更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話   作:nalnalnalnal

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レナちゃん回



第6話 水波レナの独白

 

 

 

 

 俺が和泉さん達と会った日の翌日の昼休み──この日は十咎さんがお手伝いをしている魔法少女の『水波レナ』さんと『秋野かえで』さんとの顔合わせの約束があり、俺は水波さんと共に屋上に出向いていた。

 …今日の朝からずっと水波さんの視線が痛かった…十咎さんから概要は既に聞いていたのが原因なのだろうが、授業中も偶に見つめられていたし、終始無言なんだから気まずいどころの話ではなかった。

 トワには断りを入れて弁当を持って来た。屋上には既に俺達以外の魔法少女達が集まっているが…やはり肩身が狭いな。男女比一対五だもんな…まぁこれから神浜でやって行くのなら別の魔法少女とも鉢合わせる可能性も十二分にあるから、今の内に慣れておかないと。

 

 

「おっ来たな二人共…って、何でレナはそんな気落ちしてんの?」

「はっはぁ!?別にしてないから!」

 

 

 激昂する水波さんを横目に俺は一人の見慣れない小柄な子に目を向ける。あの子が秋野さんかな?何だか可愛らしいと言うか柔らかい雰囲気と言うか…

 そんな俺の目と視線が合致した子は、辿々しい様子で立ち上がって丁寧にお辞儀をする。

 

 

「あっあの!は、初めてまして…『秋野かえで』です!よろしくお願いします!」

「初めまして、俺は六倉ナルって言います。敬語は使わなくても大丈夫だよ」

「はっはい!」

 

「何かレナいつもよりしおらしくない?」

「そ、そんな事ないわよ!」

 

 

 水波さん、十咎さん達と居る時は凄い楽しそうだな…魔法少女ならではの悩みとかも打ち明けられる仲なのだろうな。俺じゃ役不足ってのもあるだろう。

 一度挨拶を交わしただけでもよく分かる。秋野さんは本当に親しみやすい子だ…年下の子と話すのなんていつぶりだろうか。

 

 

「顔合わせと言っても事情はもうももこから聞いているでしょう?ナル君は私達のチームに加入する事になったわ」

「ナル君は言いふらすような子じゃないのは私達が証明済みだから安心してねー!」

 

 

 

 

 お互いの自己紹介をしたら、その後はただの世間話だ。俺がチームに加入する要因だったり、俺の姉ちゃんの事だったり、水波さん達の馴れ初めだったり…魔法少女ならではの色んな話が聞けた。

 水波さんや秋野さんとも距離を縮められたようで、同じクラスである水波さんとは友達とは呼べる関係にはなれたのではないだろうか。俺マジでトワしか友達いなかったからなぁ…

 水波さんはやたら態度について主に十咎さんから弄られていたが、余程俺に対する態度は普段とは違っているのだろうか。距離が縮まったのかイマイチ不安になるが…

 弁当を食べ終わった瞬間に課題をやってない事を思い出して俺は一足先に教室に戻った。せっかくならもっと話しておきたかったがまぁいい…昨日わざわざ課題やる時間作ったのに無駄になってしまったな。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「レナさぁ…ナル君となんかあったの?やけにどもってるっていうかさあ、迎々しいっていうか」

「はぁっ!?い、いやそんなこと…」

 

 

 ──無い訳ではない。別に喧嘩したとかじゃないんだけど、六倉と話す時はどうも緊張してしまう。理由は勿論分かってる…でも、それはただレナが弱いだけ…いつまで経っても六倉に言いたいことが言えないの。あの時助けてもらったのにいつまでも謝りたいのに謝れない。六倉がももこ達のチームに加入するなんて聞いた時はリアルに飛び上がったけど、少し六倉と距離を縮められるのではないかと、やっと謝れるのではないかと考えていたが、レナはレナが想像する以上に臆病だったようだ。

 …流石にかえでにすら怪訝な顔される程どもったりしてたらバレるもんもバレちゃうか。

 

 

「そんなことあるんだろ…?ナル君の態度見る限り喧嘩したって訳でもないだろ」

「うっ…」

「嫌なら話さなくてもいいんだけどさ、仮にもナル君はアタシのチームの一員なんだよ。それでお手伝いしてるレナと一悶着あったなら聞き出したいのは当然だと思わないか?」

 

 

 当然だ。だが…これで六倉に変な印象を持たれようものならレナの罪悪感が限界突破してしまう。ただでさえ六倉には感謝してもしきれない恩があると言うのに、それだけはせめて避けなくてはならない。ただ、全て話すとなればレナだって覚悟が必要。今日はそんな気分じゃない…と言うか、恥ずかしいから知られたくもない…!

