更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話   作:nalnalnalnal

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第17話 神浜事変…③ 【CROSS CONNECTION】

 

 

 

 

 

 

「…で、えっと…何故またこんな人気のない高台で…?」

「そうね。あまり公言はしたくない内容だから…」

 

 

 あの日の翌日…私は六倉君を夕方頃に見晴らしの良い高台へと呼んだ。ここからの景観は絶景で、私にとって思い入れのある施設が一際輝いて見える程だ。まぁ、あくまで私にとって宝物である場所だからなのだけれど…

 

 

 六倉君を呼び出したのには勿論理由はある。彼の人間性を私は確かめたい。多くの魔法少女から親しまれ、挙げ句の果てには私達同様犯人だと疑われていた子…荒んでも良い状況でも耐えられた理由を聞いてみたかった。

 

 

「まずは…そうね。私達がどういう経緯でこの街に来たのかを話しましょうか」

「え?聞いても大丈夫なんですか?」

「あくまで端的に…よ。全てを話す訳ではないわ」

 

 

 私は思い切った決断をした。中立の立場である調整屋、ベテランの魔法少女の東西の重鎮達にもその人間性を認められ、ある事件の立役者、葉月からも善人と太鼓判を押される程。葉月が言うのなら間違いはないのでしょうね。

 

 

『きっと六倉君が今の立場になったのには理由があるんだよ。アタシ達みたいにさ…』

 

 

 あの時の葉月の発言が頭の中で無意識の内に反芻されている。私達の原点…外部からの理不尽な悪意によって突如として壊された日常を取り戻す為、宝物を守り倒す為に魔法少女となった。

 当然、全ての魔法少女にもそれぞれの原点がある筈だ。

 

 

 だけど、六倉君はどうなの?

 

 

 魔法少女でないなら魔女とも戦う必要もない。願いを叶える事も出来ない…なのにわざわざ自ら死地に赴くような真似をしているのは何故?

 あの日の騒動の後での常盤ななか一派達との話し合いの中で、純美雨が六倉君に対して──

 

 

『これだけの破壊力…伊達に楽の弟じゃないという訳ネ』

 

 

 あの口ぶりからすれば、その楽という人物が六倉君の姉に当たる存在…恐らくは魔法少女。だけれど彼女の言い方を聞くと余程の実力者のようにも思える。ならば七海やちよ同様ベテランの魔法少女としても扱われても良い筈。

 なのにその名前も姿も全くもって私達は知らない…

 

 

 勝手に考察してしまうのは失礼なのは分かっているけれど、恐らくは故人…そして、それが六倉君が現在の立場になった理由となっているのだわ。

 姉の死…私達のように家族同然の存在が自らのもとを永久に去ってしまう事の寂寥感は、よく理解出来る。だからこそ気になる…それならば、魔女なんて危険な存在とは無縁な生活を送れば良い話…死の隣り合わせの魔法少女よりかは安泰を約束出来る。

 

 

 でも彼は戦っている…それもかなり前から。私達と同時期ぐらいなのかしら…?

 

 

 六倉君という人間を知る為には、彼の原点を知る必要がある。彼自身が話してくれるかは分からないけれど…無神経な考えで彼を一度でも傷つけてしまった私には罪悪感がある。

 だから…彼に私達の原点を話す。葉月達には了承は貰っている…葉月が見込んだ人間性なら、言いふらすような真似は決してしない筈。

 

 

 私が初めて信用しても良いと思える人物であって欲しい。そう願うわ…

 

 

「聞いてくれるかしら…」

「聞きますよ。幾らでも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして…私は彼に所々濁しながらここまでの経緯を説明した。

 

 

 私たちの宝物であり家であったつつじの家…それの取り壊しから始まり、宝物を守り通す為に何かしよう、何かしなきゃと思って頑張って院長先生を手伝おうとした。でも院長先生は優しかった…それはとっくのとうに理解していた筈なのに、私達はそれに甘んじてしまった。傍観者に成り下がってしまった。

 だから藁にも縋る思いで私達はつつじの家を守って…去った。

 

 

 私は最年長だから…院長先生にも言われたもの。二人を引っ張ってあげて行って…と。だから必死に強い姉を今まで演じて来た…弱音なんか吐かず、ただ家族を守る為に全てを考え、行動して来た。

