更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話   作:nalnalnalnal

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第???話 かつて希望を信じた少女は

 

 

 

 

 

 

 …昔、正義のヒーローに憧れていた。

 

 

 

 

 家の中でナルが来るまで唯一の楽しみであったテレビ。両親はダラシなくのそのそ起きてくるからテレビに安物のイヤホンを繋げてこっそりと見るのが楽しみだった。

 

 

 

 

 丁度その時間帯はヒーロー番組が放送されていて…かっこいいなと思えた。悪をやっつける正義の象徴…同時に、両親みたいには絶対にならないと誓った。あたしにとって邪悪の象徴でしかなかったから。

 

 

 

 

 父親は暴力、母親は不干渉…特に母親が嫌いで絶対になりたくないような大人だった。

 

 

 

 

 …ナルが来てからは番組を見る機会は減った。でも憧れは捨てていなかった。だってあたしを救ってくれたヒーローが毎日会ってくれるんだから。

 

 

 

 

 ナルが不意に見せる笑顔、転んだらしたらすぐに手当てをしてくれる優しさ、雨が降った時に相合傘をした時の身体や、偶に公園以外に連れて行ってくれる時に繋いでくれた手の温もり…全部が好きだった。異性としても。

 でもそんなことは恥ずかしくて結局告白できなかったけどね…一時期好きなタイプとか聞いたりしてアピールした事もあったっけ…結局空回りしちゃったな。そう思うとあたしと瀬奈も似たような所あるよね。好みなんて殆ど合わないんだけど。

 

 

 

 

 でもあたしにはもうナルのようなヒーローになれる資格なんてどこにもない。ナルを好いていい資格なんてもう…ない。平然と正義になんてなろうとしてはいけないんだ。

  

 

 

 

 あの時、ナルを見捨てたあたしが。たった一人のあたしのヒーローを見捨てたあたしが…あの時あたしが一歩を踏み出せていれば何か変わっていたのかもしれないと言うのに。

 勝手な被害妄想で自分が傷つくのを恐れ、結局母親と全く同じ事をして…

 

 

 

 

 契約した時に既に捨てていたんだ。正義のヒーローになる資格なんて…その瞬間からあたしはもうナルと一緒に居ていいような人間じゃなくなっていたんだ。

 

 

 

 

 ナルは今だって仲間の子を命懸けで助けて…きっと多くの人々から好かれている。

 

 

 

 

 ナルが居なくなってからは、瀬奈があたしの心の拠り所になり…お揃いの魔法を研究し、距離感がやけに近いと思ったら変なところで踏み込んでこなくなるし…ああ、ナルも混じって三人で過ごしたかったなぁ。きっと二人なら仲良くなれたよ。

 

 

 

 

 …ねぇ、ナル。

 

 

 

 

 …やっぱり、あんたは変わってないね。盗み聞きしてごめんね…でも、分かったの。あんたはあたしを斬り捨てたんじゃない…戦いから遠ざける為だったんだね。あんたがお姉さんを殺してしまった罪を一人で背負おうとしてたんだから…

 

 

 

 

 あたしはそんな事にも気付けずに利己的な願いを叶えて…あんたとは正反対の場所に来ちゃったよ。

 

 

 

 

 …でも…うん。決めた。あたしにヒーローなんて似合わない。

 

 

 

 

 …あたしは──"ヴィラン"になる。いや、ならなきゃいけない。

 

 

 

 

 ナルと正反対なあたしにも、ナルと同じぐらい大切な友達ができた。でも、滅びの意思に囚われたあたしの友達が罪を犯してしまうのはきっと時間の問題…絶対にそんな事はさせない。だからあたしが代わりに引き受けるんだ。瀬奈に希望を示す為に…だから、あんたがその立役者になってよ…ナル。

 

 

 

 

 あんただって滅びの意思に囚われた存在に狂わされたんでしょ…?だったら憎いでしょ?ヴィランのあたしが…厄災を振り撒く魔女と同じぐらい。

 あんたなら、誰かの人生を狂わせる存在は絶対に許さないでしょ?

 

 

 

 

 あたしの友達──瀬奈に見せてよ。希望は決して負ける事がないって…悪は最後に滅ぼされる運命なんだって。正義のヒーローは決して悪意に屈する事はないんだって…あたしの憧れを、否定しないでよ。

 

 

 

 

 …もう、あたしはナルとは居られないんだ。あの契約が全ての始まりだった…誰かの存在がなかったことにするなんて、もう取り返しがつかない。あたしを虐めていた奴らにもきっと家族や友人が居た筈だ。

 その人間達からの記憶からも抹消される訳で…仮にあたしがナルと瀬奈に完全に忘れられたらきっと正気じゃ居られない。

 

 

 

 

 …でも、最後に一度面と向かって話してみたいんだ。その時はきっとあたし達は敵同士。でもナルは多分あたしを殺してくれない。だから事を大きくしてあたしを殺したい程憎んでもらうんだ。とことんやって…とことん憎んでよ、あたしを。

 

 

 

 

 大丈夫だよ…全部終わればナルは最悪のヴィランをやっつけた正義のヒーローになる。いつかナルの事を好いてくれる人だって…現れるよ…

 

 

 

 

 瀬奈だって生まれ変われるんだ。悪と化したあたしの代わりに、瀬奈は新しい人生をスタートするんだ…

 瀬奈に教えてあげなきゃ。憎しみや絶望に呑まれて最後に行き着くのは敗北なんだって。だから瀬奈には希望を信じ続けて生きて欲しいの。

 

 

 

 

 世界には悪意に打ち勝つ希望があるんだって…教えるんだ。あたしの身をもって。あたしが倒される事で悪意は罷り通らないという事を。

 

 

 

 

 これはただの前座…どうせなら馬鹿みたいに大きい騒ぎを起こす…事が大きければ大きい程より瀬奈に示せるから…例え未曾有の事件を起こしたヴィランでも、最高のヒーローに負けるんだって。

 

 

 

 

 だからその子の昏倒が全ての始まりって訳…ナルにはもっともっと強くなってもらわなくちゃ。ナルはお姉さんにも近づけるし、あたしも子供の頃からの憧れだったヒーローに殺してもらえる。

 

 

 

 

 それで十分。もう幸せなんてあんたに沢山貰ったから…あたしはもうこの世界に要らない存在になるんだ。でも、代わりに瀬奈が必要とされる存在になるの。

 

 

 

 

 …あたしは瀬奈を新しい人生に送り出せて、大好きな人に終わらせてもらう…ナルがあたしにしてくれたように、あたしが瀬奈にする番なんだ。

 

 

 

 

 だからナル…早く…早く来てよ。あたしを迎えに来てよ…

 

 

 

 

 

 

 








これでもまだ本音を吐き切っていない。
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