 ここで六倉の人間性を保証して尚且つレナも話し易い言葉…言葉足らずだと思われるかもだけど、仕方ないでしょ…!

 

 

「その…前、ちょっとクラス内でいざこざがあって。レナが被害者…って言うのも変なんだけど、それを六倉が助けてくれたの」

「いざこざ…かぁ。前も言ってたな。まぁそう言うって事は、話しづらい事?」

「そ、そうよ…文句言わないでよ?」

「アタシが聞いたんだから文句ナシ。少しでも話そうとしてくれただけでアタシは嬉しいよ」

「…そ。んで、その出来事がレナにとっては大きくって…でも、六倉には謝れずじまいで…」

「謝る…?」

「あっちょ…!今のナシ!そっその…レナも課題やってなかったから帰る!」

「えっ!?ちょうおぉいレナ!」

 

 

 結局レナはその場から逃げ出してしまった。もうとりあえず一応話したから良いでしょ…!

 六倉に対しての本音を知られてしまうのは小っ恥ずかしいどころの騒ぎではない…皆んなには悪いけど。

 あの日の事だってそう易々と話せるもんじゃないのよ…レナにとっては大き過ぎる出来事だったのよ──

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 レナは、こんな性格だからちょっと前までクラスで虐めに遭っていた。遠回しな悪口とか面と向かって言われたり、ノートパクられたり…まぁ散々だった。

 日々エスカレートしていく虐めに対してレナは結局反撃なんて出来なかった。逆上されて更に被害が大きくなるのを自然と避けていたからなんだけどね…

 それで、そんなある日。

 レナは当時クラス内で馴染めずにずっと一人でご飯を食べていた。ただ、クラス内のカースト上位層の奴が突然レナに喧嘩売ってると捉えられる文言を発してきて…自制が効くようなレナじゃなかったから結局キレちゃって。レナの態度が気に食わなかったのか、ソイツらはレナの弁当を取り上げて水筒の水をぶっ掛けた。レナは転勤族だったからこんなこと日常茶飯事だった…だけど、耐えろと言われて耐えられるようなものでもない。皆んな見て見ぬ振りして…次の標的になるのを避けていたんだ。でも──

 

 

『ほらぁ!弁当水でふやけて食べやすくなったっしょ?』

『きゃはは!ウケるー!』

『やめてっ…返してよっ…!』

 

 

こんなの慣れっこだった…レナがこんな性格だからこうなるのなんて分かりきっているはずなのに結局何も変えられなかった。

 ソイツらが取り上げた弁当を持ってレナの座席から離れようとした時。それは起こった。

 

 

『何してるんだ?』

 

 

 そう──六倉がレナの弁当を取り返してくれた。当時、六倉はクラス内で一言も喋らないような奴で、あまりに突然過ぎた出来事にクラス内に一時静寂が走る。レナも驚いていた…まさか助けれくれたのが六倉だとは。

 まぁ、弁当取られた奴らが黙ってる訳もなくて…

 

 

『はぁ?急に何なの六倉。ってか、アンタ喋れたんだー!』

『ほんっと。正義のヒーロー気取り?水波さんに一目惚れでもした?あっ!水波さん胸でっかいもんねー!もしかしてソレ狙いとか?』

『…正義のヒーロー?それは君達が悪者って事になるけど、良いの?』

『…は?何?アタシらの事馬鹿にしてんの?』

『自分達で言ったんだろ?』

『はっ…キッショ!もういいや』

 

 

 六倉のさも当然かのような反論にソイツらは悪口を吐き捨ててそそくさと教室から出ていった。教室内には何とも言えない雰囲気が漂うが、六倉はそれを全く意に介さずにレナの方へと向かってきた。それで、優しい声色でこう言ってくれた。

 

 

『…大丈夫?』

『えっあ…!』

『…食べるものないなら俺の弁当半分要る?』

『えっ、い、良いの…?』

『良いよ』

 

 

 丁度その時のクラスでも六倉とは隣の席だったから、二人の机をくっ付けて六倉の弁当を一緒に食べあった。友達ならまだしも、男子と一緒にご飯を食べるなんて弟以外だとレナにとっては有り得なかった。だから(すこぶ)る緊張していたんだけど…六倉は何も言わずに静かに弁当を食べていた。レナはこの出来事が忘れられなかった。

 

