更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話 作:nalnalnalnal
「──…」
何を考えていたのかももう分からない。ただひたすらに走り続けて…何も訳が分からないのに、どこへ行けばいいのかも何も、何も…分からないのに。
犯人の名前を聞いた途端に…全てに絶望したかのような寒気が身体中に走り、でも震える手で何とか知り合いの魔法少女達に簡略化したメッセージを送信した。
家の中に居ても何も出来ない…かと言って外に出れば危険なのは分かっているのに…あ?違う、別に俺は危険でもないのか…?いや、そんなのどうでもいい。
気がつけば家の扉も閉めず走り出していて…当てもなく、目的地なんか全く見当がつかないのに──
──何でここに来てしまったんだ?帆奈とよく遊んでいた公園に…
あの名前──
『サラサハンナという魔法少女です!』
──あれは本当に更紗帆奈…帆奈なのか?
俺が人生で一番の苛立ちと言ってもいいような怒りを向けていた相手が──本当に帆奈なのか?信じられない。信じたくない。
ああ、そうだ。確認したくて俺はここに来たんだな。全ての確認を…
不思議な感覚だ。電話を受けた瞬間は動悸が激しくなる程動揺していたのに、走り疲れたのかな…今は心が凪いでいる。
幼少期の大好きだった女の子が、悪の道に堕ちたかもしれないのに。俺は一体何に安心しているんだ?
「懐かしいや…この年になると公園なんて来ないんだよな。そもそも友達が居ないからさ」
いつものように独り言──じゃない。俺は虚空に話しかけている。側から見れば独り言がクソデカいヤバい人として映るだろう。
違う、違うんだ。居る、居る気がするんだよ。そこに。彼女が。
俺の全部をなげうってでも守り通したかった女の子が。そこに…
世迷言かもしれない。ただの現実逃避かもしれない。それでも俺は…信じる信じないじゃなくて、今はただ話したいんだ。
何故こんな事をしたんだ?俺の事が嫌いになったのか?
言いたい事なんて沢山あるけど、今はただ──
「この砂場…よく転んでたなぁ。二人とも…今となっちゃお互い人並み外れた身体能力を持ってるから転ぶ事なんかないだろうな」
嫌だ。そんな身体能力持っていて欲しくない。君だけは普通に…危険なんかとは無縁な生活を送っていて欲しかった。
俺は罪を背負わなきゃいけないし、もし君が居たらきっと守れなかったと思うんだ。今こそ成長出来たけど、最初はただの臆病な子供だったんだ。その時、側に君が居たら俺は君の優しさに甘んじて罪を忘れようとしていたと思うんだ。
俺はそんなのは嫌だ。君と同じくらい姉ちゃんが好きだったんだよ。どっちも、離したくなんてなかったんだ。俺の弱さでまた大切な人が居なくなるのはもう嫌なんだ。
それならいっそ──もっと良い人を見つけて、普通の女の子として生きていって欲しかったんだ。
俺は、間違っていたのか?君を危険に晒してまでその優しさに縋っているのが正解だったのか?
──分からないんだよ…
「…この公園だって住宅街の中にあった筈なのに、遊んでいたのは殆ど俺達だけだったよな」
隣の家で、毎日のように怒鳴り声が聞こえて…俺はそれが怖くてとても殴り込みなんて出来なかったな。
君を両親からの暴力から救っていれば変わっていたのか?結局は俺の弱さが原因だったのか?
教えてくれよ。何が君をそうさせたんだ…?あんなに優しかったじゃないか。あんなに俺を見ていてくれたじゃないか。
喧嘩なんて滅多にしなかったし、誕生日の日にはお菓子とか花を渡してくれるような子だったじゃないか。
俺が居たとて結局は君の優しさに甘んじて君を危険に晒して失っていただろう。きっと君が俺の先を走っていってくれていただろう。でもそれは俺は正解だとは思えない…いつか君を失っていただろうから。
幼少期の思い出なんていつかは忘れるものだ。俺は違うけど、君はどうなんだ?聞いた事なかったよな。俺の事をどう思っていたんだ?
