マグル学のすゝめ   作:バナナ牛乳

12 / 46
第十話 愛

 

「____さて、クァッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取りました____なんて素晴らしいチェイサーでしょう。その上かなり魅力的であります」

「ジョーダン!」

 

 ウィーズリーの双子と親しいリー・ジョーダンの実況は勢いとユーモアがあって面白い。マクゴナガル先生に何度も叫ばせるなんて、常人には出来ない芸当だ。

 コーディはロン、ハーマイオニー、それからハグリッドとネビルと一緒にクィディッチを観戦している。ネビルはあの妖精の呪文の授業がきっかけで、コーディを怖がるのをやめたようだった。

 

 ____正直もう帰りたい。寒いし、クィディッチに興味は無いし、眠い。

 

「最低よ! スポーツマン精神はどこに行ったの!」

「あれは酷いな。ハリー、死んじゃうところだった」

「スリザリンって……最低だ。僕、怖くって見れない」

「ルールを変えるべきだわい。フリントはハリーを殺しちまう気か?」

 

 どうやらスリザリンチームの選手が何か酷いプレーをして、そのせいでハリーが酷い目に遭ったらしいが、コーディはそんな事はどうでも良かった。いや、酷いとは思うが眠気の方が勝っている。

 

 ハリーは一緒にいて楽しいし、これからも仲良くしたい。

 ハーマイオニーは優しいし良い子だから好きだ。

 ロンとも出来れば仲良くなりたいし、ネビルともこれからもっと話せるようになったら良いと思う。彼らが悩んでいたら励ましてあげるし、目の前で死にそうになっていたら助けてあげる。

 だけど明日ハリーに「君の事なんて嫌いだ。絶交しよう」と言われたって___もちろん悲しいし寂しいだろうけど___ハリーが生き残った男の子じゃなかったら必死に仲直りしようなんて思わないだろう。

 ハリーたちへの“好き”は眠い中無意味に声を荒らげる程の気持ちではない。

 

 “父親が死喰い人”という圧倒的なディスアドバンテージをカバーする程のものをコーディは何も持っていない。見た目は普通だし、ハーマイオニーほど優秀でも勉強熱心でもない。ホグワーツでどうにか生活していくためハリーを利用しているだけだ。

 コーディが誰かと対等だった事なんてほとんど無い。生きるためには、いつだって微笑みながら愉快な冗談を言い、どうにか気に入られなければいけない。

 

 

「一体、ハリーは何をしとるんだ」

「さっきフリントが何かしたんだ。スリザリンは反則ばっかりだってフレッドが言ってた」

「いいや、あんなチビッ子がニンバス2000に手出し出来るわけねえ____()()()()()()()使()()()()()()()()

 

 コーディは一気に目を覚まし、ハグリッドの双眼鏡をひったくった。どうか、勘違いであってくれ。

 観客席の方を必死に見回し、ようやく見つけた。

 クィレル先生が、鋭い目付きでハリーを見つめ、絶え間なくブツブツ呟いている。____ああ、やっぱり。

「スネイプだ……」コーディは苦々しい顔で呻き、今度はハーマイオニーが双眼鏡を覗いた。ハーマイオニーはコーディの予想通り、「本当だわ! なんて人なの」と言い、弾丸のように観客席に向かって行った。

 

「本当かい?」意外にも、ロンが落ち着いた声で尋ねた。「本当に、スネイプだった?」

 

「君だってスネイプを疑ってたのに」

「ああ。でも、スネイプよりもさっきの君の方がもっと怪しい。君はなにか、僕たちに____」

 

 ロンの言葉はそこで遮られた。

 ハリーは箒のコントロールを取り戻した瞬間、あっという間にスニッチを獲得してしまった。そして、グリフィンドールの観客席は大盛り上がりで、リー・ジョーダンは興奮して叫び続けている。

 

 

 コーディは試合後の大騒ぎにも参加しなかったし、ハリーたちと一緒にハグリッドの小屋にも行かなかった。

 

「クィレル先生!」コーディはノックもせずに部屋に押し入った。それなのに、クィレル先生は叱る事もせず俯いたままだ。

 “カンザス”の時にはおかしいと思っていたが、その小さな疑念が確信に変わったのは最近の事だ。飛び出す絵本を見せようとやってきたコーディに、クィレル先生は「トロールに何かされなかったか」と聞いた後、何故か弱々しい声で謝ったのだ。そして『ほしのおうじさま』を半分も読まないうちに帰らされてしまった。

 

 _____トロール事件の犯人がクィレル先生だと嫌でも確信せざるを得なかった。情けない教師の演技、闇の魔術に関する大量の本……三頭犬の足元にあるものを狙っているのはスネイプではない。クィレル先生なんだ。

 

