ちなみに最初はこれをタイトルにする気満々でした。
十一月がやってきた。
一気に寒くなって、校庭には毎日霜が降りている。おかげでハリーは毎朝、布団とのお別れに苦しむ羽目になっていた。
土曜に初試合を控えているから、ここ最近はしょっちゅう朝練でウッドにしごかれているのだ。しかも夜も練習があるので、毎日本当にクタクタだ。
「練習頑張ってね」
「毎日毎日よくやるよ」
談話室に降りると、ハーマイオニーが青い火の入ったジャムの瓶を手渡してくれた。コーディは隣ですごく眠そうにしている。
ハロウィーンの夜から、色々なことが変わった。
ハリーたちは親友になった。ハーマイオニーは優しくなって、クィディッチの練習に追われるハリーの宿題を手伝ってくれるので、とても助かっている。____写させてはくれないけど。
それととても嬉しいことに、なんと、マルフォイがハリーたちにかまうのを完全にやめたのだった。
良いことばかりだけど、一つ気がかりなのはロンがコーディに軽口を叩くのをやめた事だ。それ自体は良いのだが、「どうも、ミス・ロウル」「どうも、ミスター・ウィーズリー。今日はとても良い天気ですね」「ああ、そうですね」といった感じで、寧ろ今までよりも距離を感じるし、見ているこっちが気まずい。
「君たちって、どうして仲良く出来ないの」
その日の夜、クィディッチの練習を終え、ハリーたちは談話室で宿題をしていた。コーディはクィレルに会いに行っているので____クィレルに用事って、なんだろう? ニンニクを分けてもらうくらいしか思いつかないけど____今がそのことを尋ねる絶好の機会だった。
すると、ロンはむすっとして「最近は仲良しだろう」とだけ言い、わざとらしく羽根ペンを動かし始めた。言外に「その話はやめてくれ」と伝えているらしい。
ハーマイオニーも二人の仲に口を挟むつもりは無いようで、ハリーに「そこ、間違えてるわ。フグの目玉を先に鍋に入れるの」と魔法薬学のレポートを訂正した。
____死喰い人の娘だから、仲良く出来なくて当たり前なんだろうか?
コーディの父親が死喰い人だというのは皆知っている。ロン曰く、「あいつのパパって、死喰い人の中でもレストレンジに次ぐイカレっぷりだったらしいぜ」。レストレンジが誰かは知らないけど、コーディの父がすごい悪人だと言いたいのは分かる。
確かにハリーだって、クラスにヒトラーの娘とか孫がいたら「ハァイ、ごきげんよう! いい天気だね」なんて挨拶する気になれないだろうけど、でも、コーディはすごく良い子だって分かるのに。いや、良い子ではないかもしれないけど、魔法史の時間の間抜けな寝顔や、自転車にかける奇妙な情熱、事ある毎に「マーリンの髭!」なんて言うところ。ハリーたちと変わらない普通の子どもだ。
ダイアゴン横丁でコーディに出会った時の事を、今でも鮮明に思い出せる。コーディへの印象は最初は「変な子」で、それはすぐ「変わっているけど優しい子」に変わった。
ボロボロの服を着ていて、痩せっぽちでみすぼらしい
「ただいま! うーん、やっぱり自転車って最高だよね」
コーディが帰ってきて、ハリーの隣に座った。「あなた、一体クィレル先生と何の話をしてたのよ」とハーマイオニーが呆れている。コーディはクィレルと“自転車オタクサークル”でも結成したのだろうか?
「ちょっとね。あ、そうだ、ハリー。じゃーん!」
コーディがそう言ってハリーに一冊の本を差し出した。____『クィディッチ今昔』だ! つい先日、スネイプに没収されたばかりだった。なんでコーディが持っているんだろう……もしかして盗んだとか?