「んで、遊び疲れたら決まってこのベンチに座るんだ」
昔の記憶を再現するように大雑把にベンチに座る。夜中に一人で独り言を呟きながらベンチに座る変質者…虚空に消えた呟きが、やっぱり居ないのかなと思わせてくる。
──でも、数秒遅れてきたベンチの軋みが、俺に真実を教えてくれた。
「…やっぱり、居るんだよな?」
─────
「…もういいだろ…?隠れんぼは終わり…勝敗がついたなら姿を見せようよ」
「これ以上長引かせて何になる。俺の事を恨んでるんだろ?攻撃するチャンスだぞ?」
もういい。真実なんて俺の真横に在る。分かってるんだよ。姿を見せてくれよ。隠れんぼは…もう終わりだって言っただろ?
「…あっは…」
「…ああ、やっと見つけた」
「──久しぶり、帆奈」
──気が付けば俺の横には、俺の人生を彩ってくれていた友達──更紗帆奈が座っていた。
ああ、懐かしいな。その笑顔…なんだ。君は何一つ変わってなんかいないんだな。身長も伸びて…
「あっははは!!やっと…やっとあたしを見つけてくれた!!」
「…うん、見つけた」
「久しぶりナル!あたしだよ!更紗帆奈だよ!」
「知ってる。忘れた事なんてなかった」
その姿はダークな色合いのザ・魔法使いで、帆奈が魔法少女になっていたと言う事実を真正面からぶつけて来る。
何を願ったんだろうな。
「あっは!あたしも!一時も忘れた事なんてないよ!」
「そうなんだな。やっぱ俺の事が嫌いになったから?」
「うん!そうだよ!大っ嫌い!」
だろうな。うん。今更驚きはしない…悲しいのは事実だけどね。そうか…はは。こう、人生を変えられた程の子に言われるのは中々にショックだな。
「だから俺を孤立させようとして、ジワジワと嬲り潰すつもりだったんだ?」
「んーまぁそうだね!他の奴らもついでに腹が立ったから眠らせといたよ!まぁ、今頃になって起きたんじゃない?寝坊助さんだねー!」
「…あのさ」
「ん?」
「何でこんな事してるんだ?俺が嫌いなら俺一人狙えばよかった話だろ」
聞いてどうにかなる問題でもないけどな。
「あっは…!ナルってば女心が分かってないねぇ!気になる男の子には意地悪したくなるもんなの!」
「それって男だけじゃなかったんだな…まぁそうだな。女心と言われてもイマイチピンと来ない。後帆奈昔から割と意地悪じゃなかった?」
女心どうこうでこんな混沌とした状況を作り出したのか?中々肝が座ってると言うか…凄い大胆な子になったな。
女心なんて分からない。交友関係は殆ど女性しか居ないが、別にそれ程敏感になる程微妙な関係でもないしな。向こうがそう接してくれてるのだから…だからこそ考えるものなのかもしれんが。勉強不足だったな。
しかしまぁ、中々変わったように思えるが…なんかなぁ。根本的な部分が変わってないと思うんだよな。今だって変に強がってるようにしか思えないし。思い過ごし…ではないと思うんだがな。
聞きたい事…あるんだけど。全部終わってからの方がいいかな。
「まぁでも、ちょっと意地悪な部分は変わってなくて安心したよ。」
「…ナルって変わってるよね〜!昔っからそうだもん!」
「今ちょっと動揺したろ?」
「あはっ!やめてよそんなに詰めてくるのはさぁ〜!そんな調子だと、チームメイトにも嫌われるよ?」
「ああ、多分嫌われないと思うから安心してくれよ」
何だろうな…こんなに訳の分からない会話を繰り広げるのは流石に初めてだな。何故か言葉がポンポン出てくる…俺って性格悪かったのかな?
