更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話 作:nalnalnalnal
「それでもあたしはナルと一緒に居たかったの!!」
「だからそんな危険な場所に帆奈を連れて行けないって言ってんだろ!!」
「あたしの気持ちも考えてよ!!」
「だったら俺の気持ちも考えてくれよ!!」
「なんであたしはダメであんたの仲間は良い訳!?」
「命を賭ける覚悟が出来てる奴とそうじゃない奴とでは価値基準が全く違うんだよ!!帆奈はただの普通の女の子だっただろうが!!」
「あたしの事が嫌いになったからでしょ!?」
「違うってんだろ!!それに帆奈は俺の事が嫌いなんだろ!?言ってただろ!!」
「そんなの…嘘に決まってるでしょ!!ナルの事を嫌いになった事なんて一日もなかった!!」
「なら何でこんな事件を起こした!?動機が意味不明なんだよ!!」
お互いに暴言にしか聞こえない言葉を次々に発する…ああ、これでナルと喧嘩したのは2回目だね。
1回目はすぐに仲直り出来たけど、今回は出来るのかな…
動機…そうだよね…犯人を捕まえたならまずはそこから普通は聞くよね。あっは…言葉は強気だってのに心は滅茶苦茶に弱気だな…あたし。
瀬奈…あんたの事、全部話しちゃっても…いい?じゃないと、ナルは納得なんてしてくれないと思うからさ。
『いいよ。その人だけは帆奈ちゃんを見てくれてたんでしょ?』
そうだよ。ナルだけは…こんな理不尽な世界でもただ一人だけ、あたしを見つけてくれた。いや、
どんなにクソッタレな世界でも、希望はあるんだって…最初に教えてくれたのがナルだったんだ。だから今度はあたしが瀬奈に教える番…だった筈なのになあ…
「ナル…あたしの動機…聞く…?」
「…話してくれるのか」
「うん…」
あたしはナルに全てを話す事になった。自分の記憶を見せる手段もない為、自分の口から全てを話すってのは…中々きつい…
今だって瀬奈にも聞かれてるんだから…あたしの目的も全部曝け出された。ここで打ち止め…その腹積もりでナルに会いにやって来たと言うのに…今は、なんなんだろうね。
終わる事すらも許されないなら…あたしはどうすればいいの?このままじゃ罪を犯したとて結局は許される甘い世界なんだって瀬奈には思われるかもしれない。
途中で常盤ななかを狙った理由についても聞かれた。
それは…あたしはただ単に羨ましかったんだ。
瀬奈があたしの中に芽生える前だったかな…偶然ネットの記事で綺麗な佇まいで、『質実剛健・聡明叡智』なんて揶揄されている常盤ななかを見た。
その頃はナルも当然居なくて瀬奈も魔女になって…本当に孤独になっていた。だから心がぐちゃぐちゃになってた。周りに見える全ての景色が憎くて羨ましくて…あたしには手の届かない世界になっちゃったから。
自分の醜さを誤魔化して…たった一人の女の子に嫉妬した。あたしもナルと一緒に居たら、こんなに綺麗な着物を着る事が出来たかもしれない。色んな人にあたしを見て貰えたかもしれない。ってね…
まぁ、そんな事は有り得ないんだけどね。常盤ななかはあたしみたいに性格が歪んじゃいない。だからこそ皆んなにチヤホヤされる。
あたし達はやがて絶望を振り撒く存在になり、誰からも見向きされなくなると言うのに…いつまでも誰かに見守ってもらえるような存在が酷く羨ましかった。
悪いのは…全部あたしなのに。
この身も性格も心も願いも存在意義も…全部滅茶苦茶にしたのは自分自身なのに。ナルとだって、あの時一歩踏み出せていれば変わっていたかもしれないのに。もっと魔法少女という存在について考えるべきだったのに。学校じゃお勉強が出来る真面目ちゃんだったのにね…結局ただの頭でっかちになってた訳だ。
──でも、大切な人が出来た。
だから、せめてその子だけは…あたしなんかとは無縁の、希望が振り撒かれる世界で生きて行って欲しかったんだ。
そこにはナルが居るから…きっとあんたの門出を祝ってくれる。瀬奈が居てもいいって証明してくれる。そう、信じて──この事件を起こした。大勢の人を巻き込んだ。傷つけた。
全部台無しにされちゃったけどね…あたしは、これからどうすればいいんだろう。瀬奈。あの計画も…あんたに見せるべきじゃないのかな。
だって、あたしが許されるこの世界は──
「──なら帆奈が変われば良いんじゃないのか?」
「──え…」
──唐突、予想外。それに尽きる言葉だった。
あたしが、変わる…?何言ってんの…ナル…?
