更紗帆奈の隣の家に住んでいた男の子の話 作:nalnalnalnal
「これがそうなんですか?」
「うん。間違いないよ…あの時の反応と全く同じだ」
俺達は中央区まで足を伸ばし、十咎さんの案内によって一連の騒動の発信源だと考えられる魔女結界へと到達していた。道中、偶に視線を感じられたが、恐らく中央区の魔法少女…西と東のまとめ役が揃っているのだがら当然と言えば当然なのだろう。
「これ以上被害を拡大させない為にも、なるべく早急に正体を突き止めましょう」
「そうですね。皆さん、まだ得体の知れない相手の為、出来るだけ集団で行動しましょう。特にナルさんは単独行動は控えるようにお願いします」
「分かりました」
何度かチームで魔女と戦ったが、やはり俺はまだ戦力不足だ。使い魔程度ならまだ単独でも大丈夫なのだが、大元の魔女となると話が変わってくる。単に経験不足のせいなのだが、七海さん達の連携の隙を突いて攻撃するというのが未だに達成できていない現状なのだ。何とかこの結界では足手纏いにならないように尽力しなければ…俺が突出している能力は特に思い付かないが、強いて言えば筋力ぐらいだろうか。
魔力のおかげで自身の身体を無意識的に強化出来ているのは分かる。学校の体育の授業等も何かと楽になった。色んな奴にジロジロ見られるというデメリットに目を瞑れば…な。筋トレとかも前からはしているから、筋力を活かせる場面でも有れば良いのだが。
そんな俺の魔力はどうやら七海さん達からの話を聞くに、姉ちゃんのものと一致しているのだ。聞けば姉ちゃんが持つ固有の能力が『与える』魔法なのだとか…死の間際、姉ちゃんは俺に自身の魔力を移植してくれたんだ。
そう言えばキュウべぇもそんな事を言っていた気がするな。気が動転していたから記憶に残っていなかったんだろうなきっと。
そんな事を考えている内に皆んなが結界に入り始めた為、俺は殿を務める形となって結界に侵入する。
***
「なんか…凄い綺麗です!」
「壮観だね…鏡張りの結界だとは」
結界内は至る所に鏡がくっ付けられていて本当に銀色と形容して良い世界が広がっていた。ただ、見る限りかなり広い結界のようだ。まるで巨大な屋敷の中にいるみたいだ…
今の所魔法少女もとい魔女や使い魔は現れていないが…ついつい油断してしまいそうだ。
「もう…もっと緊張感を持ちなさい。いつどこで襲われてもおかしくないのよ?」
「迷子になりそうだよー…こんなに歩いても全然奥が見えないもん」
「同感だな。今までの結界とはかけ離れた異質な気を感じる…」
普段見慣れない光景につい見惚れてしまう。多分集団で行動してるってのも相まって俺は気が緩んでいるんでいる…いかんいかん。こういう時こそ冷静に、慎重に行動しなければ。
「とは言ったものの、なかなか使い魔すらも現れないのはどういう──」
「──!?ナル君!」
「は、はい──ごっ!?」
和泉さんが俺を必死に呼んだ瞬間に突然俺の脇腹に激痛が走る。予想だにしない衝撃に俺の身体は耐えられずに七海さん達とは真逆の方向へと吹き飛ばされる。
何事かとようやく状況を把握しようとした時には既に俺の視界には七海さん達の姿は無く、映っていたのは──俺の脇腹へと密着していた使い魔の姿だった。
「いっ…!何だコイツ──っ!?」
不意に嫌な予感がして、瞬時に目線を背後へと向けるとそこには──鏡張りの巨大な柱が鎮座していた。
不味い…!コイツ俺もろとも柱に激突させるつもりか!どうしたら──ああもう!こうなったら…
「そっちが当たれ──よっ!」
俺に抱き付くように密着する使い魔の頭を鷲掴みにし、柱の方へと身体を旋回させながら突き出す。使い魔は当然暴れ出すが、握る手へと力を集約させると、使い魔の身体で動くのは下半身のみとなる。コイツ頭硬いな…!流石に握り潰せはしないが、動きを封じるくらいは出来る。
そして──使い魔は結局逃げ出せずにそのまま頭から直で柱に激突し、俺の手にもビリビリと電流が走る。いった…!衝撃を殺せる訳でもないからな…もっと良い判断があったかもしれないが、使い魔を倒せるなら結果オーライだ。
柱から零れ落ちる鏡の破片を避けるようにそそくさと立ち上がるが…やはり分断された。今思えばちゃんと来ている反応はあったというのに油断していた。和泉さん達に面目が立たない…足手纏いにならないと意気込んだ矢先にこれかよ…
多分皆んなの方にも使い魔が襲い掛かっている…あっちは多分大丈夫なのだが問題は俺だ。数の暴力でやられるのが一番怖い。
「早いところ合流しないと不味いなぁ…だけどこの結界だだっ広いんだよな。せめて誰かと分断して欲しかった──ん?」
何か前から誰か向かってくる…?あの緑色の髪は…安名さんか!?