ハリーが疑わしげな目で見つめると、コーディが肩を竦めた。
「やだなあ、そんな事する訳ないのに。ちょーっと「そういえば先生、魔法薬学に関する本を借りてましたよね? ピンズは先生が“校則をでっち上げて生徒から本を没収した”なんて知ったら、どう思うんだろう」なんて、軽い世間話をしただけだよ」
コーディは勉強は得意ではないが(変身術と妖精の呪文は好きらしかった)、頭の回転が早くて口が上手い。もしかしたら、軽薄で口が達者なところも、周りから胡散臭がられる理由かもしれない。
それにしても、スネイプが本を返してくれるなんて。ハリーが同じことを言っても減点するだけだろうから、スネイプはコーディの事がお気に入りなのかもしれない。そう考えると、ダドリーがエミリーをデートに誘いたがっていると知った時のような寒気がした。
「でも、今日はいつにも増して機嫌が悪かったな。脚の傷が治ってないのかな?」
「脚の傷?」
「うん。ほら、ハロウィーンの時から脚を怪我してるみたいで」
ハロウィーンの時から、脚を怪我してる。
ハリーの中で、点と点が繋がって線になった。____万全の護りがあるホグワーツにトロールが入れるわけがない。誰か優秀な大人の魔法使いが入れたに決まっている。何故? その隙に三頭犬から宝を盗むために……。そして、スネイプは脚を怪我している。
ハリーは自分の推理を話したけれど、コーディは「なんかの魔法薬がかかったんじゃないの?」、ハーマイオニーは「先生がそんなことするわけないわ!」と取り合ってくれない。
ロンは「あいつならやりかねない」と言ってくれたが、ハーマイオニーがロンのレポートがまだたったの数行しか進んでいないことに気づいたので、スネイプ犯人説の話はそこで消えてしまった。
「ハリー、ロック。ロックだよ。うん、ロックロック」
「そう言ったらどうにかなると思ってない ?」
クィディッチの初試合だというのに____いや、だからこそハリーは食欲が無かった。ロンがハリーの皿にたくさんのウィンナーを置き、シェーマスがたっぷりケチャップをかけ、それをコーディが横から掠め取った。「お前のじゃないぞ!」とディーンが怒鳴っている。
「ハリー、怖い?」
「_____スリザリンの奴らが言う通り、箒から落ちるかもしれないし、最後までスニッチを見つけられないかも」
そう言いながら、ハリーはポケットに入っているウォークマンを撫でた。
“生き残った男の子”と言われる度、少しプレッシャーを感じる。何か失敗して「ほーらやっぱり、生き残った男の子なんて大したことないよ」と言われるのは嫌だ。
「箒から落ちるは無いと思うけどな、ハーマイオニーじゃあるまいし……アイタッ、ごめんってば!」
ハーマイオニーがロンの頭を叩いた。ハーマイオニーは飛行訓練の授業だけは大苦手なのだ。
「人の目なんて気にするな! 私たちはハリーが何したって大好きだし、そもそも死喰い人の娘とつるんでて魔法薬学で減点されまくってる時点で、ハリーは
コーディがそう言って笑う。完全にお見通しみたいだ。
「いや、ちょっとは出たよ」とハリーは弱々しく笑った。まだまだ不安は消えないけど、さっきよりだいぶマシだ。
コーディは眉を下げ、「そうかあ……」と言って_____
ハリーに抱きついた。
髪の毛が頬に当たってくすぐったいし、花の匂いがする。唇が首筋の辺りにあって、それもくすぐったいし、なんだか暑い。今のホグワーツは極寒だって言うのに。女の子の体って、こんなに柔らかくて華奢なんだ____今、僕は何を考えてた?
ハリーは慌てて周りを見回した。ロンはシェーマスたちと何か話しているし、ハーマイオニーはハリーになにかアドバイスしようと『クィディッチ今昔』を読んでいる。
そうだ、友達なんだからハグくらいする。何もおかしいことなんてないじゃないか。_____だけど僕はさっき何を……。ハリーは必死に先程のおかしな気持ちをかき消そうとしたが、それは次の瞬間コーディによって無理やり吹き飛ばされた。
「こんなに! 可愛い女の子が! 励ましてるのに! 元気を出さないなんて! マーリンの髭!」
コーディが耳元で叫んで、パッと離れた。耳がぐわんぐわんして、頭がちょっと痛い。でも、そのおかげで、さっきまでの不安も煩悩も全てどうでもよくなってしまった。
_____よく分からないけど、もしかしたら、これがロックってやつなのかな。
ハリーはそんな事を考えながら競技場に向かったが、その後ろ姿をマルフォイが憎しみの籠った目で見つめていることには全く気づかなかった。