「先生はまだ、カンザスに帰れます! 先生、先生、どうして……私、三年生になったら先生の授業を受けたいんです! 飛行機にも乗りたいし、まだ知らないことがたくさんある! 先生ともっと話したい! ほら、この前の絵本の続きを読みましょうよ!」

 

 コーディは一気に捲し立てた。何を言っているのか、何を言いたいのか自分でも分からない。人を説得するならもっと適切な話し方があるのは分かっているのに、それが出来ない。

 クィレル先生のためなら声を荒げられるし、おかしな事だって出来るみたいだ_____死喰い人と関わるなんて絶対にごめんだというのに、ここから逃げ出してダンブルドアにこっそり言いつける気にはなれない。

 

「私、先生の前でだけは____」

「……黙って聞いていればペラペラと」

 

 その声は確かに、クィレル先生の方から聞こえた。でも、この不快な、人をゾッとさせる恐ろしい声がクィレル先生のものでないことは確かだった。

 

「……俺様は出来損ないのお前にチャンスをやった! 幾度もだ! なのにお前は未だに賢者の石を手に入れる事も出来ず、ハリー・ポッターを殺す事も出来ず、挙句にこの愚かな小娘とマグル談義なぞに興じている!」

「……すみません、申し訳ありません! 賢者の石は、きっと必ず! ダンブルドアを追い出して_____ああ、ミス・ロウル……私にこんな事をさせないでくれ…………」

 

 コーディはこっそり杖を構えたが、クィレル先生によって縛られ、黙らされてしまった。クィレル先生はやっぱり優秀だ、無言呪文を使いこなせてしまうんだから。

 賢者の石というのが、四階の廊下で守られている物なんだろう。クィレル先生は“声”に脅されて、それを手に入れようとしているんだ。

 

「_____純血にも関わらず、この小娘はマグルに憧れている! なんと愚かで罪深い…………お前が()()()()のだ。()()()()()()()()()()()……磔の呪いをかけろ……」

「…………我が君、無理です! そんな事は出来ない…………出来ません……あああああああ!」

 

 クィレル先生の頭痛はいつにも増して酷いようだった。クィレル先生はターバンをとり始め、そこにあったのは……。

 

 

 嘘だ。だって、()()()は死んだはずだ!  

 

 

 コーディの父がアズカバンに入る原因となった人物。かつて魔法界を恐怖のどん底に陥れた恐ろしい闇の魔法使い。しかし、十年前にハリーに倒されたはずだった。なのにどうして、()()()()()()クィレル先生の後頭部に住み着いてるんだ! 

 

「ああ……すまない……すまない、コンコーディア。私を許してくれ…………オブリビエイト……あああああああああ!」

 

 しかし、忘却の呪文が効果を発揮する前に、クィレル先生は倒れてしまった。顔の一部が痛々しく焼け爛れ、後頭部から赤黒い霧のようなものが飛んできて、コーディは意識を失った。

 

 ____私の大切な人は、いつも、どうして……。

 

 

 目覚めると、そこはクィレル先生の部屋ではなかった。コーディはベッドに寝ていて、その傍らにはダンブルドアが座っている。医務室だ。

 

「クィレル先生がご病気なんです! きっと何かに取り憑かれて脅されて…………でも私は何もされていません! 

「“鎮静水薬”じゃ。セブルスが煎じてくれた___わしも大事な靴下を失くしてしまった時なんかに飲むが、とてもすっきりする。ほれ、落ち着くのじゃ……クィリナスは無事じゃよ」

 

 コーディは少しだけ安心して、ダンブルドアから渡された水薬を飲み干した。やっぱり魔法薬は嫌いだ、全部変な味がする____でも、心が少しだけ落ち着いていく。

 

「マグルの薬の方が好きじゃろうが、こちらの方が少ーし効果が強いのでな」

 

 ダンブルドアはお茶目にウインクした。半月型のメガネの奥で、淡いブルーの瞳がキラキラと輝いている。

 きっと、何もかもお見通しだったに違いない。クィレル先生が、例のあの人に取り憑かれていたことも。

 

「君がわしに言いたいことがあるのは分かっておるよ。まず、何から話そうかの____君は丸二日ぐっすりと眠っておった。おお、ジョージ・ウィーズリーから何かおかしなものが届いておる……動くカボチャの人形じゃ……何とも、君ら風に言うと“マーリンの髭”な見た目じゃの……」

「そんな話を聞きたいんじゃありません!」

 

 鎮静水薬は思ったより効果が無いみたいだった。さっきまで落ち着いていた心が、燃えるような怒りに包まれる。

 ダンブルドアに訊きたい事はたくさんある。クィレル先生はアズカバンに入れられたんですか? どうして後頭部に例のあの人が取り憑いていたんですか? どうして例のあの人がまだ生きているんですか? どうしてクィレル先生は死喰い人になったんですか? どうしてクィレル先生をもっと早くに助けてくれなかったんですか? 