まぁでも安名さんとかが人を嫌う未来が見えないから、そこんところは大丈夫だろ。
「ふ〜ん。随分仲が良いんだね?」
「割と前に知ってた事だろ?今更聞いて何になるんだ」
「ナルったら酷いなぁ。感動の再会だってのに」
もっと情緒的な雰囲気の中で再会したかったってのが本音だけどね。
「これのどこが感動的なのか教えて欲しいな。こちとら仲間が数人やられてるんだよ」
「…仲間…」
「…そうさせたのはあんたなんだからさ?自覚意識持ってよ!」
「…何の話だ」
俺が原因だってのか…?断片的な情報だけじゃ考察の範疇を超えない。真実を知る為には──君に本音を全部吐き出してもらわないとな。
さっさと、その仮面外してくれないか?
「…帆奈さ。本音を吐き出す気はあるか?」
「んー?逆に聞くけどさ。あると思う?」
「ないだろ」
「うん!当たり前でしょ!」
まぁ、ただ今のやり取りで本音を隠してるってのが普通に分かった。俺にも目的が出来た…帆奈が本音を吐き出すまで幾らでも戦い続ける。やろうと思えばいつまでも戦えるんだから。途中で反動が来ても幾らでも。
全部、吐き出してもらわないとな…俺と別れた後の話も、俺の事をどう思ってたのかも。んで…俺の身の上話も多分聞いてただろうしな。
「んーやっぱりナルと話すのは楽しいねぇ!」
「皮肉か?」
…とは言っても、このまま話しても埒が明かないな。そろそろ──始めてもいいんじゃないか?
そう考えたら即実行。特にこの状況じゃそうせざるを得ないしな。不敵な笑みを浮かべた帆奈も俺に次いで面倒臭そうに立ち上がる。
「あれっ。もうやるの?」
「まぁ、このままお喋りと洒落込むのもいいけど、違うだろ?目的」
「うんうん!そこは流石に分かってるよね〜!」
「じゃあ、やろうよ」
「もう少し思い出話に花を咲かせても良かったのになぁ…せっかちだね。ナルは」
「それは後で幾らでも話せば良いだろ」
初めてだ…こんなに緊張感のない戦闘の雰囲気は。俺が刀を出しても動揺していない。そりゃそうだよな。俺の戦闘スタイルくらい知ってて当然だわな。
で、帆奈の得物は…なんか刺々しい杖だな。暗示…の魔法を使うなら、戦闘中に動きを止められる事も予測しておこう。スズネさんよろしく属性魔法を使ってくるならそれに対抗し得る手段を周りから持ってこよう。今なら何でも出来る気がするよ。
「鬼ごっこでもいいと思ったけどさぁ…やっぱりナルとは本気でやり合いたかったの!」
「そうか…俺だって手加減は死んでもしない。スズネさんとの戦いで学んでるからな」
「スズネぇ…?やめてよあんな奴の名前出すのはさぁ!鬱陶しいったらありゃしないよ!」
やけにスズネさんに当たりが強いな…俺が殺されるのを危惧していたのか?よく分からないな。とは言えここまで引っ掻き回せる程の頭脳は持っている…多少はやり合える力は持っている筈。
油断は禁物…今日必ず終わらせる。
「じゃあ、カウントダウンしよっか!」
「良いよ」
律儀なのか罠にかけるつもりなのか…いい。ここは乗ってやる。負ける気なんて一切しないからな。
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「ゼ──ロッ!」
数え切っていないというのに杖を振り翳しながらかなりの速度で向かってくる帆奈…えぇ、コレ反則じゃないの?まぁいい。この程度の速度──スズネさんの足元にも及ばない。
「反則のペナルティ──なっ!」
「──ぶっ!」
俺の全力のノーモーションの打撃を受けた帆奈は建設放棄地方面へと弾丸の如きスピードで飛んでいく。手応えはあったが…ダメージはなさそうだな。空中でこっちに来いって手をクイクイさせてるし。上手く衝撃を逸らしたな…?
