更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話   作:nalnalnalnal

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今回驚くぐらい話進んでないですね…
ナル君側の話も書いておこうと思いまして。


少年少女たちのはじまり
第3話 噂になってるあの男の子


 

 

 

 

 

 ──どうして生き残ってしまったんだろうか。

 

 

 いつも考えてしまう。あの日姉ちゃんが死んでからずっと──俺と姉ちゃんの命の価値を天秤に掛けたらどちらに傾くかなんて明確だ。

 だって姉ちゃんは凄いんだから──神浜のしがらみをなくそうって色んなボランティアにも参加して、貴重な長期休みの時間を娯楽に全く費やさなかった。そのお陰か知り合いも多くて、全員がこぞって尊敬の念を示すんだ。

 殆ど女性だったから出掛けてた時に会うと気まずかったなぁ。あの人達も、もしかしたら姉ちゃんと同業者だったのかもしれないな。

 

 

 ──そんな姉ちゃんに比べて俺はと言えば、ずっとたった一人の友達と公園で遊んで、何も生み出さない生産性も甲斐性もない人間に堕ち果てていた。

 心底くだらない原因で喧嘩して姉ちゃんの時間を無駄に浪費させ、子どもという誰にでもあったであろう特権を馬鹿みたいに誇示して保身に走った。

 

 

 『子どもがした事だから』だと姉ちゃんは言っていたが、俺は馬鹿のまま中学生になっちゃったよ。未だに自分の身が惜しくて死ぬ勇気すら持てずただ時間が泥に塗れて消える毎日を送ってる。

 ドブの中で生きてるみたいだな。学校で仲良くしてくれているアイツには悪いが、まだ自分が生きる価値を見出せないんだよ。

 

 

 あー……俺って客観的に見ても糞野郎だな。全国の子どもを羅列しても悪目立ちする性格をしているんだなと再認識したよ。だからと言って今更腐った性根を変えようとしたって無駄だがな。

 姉ちゃんを犠牲にしてまで神様は俺を生かしたかったのか? はっ……笑えるよ。俺が生きていて一体誰が得をすると言うのだ。人間を作った癖にそんな事も理解できない低脳なのか、神様ってのは。

 

 

 馬鹿馬鹿しい……何が神だ。そんなもの信用してる暇があったらとっとと自殺でもしろって話だよな。

 だが──俺は生かされてしまった。命を無闇矢鱈に投げ出す事は両親や姉ちゃんに対する冒涜だ。でもなぁ……自分の価値を見出せないまま能天気に生きるのと自殺するの、どっちが正しいんだろうか。

 

 

 姉ちゃんに後者の道は否定されているからな……前者を選ぶしかない。

 

 

 ……それにしても。

 

 

 たった一人の友達──か。

 

 

 懐かしい響きだ。割と最近だった気もするが、脳内時間に変換したらそうでもないだろう。

 

 

 ……ごめんな。理由も話さず別れを告げて……でもこれだけは言えないし、言いたくないんだ。学校での虐めに加えてあの日の事──もう、耐えられないんだ。会ったとしても君に心配をかけさせたくないんだ。

 ……違うな。本当は嫌われたくなかったんだ。

 

 

 ──俺が六倉楽を殺した。

 

 

 その事実で帆奈に嫌われたくなかったんだ。危険に巻き込みたくなかったんだ。帆奈は悪くない──いつまでも俺の親友だったよ。だから覚えていて欲しい……けど、嫌っていて欲しくはないな。

 自分で言っていて心底吐き気がする気色悪さだ。でもな、帆奈は一時でも俺の人生を照らしてくれた恩人なんだ。平和に暮らしていて欲しいって思うのは当然だろ? 

 

 

 帆奈ならきっと新しい友達だって作れるさ。だって俺なんかと仲良くしてくれてたんだから──帆奈の優しさは俺が保証する。

 ──願わくば、帆奈の中身を見てくれる人と出会っていて欲しいな。俺みたいに弱い人間じゃなくて、もっと強くて優しい人と……帆奈の笑顔を好きだと言ってくれる人と──そう、願いたい。

 俺は弱いから──あの日覚悟を決めた筈なのに、いざ魔女を前にするとあの光景がフラッシュバックしてまともに手すらも握れなくなる。だから滅多に戦闘なんてしないし、やらないといけないのにできない。

 

 

 俺は姉ちゃんを殺してしまった罪を死ぬまで背負わなきゃならない。帆奈だったらきっと一緒に背負うと言ってくれる筈だろう……でも、それじゃダメなんだ。きっとそうなれば、帆奈は──

