更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話   作:nalnalnalnal

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第25話 あたしが辿り着いた場所

 

 

 

 

 

 

 

 ああ…あったかい…いい匂い…夢みたい。全身がナルに包まれて…強く抱きしめられてるみたい…ずっとここにいたい。もう動けないよ…出たくないなぁ。

 

 

「─…奈」

 

 

 ああ…そうだ…この声。心地よくてかっこよくて…優しくてあったかいんだ。この匂いと相まって最高の毛布の温もりが直で感じられる…目を閉じていてもあたしの脳内には幸せを満たす情報が常に流れて──って!

 

 

「──帆奈」

「──はっ…!ななナル…!」

「悪いな…ぐっすり寝てるとこ起こして」

 

 

 ナルに…寝顔見られた…!あたし変な顔してなかった!?いや絶対してた…気持ち悪いぐらいの笑みが溢れてた絶対!

 昨日はあんなに威勢よくヴィランを演じてたってのに、それが崩れたらすぐコレだ。でも仕方ないでしょ…何年も想い続けた人に寝顔なんて見られるのは恥ずかしいどころじゃない。でも…こうやって起こされるのは本当に一緒に住んでるんだなって思い知らされる。

 

 

「10時ぐらいから色々買うものがあるからついてきて欲しい。服も当てがあるからその人達と一緒に行く」

「うん、分かった…」

「とは言えまだ8時だしな…帆奈は寝てていいから。俺はランニング行ってくる」

「あっ、うん。行ってらっしゃい…」

 

 

 行っちゃった…ナル、ランニングとかしてるんだ。凄いな…スポーツウェアも似合ってるし覗き込んでた時の顔もかっこよかったし…筋肉とか、あるのかな。筋トレしてるのは知ってたけど、身体までは…ああダメダメ!ほんとに変態みたいになってる…!

 

 

 羞恥心を誰もいないのに隠すようにして毛布を被ると、鼻腔に侵入してくるのはナルの匂い…爽やかな匂いなのに、やっぱ男の子なんだと実感させられるような匂い…家にあたし以外誰もいないせいか、そんな匂いを無意識にあたしは鼻を鳴らして嗅いでしまっていた。

 もう別にあたし一人だけなんだから幾らでも嗅いだっていいでしょ…瀬奈も今は姿が見えないし。ほんとにいい匂い…癖になりそう。毛布の温もりと相まって反則的な病みつき感が…

 

 

 買い物か…ナルとあたし達だけが良かったけど、あたしも服とか化粧品とかには詳しくない…でも、ナルにもっと綺麗に見て欲しい。あたしだけを見て欲しい…その為には必須だ。

 

 

「──…あっ」

 

 

 目だけを毛布から出してふと部屋中を見渡してみると…あたしとナルのツーショット写真が棚の上に置いてあるのが見えた。

 嘘じゃなかったんだ…嬉しい。もっと色んな写真を撮っておけばよかったな。

 

 

 横にあるのは…お姉さんかな。綺麗な人だ…でもナルと笑顔が瓜二つ。ナルもお姉さんの背中に隠れて…可愛いなぁ。あんな顔今じゃ絶対してくれないもんね。

 …どんな人だったのかな。現代最強なんて揶揄されてるけど…東西の軋轢に立ち向かっていたらしいし、人格者だったんだろうな。その点ならやっぱりナルのお姉さんなんだと認識させられる。

 

 

「…もっかい寝ようかな」

 

 

 ナルもすぐには帰ってこないだろうし…それにこの匂いにもっと包まれていたい…寝るのが勿体無いと感じられるぐらいだもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「──やっほー!ナルナルにはんなん!」

「今日は帆奈ちゃんをコーディネートすれば良い訳でしょ?」

「…」

「オマエの言いたい事は分かる…でもコイツらしか思い浮かばなかったんだよ…」

 

 

 起床して約束の場所のショッピングモールへとやって来たあたし達…既に到着していたのは3人の魔法少女──都ひなの、木崎衣美里、綾野梨花…あたしが昏倒させた奴が2人も混ざってるし、滅茶苦茶苦手なタイプ。

 ナルは頭抱えてるし…もっと別のタイプが来ると思っていたのかな。七海やちよは今日は居ないらしいし。

 コーディネート…コイツらにされるのか…うぅ、中々キツい。

 

 

「だがまぁ安心してくれよ。ファッションならピカイチだから…」

「そうそう!あーし達に任せて貰えばはんなんもバリ可愛く大変身出来るから!」

 

 

 はんなんって何…?もうちょっといいのなかった訳?