「悪意が罷り通る世界じゃないって瀬奈さんには証明してあげたいんだろ?」
「そもそも、思念体になった瀬奈さんの拠り所は帆奈だけだと思うんだけどな。魔女になって思考が悪意に侵されても帆奈と居る事を選んでるんだし」
「瀬奈さんの新しい門出を祝いたいなら、帆奈もそれに付き合う必要があるだろ。自分でわざわざ用意までしてるんだから」
「帆奈が悪になったと言うなら、悪じゃなくなれば良い話。罪を背負って生きていく事が瀬奈さんにとっても嬉しいと思うが」
「俺だって罪を背負ってるから…姉ちゃんを殺した事のな」
違う…それは違う…あたしは自分の意思でこの事件を起こして混沌を作り出した。誰かの人生を歪めた。それだけであたしが許されて良い理由なんてなくなってるんだよ。
救いようのない人間は居るんだよ…あたしがそうでも瀬奈は違う。
『私は嫌だよ…!帆奈ちゃんが居なくなったら、私は本当に私じゃなくなる…!』
なんであんたもそんな事言うの…?あたしの気持ちも考えてよ…あんたをどれだけ想ってるか考えてよ。
でも、ナル…例えあんたがあたしを許してくれても、他の奴がそうだとは限らないよ。常盤ななか…あいつがあたしを許すかな?攻撃の最中、あたしのソウルジェムを偶に狙ってた奴が。他にも静海このはとか…色んな奴が居るよ。そんな奴らの気持ちも考慮しないとダメだよ。
「──…話は聞かせて貰いました」
「──…ええ…」
「…聞いてたんですね」
「気付いていなかったの…?」
──ほら、来たよ。あたしを殺したい程憎んでる奴が…こいつらの前で、まだあたしを殺さないって選択肢を選べる?
常盤ななかの一派、静海このはの3人組、七海やちよ、和泉十七夜…特にあたしを憎んでそうな奴らが集結したね。
ナル、どれだけあんたが優しくてもこいつらはそうはいかないよ。言う筈だよ…あたしを殺したいって──
「…六倉さんは、この人を赦すおつもりですか?」
「許す訳じゃない。この先も罪を背負って生きて貰う…そのつもりだけど?」
「──この先、更紗帆奈が罪を犯す事があってもカ?」
「んなのただの可能性の話でしょう。そうならないように俺が見ときます」
…あんたってそんなに頑固な奴だったっけ…ああ、いやでも、初めての喧嘩の時も割と頑固だったよね。やめてよ…そんなにあたしを庇わないでよ。
──なんで…こんな状況なのに…あたしは嬉しいの…?ダメなのに。こんな事思っちゃいけないのに…
「…その子はアタシ達の仲を掻き乱そうとしたし、またあやめも巻き込まれた。はいそうですかって済ませられる話じゃないんだよ」
「そんな事は知ってる。だから生きて貰うんだ」
「…それは、更紗帆奈があなたにとって大切な人だからじゃないのかしら?」
「私情しかないですよ。正直…でも、死ぬ事が償いになるとでも?それはただの逃げになるんじゃないですか?」
…ああ、やっぱりあたし──
「帆奈の本音を聞いたでしょう。救いようのない人間なら俺も見限っていたかもしれませんが、違う」
「──君に全てを曝け出していないという線はないのか?」
「今の見てそんな事言うんです?じゃあ今帆奈の心でも読めば良いんじゃないですか?どれだけ表面上は取り繕うとも、心は偽れない」
「処遇は俺だけじゃなくてここに居る人達で決めれば良い。再犯の可能性なんて稀に一つも残さない」
──ナルの事が好きだなぁ…そうだよね。あんたは人なんて殺せないよね…その優しさが好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ。
でも、そんなに怖い顔しないでよ…あんたには似合わないよ…
「…」
屋上に静寂が訪れる──あたしの処遇を考えてるのかな…あっは…瀬奈…やっぱりあたしって醜いよね…ついさっきまで死のうと思ってたのに、今になって生きたいって思っちゃってる…
『帆奈ちゃんは醜くなんてないよ。だって、私の初めての友達なんだもん』
そっ…かぁ…あっはは…
「──更紗帆奈さん」
「…なに…」
「──私はあなたを赦さない」
「…そう」
「──だからと言って死して逃げる事も許さない…あなたには必ず罪を償って貰います。それがあなたに残された選択肢…拒否権は有りません」
…なんだ…あんた達も結局は…あたしを殺してくれないんだね。あっは…もう何が何だか分からないや…
「私…も、人生をあなたに変えられました…でも、殺すなんて…到底出来ません…」
「…お前のせいで苦しんだ人々が何人も居る…罪を贖う気はあるのか…?」
「…今は…あるよ…」
でも…今は…今は…!ナルと瀬奈と生きられるなら──もう、どんな罪も背負う。あたしは生きたい…生きたい…もう…一人になんてなりたくない…!大好きな人と一緒に…ずっと一緒に…居たいんだ…!