 コーディは涙が零れてしまわないよう、ダンブルドアを精一杯睨みつけた。

 

「クィリナスは今は聖マンゴにおるよ。君のおばさんと同じ病棟に」

 

 それはつまり、クィレル先生が元気になる可能性がとてつもなく低いということを示していた。

 

「アズカバンじゃないんですか? だって……」

「そうじゃの。彼はトロールを学校に引き入れ、ハリーを呪い殺そうとし、君にも危害を加えた。頭にはヴォルデモートを……」

「その名前を呼ばないでください! 呼ばないで……」

「すまんの、配慮が足りんかった。しかし、いつかは向き合わねばならぬ事じゃ……()()()()()を後頭部に住まわせておった。しかしの、どれにも証拠が無いのじゃ___「 例のあの人は生きていてクィリナスの頭に住み着いておった!」などと言おうものなら、わしも聖マンゴ行きじゃろうて」

 

 コーディは、クィレル先生がアズカバン行きではないことに安心すると同時に、もし“賢者の石”とかいうのを手に入れられていたら、聖マンゴに行かなくて済んだんじゃないかと思った。

 

「いいや、コンコーディア。君が彼をここで止めておらんかったら、彼はもっと酷いことになっておった。死ぬか、永遠に呪われるかじゃ。君はその“愛”で彼を救ったのじゃ____彼にかかっておった闇の魔術を、君の愛が打ち破ったのじゃ」

 

 ダンブルドアは続けた。

 

「ハリーが死の呪いを跳ね返して生き残ったのも、リリー____彼の母の愛のおかげじゃ。愛はまっこと、強力な魔法じゃ」

 

「愛?」コーディは鼻で笑った。

 そんなもので闇の魔術を打ち破れるなら、今まで死んでいった人たちはどうなる? そんなもので人の命を救えるなら、コーディがもっと愛していればママは死ななかった? ユーフィおばさんは愛されなかったからあそこにいる? 

 

「君が“愛”をどう思っておるかは分かる。じゃがの、クィリナスが君を大切に思ったからこそ、あやつはクィリナスの心と身体から追い出されてしもうたのじゃ。君が愛によってクィリナスを救ったのは紛れもない事実じゃ」

 

 そこで初めて、コーディは自分が全く怪我をしていないことに気がついた。せいぜい、脚にアザが二つあるくらいだった。

 あれだけ例のあの人に痛めつけられても、クィレル先生がコーディにかけようとしたのは磔の呪いではなかった。

 

「____出てきなさい、ハリー」ダンブルドアがそう言うと、ベッド周りのカーテンがシャラシャラと開いた。不安そうな表情をしたハリーが立っている。

 

「先生、すみません、僕……」

「なんと、わしの腕も衰えてしもうた____防音呪文がかかっていなかったようじゃ」

 

 嘘に決まっていた。ダンブルドアほどの偉大な魔法使いが防音呪文ごとき、失敗するはずがない。

 クィレル先生との秘密は、コーディが一人で抱えるには大きすぎると思ったのだろう。

 

「コンコーディア、ミスター・ロナルド・ウィーズリーが君の様子がおかしかったと心配し、それを聞いたハリーがわしを呼びに来てくれた。あと少し遅ければ、クィリナスは助からんかったやもしれぬ。まこと、君の愛と友情がクィリナスを救った____わしはもう退散しようかの。残念じゃが、新しい先生を探すのは骨の折れる仕事でな」

 

 ダンブルドアが出て行った瞬間、ハリーが力いっぱいコーディを抱きしめた。その勢いで、コーディの目にいっぱい溜まっていた涙が零れた。

 

「ごめん、僕がもっとちゃんとしてれば____君の親友なのに、全く気づけなかった。僕のせいで、こんな目に……」

「違うよ、ハリーは悪くない。全部私のせいなんだ」

 

 涙がポロポロと頬を伝ったが、その涙はコーディのものではなかった。

 コーディはハリーに嘘をついたし、怪我なんて一つもしていない。それに、ハリーはクィレル先生の事を好きではなかったはずだ。なのに、どうして泣いているんだろう。




原作ではダンブルドア先生はクィレル先生を“クィレル”と呼んでいますが、クィリナス呼びに変更しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。