 

 

「…じゃあ任せたよ。俺は他のところで買い物するから…」

「え、何言ってんの?六倉君も来るんだよ?」

「は?」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

  

 

 

 

「…なんで俺も来なくちゃならないんだ…」

「はんなんもナルナルに選んで貰った方が嬉しいでしょ!」

「ファッションなんて知らん…訳の分からんコーデで帆奈を外に歩かせたくないんだよ。なるべく女の子らしく居て欲しいし…」

「…それ素で言ってんの?」

「何が?」

 

 

 嫌々ナルも連れられてあたし達は服屋にやって来た…かと思えばナルがあたしの服を選んでくれるみたい。女の子らしく…無意識の発言なら本当に罪な男だと認識させられる。でもやっぱりナルに選んで欲しい気持ちは強い…ナルがあたしに似合う服…可愛いとか、そんな感情を抱いて欲しいから。

 

 

「おい…六倉って普段あんなんなのか…?マジで無意識っぽいぞ…」

「何人かは堕としてそうだよね…」

「はんなんが惚れるのも仕方ないというかってカンジ!」

「はぁ…!?な、何言って…ってか何でアンタらはあたしと普通に話せる訳…?」

 

 

 この内2人は被害者なんだけど…罪悪感だってあるんだから。特に都ひなのはブチギレてもいい筈。

 

 

「アイツは楽の弟だしな…そんな奴が守り通したいって言ってんなら信じるさ。愉快犯じゃなかったってのもあるがな」

「とは言えそうだな。って終わる話でもないし、アタシは完全には許してないからな。これからのオマエを見せて貰うつもりで今日は付き合ったんだよ」

「あーしは別に無問題ってカンジ?はんなんの目を見れば恋する乙女だってのは丸分かり!恋する乙女に悪い子は居ないっしょ!」

「以下同文…かな?後単純に六倉君敵に回したくないし…ボコボコにされそうだから」

 

 

 本気で言ってるのか…神浜の魔法少女甘くない…?それとなんで恋してるって分かるんだよ…!ああもう恥ずかしい…!調子狂うなぁ…

 

 

「…選ばないのか?」

「おっ、ナルナルやる気〜!あーし達ではんなんを完全無欠の美少女にしちゃおう!」

 

 

 そうしてあたし達の服選びが始まった。既にナルは幾つかの服を吟味していたようで、あたしを見ながら照らし合わせていた。

 …恥ずかしい…いざこうやって身体の色んなところを見られると…顔真っ赤になってそうだ。でもなぁ…あたしってあんまり可愛い過ぎるのは似合わないと思うし、何を選んでくれるんだろう。

 

 

「…帆奈のイメージ…パープル…ラベンダー…パステルカラーが合いそうだよな…」

「…」

 

 

 あたし達が居るとは言え女性もののコーナーだから、多少は周りの目を気にしてもいい筈なのに、ナルは全く気にしていなかった。こういうところが好き…ああもうダメ。空白期間の反動が今ここで来てる…あんまり人と関わらなかったせいか、無意識にナルに依存しているのかもしれない。それは瀬奈にも言える事だけど…

 

 

『…帆奈ちゃん』

『──瀬奈…!』

『ごめんね。帆奈ちゃんあの人に夢中だったから姿を消してたの』

『夢中って…やめてよ、恥ずかしい…』

『ふふ…私も帆奈ちゃんの可愛い姿見たいもん』

 

 

 唐突に瀬奈が姿を現し、あたしに話しかけてくる。瀬奈とは制服で会ってたから私服は知らなかったな。瀬奈にも…何か着て欲しかったな。

 と、瀬奈と他愛もない会話を繰り広げていると、何着もの服をカゴに入れたナルがあたしへと歩み寄って少し恥ずかしがりながら──

 

 

「…直感だよ。俺の帆奈のイメージにはこれしかないと思ったから…あんまり期待はしないで欲しいな…」

「──え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ど、どう…?」

「…」

 

 

 ナルがあたしに選んでくれたのは淡いラベンダー色のニットトップス、薄グレーのフレアパンツ、パステルピンクのカーディガン…あたしの魔法少女姿の色と似たような感じ。

 色も派手過ぎないからあたしは割と好きな方。試着室で瀬奈に可愛い可愛い言われたから…ナルにも言われないかなと期待している。

 

 

 …滅茶苦茶吟味するみたいに凝視してくるからちょっと不安なんだけど…何か言ってよナル…!可愛いとか…!

 他の奴らもナルの感想を待ってるのか黙り込んでるし…恥ずかしいなぁ…!

