更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話   作:nalnalnalnal

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第18話 神浜事変…④ 【スズネ】

 

 

 

 

 

 

 

「次は…逃さない」

 

 

 どうしたもんかな…ほんの少し前に邂逅しただけだってのに、またすぐ出会ってしまった。

 この子はスズネさん…以前に静海さんを殺そうと画策していた危険な魔法少女。あの数分間だけでも危険性が今までで一番高い…明確な殺意。魔法少女の真実も恐らく既知…なんせ静海さんのソウルジェムを真っ先に狙っていたんだからな。

 

 

 結界前での冷静な佇まい、今まで出会ってきた魔法少女の中でトップクラスの身のこなし、そして明確な弱点を知り尽くしている。厄介どころの話ではない…俺の情報を一体何処から仕入れたのやら…大方あの白犬だろうが。

 

 

 嘘を吐かないタチだから全部言いやがったな…俺の弱点まで知られているのだろうか?彼女自身から進んで聞いていない限りまだ知られていない可能性もあるが…

 

 

 だが、この状況はかなり窮地だな…そこそこの魔法少女ならまだ相手取れるが、この子はまた別格だ。俺の弱点を見抜いているのかすらも不明瞭…情報が少ない。だがこの圧力…必ず殺すという殺意をひしひしと感じる。こんな相手は初めてだ。

 魔女と違い魔法少女相手はいささかやりずらいが…この子相手なら話は別だ。やるなら本気でやる。

 

 

 だがどうする。どう立ち回る。幸いここら一辺は人目が少ない上に今は夜中だ。だがそれは相手にとっても同じ…戦闘における行動範囲が倍以上に増幅している。この路地裏だけでは勝つのは不可能。あの身のこなしなら速度に追いつけず敗北が目に見えている。

 

 

 だからと言って無駄に防ぎ続けて長期戦に持ち込むのも不利だ。以前の反動から時間がかなり経っている…この戦闘中に来たらそこでゲームオーバーだ。魔力による探知が行えなくなる…あの速度相手でそれは死だ。

 

 

 なるべく短期決戦…刀は必要最低限の攻撃に回す。一撃でも当てられさえすれば隙が生まれる。そこを叩いて潰す。

 

 

「なんで魔法少女を狙うんだ?」

「知らない方が、幸せよ」

「訳も分からず殺される魔法少女達が幸せだとでも?」

「…」

「…何人も手にかけてるんだな」

 

 

 …相当前からこんな事をしているんだな。まぁ、説得したとしても無駄だろうな。完全に覚悟を決めた目をしている…力による説得でも無駄。

 だが、知らずに殺された魔法少女が既に何人も出ていると言う事実…これ以上この街にのさばらせる訳にはいかない。安名さんや静海さん達を殺させてたまるものか…何に換えてもこの子は止めなければならない。

 

 

 …仕方がない。一人で倒す…最悪どれだけの傷を負ったとしても数日かければ回復出来る。剣…以外の攻撃方法があるならそれをさっさと引き出させる。やりたくないけどやるしかない。

 

 

「この際理由は聞かないよ」

「…そう。なら…ここで大人しく──やられて!」

 

 

 そう言った刹那、地面がほんの少し抉れる程の踏み込みでこちらへと剣を振るって来るが──その程度の速度は反応出来る。とは言ってもまぁ…

 

 

「…」

 

 

 完全に防げるって訳でもないんだけどね。刀を召喚した瞬間に刀自体を押されたせいで柄の部分がでこに割と嫌な速度で突き立てられた。

 だが、この程度の痛みで動揺してちゃやってられん。受け止めた瞬間に膝蹴りを腹にお見舞いし、全力で彼女の刀を弾いて距離を取る。

 

 

「あなた…とんでもない膂力ね」

「それが取り柄だから。単純な力比べなら俺が上だ…どうする?」

 

 

 なんて虚勢を張るが…あの踏み込みはギリギリで反応出来た速度…あれ以上の出されるとこちらとしては果てしなく面倒だ。

 

 

「…陽炎」 

 

 

 ──消えた。固有魔法か?反応は…ない。丁度この時間帯は喧騒もないお陰で音が明瞭に聞こえる…研ぎ澄ませ。感覚を…もっと。極限まで…!