「ナルさーん!大丈夫!?」
「安名さん!良かった…ん?良くはないのか…?安名さんも分断されたの?」
「うん!さっき分断されちゃった!」
「やっぱりそう…ん?ん?」
何だこの言い表せないゾワゾワする感じは…安名さんってこんな喋り方だったか?いつも『です』って語尾についてるから違和感が凄いんだけど。
本来こういう話し方だったと結論付けて良いものなのか…まぁとりあえず誰かと合流できて良かった。分断させる事で戦力を削ぐ作戦を立てる魔女…騒動の経緯から感じてはいたがやはり狡猾。
ウカウカしてられないな。常に警戒態勢に入っておかないとまた急な攻撃が飛んで来るかもしれん。
そう感じた俺は頭の中で武器を取り出すイメージをする──すると、俺の腰に真紅の刀が鞘に納刀された形で携えられる。
これが俺の得物。姉ちゃんと全く同じらしいが、姉ちゃんが持つような固有の能力は使えない代わりにこっちは使えるっぽいんだ。何故だろうな…?
しかもイメージするだけで出てくるから…学校で不意に出してしまわないか心配になる事もある。
「なーんだ。バレちゃったんだ」
「え──うっわ!」
俺が刀を出した瞬間──俺の頬をタロットカードが掠める。これは安名さんが扱うカード…!何がどうなってる。何故安名さんが俺を攻撃してくる…?
だが、そんな事を考えている暇は彼女は与えてくれない。連撃に次ぐ連撃…次々と彼女のタロットカードの嵐が俺を襲う。しかもそれぞれが喉、鳩尾、股間等と言った人間の急所と言える場所に直で当てようとしてくるから尚更危険だ。何とか一撃一撃は重くないから捌けてはいるが…ジリ貧だ。近づかないと攻撃なんて当たりゃしない。
「君は安名さんじゃないのか!?七海さん達はどこに行った!?」
「知ーらない!そんなのいいからここで痛い目見てよ!」
安名さんはこんな事を言う子ではない…だが見た目は瓜二つ。どこからどう見ても安名さんだ。口調も性格も何もかも違うのに…
──何もかも違う…か。
考えてみればここは魔女の結界…何が起きてもおかしくはない場所だ。だったら…
俺に対しては発してはいないが…『あなたと対立する区の魔法少女』という発言。争わせる理由にはもってこいだが、その魔法少女にとっての利益が無さすぎるんだ。結局殺さないなら姿を見られてすぐにゲームオーバーだ。だとしたら…この魔女の仕業なんだな。
全く…許せないな。俺の方にも安名さんの偽物が来たとしたら、本物の方にも誰かの偽物が向かって争いが起きてるかもな。
「流石にやり辛いけど…安名さんの戦い方は普段から見てるから多少は理解してるつもりだ」
***
「どきなさい!ナル君のもとへ向かわせてもらうわよ!」
「ナルさん無事で居てください…!」
「彼一人分断させるとは…くっ。失態だ…自分が側に着いてやれば良かったものを…」
ナルを分断させられた少女達は次々と襲いかかって来る使い魔を薙ぎ倒し、ナルの救助へと向かう。
十七夜、やちよ、みふゆの三人は焦っていた。彼女達にとっての恩人である六倉楽の実の弟…そんな彼は姉から力を与えられて自ら死地へ飛び込んでいたのだ。
生前の姉と似た意思を持つ彼を単独で行動させるのは最悪のシナリオ…まだ戦い始めて間もない為、殺されてもおかしくはない。そうなってしまえば姉にも面目が立たず、まとめ役としての威厳も台無しだ。
「くっそ…!ナル君だけ分断するとか陰湿過ぎんだろ…!」
「でも、本当に早くしないと不味いよ!」
「そうですよ!使い魔が数の暴力でナルさんに襲いかかったら大変どころの話じゃないです!」
