

「やっぱり意外と繊細…?」

「あ?」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日の夕方頃──新西区の廃墟に俺たちは集まっていた。理由は勿論殴り合いだ。

 俺の大音量の失言は瞬く間に学校内へと伝播し…まぁ多分中等部全体には広がってしまった。完全にやらかした…コイツにガチで殴られる気がする。

 水波さんには危ない事はあんまりしないでと遠回しに言われた。心配してくれているのかな…優しい子だ。

 

 

 多分今日で高等部や初等部にも伝播してしまっただろうな…七海さん達に叱られそうだが、何とか説明しよう。うん。

 

 

「殴り合いつってもどちらかが気絶するまでとかじゃないだろ?どういう目的なんだよ」

「力の入れ方とか、筋肉の動かし方とか…出来るだけ詳しくお願いしたい。例えば…最小限で最大限の力を引き出す。みたいな」

「ムズイ事言うな…お前のその例なら、『寸勁』とかが当てはまりそうだな」

「よーそんなの知ってるな」

「昔太極拳とか武道習ってた時に師範代の人間からちょっくら教わったんだよ。まぁ俺も会得できてはいないがな…死ぬ程ムズイから」

「マジか…」

 

 

 コイツ程の恵体でも会得できない程難易度が高い技なのか…だが、コイツに頼んで正解だったな。武道経験者なら四肢を使った技をよく知り尽くしているだろうし、刀以外の戦闘スタイルを学べそうだ。

 

 

「ただ、お前がいう最小限で最大限の威力は期待できる。身体動作を極限まで小さくしてるからな」

「ブルース・リーって知ってるだろ?支えてない板を割ってる動画もある…普通は力が逃げるから割るのなんて至難の業だ。上澄み中の上澄みだから参考になるかは別問題だが」

「まぁその前に基礎からやれば良い話だ。そんな極致みてぇな技は後回しだ後回し」

「基礎とちょっとした応用さえ出来てりゃ通用するだろ」

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「とりままずはやろうぜ、話はそれからだ。俺も試してみたいしな」

 

 

 ──こうして、俺とトワによる特訓が始まった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「いってぇ…アイツの力どうなってんだ…」

 

 

 数時間に及ぶ特訓を終えた俺達は帰路に着き、別れてお互い休息を取っている。こちとら魔力で強化してるってのになんで耐えられるんだ?怖いわ…手加減しているとはいえ。

 数時間ぶっ通しでぶつかり合っても倒れないタフさ…トワだって上澄み中の上澄みだろうが。

 

 

「…ん?あっ、メッセージ来てる…」

 

 

 ふと携帯の画面に目を向けるとそこには数多のメッセージが…見る限りだと七海さん達以外からも来ている。美凪さんとか…どうしたんだ?

 何か困った事でもあったのかなと思ってメッセージ群の内容を見てみると──

 

 

 美凪さんからは──『ねぇ大丈夫?学校一の不良に喧嘩吹っ掛けたって聞いたんだけど…六倉君ってそういう子じゃないでしょ?何かいざこざがあるなら聞くよ?』

 

 

 春名さんからは──『六倉君。凄い噂が高等部にまで広まってるんだけど…だ、大丈夫?もしかしてその不良生徒って魔女に操られてたりしたの…?』

 

 

 夏目さんからは──『あの、かえでちゃんから聞いたんですけど…ふ、不良生徒と喧嘩してるんですか…?魔女が関係しているのなら心配です…』

 

 

「こりゃ誤解解くのに時間掛かるなぁ…人数的に。」

 

 

 そういやこの三人は附属学校に通っているんだっけな…どうしよ。初等部から高等部まで満遍なく広がってるじゃん…七海さん達からもメッセージ来てるし…見たくねぇ。あんな出来事話したばっかでこんな揉め事起こしたと勘違いされたら引っ叩かれそうなんだけど。

 

 

 アイツ魔女関係だとか言われてるし…どんな曲がり方して広まってんだ?

 

 

 ごめんトワ…言葉選びミスった。

 

 

 

 





解散はしません。やちよとみふゆはナル君のお姉さんの影響を受けていますから。ただ、みふゆに関しては逆効果になっていますね。
ももこは原作とは違ってやちよからの提案でかもレを結成。
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