 

 

「──っぶね!」

 

 

 危なかった…じゃない…!背中を斬られた!あそこまで集中してこれぐらいしか反応出来ないのは厄介極まりない…だが長時間の発動は不可…固有魔法ではないのか。自身の魔法の応用…やはり踏んだ場数が違うな。

 痛みならもういい…どうせ治るものだ。着いて当たり前って考えりゃ多少は負担が減るだろ。

 

 

「炎舞!」

 

 

 真正面に姿を現したスズネさんは俺に休む暇を与えない。空中に無数の炎の剣が召喚され、真っ先に俺の身体の節々を狙って飛んでくる。

 変則的な動きじゃないだけマシだ…どうする。斬るのを優先するか?いや、この子は殺す覚悟が出来ている狂人…

 

 

 だったらこっちも覚悟を決めるまで…殺しなんて到底無理だが、腕の一本ぐらい持ってかれる覚悟は出来てる。もう魔女にビビって腰抜かして逃げ仰せた俺じゃないんだよ!

 だから──彼女の初手の行動に倣い、彼女以上の踏み込みでスズネさんの懐に入り込む。そりゃ油断するわな。だってあの炎刃を全部身体で受け止めながらズンズカ突き進んで来るんだから。痛いけど…!腕とか胸とか頬に突き刺さってんだよ…!貫かれなかっただけマシだと思え!

 お陰で隙が生まれた…手加減は無用。全力で叩き込む…!

 

 

「──ぐっ!」

 

 

 油断しても尚反応したようだが、俺が全力で叩き込んだ彼女の身体は衝撃に耐えられずに建物の壁を幾つも突き破って吹き飛んでいく。多少の破壊はやむなし…建物の管理人さんには悪いけど、しゃーなしだ。

 彼女の反応を追い、建物の屋上を転々と飛び回り索敵する。かなり吹き飛んだな…折れたか?それなら上々。見つけ次第叩く。

 こんなに全力で殴ったのは久々だな。トワとの特訓でもこんな威力は出さない…流石に効いていると信じたいものだが。

 

 

「…舞」

「──は──下からかよっ!」

 

 

 建物から建物へと降り立つ瞬間に、真下から聞き覚えのある声がしたと思ったら先程の炎刃が真下から凄い速度で突き抜けてきやがった…お陰で足にブッ刺さったじゃないか…!細身の癖にタフだな…!

 さて…どうしようか。ダメージ量で言えば割と互角…かな?だが俺の方が至る所から痛みが走っている。もう一度叩き込む…とはさせてくれないだろうな。あの陽炎っつー技で回避されるのがオチだ。アレさえ攻略出来ればな…

 

 

「あなた…痛覚を遮断してるの?」

「してないよ…ただの痩せ我慢だよ。本当に容赦がないのね…」

「…お喋りはここまでよ──陽炎」

 

 

 また消えた。固有魔法でないなら魔力の応用と先程結論付けた…俺のように身体強化のみではなく、身体強化+あの得物+炎の魔法…恐らくは炎の魔法の応用。余程魔力量が多くなければ何度もポンポン使える技じゃないだろ。それに発動する直前に剣の模様が発光していた。アレが起点になってるんだな。

 先程は背中を斬られた…回避のモーションを唐突に入れたせいでそれに剣の軌跡が重なってしまったのが原因。狙いは一点特化だった。

 

 

 俺の心臓辺りを突き刺そうとしていたな?ソウルジェムがないならまずは通常の人間の弱点から潰していこうって寸法か。

 ──正解だよ。真正面からは来ないと予測して…今度は蹴り飛ばす。攻撃する瞬間になれば姿を現さざるをえないだろ?タイミングは──その鈴が教えてくれる。

 

 

「──そこか!」

「──遅いわ」

 

 

 満を持して姿を現さざるを現したスズネさんに向けて背後に180度の回転蹴りをお見舞い…した筈だった。

 スズネさんの腰辺りに当たった…のだが、そのまま何の手応えもなくすり抜けていった。まさに陽炎…姿を顕現した状態でも扱えるのか!?別の魔法か!?

 スズネさんの本体は──真逆かよ!