 

 

「…綺麗だと思う」

「──!?」

 

 

 ふとナルから溢れ出たような呟きがあたしの胸に響く…き、綺麗…か…そ、そんな事言ったのあたしが初めてだよね?七海やちよとかには言ってないよね…!?少しは期待してもいいんだよね…!?

 

 

「わぁ…」

「ち、直球だね…」

「…青春してやがるなぁ…!」

「ほら先輩嫉妬しない…」

 

 

 この状況を見たら特に木崎衣美里と綾野梨花は勝手に盛り上がっていると思っていたけど…顔赤くしたり口を押さえたりしてる。何故か都ひなのはこのタイミングで不機嫌になってるし…なんなのコイツら…

 

 

「ほ、ほんと?」

「…?うん、綺麗だと思う」

「そ、そっか…」

 

 

『は゛ん゛な゛ち゛ゃ゛ん゛…!』

『なっなに!?』

『うぅ…私も帆奈ちゃんの服選びたいよぉ…!』

『別に選べるでしょ…あんたが選んだやつあたしが取るから』

『ほんと!?じゃああっち行こ!』

 

 

 その後はナル、瀬奈、他の3人によるあたしのコーディネートが2時間程続いた。でも特にあの2人のコーデはあたしは苦手…ナルも苦言を呈していた。結果的にナルも乗り気になっていた…流石に下着コーナーは任せてたけど。

 でも、楽しかった。こんな時間をあたしが過ごせるなんて思いもしなかった…それもこれも全部ナルが居たからだ。

 …だから、今日の夜はあそこに行く。瀬奈にも見せたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいナル君に帆奈ちゃん!」

「っつー訳で、昼飯はここで…50点が定番の万々歳だ」

「どういう訳??」

 

 

 3人と別れて昼ご飯を食べに来たあたし達…の筈が、何故か万年50点評価の中華飯店に連れてこられた。ほんとになんで??

 店内には七海やちよのチームと十咎ももこのチームが集結しており、まぁあたしを見る目は各々違う。ナルが居たから来れたけど…気まずい。

 

 

 足を踏み入れてカウンター席へと座ると──

 

 

「ボクも隣いいです?」

 

 

 唐突に安名メルがナルの隣に座り、板挟み状態に。こいつとナルの会話を何度か見たけど…やっぱりこいつナルに惚れかけてる。あの時も顔を赤らめたりしてたからちょっとムカついてたから…やっちゃった。反省はしているけどこいつに関しては狡いという気持ちが強い。

 

 

 一体あたしの事をどう思っているのか──

 

 

「…あの、帆奈さんはナルさんの幼馴染なんですよね?」

「…そうだけど」

「だったら聞きたいことがあるんです…!」

「え?」

「──昔のナルさんってどんな子だったんですか!?」

「──は?」

 

 

 ──なんて思っていたら予想外の質問。『ボクはあなたを認めてない!』的な事を言われるかと思っていたのに…何この質問…どういう意図?

 まさかただ単に気になってるだけ…?だとしたらどんな楽観主義な考え方してるんだよ。目の前にいるのはあんたを2回も眠らせた犯人だというのに。

 

 

 ここで断るのも面倒だし…あたしだけが知っている情報でありたかったけど、仕方ない。でも、あたしは体感してるんだ…その点においてはあたしが上だ。

 

 

「…あたしが1人で泣いてるところを単純な優しさで助けてくれるぐらい…優しかった」

「ほほぉ…そこは今と然程変わらないという事ですね…!」

「でも笑顔は無邪気だったの。今そんな顔見せるかは分からないけどね」

「くっ…幼馴染の特権という訳ですかぁ…!」

 

 

 なんであたし普通に話してんだろ…こいつもこいつで本当に知りたいんだと思い知らされる。嫉妬とかしてる感じ全くしないから。

 勝手に優越感に浸ってるあたしが馬鹿みたいじゃん…!

 

 

「…」

 

 

 ふとナルはどんな顔して聞いているのかと見やると──ナルの顔は少し赤くなっていた…えっ、何こんな顔するのあんた?

