更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話 作:nalnalnalnal
…ナルさんと、帆奈さんが付き合ったという話が神浜の魔法少女達へと広まった。
突然皆が驚いた…訳でもなく、七海先輩や葉月さんやななかさん、ももこさん辺りは既に気づいていたようで…ちなみにボクは全く分からなかった。恋愛なんて今までした事なかったから。
ナルさんも尊敬する先輩の一人だから『おめでとうございます!』と祝福するのが普通なんだ。
だってナルさんにはもっと幸せになって欲しいから。ナルさんが過去を告白した時に──
『自分がもっと惨めに見えてくるんだ…』
──と言っていたから。お姉さんを失って、自分が生きる価値とお姉さんが生きる価値を天秤にかけて自分の惨めさだけが顕在化していた…そう、言っていたから。
だからナルさんにはもっとも〜っと幸せになって欲しい。ボクを救ってくれたんだから…あのラッキーデイを、ボクは未だに忘れられない。ターニングポイントなんだ。チームがより一層結束して、皆んなもっと強くなろうと意気込んだ…ナルさんから始まったんだ。
何度も迷惑をかけた筈なのに、いつも笑顔で許してくれる。そんなナルさんが以前から不思議で仕方なかった。どうしてこんなに優しいんだろうか?ナルさんの優しさは無条件なものな気がするんだ。
──だからこそ、ボクは目一杯二人を祝福しなくちゃいけないのに。
──なのに…
──喜べない。
…どうして?どうしてボクは喜べないの?尊敬する先輩が、とても幸せそうな顔をしているのに。ボクには見せてくれなかったような笑顔がそこには在るのに。
…ボクには見せてくれない笑顔…?
何かが引っかかる…この胸のざわつきは…何?
『恋っていうのはね…その…相手のことを考えるとドキドキしたり、一緒に居たいと思ったり…要は相手と二人の時間を共有できたらいいなって気持ち…?』
──…え?この言葉は…
『つ、つまり恋というのは…添い遂げられる運命の相手に惹きつけられる気持ちです!!』
──運命の、相手…
『お母さんにとっての恋はね、宝物に出会える大切な気持ち』
──宝物…なんで、この言葉を今思い出すの…?なんで、こんなに胸がモヤモヤするの…?
この言葉はボクがバレンタインの時に少し悩んでいた頃だ…ナルさんが加入してまだ日が浅かったから、ナルさんは知らない話。
ボクがクラスメイトの恋愛の告白を占ったのが始まり…そこから、恋について学ぶようになったけど、結局はピンとは来なかった。
それでも、恋という気持ちがとても大切なものだという事は、よく分かる。相手と二人きりの時間を共有したい…惹きつけられる…宝物…とにかく、大好きって気持ちなんだと思う。でも、ボクはそんな感情は分からない…
──筈だった。
『ラッキーデイ…だな?』
──気づいたんだ。違ったんだ…あの言葉を唐突に思い出して、ナルさんを正面から祝福できない理由が何故なのか…それも、分かったんだ。
全部、簡単な話だったんだ…今までボクはその気持ちを自覚できていなかったんだ。
『俺と安名さんだけの秘密だ』
──ボクのラッキーデイを作ってくれたあの日…そう、あの日から。あの日から無性にナルさんの事が気になり始めた。一日でもナルさんを考えない日なんてなかった。授業中にもナルさんの事を考える事もあった。
今何をしているのかな。今日は会えるかな…って。
『君の占いのお陰だよ、安名さん』
ああ、そうだ…
──ボクは、ナルさんのことが好きなんだ。
自覚した今だから分かる…帆奈さんとの交際を素直に祝福できないのはきっと、嫉妬しているから。
最近になってナルさんとの距離も少しずつ縮められた気がしたのに、一気に大差を帆奈さんにつけられた気がする。
きっと、あの時の占いの結果はボクではなく帆奈さんだったんだ…近くに居たのかな、そりゃ勘違いしちゃうよ…
幼馴染…そんなの勝てっこないよ。
醜いなぁ…ボクは。一度ナルさんを立ち直らせたからって、無意識の内に期待していたんだ。だから恋心を自覚する前ですらナルさんと積極的に関わろうとした。
この気持ちは、ボクの初恋の心は…どこにしまっておけばいいの?