初めての体験が多いな。仮にも幼少期の親友なのにここまで容赦なく殴れるとは思っていなかった。状況が状況だしな…いい。このまま押していく。
っと、その前に──予防線は張っておこう。
***
六倉ナル、更紗帆奈の勝負の場面は移り変わり──住宅街から建設放棄地へと。開戦の狼煙となったナルの打撃のダメージの蓄積は帆奈には殆ど無い。何度も何度もナルの戦闘の様子を見て対策を練ってきたのだ。どれ程心がぐちゃぐちゃになろうと、根本的な性格は歪んでいないのだ。
「その電撃…うざったらしいな!」
「それはあたしには褒め言葉だよナル!」
懐に入り込んで戦う近接格闘型のナルと、電撃による遠距離攻撃を主とする中遠距離型の帆奈との相性は微妙中の微妙であるが、殆どの能力値ではナルが飛び抜けている。
しかし、建設放棄地は屋根も何もなく、雨に降られやすい。その為未完成のコンクリートなどの含水率が自然と高くなる為、帆奈の電撃が──周囲に伝播しやすくなる。
「場所選びミスったなコレ!」
建設放棄地の建物内で戦闘を行っている彼らだが、建物の損壊についてはどうでも良いと判断している為、破壊する事に何の抵抗もなくなくなった。
──だから…
「あっは!ナルったら凄いパワーだね…!何の制限もないからやりやすいんだ!あたしも場所選びミスったかも!」
六倉ナルの本領が発揮される──建物内の柱をただの脚力でサッカーボールの如く破壊して蹴り飛ばし、その多数の破片が帆奈へと飛んでいくが…帆奈は得物の杖を器用に扱って全てを叩き落とす。
「そういえば言ってなかったけどさ!あたしから半径200メートルぐらいの円上に魔女が数体配置されるよう暗示仕掛けてあるからさ!他の魔法少女はそっちを優先せざるを得なくなるよ!」
「そういうの…先言って欲しいな!」
帆奈から放たれる電撃をナルは刀で建物のフロアの地面を斬って無理矢理軌道を逸らして回避し、土煙が舞い上がる中で帆奈に近づいて突くような蹴りをお見舞いしようとするが──視界が土煙で覆われている筈の帆奈は軽々と回避する。
「どうやって避けた今の…!」
「さぁ!?何でだろうね〜!」
並外れた動体視力?単なる偶然?たった一度の奇跡的な回避の可能性に賭け、ナルは帆奈の身体を捉えて何度も何度も打撃を繰り返す──小日向トワとの特訓の時と同じ要領で。
しかし、更紗帆奈は先程の超人的な回避の時とは打って変わり、今度は避け切れずに防戦一方となる。それでも一つ一つの拳の衝撃を逸らし続けるだけでも常人の範疇を超えている。
(一撃も決定打が入らない…連撃にフォーカスしているからか。だとしてもこの動体視力…下手をすればトワ以上のもの。まさか帆奈にこんな才能が…)
「だからなんだって話だけどな…!」
「っわ…!」
痺れを切らしたナルは防御体制に入っている帆奈の首根っこを掴んで建物の壁へと全力でぶん投げ──帆奈は空中で旋回して杖で壁を抉るようにこじ開けて放棄地の広場へと降り立つ。
ナルもこじ開けられた壁から軽々と飛び降りて帆奈の前へと立ち塞がり…刀を召喚する。
(反動は特段気にする必要はない…莫大な魔力を使う場面がないからな。だが、この動体視力…何か裏があるのか?)