 

 

「終わりよ」

 

 

 また彼女の姿すらも見えていない状態で背後から終焉を告げる声が聞こえ、背中からは明確な殺気が俺の身体全体を覆うように流れて来る。

 既に振り翳している筈…心臓を突き刺すつもりだよな。仕方ない…心臓に比べたら100倍マシだ。

 

 

「──〜っ!」

「──!?」

 

 

 心臓を突き刺そうとしていた彼女の剣先を受け止めようと掌で受けるが…剣がそのまま貫通して尋常ではない痛みが電流のように全身に駆け巡り、今すぐにその剣を抜けと脳が命令している。

 でも動揺している…自ら死痛に飛び込むのは想定外だったのか?だが──

 

 

「捕まえた…っ!」

「──ぶっ!」

 

 

 脳の命令に背き、貫通している剣を手全体で全力で軋む程握り、彼女が動揺している内に一気にこちら側へと引っ張る。

 そして──彼女の顔面に全力のストレートパンチを叩き込む。脳が早く痛みから逃れようとする為に今までで一番の膂力が発動出来た。

 彼女が吹き飛んだ方向には丁度先程のように壁は一つもなく、道路へと直線上の軌道を描き飛んで行く。丁度貫通した剣もそのまま引き抜かれ、痛みは少し軽減される…まだ追わなきゃ。戦闘不能まで追い込む!

 

 

「──あ?」

「──おいおいマジか…!」

「──顔面の怪我はコレでチャラよ」

 

 

 丁度道路にスズネさんが到達した時、大型のトラックが横切り──スズネさんは俺に吹き飛ばされた勢いの加速を利用してトラックの荷台を蹴り飛ばして真逆の方向──俺目がけて倍以上の加速度となって飛んでくる。

 しかし反応した時には既に遅し…肺や心臓辺りは避けたが──左腕を斬り落とされた。

 

 

「〜っ…!ざけんなマジで!!」

「──まだそんな余力が…!」

 

 

 残された右腕で彼女のコートの裾を掴んで地面に叩き落とし、衝撃によるダメージが最盛となっている隙に建物の屋上へと避難する。

 ふと先程のトラックが通っていた道路へと目をやると、横転したせいで炎上していた。運転手は無事のようだが、警察や消防が来るのも時間の問題…それまでに耐えられるか?逃げるか?

 

 

 ──無理だ。不可能だ。ただえさえ出血による痛みが全身を襲ってんだ…速度も低下している。意識がある中で感じる一番の痛み…初めてだ。忘れていた…魔法少女は常に死と隣り合わせ。こうなる事もあるから魂がソウルジェムに移されるんだよな。

 

 

 よく考えれば別に俺も魔法少女と大して変わんないんだな。弱点が心臓にあるってだけで…何か特別に考えすぎていた。キュゥべぇが言っていた異端ってのもただ()()()()()()()()()()()()()ってだけなんだろうな。魔法少女よろしく魔力を使えば欠損した部位も元通りに出来るだろう。多分。だが、今だけは話が別…そんな魔力を使う暇なんてないし、欠損した部位の回復なんて莫大な魔力を消費する。反動が来てしまう…

 

 

 無限の魔力なんて言ったが、結局は数分間の反動が来てしまえばそこで全てが終わる。特にこの子相手じゃ分が悪すぎる。

 姉ちゃんの魔力量が人一倍あったのだけが救いだったが、それでも許容限界があるんだ。そこだけは変えられない。それに以前の反動からかなりの時間が経過している…だから長期戦は避けたかったのに。スズネさんは格が違う…ダメージの蓄積量は彼女もかなり溜まっているだろうが…彼女の魔力の限界量がどこまでなのか。

 いや、だとしてもここまで来たなら俺を殺す選択肢しか残ってないよな。

 

 

 まずは止血しなきゃ…とりあえず服の袖部分を千切ってきつく締め付ければ多少は軽減できる筈…魔力でも抑えられるか?自分の身体の回復を行えるんだ。それぐらい出来てくれよ。あの速度で地面に叩きつけられたらスズネさんもまともな身体ではいられない筈…

 

 

 あー痛い…痛い痛い痛い痛い痛い…!あのタイミングで腕に力を入れていればまだ無事でいられたかもしれない。油断していた…本当に躊躇がない。純粋な殺意。なんで殺しなんて行なっているのか理由も分からんし…理由があったとて納得は出来ないと思うが。

 さっき腕の一本ぐらい差し出す覚悟は出来てるなんて宣言した途端にコレか…!その痛みを知らなかったからだ。何も知らないからそんな馬鹿げた事を言えたんだ。こんなの…味わいたくない。

 

 

 どれだけ殴っても這いつくばってきやがる…もう戦うしか選択肢が残っていない。追い詰められた…

 ──だったらこっちだってぶっ殺してやるぐらいの勢いでやってやる。

 

 

 死にたくない。死にたくない。それだけで十分…こんなところで野垂れ死んでたまるか。俺が死んだらそこで姉ちゃんの存在も忘れ去られてしまう。姉ちゃんが生きた軌跡も全てが台無しになってしまう。

 今すぐにでも逃げ出せとまた脳の命令が頭の中で無意識的に反芻している。

 

 

 だからなんだ。逃げ出そうにも逃げ出せるかよこんな状況で。もっとまともな思考をしてくれよ。

 

 

 あー何言ってるんだろ…痛みで頭がおかしくなりつつある。自分の脳を罵倒するなんて狂人じゃないかただの。

 だが、相手もその狂人だ。毒をもって毒を制す…狂人になら狂人をぶつけるまでだよな。いっつも一応命懸けなんだ…多少のイカレ具合は必要だろ。

 

 

 片腕だけでやれるかどうか分からない。やるしかない…ここで叩き潰す…!