 

『あ、あのさ…』

『?』

『あ、あ、ありがとう…』

『…うん』

 

 

 ただ──

 

 

 この出来事があったからなのか、六倉は次の日から虐めの標的になってしまった。きっとアイツらのグループがあの出来事を流したからだ…

 レナのせいだ。レナがもっとちゃんとしてれば…レナがもっと…六倉はレナを助けてくれたのに、六倉が虐められるなんて…

 でも、六倉は授業中や休み時間では前と何ら変わらない態度でレナと接してくれた。まるで自分が虐められているのは当然だと言うように。それがレナは堪らなく申し訳なかった。

 六倉は虐めに対しては何も抵抗もせずにただ淡々と受け入れていた。なのにレナはと言うと…助けてもらったと言うのに、結局見て見ぬ振りを通してしまっていた。一度六倉が教室内で虐めに遭っている時に向かおうとしたのだが、六倉はレナを見ながら『ダメだ』と言わんばかりに頭を横に振った。

 その時に理解してしまったんだ。六倉はレナの身代わりになっているんだって…そしてレナも、それに結局甘んじてしまっているという事に。

 

 

 魔法少女になったのもそれが一つの原因だ。レナは別人に変わりたいと願った…でも、六倉に対しては未だ一歩を引いた関係。

 結局六倉を虐めから助けたのは小日向だった。レナとは真反対の性格。言いたい事をズバッと通す。小日向と関わってからの六倉は目に見えて明るくなった…レナでは役不足だったんだ。

 この出来事が積み重なって、六倉に対してレナはどう接すれば良いのかが分からなくなっていた。虐めの事を早く謝らなくちゃいけないのに…六倉は魔法少女と関わっている今だって何も変わらない。変わっていない。

 このままじゃいけないのなんて分かってる…これが良い機会なんだ。六倉ともっと距離を縮められるかもしれない…レナは六倉と普通に話せるようになりたい。レナを助けてくれたんだから…自分を臆病だと断定したままじゃダメだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 水波さん達との顔合わせを行なった日から数日後。ちょっと厄介な事件が起こったんだ。それはと言うと…『十咎さんが魔法少女に襲われた』と言う事件…どうやら十咎さんは中立地帯である中央区で魔女を発見し、その結界内で襲われた。そしてその魔法少女はこう言ったそうだ──『わたしはあなたと対立する区の魔法少女だ』と。

 しかし、俺はこれが引っ掛かっている。七海さん達は東が加害者だと考えているが、果たしてこれは本当に東側の魔法少女の仕業なのかと。最近和泉さん達と会ったから情が湧いたのかもしれないし、単に俺が魔法少女の戦いに身を投じてまだ間もないから割と俯瞰的に見れている部分があるのかもしれないが、まぁ怪しいよな。

 しかも何故また中立地帯で争いの火種になるような真似を…中央区の魔法少女からしたらたまったもんじゃないだろう。

 

 

 それで、チームのリーダーである七海さんが黙っている筈もなく…すぐさま和泉さんとの会合を持ちかけた。大義名分は七海さん達にあるから交渉を有利に進められると言っていたが…大丈夫だろうか。

 俺はとりあえず様子見という体で家で待機させられているのだが…もう会合が始まってかなり経つと思うが、何か進展はあったのだろうか。

 

 

「…仲良く円満に…とは簡単にいかないのが魔法少女なのかな。神浜の軋轢と似通うところがあるな…」

 

 

 そんな考えたとしても無駄な事を延々と考えていると──携帯の通知音が鳴り、画面には七海さんと和泉さんからのメッセージが表示されていた。何々…?

 

 

『明日、十七夜を交えてこれからの話をしたいの。予定はあったりする?出来ればこちらを優先して欲しいわ。それと…ありがとう。あなたのお陰で会合は決裂せずに済んだわ』

 

 

『ナル君。七海から話は聞いているだろうが宜しく頼む。なるべく危険には身を投じて欲しくはないのだが…とにかく、単独行動だけはしないでくれ。絶対だぞ?それと、今日は君のお陰で話を円滑に進められた。感謝する』

 

 

「…???」

 

 

 何故俺は二人から感謝されている…?俺は特に何もした覚えはないのだが…まぁ聞く程の事でもない…か?姉ちゃん関係なのか?まぁ良いか。

 とりあえず会合は上手く進んだようだ。良かった…明日か。特に予定は無い。丁度良い機会だ。皆んなにも違和感の事を話してみよう…七海さん達程のベテランなら答えが見えるかもしれないし。