「一辺倒なやり方じゃ飽きてくるだろ」
「あはっ…確かに〜!面白くはないかもね!」
「安心してくれよ。勝負は始まったばかりだもんな」
「勝負はこれからって事?あっは!燃えるねぇ〜!」
***
「れいら!」
「大丈夫…でも、もう戦闘が始まってる…さっき建設放棄地がチラッと見えた」
「私も…凄い轟音が来てびっくりしたよ…」
私達は十七夜さんから六倉ナルさんの増援に向かって欲しいと頼まれた為、同区内を走り回っていた…肝心の目的の人である六倉ナルさんらしき人は遠目から見つけたけれど、既に戦闘が勃発。
だから早く増援に向かわなければならなかったのに…タイミングを見計らったかのように魔女が私達の前に立ち塞がった。
「早く…終わらせないと…!」
「でも、この魔女…強い…!」
三人揃えば余程の事がなければ苦戦を強いられる事はなかったというのに、突如として現れたこの魔女は私達の想定を上回る程強かった。まさか…犯人がばら撒いた魔女…?私達を向かわせない為に?
逃げる…?消耗しすぎても後に響くだけ…でも倒さなきゃ他に被害が生じるかもしれない。ここで倒すしかないよね。
「──大丈夫!?」
「──あっ!このはさん達!」
「あやめちゃんはもう大丈夫なの?」
「だいじょーぶだよ!ばっちし!」
魔女の動向を窺っていると、突如として背後から聞き覚えのある声が──その正体はこのはさん達の三人組。私達全員が魔法少女になって仲良くなった初めての魔法少女の友達だ。
あやめちゃんは昏倒していて眠ったままと聞いていたけど…目を覚ましたんだ!良かった…でも、なんでこのタイミングで…考えている暇はないかな。
「早いとここの魔女倒して六倉君のところへ向かうよ!」
「他にも救援を要請している筈だけれど…人数が多い方がいいわ」
***
二人の戦闘は佳境へと突入する──既に場所は新西区から外れ、水名区と繋ぐ巨大な水名大橋へと。
時間帯は深夜…しかし当然車の通りは少なくない。そんな状況下で乱戦を起こせば橋が閉鎖してしまうのは目に見えているが──今の二人にはそんな事を考えるような暇はない。
だが、無意識的に心配していたのか、はたまた気分の高揚によるものなのか…それは誰にも分からないが、二人は大橋の下層に位置する窮屈な足場での戦闘を開始していた。
「こんな場所来た事ないんだけどな…やりずらいったらありゃしない」
「あはっ!いいじゃんいいじゃん!あたしとの決戦ついでに神浜の観光名所巡りでもする?」
「悪くはないけど、いいのか?時間をかけて」
「んー?何が?」
一歩足を踏み違えれば川へと墜落し、たとえ魔法少女であろうとも五体満足ではいられない状況下で緊張感のない話をする二人…だが、二人は気付いていた──大橋に点在する無数の魔力反応に。
「分かってるだろ?今帆奈を神浜中の魔法少女が追いかけてる。捕まるのは時間の問題だ」
「知ってるよ!だから魔女を配置したんだけど…流石に人数が多いかな?」
「でもねナル。あたしは嫌なの。あんたとの蜜月を邪魔されるのがさ!」
「それ使い方合ってるか?」
「それに──」
二人の会話を掻き消すような轟音を鳴らしたのは──大橋の地面を破壊して下層へと侵入して来た十咎ももこ…そしてそれに次いで水波レナ、秋野かえで、七海やちよのチームが参戦する。
「見つけたぞ犯人!よくもかえでを眠らせてくれたな!」
「──釣り合ってないんだよ!あたし達の戦いにさ!」
「ナル君!他の魔法少女も直に到着するわ…ここは協働して──」
「はいダーメ!『あんた達は100秒数えるまで動くな』」