 だけれどそれはいつしか二人の足枷となっていた…あの日、それを痛感してしまった。

 あやめと葉月が自分の意思で友達を作り外の世界を見た…信用に値する人間を見極めた。それが彼…六倉君。

 

 

 彼は私の話を何も言わず、ただ何も聞かずに静かに聞いてくれていた。

 私は彼の原点を…戦う理由を知りたい。私達と似通った境遇の持ち主なのかもしれないのだから。

 自らの原点を他人に話すなんて、今でも考えられはしない…だけれど、この子に何か見出せるものがあるのかもしれない。そう思ったから話したのよ。

 あやめがかこさんに、葉月が六倉君とメルさんに可能性を見出したように。

 

 

 まず、そもそもの原点が私が二人を見て感じたからだ…この子達とは一緒にやっていけると。家族同然の存在として、結果としてこれまでやって来れた。

 

 

 ──そして…私の話を聞き終えた六倉君は言う。

 

 

「そりゃ三栗さんと遊佐さんを大切に思いますよね…」

「家族同然の存在なら、理不尽な悪意に侵されて欲しくないって思いますよね」

「ええ…でも、私は気になるのよ」

「あなたにも辛い経験があったのでしょう…?なのにどうして外の世界を信じられるの?無条件に信じられるの?」

「うーん…俺は静海さんみたいに家族同然の存在が居ませんからね。無意識の内に一人は嫌だって思ってたんですよ。多分…」

 

 

 さも当然かのように発せられた『家族が居ない』という発言…姉以外にも家族が居ない…ほんの少し寂しげな表情が伺えたが、どこか吹っ切れた様子も感じられる。

 私は本当の両親とはあまり良い思い出がない…父親は多額の借金を残し、精神的な病によって逝去し、次いで母も…『お前が生まれるまでは』。と父親からよく聞かされていた…だから本当の家族がどのようなものなのかは分からない。でも、きっとあやめと葉月と暮らしている時間の幸福さが私に教えてくれた。

 

 

 彼はどんな境遇で育ったのだろう?普通の家庭?

 一人は嫌…私もそう。二人が居なくなってしまえば私は一人…そんなの自害ものだ。だから彼は無条件に外を信じられるの?

 

 

 現にあられもない噂が流布しているというのに?

 

 

「静海さんの気持ちも分かりますけど…俺は寂しがり屋なんですよ」

「昔、一人の親友が居たんですけど…姉ちゃんの死をきっかけにその子とも別れてしまって」

「何度も会いたいって思いましたよ…でも、俺の立場を鑑みれば危険が纏わりつくのは当然じゃないですか?」

「…やっぱ話した方が分かりやすいですかね」

 

 

 私の考えを見透かされたのか、彼は苦笑しながらそう言う。無意識的に私は彼に原点を話せと脅してしまっていたのかもしれない…いや、話して欲しかったんだ。

 私はまだ外を完全に信用出来ない…だからこの子に賭ける事にした。この子が戦う理由を通して見極めたかったのよ。これからを…

 

 

 だから──

 

 

「そう…ね。無理強いはしないわ…」

「…まぁ、呼んだって事はそういうことでしょうし、話しましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして…私は彼から彼の身に降りかかった全ての顛末を聞いた。

 

 

 それは絶望の記憶…大怪我から復帰した日に、唯一の家族であり尊敬していた姉が…魔女との戦闘で逝去。

 彼はこう言っていた…彼の姉が魔女との戦闘で亡くなったのは自分のせいだと。

 聞けば彼は幼少期から虐めを受けており、入院していたのもそれが原因…そして、まだ心に穴が空いた状態であった為、そこを魔女に魅入られた…と。

 

 

 彼の姉は昔の神浜において最強と揶揄されていた魔法少女であり、彼が過去を話した人物達からは魔女に負けるような存在ではなかったと言う。

 

 

 姉が死の直前…彼に自分の意思を継いで欲しい。そう願ったそうだ。彼の姉は誰にでも手を差し伸べ、無意識に身体が動いてしまうような人間で、ボランティア、教育実習生として東西の軋轢問題解決に尽力していたそうだ。

 私達はあまり軋轢については詳しくはないのだけれど…時折聞いた事がある。古くから続く悪習慣…人によって解釈は変わってくるけれど。

 

 

 それが彼の戦う理由…姉を殺してしまった事への贖罪、そして姉が生きて来た軌跡を途絶えさせない為に自らを危険に晒して戦い続ける。

 嘘偽りのない全てが真実…彼の態度を見てみればすぐに分かる。

 