──二人の間に割って入る勇気なんてボクにはない…このまま二人がゴールインするまで見届ける事になるのかな。
──…でも、それは嫌なんだ。帆奈さんの事は嫌いじゃない。なんなら全然好きな人だ…でも、そこだけは、ボクも立ちたい場所なんだ。
スタートが帆奈さんと比べて何百倍も何千倍も遅いのは分かってる…それでも、ボクはこの恋心を隠し通せる自信がない。
──ナルさん、ボクは…まだ、認められないんです…
こんな事をボクが思うなんて、自分でも驚く。認めるだなんて上から目線に…ボクの方が関係値も低いだろうに。でも好きになっちゃったものは仕方がない…やっと気づいた本音だから。
──まだ、諦めはしないですよ。ナルさん…
***
ももことかえでは、六倉と帆奈が付き合った事を祝福している。
でも、レナは全然違う…単なる嫉妬心。そんなの分かってるけど…羨ましくて仕方がない。
レナは六倉のことが好き…あの時、たった一人だけ虐めから救ってくれたんだもの。チョロいって思う?仕方ないでしょ?あの時のレナに関わってくれる奴なんて家族以外居なかった。
クラスメイトも全員見て見ぬ振りをして、レナも対抗する気力を失っていた。そんな時に現れた希望の光…なのに六倉が次の標的になってから、レナはその状況を見て見ぬ振りをした。
──だから、願った。自分を変えたいと…でも結局レナは変わらなかった。小日向が居なかったら六倉はどうなっていたか、考えたくない。
手に入れたのは誰かの姿を模倣するだけの力…魔女戦で時に役立つだけで、その場凌ぎにしかならない。
六倉のレナに対する態度は優しく、不変だった。自分が虐められている原因が目の前に居るのに、調子はどう?なんて話しかけてくれる。
──だから好きになった。
ただ自分を肯定してくれる都合のいい存在が欲しかっただけなのかもしれない。それでも好きになったものは仕方がない。
──でも、六倉はレナには何にも話してはくれなかった。
『ああそれ、家が燃えた時に奇跡的に残ってた写真ですね』
六倉のお見舞いに行った時の一言…レナはそんな事知らなかったのに、ももこややちよさんは既に知っている様子だった。
なんでレナには話してくれないの?同じチームじゃないから?信用してくれてないから?
──違う。六倉だって気分の乗らない話だし、レナに気を遣ってくれているんだ。でも…!知りたいよ…!
──そして、そんな時に帆奈が現れた。
六倉と帆奈の戦闘で、レナは全く役に立たなかった。暗示をかけられて六倉の背中が遠くなるのを見ているだけだった。
事件が解決したら、六倉は帆奈といつも一緒に居るようになった。聞けば幼馴染で…帆奈が六倉を好きなのなんて一瞬で分かった。
帆奈にしか見せないような顔…同棲…レナじゃ絶対不可能。
レナの初恋は一瞬で崩れた…きっと六倉が帆奈から心移りする事なんてない。本音を吐き出しあった仲なんだもの。
でも…諦めきれない…!
この先、レナが魔法少女である事を知った上で優しく接してくれる異性なんて現れるか分からない。いや、現れない…
同じクラスでレナは指を咥えて二人の恋愛を傍観しているだけ?嫌…嫌だ。そんなの…いや。
でも…どうすればいいの…?
こんな醜い心を六倉に知られたら確実に嫌われる…でも捨てられないの…!レナは──
メルくんは意外と嫉妬しそう。
この時点で恋心を自覚したのはこの二人。