ナル自身もよく理解はしているが、ナルは彼女達魔法少女から見れば明確な経験不足。足手纏いと言う程の実力ではないのは皆理解しているのだが…たった今自分達が複数の使い魔に襲われた事、そしてナルだけが分断された事実が、彼女達に最悪の展開をチラつかせていた。
だが──
「あっ皆さん!良かった…無事ですか!?」
「──!?ナル君!?」
「大丈夫!?怪我はない?」
「大丈夫ですよやちよさん。何とか逃げてきました」
「無事で良かったです…ごめんなさい。ワタシ達が居ながら…」
彼女達の思い描く最悪の展開とは裏腹に、彼は傷一つ付いていない五体満足の状態でやって来た。当然十七夜、やちよ、みふゆは安堵の表情を浮かべるが…違和感に気付いていなかった。彼の無事という彼女達にとって喜ぶべき状況が、三人の警戒心を自然と解かせてしまっていたのだ。
だが──鶴乃、メル、ももこは気付いていた。彼が醸し出す違和感に。
そして──十七夜がナルの側へと駆け寄った瞬間。
「──!十七夜さんダメだ!」
「──何!?」
ももこが必死に十七夜に静止するよう呼びかける。それはまるで──そこにいる、ももこのチームの一員である筈の六倉ナルが危険だと言うかのように。
そして──その呼びかけに瞬時に応じた十七夜は受け止めた。
──六倉ナルが自身を殺そうとする為の刀を。
「あ?あー受け止めちゃうんだ。ちぇっ…」
「ナル君…!?何故だ…!?」
「何故って…そりゃ、殺られてもらいたいからだよね?ってか、何で分かったの?」
「…ナル君って、基本的に苗字呼びだからさ。やちよさんの事名前で呼んでたから、それが変に感じたんだ」
十七夜から距離を取り、得物である真紅の刀を携えた偽物のナルはさも当然かのように言い放つ。当然その場にいる全員が臨戦態勢に入る。特にナルの身を案じていた三人は警戒している。
だが、すぐに事態は動く事となる。
「いやぁでも、バカだなぁ。ゾロゾロと雁首揃えて、ワラワラと群がって来てさぁ…自分達を殺れる状況を作り出すなんてねぇ?しくじっちゃったけど」
「普段からそんなノロマなの?笑えるなぁ…ぷっ!」
偽物のナルは本物が言わないような、吐き気を催す罵詈雑言を平然と並べ立てる。そこには何の意思も、何の意味も感じられない…ただの悪意の塊が、そこには在った。
だが──偽物は更にしくじった。更に煽ってまた動揺させようと奮起していたのだろうが、それが間違いだったのだ。
「あっはははは──あ?あれっ?あれ…なん…で…」
「不愉快だ。消えろ紛い物め」
「今回ばかりは腹が立ちましたね」
「彼の見た目で舐めた事を言わないで」
六倉楽と縁の深かった三人の逆鱗に触れてしまったのだ。それも、神浜に於いて最高峰の実力を有する三人に。
頭部や胴体や足部といったありとあらゆる身体のパーツを全力で挫かれた偽物は情けない声を出しながら消滅する。
すると──その状況をまじまじと見ていた少年が一人。
「…」
「──むっ…ナル…君!?」
「ど、どうしたんです血が出ているじゃないですか!?」
「あなたは本物よね!?」
「あー…はい…」
***
「じゃあ、ナルさんはボクの偽物と戦って来たんですか!?」
「そうなるね…でも、こっちは俺の偽物だとはね…」
「すまない…自分が不甲斐ないばかりに」
「だ、大丈夫ですから。まぁ良い経験にはなりましたから…」
「いや、そんな怪我だらけで言われてもだな…」
「ご、ごめんなさいですぅ!」
偽物の安名さんを何とか撃破し、皆んなと合流する為結界内を彷徨ってようやく皆んなを発見したと思ったら…まさかの偽物の俺が討伐される瞬間を目に焼き付ける事になるとは…嫌われているのではないかと心配になるんだが。えっ、本当に嫌われてないよな?