 

 

「これ以上の戦闘は無駄よ」

「偉そうに…そっちこそ痩せ我慢してるだろ。血、隠せてないぞ。俺の全力が何度もモロに入ってんだ…動揺してもいいんだけど?」

「そう…ね。正直今までで一番の相手よ。だけど…片腕だけで私に勝つつもり?」

「勝つしかないからね」

 

 

 鼻血とか出てるからダメージ蓄積はかなりあると推定して良いだろう。この建物は…普通の会社か。電子機器をぶつけるのもアリだが…正味当たる気がしない。数で押せば良いってもんじゃない。

 普通の会社なら──アレがある筈だよな?前にテレビで見た…アレを使って押さえつけられればそこを叩ける。やるか…!

 

 

「──片腕の代償は貰うから…なっ!」

「──!下に逃げても変わらないわ」

 

 

 思い立ったら即行動。この状況なら尚更──だから屋上の地面を踵落としで抉って下のフロアへと降り立つ。当然彼女も数秒遅れて降り立って来る。

 このフロアはオフィスか…隠れんぼには持ってこいだな。アレを探す時間が欲しい…だから幾つものパソコンや椅子、デスクを彼女に向かって投げ飛ばし、俺はこの階層を見渡す。見た感じ見つからない…どこだ?

 この会社の人ごめんなさい…今だけは我が身を優先させて貰います。

 

 

「目眩しのつもり?悪いけれど──これ以上時間を掛けてられないわ」

「──桜花!」

 

 

 彼女の宣言と同時に剣が俺と同じような刀形状に変化し、彼女の目の前に魔法陣が展開される。

 一秒でも隙が出来たのなら上々…マジでどこだよ!このフロアには…後は、トイレ…違う。社長室…多分違う。会議室…あ?あそこは──

 

 

「──!やっば…!」

 

 

 俺が投擲したありとあらゆる機器は魔法陣から照射された無数の刃で破壊される。先程の炎舞とやらとは違って量も馬力も軌道も上位互換だ。変則的な動きをしている。

 彼女が電子機器類に気を取られている内に俺はアレがあるであろう従業員専用と書かれた部屋へと飛び込む。

 

 

「──あった!」

 

 

 見つけた…!コレは確実に当てなきゃならん。それもかなりの威力で。

 

 

「──チッ…!まぁバレてるよな!」

 

 

 まだ魔法陣による照射が止まない…アレを展開している間は永続的に照射が出来るのか。厄介極まりない…もう一度全力をぶちかまさせてくれる隙が今のスズネさんにあるかどうか…なかったとしても自分で作るまで。

 手始めに部屋の扉を蹴り破って彼女へと吹き飛ばすがこれも形状変化した刀によって斬られる。こちらからの攻撃をこの距離で当てるのはほぼ不可能…彼女は今一番油断していない状況の筈だから。

 

 

 だからこっちに来いよ…じゃなきゃ姿は現さんぞ。罠ぐらい自分で斬り刻むの精神で来いや…!

 

 

「隠れんぼでもするつもり?生憎だけれど魔力が隠し切れていないわ。そこに滞在するのは悪手以外の何者でもないわよ。」

 

 

 来ないか…だったら──

 

 

「──!逃げる気!?無駄よ!」

 

 

 部屋の壁を突き破って別の建物へと移ろうとする俺を彼女が見逃す筈がない。来たな…!こっちに!

 すぐさま部屋の壁を斬り刻んで中へと侵入してくるスズネさん…このタイミングだ。御園さんの戦い方に倣う。姉ちゃんの固有魔法とはまた別の魔力の応用なら俺にだって出来る。

 

 

 彼女が部屋に入ってきた瞬間に刀を召喚して消火栓がある場所へとぶん投げ、突き刺さった消火栓から水気のある煙幕が漏れ出し、俺達の視界を覆う…彼女の炎魔法をこれで相殺出来るとは思っていない。ただの目眩しだ。

 

 

「また目眩し…小細工が好きなようね」

「だけれど…言った筈よ。魔力で位置が分か──!」

(複数の魔力反応…!?何か物体に魔力を付与したのね!だけれど…)

「一番大きな反応で丸分かり──!?これはっ…服!?」

 

 

 服を脱いで彼女の目の前へと差し出し、俺の反応との距離感をバグらせる目的が一つ。もう一つは──単純に動揺したところを殴る為!