 何とか上手く事態を収束出来たら良いのだが。変に伝播すると争いが起きかねないからな…

 

 

 

***

 

 

 

 ──そして翌日。俺達は和泉さんをみかづき荘に招待し、皆んなで話し合いを始めていた。議題は事件について。どうやら東でも魔法少女が襲われる事件が発生していたようで、『お前が嫌いな区の魔法少女だ』と宣言したそうで、やけに十咎さんの時と似通っている…やはり、何か違和感がある。東西の魔法少女ではない何かの意志を感じる…

 まだ情報が少な過ぎて不確定要素ではあるが、話してみる価値はありそうだ。と、考えていたら──

 

 

「…!今し方、東の魔法少女がまた襲われたと連絡が入った…」

「──!?…それは…私達の指示ではないわ」

 

 

 ──これは。事態はかなり急速に動いているようだ…今連絡が入った魔法少女の状況がどのようなものなのかでこの違和感の正体が決まる気がする。

 

 

「和泉さん。その魔法少女ってどんな状況で襲われたんですか?」

「状況…か。見る限りでは、また中央区の結界内で対立する区だと言う魔法少女に襲われたそうだが」

「…ん?」

 

 

 十咎さんと昨日の会合で和泉さんが言っていた襲われた魔法少女って確か…どちらも中央区の結界内で襲われた筈だよな?それで今の連絡でも中央区…

 それと全てに共通している点…『対立する区の魔法少女』という宣言。西だとも東だとも言っていない…捉えようによっては東西関係のかき乱しを狙う可能性も考えられる。ただ、それをして何になる?状況は東西も同じ…組織的に動いている可能性も捨て難いが、決行したところで何の利益を得られると言うのだ。東西のトップには七海さん達が居る。いつバレてもおかしくはない…結界内とするならば──魔女の仕業と考えて良いだろう。

 …反応を見る限りだと、梓さんも何かに気づいたようだ。そして、俺が話すよりも先に梓さんが口を開く。

 

 

「…それって、『西』とは言っていないんですよね?」

「ああ…」

「和泉さん…まだ西側の魔法少女の仕業って決めつけるのは早計なんじゃないですか?」

「そうですね。状況は東西も全く同じ…『中央区の結界内で』『対立する区だと言う魔法少女に襲われる』…ワタシ達が勝手に相手側だと思い込んでいたという事です」

「──!成程…つまり、我々は手の平で踊らされていたという訳か…」

 

 

 流石梓さんだ。簡潔に纏められている…だが、東西の魔法少女の仲違いを狙う魔女か。えらく狡猾だな…

 正体は確定ではないが何とか掴めたが…疑問点は残る。魔法少女に襲われたという事実に変わりはない…これだ。この事実があるせいで魔女の仕業と断定できないのが困ったところだ。魔法少女を操る魔女でも居るのか?俺達が知らないだけでそんな狡猾な真似が出来る魔女が居ると言うのか。

 

 

「…考えられるとするならば魔女でしょう。しかし、起こった事実は変わらない。皆さん、一度中央区に足を運んでみませんか?その結界を調べれば事件の犯人が見えてくると思うのですが。魔女の性質は正直計り知れない程存在します…異端な性質を持つ魔女が居ても不思議ではありません。それに、ワタシ達だけでは警戒されてしまいます…どうですか?十七夜さん」

「…そうだな。自分も同行しよう。理由もなく決めつけるのはお門違いだからな?」

「…?」

 

 

 何故俺を見つめてくる…?

 

 

「しっかし、魔法少女同士で争わせようとする魔女ねぇ。随分とふざけた真似してくれるよね…!」

「全くですよ!しかも中立地帯でやるのが尚更陰湿感が増すです!」

 

 

 梓さんの計らいにより、俺達は急遽情報があった中央区の結界へと向かった。十咎さんが反応を覚えているからそれを頼りに捜索する予定だ。

 梓さんを見習わなくてはな…正直俺は考え込んでしまうタイプだが、それを言語化出来るかと言われたらはいとは答えられない。最低限の情報でも伝えられるような言語能力を持ち合わせていれば何か争い事が起こってもすぐに解決できる。実際姉ちゃんがそんな感じだったからな…ほんと、俺が持ち得なかった能力を悉く持ってるな姉ちゃんは…単に俺の努力不足だろうが。

 

 

 

 




経験不足だから逆に見えてくる世界もあるんじゃないかな。
トワ君に会うまでのナル君は割とドライな感じ。
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