今はお互いの状況確認…ただ、今日のところは引き上げる腹積もりだ。何せ結局の最深部が見えないのだ。それに、襲撃犯の正体はもう掴めた…これ以上深追いしてやられる必要性はどこにもない。本当にこの結界は何なんだ…
***
結界の外へと脱出し、俺達は今後の中央区への対応を決めた。この騒動が収まったとて、中央区へ干渉しようとする魔法少女が居なくなるという事はない。禁止や警告を行うだけでは根本的な解決には至らない…と、言う訳で。この魔女を討伐した者に中央区との交渉権を譲渡するという条件を提示する事にした。
この魔女は一連の騒動の原因だ。誰でも参加はできるが一筋縄ではいかない厄介な魔女討伐…中央区との交渉権を譲渡するには十分の標的だろう。
他にも中央区に関する色々な規律を決めるらしいが、詳しい事はまた決まってから教えてもらう。まぁ、こう言うのはベテラン達に任せるのが最善だろう。
「そう言えば、ナルさんはどうやってボクを倒したんです?」
「あっそれ気になってたんだよねー!ナル君もうメル超えちゃうぐらい強くなったって事!?」
「なっ!?に、偽物なんですからそうと決まった訳ではないですよ!」
「あー…いや…あんまり言いたくないと言うか」
「…?倒したのには変わりないのよね?」
「自分も興味があるな」
「えっなんでですか…」
偽物の安名さんなぁ…本物が居る前であんな倒し方をしたと宣言するのはなかなか難しいのだが…全員から期待の目を向けられているせいで逃げようにも逃げられない…
「大丈夫ですよ!偽物だったんですから!」
仕方ないか…
「…その。俺の刀を偽物の安名さんの目の前に放り投げて…」
「放り投げる…か。フェイントって事?」
「そうですね…んで、気を取られている内に…全力でぶん殴りました…」
「ぶん殴った…って…ええええ!?そんな容赦無くですか!?」
「ごめんって…」
トワとつるんでるせいでアイツに侵食され始めてる…アイツが俺の目の前で虐めてた奴殴り飛ばすもんだから、それを模倣してしまった。ついつい威力を出すならコレだと思い浮かんだせいでな。
まぁ…こういう判断力も時には必要だろ…
***
「…やはり、衰え始めている…」
「ナルさんもどんどん強くなって…ワタシもすぐに追い抜かれてしまいそうですね…」
「…楽さん」
「あなたはどうして…あんなにも強くいられたのですか…?」
「羨ましくなっちゃうじゃないですか…いつもワタシ達の遥か先に居て…背中なんて見えそうもなかったあなたを、羨んでしまいます…」
ナル君はなかなかのパワー系。
でも虐めに対しては全くやり返しもしなかったせいでそのまま虐められたという。