帆奈がナルに背中を向けて邪魔しに来た魔法少女達に告げた瞬間。彼女達の身体がビタッと停止する。暗示の魔法──更紗帆奈の固有魔法は厳密には違うが、彼女の友人の魔法を模倣しているのだ。
「暗示…!しまった…!」
「邪魔しないでよね!」
そして彼女達から興味がなさそうに目を逸らして最も向ける想いが強い少年へと目を向ける──しかし、先程の場所に少年の姿はなかった。
「──あがっ…あっはは…!楽しい、楽しいよナル!」
「──こんなに激しく動き回るのは初めてだよ」
帆奈が気が付いた時には既に身体は真上に投げ飛ばされ、橋の道路を突き破って道路へと降り立っていた。それに次いでナルも道路へと飛び上がり、道路のど真ん中で見合う。そして──そこに向かって来る車両が二つ。
「あっ。バスとトラック!ねぇねぇアレ乗ろうよ!」
「壊さないならいいけど」
「壊さないよー!行き先同じ方向っぽいし。ほら、観光しようよ!」
深夜運行のバスと大型のトラック──帆奈は大きく飛び上がってトラックの上へ、ナルはバスの上へと降り立つ。
バスの乗客は一瞬の衝撃に身を震わせるが、ナルは気にしていない。壊さなければ大丈夫だと考えているのだ。
バスの目的地は『神浜現代美術館』…トラックの荷台には『水名運送』と書いてあり、二人は向かい合うようにして両車両の上へと居座る。
「いやぁ〜いいね!風が気持ちいいよ!」
「本当に気持ちいいのか?君の敵がまた向かって来てるけど」
「んー?いいのいいの!あたし達だけの蜜月を楽しもうよ!」
混沌とした状況下であるのに緊張感のない会話を繰り広げていると、水名大橋を抜けて水名区へと場所は移り変わっていた。丁度このタイミングでやちよ達が動けるようになったが、既に距離は離されてしまい、またナルと帆奈だけの状況に陥っていた。
だが、帆奈の敵はナル、やちよ達だけじゃない──神浜中の魔法少女だ。二人の反応を嗅ぎつけた水名区に在住している魔法少女達が帆奈を狙ってやって来る──
「ま〜た別のが来た…だ〜か〜ら!釣り合ってないんだってば!」
「ナルさぁ、久々の再会なのにあたし達だけで楽しもうって気はないの?」
「今はないよ。第一君の被害者が大勢居るんだから、自業自得だろ?」
「──喰らいなさい!」
「──おっと。危ない危ない」
二人の会話に割って入ったのは一つの矢──完全に帆奈の隙を突いた筈なのに、帆奈はさも当然かのように回避してナルの居座るバスへとやって来る。
ナルが矢の軌道を逆読みしてみると、四人の魔法少女が離れたところに居た。ナルと面識があるのは阿見莉愛、胡桃まなか、竜城明日香の三人…もう一人は被害者である矢宵かのこ──しかしそうこうしている内にバスが進行し始め、またも距離が離されてしまう。
「あっもう先輩当ててくださいよ!」
「完全な死角からよ!?逆にどうして避けられるのよ!」
「あっ行ってしまいます!」
「早く追いかけるよ!」
「阿見さん達を入れてもまだ半数にも及ばないと思うよ。帆奈を追いかけてるのは」
「えぇ〜変なモテ期が来ちゃったなぁ…」
「だから自業自得だって」
降り立ったかと思えば杖を振り回して攻撃をして来る帆奈…それをいとも容易く会話しながら捌くナル。他の魔法少女達は緊急事態の為緊張感が最大限まで表れているのに対し、二人は完全に緊張感が薄れている。
杖を弾いて距離を取ったナルはふと辺りを見渡す。バス上で戦うのは流石にこれ以上はダメだと踏んだ為、次の戦場を探しているのだ。そして、戦場になり得る場所を発見する。
「乗客の人達に迷惑だし、次はあそこで戦ろうよ」
「──だから毎回投げ飛ばすのやめてよ!」
思い立ったら即行動…帆奈を目的地方面へと投げ飛ばしてそれにナルも続いて行く。次なる戦場は──廃ホテル跡へと。