「…そうだな。今の君の気持ちに嘘偽りはない…それは証明された」
「…心、読んだんだ…」
いい。そんな事は…これは、本音なんだから。ずっと隠し続けていた──本音。今更隠し通す必要もない。
「…はぁ。楽さんの弟だと再度実感させられたわ…分かったわ。今この場で更紗帆奈の処遇を決める…良いわね?」
「…はい」
「…まぁ、アタシ達も賛成するよ。六倉君を敵に回したくないしね…」
「…そうね」
***
──あたしの処遇が決まった。
──まずはナル、もとい七海やちよのチーム、十咎ももこのチームの監視下であたしは生活する事。東西の魔法少女混同のチームだし、神浜屈指の実力を持つ奴らだから信用はあるみたい。あたしもナルとかには勝てないって分かってるから…妥当かな。
──んで、予想外だったのが…調整屋のお手伝いをしろというもの。散々神浜中の魔法少女を調べたから流石に知っている…魔法少女御用達の何でも屋さんみたいなもの。それを手伝う事で心を入れ替えたと信用させる為…かな。
毎日じゃなくて、暇な時でいい…と。流石に甘すぎると思うんだけど…ナルの影響が調整屋にも及んでいたみたい。調整屋から和泉十七夜にもあたしの状況が逐一連絡されるみたいだ。あくまで信用問題に関してのみだけど。
学校…については、ナルが知り合いに交渉してくれるみたい。ナルの親戚とか知り合いは嫌な奴が多いらしいけど、どうやら一人だけ当てがあるらしい。ナルも詳しくは知らないみたいだけど、どうやらお姉さんに返し切れない恩があるようだった。
それを利用するみたいなのは嫌だとは言っていたけど…あたしの為って面と向かって言われたから…そんなの、狡いよ。返す言葉なんて思いつかないじゃん…
水名女学園の方には、純美雨の『偽装』の魔法を使ってあたしの存在を転校した生徒と認識させるみたい。転校先になるかもしれない附属学校の方には、転校が決まったら連絡しろという事だ。
瀬奈の存在については…そもそも相手側から干渉出来ないから保留となっている。変に刺激する事もし難い敏感な存在だから…
瀬奈がナル以外を信用したくないって言っちゃってるし…逆にナルを信用してるのもちょっと意外と言うか。あたしの事を救ってくれたってだけで、瀬奈にとっては信用に値する人物なのかな。本音は…分からないけど。
だから瀬奈、あたしの両者の面倒をナルが見ることに…瀬奈はあたしが抑えてナルがあたしを抑える。そんな感じ…
魔女化の真実は、あの場に居た奴らしか聞いていなかったみたい。あの時はあたしっていう共通の敵が居たからまだ抑えられていたけど、今は各々が向き合い方を考えているそうだ。でも、仲間が居るなら立ち直れると思う…あたしみたいに一人じゃないから。
──でも、何度も願った世界が、形は少しは違えど実現した…もう、絶対に手放さない…あたしは…二人と生きていくんだ…!
──で、あたしが住む場所なんだけど…
***
「ここが俺の家…ちょっと散らかってるけど、片付けるから…まぁ安心してくれ」
「う、うん…」
──ナルの家に住む事になった。
断る?そんな選択肢はなかった…状況も状況だし、それに…3人で過ごすならピッタリの場所なんだから。後は…まぁ、いいでしょ…
──ナルの家は意外と広かった。仲を覗けばすぐにナルがどんな生活をしていたのかがよく分かる。
片付けられたキッチン、丁寧にしまわれた漫画群、少し乱雑に置かれた筋トレ用具…後はソファに置いてある洗濯物とか…
そっか…そうだよね…一緒に住むなら、寝る時も同じ部屋なんだよね…でも、ベッドは一個しか…
「帆奈さ」
「えっえ!何!?」
「…?いや、布団とベッドどっちが良いかって…いや、でも布団か…」
「…いや、別にどっちでも良いけど…」
「いやだって…嫌だろ?仮にも女の子なんだし…男が使ったベッドなんてさ」
「──えっ」
──そうだ。よく考えたら…このベッドはナルが毎日寝てるヤツだ…じゃあ、ナルの匂いとか…いや違う違う…!