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ──神浜市立大附属学校。新西区に位置する神浜市立大学の附属校であり、小中高一貫制の学校だ。生徒数の多さに比例する広大な敷地面積から成る校舎の連なりは滅多には見られない代物だろう。

 故に十人十色の個性を持つ生徒がこの学校に在籍している。中には不良だと恐れられている生徒も居るのだとか。生徒と教員数が多い為、虐めや汚職等の様々な問題が起こる事も多々ある。

 

 

「今日は冷えるな……」

 

 

 ──そんな神浜市立大附属学校に通学する多くの生徒の中の一人──『六倉(むつくら)ナル』。ごく普通の生徒……ではなく、彼はつい最近まで学校内で虐めに遭っていた張本人であり、それに加えてある理由で校内で噂になっている。

 彼本人は目立ちたがりではなく、その噂をさっさと断ち切って欲しいと願っているが、彼と関わる生徒が居る限りそれは不可能だろう。

 ──校舎内に入り、自身にあてがわれたクラス教室の扉へと手を掛け、ゆっくりと開く。彼の姿を見た生徒の一部がヒソヒソと噂話をし始めるが、なるべく気に留めないよう自身の席へと向かう。

 

 

「──あっ、お、おおおはよう」

「──水波(みなみ)さん、おはよう」

 

 

 ナルは自身の席の隣の席に座る水色のツーサイドアップの髪をした少女と挨拶を交わし、前の席で乱雑な座り方をする友達へと目線を向ける。

 

 

「よっ」

「おはよう…って、何食ってんの?」

「パン。いやぁ〜朝ごはん食えなかったからさ。コンビニでさっき買ってきたんだわ」

 

 

 ごく普通の何の変哲もない会話。彼らにとっては普通ではあるが、彼らが親しくなるまでにはかなりの時間が要した。

 ナルと楽しそうに話す少年──『小日向(こひなた)トワ』。彼こそがこの学校内で噂される不良生徒であり、『ヤンキー集団を壊滅させた』、『暴力団の大人と喧嘩してた』。などと中学生とは思えない噂が山程流れている。

 

 

 ──勿論、そんな事実はない。彼が起こしたとされる騒動が勝手にあられもない噂を流しているのだ。そんな噂を聞けば、彼の周りに人が寄り付かないのも当然と言えば当然だろう。

 だからナルもついでに噂されているのだ。『大人しそうな顔して実はヤバい奴』──などという何とも学生らしい理由をつけられて。ナルは大人しめ、トワは大雑把な性格だと側から見られている為、二人が仲良くなった理由が誰にも想像がつかないのだ。

 一部の生徒からは嫌われているが、それは二人が親しくなった要因でもある。

  

 

 ナルからのトワへの印象は周囲とは違い良好であるが、まぁ不良だと言われて妥当かと思える程度。

 初対面の時の衝撃が強く、それが彼への認識を確定させた原因だった。彼からの激励の言葉を受けているが、未だにナルは自身がこの世に存在する意味を見出せずにいる。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「へぇ、お前ってやっぱり結構手先器用なんだな?」

「別に俺が器用なわけじゃねぇよ。工匠の方にいい弁当屋があってさ、そこでよく帰り道に惣菜買ってんだよ」

「弁当屋かぁ……西の方にもあったりしないかな?」

 

 

 昼休み──生徒達が談笑しながら教室や屋上で弁当を食べる憩いの時間。休み時間よりも与えられる時間が多い為、学校外に出る生徒やグラウンドでスポーツに打ち込む生徒もちらほら見られる。

 そんな中、ナルとトワは自分達の席で向かい合いながら弁当を食べていた。感情豊かな表情をよく見せるトワに対し、ナルの顔には笑みがあまり浮かんでいない様子だ。

 

 

 だがトワはそんな事は意にも介さない。意外と面白い反応を見せてくれるナルに興味津々で、次から次へと話題を投下する。

 意外にも共通の趣味はあるのだが、ナルに関しては以前までの趣味であり、現在は自分ですら把握しきれていない。毎日を無駄に浪費しているとは自覚しているのだが、それ止まり。自分が生きる意味を模索しようとしているが、殆ど不発に終わっているのだ。

 

 

「お前は今日はなんか雑だな。色々と」

「寝坊したから時間がなかったんだよ」

「購買でなんか買えばいいのに」

「人が多過ぎるんだよあそこは。揉みくちゃにされたくはないね」

「日によると思うがな……人気なのには変わりねーけど」

 