 

 ああ、そうなのね…彼が無条件に人を信じるのは、ただ生まれ持った天性の才能なのね。大切なものを守る為に、自らが強くなる為に、他者と協働する…その判断が出来る性格が元から備わっていたんだ。

 

 

「あと、俺は別に無条件に人は信じませんよ?」

「あら、そうなのね…?意外ね…」

 

 

 だけれど、彼から緩やかな否定が入る…誰とも敵対していない状況を鑑みれば、無条件の信用をしていると考えてもおかしくはなかったのだけれど…彼なりの信念があるという事かしら。

 

 

「今のとこは魔法少女の子は全員信用はしてますけど…勘というか直感というか」

「現に虐めていた奴らは馬鹿みたいに嫌いですし…あるじゃないですか。本能的にコイツとは分かり合えないな…みたいなの」

「そういうものなのかしら…?」

「昔は頑張って人と関わろうとしてたんですがね…どうも空回りして。次第にああ、コイツとは分かり合えないな。って感じるようになったんですよ」

「多分第一印象じゃなくて多少関わってから俺の直感は働くんですよ。多分…そりゃ第一印象は大事ですけどね?やっぱそれだけで判断ってのもちょっと…というか」

 

 

 私は今まで外部との関わりを嫌っていたからそういうものは分からないわね…でも、院長先生はすぐに大好きになったわね。勿論あやめと葉月もだけれど…当然と言えば当然よね。第一印象でその人を決めつけるのはお門違い…私も二人とは多少なりとも関わってから信用したもの。今の彼の話を聞いてみて、彼は私は信用に値する人間だと判断したわ。

 

 

 こう、言語化するのは難しいのだけれど…悪意なんて感じない。自らの戦いが自分にとって全てであると断言する程の覚悟の持ち主…あの葉月が信用しても良いと言った人物。

 あの日の夜、葉月から聞けば怪盗少女と呼ばれていた魔法少女の更生の為にその子の好きなものを把握して、それに応じて成長を促すという事をしたらしい。

 誰かの為に行動する事を厭わない人間が、こんな事件を起こす筈がないわ。

 

 

 私は一度彼と敵対してしまったのに一対一の状況にも応じてくれて、多くの魔法少女が人間性を保証している。

 この子を嫌う理由は…もう見当たらない。だから──

 

 

「…六倉君」

「はい?」

「…葉月と友達になってくれてありがとう…これからも、葉月をよろしくお願いするわ」

「…静海さんはよろしくしてくれないんです?」

「えっ?私…?」

「俺の事は認めてくれた…って事でいいんですよね?なら…遊佐さん同様、友達になってくださいよ。俺友達少ないんで…」

 

 

 誰から友達になって欲しいなんて、言われた事があったかしら…()()()()()()()()となら、そんな経験があったかもしれないわね。

 友達…ね。こんな私を信用してくれているんだもの。私も彼を信用しなくちゃ…

 

 

「ふふ…そうね。じゃあ私もよろしくお願いするわね?」

「勿論」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり魔女が増えているわね、神浜は…」

「謎ですよね…とりあえずやりましょうか」

「ふふ…他の誰かと二人で戦うなんて初めてよ。あなたの実力は私以上だと思うから…安心出来るわね」

「買い被り過ぎじゃないですか??」

 

 

 話も終わった為、別れるまで他愛のない話をしながら帰路についていると、魔女の反応が…最近、よく魔女と出会うわね。魔女が増えているという訳なのでしょうけれど、その根幹となる原因が不明瞭だ。昏倒事件と関係性があるとは思えないけど…今は彼と討伐するのが先決ね。

 

 

 ──路地裏に入り、結界が視界の中心へと入り込んでくる…が、その更に中心には人影がある。あれは…魔法少女かしら?

 …ここは、協働しましょうか。彼を信用し、また別の人を信用する…あやめと葉月に追いつける第一歩かもしれないから。人数が多い方が有利でしょうし…相性問題もあるけれど。

 

 

「魔法少女ですね…見た事がありませんね…でも、ここは協力しましょうか?」

「ええ。それが良いと思うわ」

「──そこのあなた!少し待って!」

「──!…!?」

 

 

 結界へ先に突入されたら戦略も何もなくなる為、侵入する寸前で彼女を呼び止めてみると…私を一瞬だけ見た後に六倉君の顔を見る。その時の表情はとても驚愕した様子だった。

 初対面なら彼を見るとその態度になるのは自然よね…敵対心がないことを伝えなきゃ。

 

 

 驚愕した様子から一転して、穏やかな雰囲気になった彼女はゆっくりとこちらへと歩み寄って来る。敵対心がない事はもう伝わったのかしら?