 

 

「──ぐっ!」

 

 

 咄嗟に防御したようだが、服を経由した打撃でも威力は先程とは同等程度。フロアを横断するように吹き飛んで壁をぶち破り、また路地裏へと恐らく倒れ込むだろう。そこが狙いだ。

 打撃を繰り出した瞬間に天井を突き破って再度屋上へと降り立って彼女が吹き飛んでいる間に狙いを定める。

 

 

「──っ…何度も喰らっていいものじゃないわ──!?」

 

 

 彼女が路地裏の地面へと倒れ込んだ瞬間に全力で見つけたブツを彼女の胴体目がけて投げつける。

 咄嗟の防御で威力は軽減されたようだが…コレで抑え込める。

 

 

「──刺股…!あの時か…!」

 

 

 そう。俺が見つけたのは刺股…攻撃ではなく対象を拘束する事に特化した護身用の道具だ。以前テレビでオフィスや福祉施設、学校にも備え付けてあると知った。

 功を奏してくれて助かった。服と刺股には魔力を付与してある…刺股の拘束からはそう簡単には逃れられん。片腕持ってかれたんだ…容赦はしない。

 

 

「こっちは片腕…じゃあそっちは骨の何本か貰っても良いよな…!?」

「っ…!抜けない…!」

 

 

 痛みと魔力の使用過多でもう陽炎って奴は使えないだろ…!それに動揺しているから余計に思考が短絡的になる。

 初めてだ。こんなに誰かに対する攻撃に躊躇がなくなったのは…自分が死の淵に立たされてようやく分かる。殺されるぐらいなら殺すぐらいの覚悟でやる…流石に本当に殺せる訳ないんだけどね。

 この子は既に何人もの命を奪っている…今更自分に返ってきても文句はなしだろ!?

 

 

 屋上から飛び上がって体勢を整え、狙いを彼女の腹部へと定め──全力の踵落としをお見舞いする。

 

 

「がっ…!?」

「…っ…俺の…勝ちだ…!」

 

 

 何とか必死に堪えていた痛みが突然全身を覆う…俺の罵倒のお陰で脳が頑張ってくれたのかな…?いや何言ってるか分からんけど…

 しかもこの子…まだ気絶してないのか。やめろ、これ以上動くな…もう手立てがない。後少しで多分反動が来てしまう。これ以上は無理だ…勝ちを宣言して数秒で撤回なんてしたくないんだよ…

 

 

「…君…さぁ。なん…でこんな事…してるんだ?」

「あなたにっ…話す…義理はないわ」

 

 

 何とかコミュニケーションを取ろうとするが、まぁ無駄だよな。殺すだけの覚悟が決まっている子なんだからな。理由なんて俺には話してくれないか…説得は無駄。恐らく協力なんて以ての外だ…仕方ない。

 

 

「じゃあせめて神浜からは出て行ってくれ…頼むから」

 

  

 神浜から追い出したとて他の街で被害者が出てしまう可能性が高いが…彼女を殺すなんて出来ないし、致し方ないけれどこうするしかないんだ…

 お互い痛みのせいで動けない最中、割と近くで消防車やパトカーのサイレンの音が聞こえ始める。そうか…さっきのトラックもあるし、ここの建物も破壊してしまったから…不味い。こんな状況じゃ目をつけられる。とりあえず移動しないと…

 

 

「──六倉…さん…!?」

「あ…?」

 

 

 唐突に俺の名前を呼ぶ声が聞こえ…目を向けるとそこには、常盤さんと純さんに志伸さん、粟根さんに加賀見さんが立っていた。

 ああ…良かった。知り合いの魔法少女で…騒ぎを聞きつけて来たのか?魔力の反応もあるし…考える気力すらもなくなってきたわ…

 

 

 

 

 

 







鈴音戦。ナル君と邂逅する前のスズネは魔女を討伐した為魔力も少し消費しています。
ナル君の全力の殴打を受けてまともにいられるだけでもう強い。刺股がなかったら負けていたでしょうね。
ナル君も割と精神的には成長していますね。


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