 

 真面目な癖して意外と夜更かししてるんだなとナルの生活を一面が垣間見えた瞬間だった。プライベートが謎過ぎるナルにどんな生活してるのかと気になるトワは矢継ぎ早に質問攻めをし始める。

 そしてナルが少し面倒臭そうに答え、トワが求めていた答えだったりしなかったり──以前の二人だったら有り得なかった光景。教室内からも怪訝な目が偶に彼らに向けられている程ソリが合わないと思われていたのだろう。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「やっぱり雑誌に載ると印象変わるよな〜。びっくりするくらい!」

「そうね。撮影の時はお化粧もするし、照明もたくもの」

「ほんと、学校の時と印象がガラッと変わる感じがするわよね…」

 

 

 屋上では、五人の女子生徒達が輪を描くように座り、楽しく談笑している様子が見られる。年齢層は中学生から高校生へと幅広く、今は一人のモデル業について会話の花を咲かせていたようだ。

 ──すると、一人の活発な女子生徒──『由比鶴乃』が一つの話題を投下する。

 

 

「そう言えば聞いた!? また不良生徒が同級生ボコボコにしたっていうの!」

「あー……小日向のことでしょそれ。多分デマよデマ」

「有名だよね……確かレナちゃんと同じクラスなんだよね……? 大丈夫なの?」

 

 

 投下された話題は不良生徒こと小日向トワ。中等部のみならず、どうやら高等部生にまでその悪名は轟いているようだ。

 

 

「大丈夫よ。最近は六倉が居るから小日向本人の機嫌も良くなってきているわよ。別に小日向だって無闇に喧嘩ふっかける奴でもないし」

「不良生徒……よく聞くわね……って──え?」

 

 

 すると突然最年長であろう女子生徒が突如その一言と共に数秒間停止する。まるで予想外の一言が飛んできたかのような反応を見せる。

 そして『レナ』と呼ばれた少女──『水波レナ』の肩を両手で力強く掴み、問い詰めるように顔を近づける。

 

 

「レナ。あなた今『六倉』って言った……?」

「え、は、はい……」

「その子の下の名前は!?」

「確か……『ナル』だったと思いますけど」

「……そう、なのね……」

 

 

 その女子の反応に他の三人はに首を傾げる。知り合いだったのかとレナは怪訝に思うが、一人の生徒──『十咎ももこ』は、その名前に疑問を呈するような反応を見せる。

 

 

「前から思ってたんだけど、六倉ってさぁ……()()()()の人じゃなかったっけ? それも、かなり有名な」

「そうね──私もよく知っている人よ。そのナル君とも本人伝いで何度か会ったことがあるわ。彼が覚えているかは分からないけれど……レナ。その子は今どんな感じなの?」

「えっと、前まではちょっといざこざがありました。でも小日向とつるむようになってからは明るくなりましたけど……」

「そう……なら良いのだけれど」

 

 

 優れた美貌を持つ生徒──『七海やちよ』は、聞くべき質問は全て聞き終えたのか、何かに思いを馳せるかのように目を閉じ、静かに弁当をまた食べ始める。

 

 

「ほっ?ししょーの知り合いなの──ってあれ? わたしもどこかで聞いたことあるような……」

「ナル君のお姉さんとはね。今はもういないのだけれど……」

「あっ、そ、そうなんだ……」

 

 

 興味津々な態度を見せた鶴乃がやちよにそう疑問を投げかけるが、やちよの返答を聞いて気まずそうに顔を背ける。本人も悪気はなかったのだから仕方ないことではあるが。

 ももこ、レナ、もう一人の生徒──『秋野かえで』も同じような反応を見せて、皆やちよに同調するように静かに弁当を食べ始める。

 微妙な空気感が流れる中で、やちよはナルへ思いを馳せる──もっと早く知っておきたかったと。今すぐにでも彼の元へと駆けつけたいと。

 

 

(……ナル君。この学校に通っていたのね。全く知らなかったわ。レナやクラスメイトとは仲良くやっているようだから一先ずは安心ね。だけど──『いざこざ』……何があったのかしら。)

(──私達よりもあの子の方がよっぽど辛い筈……今すぐに彼のクラスに向かったら不審に思われちゃうかしら……)

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 ──人間ってのは、皆何かしら生き甲斐をもって生活しているのだろうか? 生き甲斐の種類なんて十人十色だが、それがあれば今日も明日も頑張ろうと思えるものなのか? 俺にはそんなモノが今のところあるのかは分からない。

