花町霊園を訪れたのは一週間前の7/7です。保育園に到着する直前のため、時刻は8時前後だったと思われます。
娘を保育園に送るためには電車で移動したあとに少し歩く必要があり、その道中に花町霊園がありました。故人が眠る場所を横切るのはどうかと思い普段は回り道をしています。
しかし、その日は娘がどうしてもと言うので立ち寄ることにしました。
市外の方に向けて説明すると、墓詛悪市の花町霊園には大きな円形状の花壇があります。そこでは四季折々の美しい草花が育てられており、この時期は山百合が咲いています。
ふと白い山百合の咲き乱れている光景が目に入り、娘は興味をそそられてしまったのでしょう。
花壇に到着すると、娘は楽しそうに花壇の周りをぐるぐると回っていました。しかし、突然何かを見つけたようにしゃがみ込んだため、私は慌ててそちらへと向かいました。
「いつものお花さん!」
娘が指差したのは、頭上の山百合ではなく地面から棒のように生えている茶色の地味な植物です。この花壇には四季折々の植え込みのほかにも年間を通して多年草が植えてあり、これはその一つでした。そのため「いつもの」と指を差したのです。
娘が「なんとかサカネラン」と言っていた覚えがありますが、私は植物に疎いためよく分かりません。しかし、娘がこの植物を特別気に入っているのは確かでした。
各個体の配置をある程度記憶し、「いつものお花」としてまるで友人のように親しみを覚えていたようです。
「この子ほしい!」
「いけません」
そして、この会話もいつものことでした。毎回懲りずにおねだりされるのでどうやって切り返すのか悩みます。それも、霊園を通りたくない理由の一つでした。
「人の物を取っちゃダメってわかるでしょう?」
「でも、この子一人でかわいそう」
「一人じゃありません。他のお花もいるじゃない」
「でも……」
相変わらず娘は引き下がりません。しかし、自分が欲しいのではなく、植物の気持ちになっておねだりしてくるのは初めてでした。
感受性が育っているのか、ズル賢い攻め方を覚えたのか。この後の会話で答えが出るのですが、どちらにせよ成長として微笑ましく受け取っていました。
また、私はこの形のおねだりに対するちょうど良い切り札を所持していたため、それを切ることが出来ました。
「あら。本当にこの子が寂しいと思うのなら、"この子"をそばに置いてやったらどうかしら」
「え?」
不思議そうにしている娘へ私がカバンから取り出して見せたのは、容器に入ったミニトマトの花でした。綺麗に咲いた黄色い花を娘が保育園の友達に見せたいと言うので、茎を一本だけ切り取って持ってきていたのです。
「このミニトマトちゃんが一緒なら、この子も寂しくないでしょう?」
友達に自慢する方を取るのか。植物が一人にならないことを望むのか。
その二択を提示すると、娘はすぐに答えを出しました。
「うん!それなら寂しくないね!」
私の手からミニトマトを受け取った娘は、それを軽く地面に挿し、例の茶色い植物と寄り添うように並べたのです。地味な茶色とミニトマトの黄色い花が対比をなすように並んだ光景を見て、娘は満足そうに笑いました。
「あら、本当に並べるのね」
植物への思いやりが本物だったことに驚くのと同時に、友達よりも植物を選んだことに一抹の不安も覚えました。しかし、娘が満足そうに笑っていたので、自分の選択は間違っていなかったのだと思い、私も笑って返しました。
……こんな子育ての思い出を語る意味があるとは思いませんが、私が知らないだけでミニトマトに悪い伝承があるのかもしれません。霊園に供えると怒られるような習わしがあるかもしれないので、私たちが取った行動については偏見を持たず詳細に語っていきます。
それに、私たちが霊園の中でやったことは以上なんです。娘は満足したのか、その後は素直に霊園を抜けて保育園まで歩いてくれました。もちろん、その後も花を摘むような真似はさせていません。娘の行動には細心の注意を払っていたので、どこかにぶつけて壊すようなこともなかったことを確認しています。
たったこれだけです。霊園の花壇で山百合を眺めて、多年草を眺めて、ミニトマトを供えた。これの何が悪いんですか?この霊園は、お墓はともかく花壇のエリアについては散歩やウォーキングで通ることが認められています。観光スポットのような場所なんです。
その日も、黒いトレーニングウェアを身につけた男性が私たちと入れ違うように霊園の中から走って行きました。娘とぶつかりそうになったのに謝りもしなかった失礼な人です。あの人が呪われなくて娘が呪われる理由がありますか?それともあの人もこの街のどこかで苦しんでいるんですか?こんなの不平等だと思いませんか?
全く納得できません。また、霊園を抜けた直後の娘の様子は平時と変わりませんでした。そのため、もしかしたらここが直接的な原因ではない可能性もあります。しかし、保育園内のことは情報が不確かで書ける事がありません。
一つ言えるのは、午後3時頃に、娘の体調が崩れたと保育園から電話がかかってきた事です。