…ってかナル…あたしの気持ちに気付いてないの…?好きだって事に…なんでそういうところは鈍感な訳…!?
『帆奈ちゃん…』
『──!?な、なに…!』
『本当にその人の事、好きなんだね…』
『わ、悪い…!?』
『ううん?羨ましいなぁ〜って…』
『なんでちょっと怒ってんの…?』
よく分かんない…
「まぁ後でいいか…それと、そうだな…後は生活用品とか服…って、俺男じゃん…分っかんねぇ…」
服…今まで殆ど制服で外出してたから考えた事があまりなかった。服…ナルが選んでくれるのかな…あたしに似合うヤツ。可愛い…とか、言ってくれるかな。
今までそんな事言われた事なかったから…
「…誰かに頼むか」
…ふ〜ん…そうなるんだ…まぁでも仕方ないか。男女の壁ってのはどうしても出てきちゃうし…少し、残念だな。
ナルに選んで欲しかったな…似合う服。あたし、ファッションなんてぜんっぜん分かんないから…ナルも詳しくはなさそうだけど、だからこそ嬉しいものがあるでしょ。
「帆奈」
「何…?」
「俺は晩ご飯作っておくから、お風呂入って来たら?着替えは…悪いけど俺の服で我慢して欲しい」
「──え」
***
「あったかい…」
ナルに言われた通り、あたしはお風呂に入っていた…もう頭と身体は洗い終わり、今はゆっくりと湯船に浸かっている…こんな温かみをあたしが感じて良いのか不安になるけど、ナルが良いって言ってくれたんだ。少しくらいは甘えてもいいかな…?
…考えたら、あのシャンプーとか色々全部ナルが使ってるヤツなんだよね…意外とフローラルな香りがするし…変な感じだ。
『帆奈ちゃん』
「なに?」
『帆奈ちゃんは、私の事を想ってこんな事件を起こしたんだよね』
「…そうだよ」
丁度瀬奈と二人きりだから絶好の機会か。とは言え瀬奈の存在を維持するのにも魔力を要する。ナルの蓄えが結構あるからそれを使ってと言われた…ナルは要らないようだから。
瀬奈…今何を思ってるの?あたしの本音を聞いて…どう感じた?
『やっぱり帆奈ちゃんは優しいね…私、いつか私じゃなくなっちゃうかもしれないのに』
「そう…だよね…」
瀬奈は…魔女になったから魂を次第に悪意に蝕まれてしまう。3人で過ごすとは言ったけど、それは…いつまでも続かないのかな。戻す方法なんて…都合が良すぎるか。
そう思うと…やっぱり寂しい。でも、まだあの計画は残ってる…瀬奈にアレを見せたら、少しは悪意の進行を遅らせられるかもしれない。
「…瀬奈。あたし、あんたと色んなところ回って計画立ててたでしょ?」
『…うん。あれは…なんだったの?』
「…すぐに分かるよ。きっと、瀬奈にとって良いものになるだろうからさ」
──あれは暗示を使ったものだから破綻する事はない。ナルとの戦闘でも、奇跡的にその場所達は被害を免れたから…ナルにも伝えて、3人で見に行こう。
まさか、あたしも一緒に行くなんて思っていなかったな…それもこれも、全部あんたのせいだよ。ナル…責任とってよ?
***
「…」
…少し無理を言って、あたしはナルのベッドで寝る事にさせて貰った。今までフカフカのベッドで寝た事なんてなかったから、単純に気になったのもあるけど…
(いい匂い…)
なんだか全身がナルに包まれているみたいで気持ちがいい…変態みたいかもしれないけど、何年間も秘めていたこの想い…ずっと我慢なんて出来ない。
…ナルは、あたしの事、大切な人だって言ってくれたけど…それは、異性として?友達として?
まぁ…多分後者なんだろうな。恋愛になんて疎そうだし…それでも、輪の中の一人じゃなくて、あたしを特別視してくれているのは堪らなく嬉しい。
ナルが作ったご飯も凄く美味しくて…高級な店なんかよりも全然美味しい…行った事ないけど。ナルとは公園でしか会っていなかったから、こんな生活を垣間見る事は殆どなかった。
でも、今は生活を共にしている…一緒に談笑しながらご飯を食べるのも、片付けをするのも、あたしがずっと欲していたものだ。
今の部屋着もナルのを着ている…これもやっぱりいい匂い…身長差もあるから結構ダボダボだけど…何故だか凄くあったかいんだ。
…幸せだなぁ。
こんな幸せ、あたしが享受していいのかな…