 小学校でも中学校でも結局虐められていたせいか、友達も碌にいなかった。でも帆奈といた時期は間違いなく生き甲斐は持っていたと言える。危険に巻き込みたくないから自分から離れたのだが……

 今はどうだろうか。新しくできた友達は中々の曲者──悪い気はしないが、トワのことを生き甲斐とは呼べるのだろうか。俺は無意識に帆奈の姿を重ねてしまっている。性格もぜんっぜん違うというのに、友達というだけで自分勝手にもそう考えてしまっているんだ。

 

 

「何してんだろ……俺は」

 

 

 学校での会話や娯楽が、何故か心の奥底では楽しめていないんじゃないかと思うようになった。単純に独りぼっちになって醜い寂寥感が襲って来ているせいなのだろうが。今更友達を作ったってその相手と関わる時間なんて高が知れている。

 ──トワと過ごしている日々は前よりはずっと楽しい。だからアイツには感謝している……同時に申し訳ないが。アイツから送られた激励の言葉は心の何処かで反芻してはいるが、結局は無意味だ。

 

 

 ──ふと、部屋の隅にある棚の上へ目線を向ける。

 

 

 ──そこには、卵の形状をした宝石が鎮座している。宝石と言える程の輝きはなく、また濁ってもおらず、透き通った色をしている。

 アレを見る度に憂鬱な気分になる。姉ちゃんが死んだ時の光景を思い出すし、自分の意思の弱さを毎度毎度痛感させられるからだ。ぶっ壊してやろうかと思った事はあるが、それをしたら自殺願望が溢れ出てしまうから絶対に行動には起こさない。

 ──あの日から色んなものが見えるようになってしまった。あの白い動物──名前は何だったっけな…『キュゥべぇ』とかだったか。

 

 

 キュゥべぇは確か姉ちゃんが()()()()だと言っていた……願いを叶えた代わりに魔女とやらと戦う運命を課される少女達のことだそうだ。あの時は気分が動転していたが、意外と覚えているものだな。

 ──そう、あの日から魔女という存在を目視できるようになった。他にも、それの反応を感知できるようにもなっているとキュウべぇは推測していた。

 

 

 だからどうしろと言うのだ。俺は願いも叶えていないし、姉ちゃん達みたいな覚悟もない。幾ら姉ちゃんからの激励の言葉があったとしても、結局俺の本質は変わらないのか。だからせめて帆奈だけは……と思って理由もつけずに離れた。それが正解だったのかは分からないが、俺は正解だと考えている。

 一度魔女と戦ったことがあるが……真夜中だったのに加えて人気のない場所だったからな。誰も助けには来なかったし、何度も激痛を味わった。

 だから怖くてそれ以来魔女とは戦っていない。生き甲斐があるのかすらも分からないくせに、死ぬのが嫌だったんだ。

 

 

「はぁ──ん?」

 

 

 ──宝石の横の写真立てが倒れているのが視界に入る。掃除も怠るようになったから部屋の景色なんて一々気に留めていなかったから、その写真へと無意識に吸い寄せられてしまう。

 写真立てに収納している写真は全て思い入れのある物で、殆どが家族写真だったのだが、一つだけ未練がましく飾っている写真があるんだ。

 

 

「やっぱり──帆奈との写真だ」

 

 

 それは幼少期、俺の一番の友達であった更紗帆奈──彼女とのツーショット写真だった。まともに手入れもしていないから埃だらけで俺にとっての宝物とは到底思えない風貌をしている。

 未練がましく飾ったは良いものの、気色悪いと無意識に考えていたから露骨に目線を合わせるのを避けていたようだ。だからと言って彼女の存在を忘れた事は一日たりとも無い。帆奈を忘れたら俺の人生全てを否定してしまう可能性があるから。

 

 

 俺が忌々しく思う幼少期の中で数少ない輝いていた思い出──出会いは突然なもので、今思えば当時の俺は殆ど不審者扱いされてもおかしくなかった。

 公園で蹲って泣きじゃくる彼女を見たら、何故だか身体が勝手に動いてしまったんだ。当時の帆奈と俺は偶然にも家出という名目で公園に居座っていたから、シンパシーを感じていたんだろうな。お互い幼かったから話が噛み合ったが、今ぐらいの年齢じゃ有り得なかった光景だ。

 

 

 そんな思い出が写真を見た瞬間に脳内に掘り起こされる。よく見たら当時の俺は満面の笑みを浮かべている。余程帆奈と遊ぶのが好きだったようだ。今こんな笑顔を見せろと言われたらソイツを殴り飛ばすぐらい無理難題だ。笑顔なんて要求されて出すもんじゃないからな。