 

 

「初めまして。あなた達…魔法少女…と、男の人…よね?」

「そうだね。俺を知らない…って事は、他の街の子?」

 

 

 六倉君の噂は神浜中に流布している為、知らない魔法少女は居ないんじゃないかしら。でも彼女は六倉君を知らない…そう考えるのが普通よね。

 

 

「ええ。友達に会いに来たのだけれど…遅くなってしまったら結界に」

「そういうことか…じゃあ俺達と一緒に戦おうよ。お互いリスクヘッジ出来るだろ?」

「そうね。お願いしたいわ…それで、あなた達、名前は?」

「ああ、俺は六倉ナル」

「私は静海このは」

「ナル…このは…私はスズネ。よろしくね!」

 

 

 中々の朗らかさね…年で言うなら葉月よりも下…ぐらいかしら?それでいて油断している様子もない…先程の結界前での佇まいで分かる。こんな年の子でもかなりの場数を踏んでいる上澄みの子のようね。戦力としては十分ね。

 

 

「それから──」

「──…」

「──さようなら」

 

 

 

 

 

 

「──…何?」

「──…あなた…やはり危険ね」

「──剣!?スズネさんあなた…私に攻撃しようとしたの…!?」

 

 

 私が結界へと先陣を切る為に背中を二人に見せていると──突然背後で衝撃音が聞こえた。何かトラブルがあったのか。そう考えて背後を見ると──六倉君がスズネさんが突き出した得物であろう剣を片手のみで受け止めている様子だった。

 彼に受け止められるのがさも当然かと思っていたのか、彼女はそう吐き捨てて私達から距離を取る。その瞬間だけでも身のこなしの軽やかさが私以上だと理解出来た。

 

 

「六倉ナル…邪魔をするだろうとは思っていたわ。一番の障壁になるのはあなただと確信していたから…だからまずあなたから──がっ!?」

 

 

 停滞していた状況を突然打破したのはスズネさんの背後から飛んできた石…それが彼女の頭に直撃し、一瞬だけ隙が生まれた。だから私達はその瞬間を見逃さずにすぐに撤退の準備を始める。

 

 

「六倉君!退きましょう!」

「はい…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「…御園さん。ありがとう…助かったよ。でも、どうしてあそこに?」

「おばあちゃんの好きなお菓子買いに行ってたら六倉先輩の反応を感じたから着いて行ったの!そしたらあんな現場に…何があったの?」

 

 

 私達を窮地から救ってくれたのはこの小柄な魔法少女──御園かりんさんと言うそうよ。なんだかあやめみたいな雰囲気の子ね…悪意とは程遠い性格ね。六倉君の知り合いなら信用しても良さそうね。

 …先程の攻撃は中々殺意がありそうだったけれど…聞かないでおこうかしら。

 

 

 彼女にも先程のスズネさんの事を話し、彼女についてどうするかを検討している最中だ。噂を流布するとしても、彼女は恐らくかなりの実力者…不意打ちを喰らわないとしても並の魔法少女では太刀打ちできるかどうか…

 他にも被害者が出る可能性がある…彼女の目的は六倉君だけではなかった。私も標的…魔法少女が標的という事なのかしら?

 

 

 とりあえずは知り合いの魔法少女達には呼びかけを行うつもりだけれど、昏倒事件の事もある…六倉君にとっては厳しい状況ね。私も出来るだけ協力はするつもりよ。

 ただ、昏倒事件とは関係性がない筈…あの刃の矛先を見る限り、私に突き刺そうとしていた…昏倒なんてレベルじゃないわ。

 

 

 …嫌な事件の連続ね…早いところ解決したいわね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──なんて話し合ったのに、まさか…こんなに早く再会するとは思わなかったよ。スズネさん…」

「ええ…私は今少し気立ってるの。全員に易々と逃げられてしまっているから…」

「けれど私の目的は変わらない…ここは人目につかない。あなたを始末するのには最適な場所。次は…逃さない」

 

 

 …どうしたもんかな…

 

 

 

 

 

 

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