 ダメだ。本当に反動が大き過ぎる。事ある毎に胸がときめいてしまう…

 

 

「…早く食べようよ」

「ダメですよナルさん!ボクは昔のナルさんを知りたいんですから!」

「ならアタシ達も聞きたいかな。面も向かって言えない奴が居るからさ」

「うるっさいわね…!」

「楽さんの話も聞きたいわね」

「…ウォールナッツ行けばよかったかな…」

「むっ、万々歳だって負けてないからね!」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして、あたし達は一度帰宅して荷物整理をした後、中央区にある神浜屈指のデートスポットであるタワーにやって来た。ナルとの戦闘で多少損傷しているんだけど、展望台はまだ稼働しているみたいでよかった。

 ナルに関してはあの巨大な斬撃でビルがかなり無茶苦茶になったから罪悪感しかないって…ほんとタワーが無事でよかった。いやよくはないんだけど…

 

 

 ──今日はXデー…

 

 

 あたしは、瀬奈が思念体になった後、神浜の色んなところを滅茶苦茶にしながらある計画を立てていた。当初は瀬奈を新しい世界へと送り出す為のものだったんだけど…そこにあたしは居る予定はなかった。なのにあたしも行く事に…全部ナルの責任だ。

 

 

 瀬奈は魔法少女の頃も、今も何かと家族や学校というものに囚われていた…自分の家庭が貧困であるせいで、学校では1人でご飯を食べ、表面上は普通の家庭だと誤魔化していた。だから友達も家には呼べず、自分の嘘で更に深く沈んでいく一方だった。

 

 

 家では父親が金を使い込んで暴力を振るう日々…あたしと似ている。そして瀬奈はキュゥべぇに願った──父親を家から追い出して。と。

 

 

 でも結果としては母親も父親のような道を辿って行くようになった。なのに瀬奈が魔女化した後は墓の前で泣いていた。全く馬鹿らしい…今更泣くならもっと前から瀬奈を気にかけていろという話だ。

 だから神浜中の家族や学校を滅茶苦茶にした…瀬奈の気が少しでも晴れるかもしれないから。

 

 

 瀬奈は今はもうあたし以外に姿が見えない…誰も瀬奈を認識していない。だから実行犯のあたしが裁かれて、瀬奈は希望で満ち溢れる世界で生きていって欲しかったんだ。新しい世界で。誰かに瀬奈の存在を肯定して貰いたかったんだ。

 

 

 でも今は違う。これは…あたし達の門出だ。あたしはナルと瀬奈と生きていきたい…自分で自分を祝うなんて虚しいけど、あたしだけじゃないから寂しくなんてない。

 

 

 あたしが居れば、瀬奈も救われる…そう言ってくれたナルが瀬奈が居る事を知って、他の奴らも知った。

 でも、それで終わっちゃいけない…瀬奈を悪意に染まらせない為に、瀬奈が居ても良いと認めてもらえる為に──あたし達は約束の場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外と人が居るんだな…」

「夜景が一望出来るから人気らしいよ」

 

 

 デートスポットだからとは言いづらいけど、事実だしね。実際展望台からの夜景は絶景だ。幾つもの建物の明かりが星の輝きのようで、上にも下にも星空が広がっていると錯覚させられそうなぐらい綺麗だ。

 

 

『…ここが計画の終わりなの?』

『ううん。まだだよ』

 

 

 約束の時間まで後少し…それまでは、この夜景をただ楽しんでいたい。展望台から見える景色には、あたしとナルの戦闘の跡が地味〜に残っていた。抉られた地面、貫通したビル、大破した車…星空とか言っていたのが馬鹿みたいだ。あたし達が悪いんだけど…

 

 

 展望台の中を見渡せば殆どがカップルか家族連れだった。中には良い雰囲気になってるカップルも居れば、子供を抱き抱えて景色を一望させている家族も…1人だけ金髪のハーフっぽい人も居る。少し羨ましいと思ったけど、横に居るナルを見ればすぐにその思いは消え去った。

 

 

「…おっ、ここからもあの公園見えるんだな」

「ほんとだ…でも、あたし達みたいに遊んでる子は居ないっぽいね」

「普通は夜中は出歩かないもんな…俺達だって夜中に遊んだのはそこまでなかったんじゃないか?」

「あはっ、確かに…こんな時間に子供が出歩いたら不審者に襲われちゃうし、当然っちゃ当然だよね」

「怖い事言うな…俺達は夜中に出会ったってのに」

「それは特別」

「そっか」

 

 

 そう、特別…一生忘れる事のない、特別な思い出。

 

 

『…むぅ…帆奈ちゃんその人とばっかり話してる…!』

『安心してよ。もうすぐ瀬奈の出番が来るからさ』

『…それならいいけど』

 

 

「…瀬奈さんと話してるのか?」

『──!?』

「分かるんだ…」

「そりゃ急に黙り込んだらな」

 

 

 瀬奈と話している時間も現実と同じ速度で進むから、そりゃそうか。でも、瀬奈とナルがお互いに話せないのは…寂しい。お互いがどう思っているのかを一度聞いてみたい。

 

 

「瀬奈さんってさ、俺の事はどういう感じで見てるんだ?」

 