 

 

 そんな俺の横でぎこちない笑みを浮かべているのが帆奈。彼女の家の悲惨な状況もあってか、服は少し汚れているが当時の俺は意にも介さずに密着している。帆奈の家柄について思う所なんて山程あったが、彼女から口出しを禁じられていたから乗り込んだりはしなかった。

 今思えばそうしておけば良かったのかもしれない。帆奈の両親を殴り飛ばしておけば帆奈ももっと明るい笑みを見せてくれたからもしれない。この笑顔が嫌いな訳じゃない。もっと幸せでいて欲しいからだ。

 

 

「……元気にしてるかな」

 

 

 今は何をしているのだろうか。新しい友達は作れているだろうか。俺の事は覚えていてくれているだろうか。

 会いたいと願う気持ちが溢れてくるが、今更会った所でという話。帆奈にとっちゃ俺は既に過去の人だし、こんな醜態を曝け出したくもない。会うつもりもないし、会う事も無いだろう。

 

 

 ……なのに──

 

 

 彼女のぎこちない笑みを見ると、何故か笑みが溢れてしまう……少しだけ明日が楽しみだって思えてしまう。今の劣悪な状況を鑑みれば嬉しく思える筈なのだが、どうしても自分が気色悪くなるのだ。いつまで過去に縋っているのだと。もう帆奈は居ないだろうと。亡霊のように俺が俺へと語りかけてくる。

 

 

 どんな顔をして俺は写真を見ているのだろうか。満面の笑み? ニヤけた笑み? どれでもいいが、せめて自分でも心地良く思える顔であって欲しい。帆奈の顔を見る時ぐらい醜い姿を見せるなよ。

 帆奈は居ない。当然の事だ。だが──過去の光に縋る事は醜いと言えるのだろうか。

 

 

 気色悪い。勿論そうだ……だが、別に帆奈と会う訳でも、誰かにこの笑みを見せる訳でもない。俺だけの秘密だ。空虚な気持ちになった時に再起する方法に、正しさも糞もあるか?

 考えろ──鬱っぽくなっていた俺と、少しでも前を向いている俺、どっちが良い? 当然後者……大体俺が頼りないからトワにも助けられ、毎日話しかけて貰っているんだろう。アイツもアイツなりに俺に期待してくれている──その気持ちに応えるべきだ。

 

 

 ──それに、帆奈から離れた事実が意味を成さなくなってしまうじゃないか。俺は彼女を死地から少しでも遠ざける為に無理矢理距離を置いたんだ。それなのに地団駄踏んでいる暇があるのか。

 帆奈が居た時期すらも闇に葬ってしまう訳にはいかない。その為に俺がするべき事は一つだ──

 

 

 どれだけ醜くても戦う事だ。帆奈を否定するな。忘れるな。俺は姉ちゃんの弟だろうが──少しでも甲斐性があるという事を証明しろ。

 今の俺には魔女と戦える力が宿っていると言われたんだ。なら、やるしかないじゃないか。帆奈にもトワにも顔向けできるような俺になるんだ。だから──

 

 

 ──帆奈。

 

 

 俺、帆奈にずっと感謝し続けると思う。理由も無しに別れを告げてごめん……帆奈と一緒に居れば、帆奈はきっと戦いに身を投じてしまう……それだけは駄目だ。俺のせいで帆奈に傷ついて欲しくないんだ。

 だからせめて……魔法少女なんかとは縁のない生活を送っていて欲しい。帆奈にとって俺は友達の一人にしか映っていなかったかもしれないけど、一人の友達としてそう願うよ。俺は、忘れないから。

 

 

 

 

 

 

 




トワ君に関してはナル君のただの友達。
時系列としては一部開始の1年ぐらい前。やちよがまだ高校生の時期。 
瀬奈は魔女化しており、ももレナかえ鶴も契約済み。呼び水イベントよりもほんの少し前の時期ぐらい。
呼び水では鶴乃がいるからかもレは既に出会ってる…筈。
やちよのまほストでももこが『2年くらい前』と発言しているので、ももこは2〜3年くらいの魔法少女歴と思っています。
ナル君が何故魔法少女の真実まで知っているのかは別の話で。
ナル君からの帆奈への印象→優しくてちょっぴり意地悪な女の子。
自己評価がすっごい低いせいで自分がいなくても帆奈は大丈夫だと思っちゃってる。
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