 

 なんて思っていたら疑問を解決するような問いかけが…この際ナルにも聞いてもらおっか。

 

 

『うーん…どうなの…?』

『…帆奈ちゃんを奪わなかったから、私は信用してるかな』

『そういう理由なんだね』

『だって帆奈ちゃん私にナルくんの姿を何度も重ねてたんでしょ?じゃあナルくんが居なかったら私とは仲良くなってなかったって事だよね?』

『勘違いしないでよ。似てるなって思ってただけ。瀬奈はナルとはまた違った特別な友達なの』

『…そっか。嬉しいな…』

 

 

 多分、ナルと出会ってなくても、あたし達は出会ってた。そんな感じがするの…ナルも瀬奈も特別。でもそれは違う意味で…言葉では言い表せないけど、運命というか…ね。数ある可能性の中の一つの運命…みたいな。

 

 

「信用してるってさ」

「そうか…ほんと、姿が見えないのが残念だな」

 

 

 ──あっ。

 

 

「──時間だよ」

 

 

 そうこうしている内に約束の時間がやって来たみたいだ。突如として特定の範囲内の電気が一斉に一度消え、周囲の人達がザワザワと騒ぎ始める。この状況にナルと瀬奈も若干困惑してるみたいだったけど、サプライズだから成功だ。

 

 

 ──そして、消えた明かりがまたもや一斉に輝き出し、ある文字を大きく描き出す。

 

 

「これって…」

『──えっ』

 

 

 ──HAPPY BIRTHDAY…と。

 

 

「…その、瀬奈に言いたかったの。悪意じゃなくて希望を持って生きて欲しいって…悪意の行き着く先は破滅なんだって…」

 

 

 何度も自分に言い聞かせた心意気を、ようやく瀬奈に面と向かって言える。これがあたしの本音の証明だよ…瀬奈。あんたの新しい人生を祝う為の計画だよ。

 

 

『帆奈…ちゃん…』

 

 

 ああ…泣きそうになってるじゃん…でもあたし、瀬奈のこんな嬉しそうな顔を無意識に想像してたのかもね。どんな反応してくれるかな。どう思ってくれるかな。って。

 新しい世界へと送り出す為の計画──失敗なんてしてない。大成功だよ。

 

 

 瀬奈…今、あんたは何を思ってるの?あたしの想い、あんたに伝わった…?

 

 

 ナル…あんたはどう?瀬奈の門出を、一緒に祝ってくれる…?

 

 

「一緒じゃない。俺が2人を祝うんだ」

「──えっ」

「──おめでとう2人とも。帆奈の計画通り、新しい人生の始まりだよ」

「…少なくとも俺は、2人はこの世界に居てもいいと思う」

「…そう言ってくれると思ったよ」

 

 

 あっは…なんでこんなところで見栄張っちゃうかなぁ…受け止めてくれる筈なのに。恥ずかしい?照れ隠し?多分それもある。でも今は──瀬奈にこの景色を見ていて欲しい。時間が許す限り、ずっと。

 

 

 あたしはもう十分泣いたから。だから、いいの。

 

 

 今のあたしは、瀬奈に希望を示し続ける存在でもありたいから。

 

 

『やっぱり…帆奈ちゃんは優しいよね…っ』

『あんたがそう言うのなら、そうなのかもね』

『そうだよ…っ…優しいよ…』

 

 

 こんな短時間で泣いちゃって…

 

 

『ほら…言葉を交わすより、今はこの景色を見ていようよ。今日だけのサプライズだからさ』

『うん…っ…』

 

 

 あたし達は周囲の喧騒なんて全く意にも介さず、ただ明かりが消えるまでこの景色を見守っていた。どれだけ見ても、飽きないの。自分で計画しておいて言うのも気持ち悪いけどさ…本当に。

 ほんと、大変だったなぁ…わざわざ設計図まで書いてひたすらに暗示をかけて来たんだから。曲線とか距離感を掴むの、滅茶苦茶面倒だったんだよ?

 そんな愚痴、今吐き出せる訳ないけどね。

 

 

 こういうのは、写真とか撮らずにその体験を大切にする方があたしは好きだな。ナルもそんな感じみたいだし…だからずっと見守っていられるんだね。

 

 

 あたしと瀬奈の第2の誕生日だね。毎年ナルには祝ってもらわなきゃ…ね?

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

 ──胸の痛みが消えない。

 

 

 ──ズキン、ズキンと、いつまでも。

 

 

 ──コレは、言うべき本音なのか?隠し通すべきか?

 

 

 今はまだ、分からない。

 

 

 

 

 






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